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『□□□我非常喜歡姐姐□□□ 』
李・如神1120)&綾和泉・汐耶(1449)


 世の中学生と言うもので、成績が良くなって喜ばない子はまずいないだろう。
それが自分が精一杯努力した結果ならもちろんのこと。
………大好きな人のお陰だったら、なおさら…なおさら。
『汐耶お姉ちゃん…俺、お姉ちゃんに会ってから…校内で十位に入るようになりました…』
 本当にありがとうございます…と、小さくぺこりと頭を下げ、李 如神(り るーしぇん)はそっと覗き込む。
都内某所の都立図書館の窓辺越し、彼の視線の先にある姿は図書館司書の綾和泉 汐耶(あやいずみ せきや)。
今もカウンターで何やら色々と作業をしている様子だった。
 邪魔しちゃ悪いから…このまま帰ろうかな…
如神はふとそう思うけれど、でもやっぱり、お礼の言葉は直接会って伝えなきゃいけない。
少しだけ、少しだけなら邪魔にはならないよね?と、如神は図書館の入り口にまわり、そっとドアを開いた。
 館内にきいた冷房の空気が、さっと如神の脇をすり抜けて暑い夏の空気と混ざり合う。
出入りする人の気配にはすぐ気づいて、汐耶は目を通していた書類から顔を上げてこちらを見る。
如神の姿を見るなり、「あら」と優しく目を細めて彼に微笑みかけた。
「いらっしゃい、如神君」
「こんにちは…あの、えっと…お仕事の邪魔だった…かなぁ?」
「大丈夫よ」
 トントンとリズム良く手にしていた書類を整えて、汐耶は封筒に手際よく仕舞う。
如神は、汐耶がその封筒をカウンターの中の引き出しか何かの中に入れたのを確認して口を開いた。
「あ、あの…」
「なあに?」
「あの…いつもありがと…勉強、教えてくれて…」
 恥ずかしそうに少しうつむきながら、如神は先ほど窓越しに向けた言葉を今度は直接告げる。
汐耶は嬉しそうな微笑みを浮かべたままで、「どういたしまして」と返した。
「成績よくなった?」
「うん…十位に入ったよ…汐耶お姉ちゃんのお陰で…」
「それは違うわよ?成績が上がったのは如神君が頑張った結果。
努力しなかったら、私がどんなに教えても無駄だと思うもの」
 褒められて、如神は嬉しいやら照れるやらで先ほどよりも頬を赤くする。
汐耶は如神を微笑ましげに見つめ、そのまま視線を腕時計へと移した。
「……今日はどうする?勉強教えなくても平気?わからないところ、ある?」
 時間にも余裕があるし…と、汐耶が声をかけると、如神はコクコクと数回頭を上下に振る。
そしていつもの指定席。
図書館を利用する人たちの邪魔にならないように、
汐耶のいる受付カウンターから少し斜め前にある席に移動して、如神は汐耶にニッコリ微笑みかけた。
 ちゃんと持って来ている勉強道具を広げて、教えて欲しいページを開く。
どんな教科でも、汐耶は適格にわからないところを丁寧に簡潔に教えてくれる。
学校の先生よりも教えるのがとても上手い…と、如神は勝手に思っていたりする。
「それじゃあ始めましょうか…」
「うん」
「次の試験はいつだったかしら?それに合わせて傾向と対策を練りたいところだけれど…」
「えっとね…」
 如神は今後の試験のスケジュールを汐耶に告げる。
汐耶はカレンダーに目を向けながら、何やら色々とメモをしながら如神のもっていたテキストを捲る。
時折、かけているメガネを人差し指を軽く曲げた部分ですいっと上げる。
なんとなく、なんとなくではあるが…如神はそういった汐耶の仕草が好きだった。
「あのね、汐耶お姉ちゃん…」
「うん?なあに?」
「えっとね…お婆ちゃんが、試験で1位取ったら香港のパパとママに会いにに行っていいって」
「それは良かったわね?それじゃあなおのこと、頑張らなきゃ」
「うん!!だからね…あのね…」
 どこかもったいぶった感じで口元でごにょごにょと言う如神に、汐耶は少し首を傾げる。
何か悪いことでも言ったかしら?と、汐耶が少し心配しそうになりかけた時…
「あのね、だから…汐耶お姉ちゃんも一緒に香港行こう!一緒に遊ぼ!」
 如神はパッと目を輝かせながら、まっすぐに汐耶を見つめながら言った