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『『その時、全ては動き始めた』 』
シェラ・アルスター5267)&嵐・晃一郎(5266)



 これまで生きてきた中で、一番屈辱的な夜であった。
 元は異なった世界の住人である、シェラ・アルスター(しぇら・あるすたー)は、自分の体に巻かれた包帯を見つめ、どこにもぶつけようのない屈辱感でいっぱいになったのと、まだ残っている体の痛みのせいで、ところどころきしむベットの中で布団に深く包まっていた。
「嵐のやつ、あの時、余裕だったに違いない。私があんなに真剣になっていたのにも関わらず」
 シェラと同じく、ふいの事故で異世界からやってきて、一緒に生活をする事になってしまった同居人にして元の世界では敵であった、嵐・晃一郎(あらし・こういちろう)と激しい戦いを繰り広げたのは、ほんの数時間前の事であった。
 晃一郎とはこの世界へやってきてから、お互いが敵である事をひとまず脇に置き、協力して二人で、この人気のない倉庫で共同生活をしてきた。
 それは、慣れない世界へ来てしまった以上、やむをえないとシェラ自身も思ったし、ずっと暮らしている中で、晃一郎の意外な一面に触れ、当初予想していたとは違い、自分自身もこの生活になじんできた事は、否定は出来なかった。
 しかし、その穏やかな生活になじんでいる自分、そして敵である男と一緒に過ごしている自分を、シェラは許す事が出来なかった。
「そう思った結果が、これだ」
 ぼんやりと薄目で天井を見つめながら、シェラは呟いた。
 シェラは今日の朝、けじめをつけたいと晃一郎に決闘を言い渡した。晃一郎もそれに答え、2人は人気のない郊外の廃墟へ行き、そこで闘った。お互いに手加減はなしであった。
「あの時、あの場所に行くと言われた時点で、気付かなかった私もバカだった。嵐の能力は、何度も見てきたはずなのに」
 今更後悔してもどうしようもない。
 結局、決闘は完全にシェラの負け。全身に大怪我を負い、気を失ったシェラに待っていた結末は、さらなる屈辱であった。
 目を覚ましたシェラの体は、丁寧に怪我の処置が施されていたが、それはどう考えても晃一郎が行ったもの。
 その後さらに、治療目的で晃一郎に、裸を見られたり、体を触られたりしたシェラは、怒りやら恥かしさやら惨めさやらが次々と湧き上がり、先ほど包帯を取り替えて貰った時には、頭の中で何も考えられない程になってしまっていた。
 悔しさで涙が出そうになったが、今更どうしようもない。気分を紛らわそうと、晃一郎が置いて行った本を読もうとしたがそれも手につかず、結局一人で布団に包まっているのであった。
「あの事故さえなければ、こんな思いをしなくても済んだはずなのに」
 シェラは、自分達がこの世界へ飛んでくるきっかけとなった、元にいた世界の事故の事を思い出していた。
 その事を思い出すと、懐かしい自分達の世界の事が次々と頭の中に蘇ってきた。その思い浮かべたシェラの世界の景色の中に、急に晃一郎の顔が浮かび上がった。晃一郎のまわりには、遺跡が見えていた。
「そうだ、あの時だった、嵐に始めて会ったのは」
 その時、自分は遺跡周辺の偵察をしていた事を、布団の中で思い出した。



「相当に古い遺跡なんだな。このあたりで爆発物を使うのは、危険かもしれない」
 石造りの遺跡を、一歩一歩用心しながら、シェラは遺跡の中を進んでいった。シェラはどこの誰が残したかもわからないほど古い遺跡を、単独での偵察任務に就いて、この遺跡周辺を一人で偵察していたのだった。
 遺跡はすっかり朽ちて、かつてあったであろう栄華の面影はどこにも残っていない。あちこちに、レリーフが残っているが、何を意味しているのかは良くわからなかった。何となく、魔術的な何かがここで行われたいたのではないかという気もするが、それは学者が調べる事だ。シェラが今一番調べなければならない事は、この遺跡の周辺に敵組織の手がまわっていないかどうかだ。
「さすがに、こんな古い遺跡にはあいつらも興味がないか?」
 数時間、シェラは遺跡をまわったが、人影どころか、動物の影すらもない。そろそろ引き返そうか、と思った時であった。
 前方にある、台座のような形をした石の陰に、誰かがいたような気がした。ハッキリと見たわけではないが、見間違えなどではない気がしたシェラは、武器として手にしている格闘型機動兵器を構えると、用心しながらその何者かが動きを見せるのを待った。
 しかし、用心し過ぎて自分から行動しなかったのが逆に災いした。石の台座の陰から、その「何者」かは電撃を放ってきたのだ。火花がシェラのまわりで散り、寸前で身を翻したものの、両腕に痺れを感じ、着ていた服の一部が焼き焦げていた。
「電撃使いか!?」
 シェラはそばの岩陰に身を隠した。一体どんな奴なのか。男か、女か。若いのか年寄りなのか。実は味方で、間違ってシェラを攻撃してきたのか。いや、その可能性は低いだろう。シェラはあくまで単独行動を言い渡されたのだ。となれば、あの台座の陰にいる何者かは、自分達と対立している敵組織の一人なのだろう。
 容赦する必要はないと感じたシェラは、手元に炎を生み出した。敵が電気を操る能力を持っているとすれば、さらに強い電気を大量に浴びせられ、電気ショックで心臓マヒでも起こしたのではどうしようもない。一気に、炎で焼き尽くすのが良いと思い、シェラは噴水のように手から炎を噴出させながら、石の影から飛び出した。
 シェラの切れ目のない炎の噴水の陰から、その何者かの姿が見えた。
 黒髪の、若い男であった。おそらく、自分と年齢はそんなに変わらないかもしれない。背は高く、がっしりした体型、敵組織の者である事には間違いないだろう。
 その男は、電撃でシェラの炎を切り裂き、さらに雷のような光の筋をシェラに差し向けてきた。シェラは身をよじってそれをよけ、さらに大きな炎の弾を作り、その男に投げようとした時であった。
「こっちへ来い!!」
 男が急に怒鳴った。
 それが敵の罠だと思ったシェラは、男の言葉など無視して、炎を投げつける構え取った。
「後ろにゴーレムがいる!!」
 男はさらに声を張り上げた。
「そんな手には乗らない!」
 どうせ自分を引っ掛ける為にそう言ったのだろうと、心の中で続けた時、シェラは後ろに大きな気配を感じ、反射的に男の方へと飛び退った。
「うあ!?」
 次にその大きな気配の本体を目にして、シェラの喉から言葉が漏れた。
「何だこいつは!」
 石で出来た巨大な人形が目の前に立っていた。石であるにも関わらず、ゴム人形のように自由自在に体を動かしている。
「そいつはゴーレムだ!」
 男が呟いた。
「ゴーレム?あの、魔法で作られるという古代の魔法生物の事か?」
 シェラが男の顔を見つめ、話を続けた。
「あなたが、あれを動かしてんじゃないのか?」
 シェラが男の顔をにらみ付けた。
「そんな事が出来れば、とっくにやっている」
 シェラが本当にそうなのか、と言おうとした時、ゴーレムはその巨大で太い腕を振り上げ、シェラ達に襲い掛かってきた。
「危ない!」
 シェラも男も、かろうじてゴーレムの腕を避けたが、ゴーレムはさらにシェラ達への攻撃を繰り返してきた。
 シェラはゴーレムの攻撃を避けつつ、持っていた機動兵器のファイルを開き、今目の前にいるゴーレムを検索にかけた。
「何てことだ!」
 検索結果を見て、シェラは目を見開き叫んでいた。
「このゴーレムは、尋常でない再生力と増殖力を持ち、時がたてば世界が蹂躙されるかもしれないと、私のファイルに出ているぞ!」
 いつしか、お互いを攻撃していた炎や電撃は、ゴーレムへと向けられていた。
「そりゃあ、恐ろしい人形だな」
 男が苦笑を浮かべて言葉を返してきた。
「ここで止めないと、敵も味方もあったもんじゃなくなるなぁ」
 男が飄々と答える。
「しかし、止めるって言っても!」
 シェラもその男も、攻撃に手を止めるどころか、さらに強めていたが、ゴーレムの動きは一向に鈍る事はなかった。
「まったく効果なしか、これは。困ったもんだ」
 次の瞬間には命がなくなっているかもしれない、というこの状況で、男がどこか緊張感のない雰囲気でいる事、そして自分達の攻撃がゴーレムにまったく通用していない事も合わせて、シェラは心の中で苛立ちを感じ、ついにはそれが攻撃の手にも現れていた。イライラしているせいで、返ってゴーレムへの攻撃の的が外れてしまっていた。
「もっと、しっかりやれ!これ以上私をイライラさせるな!」
「イライラしてばかりじゃ、いい案は思い浮かばないだろ?こういう時こそ落ち着くものだ」
 男はシェラの方へ一瞬だけ顔を向けて言った。
「いい案って」
「お前、炎が操れるんだな?ってことは、熱を操作する事も出来るか?」
「それぐらいなら、何て事ない。だが、あんな石の体にそんな事しても」
 男の問いかけに、シェラは眉を寄せた。
「お前と一緒で良かった」
「な、何をだっ!?」
 男がそう言ったのに対して、シェラは驚き目を大きく見開いた。
「いいか、お前が熱を操り、ゴーレム周囲の温度を極限まで上げ、そして熱を一気に抜き取るんだ。ゴーレムの体は急激な温度差で、体を構成する岩石が脆くなるはずだ。そしたら俺が、最大出力の荷電粒子砲を放つ!」
「そんな作戦」
 シェラは呟いた。
「そんな作戦、敵であるあなたなんかと!」
 シェラは叫んだ。どうしても、この男を信じる事が出来なかった。
「2人でやらなければ意味がない。それとも、2度と帰れなくなるシナリオを選ぶのか?いいから、やるんだ。今は敵とか味方とか、考えるなよ?」
 大きな体に似合わず素早い動きで、ゴーレムがシェラの目の前へと飛んできた。シェラはもう、何も考えなかった。視線はゴーレムだけを捕らえていた。
 ゴーレムの周囲の空気の熱を操作し、太陽と同じぐらいまでに温度を上げ、次の瞬間には、ゴーレムの体に蓄積したであろう熱を一気に抜き取った。
「いまだ!」
 シェラが叫ぶと同時に、男は体から荷電粒子砲を放った。
 一瞬、それでも駄目かと思った。ゴーレムの動きは止まる事がなく、シェラは巨大な腕が自分へと振り下ろされるのを見て、やっぱり駄目だったと、心の中で覚悟を決めていた。
 ところが、シェラのほんの寸センチほどのところで、ゴーレムの動きは止まり、続いてその体から何かが割れていく音が響き、男がもう一度電撃を浴びせると、ゴーレムは跡形もなく崩れ、ついにはその体は地面の土に混じってなくなってしまった。
「うまくいったな」
 男がゴーレムが崩れた地面を見つめ、わずかに笑顔を見せた。
「危ないところだった。あの場で、良くそんな案が浮かんだものだ」
 そう口にして、シェラは我に返った。
「しかし、戦いは終わったわけじゃない!邪魔が入ったが、私は」
「なかった事にしないか?」
 男は、シェラの言葉をさえぎった。
「さすがに強敵相手にして、俺も疲れてきてるんだ。お前だってそうだろ?」
 シェラはその言葉に、顔をしかめていた。
「それに、ひとまず命拾いしたんだ。この場は、何もなかったって事にして、お前との決着はまた今度会った時にでも」
 男はそう言うと、シェラに背中を向けた。
「バカかあなたは!敵に背中を向けるなんて」
「俺はバカじゃない。嵐・晃一郎だ」
 晃一郎の背中は、どんどん遠ざかっていく。今攻撃をすれば、晃一郎を倒す事が出来るかもしれない。だが、何故かシェラにはそれが出来なかった。
 そのまま立ち去ろうとしている晃一郎に向けた、その時最後のシェラの言葉を言った時の自分の気持ちは、今でもぼんやりと覚えている。
「私はシェラだ!シェラ・アルスターだ!忘れるなよ、いつか嵐、あなたを必ず倒す!」



「もしかしたら、私はあの時に…」
 布団の中、シェラは静かに目を閉じた。目を閉じると、遺跡での闘いの跡、晃一郎と繰り広げていた数々の戦いが思い出されてきた。
「いや、そんなはずがあるのものか」
 シェラがそう呟き、布団を被った。自分でもよくわからない晃一郎への複雑な気持ち。好きとか嫌いとか、単純なものではない。
 確実に言える事は、異世界に来てから穏やかに2人で過ごしてこれたという事実だ。敵同士であったシェラ達が、今こうしているのは、お互いがお互いを思うようになったからではないのか?共同生活というのは、そういうものがあるからこそ、成り立つものではないだろうか。
 そんな事を頭の中で考えているうちに、いつしかシェラは眠りの世界へと入っていった。(終)



◆ライター通信◇

 いつも有難うございます、シェラさんと晃一郎さんの話を書かせて頂いております、ライターの朝霧青海です。
 今回は、お2人が始めて出会った話と言う事で、シェラさん視点でずっと書かせて頂きました。共同生活をする前なので、ちょっとギスギスした感じのシェラさんを描いて見ました。真剣な戦いの中でも、どこか余裕があるような晃一郎さんの雰囲気も、少しは出ているといいなと思います。ゴーレムとのバトルシーンは、相変わらず頭を使いました(笑)

 それでは、今回は有難うございました!
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
朝霧 青海 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年08月09日

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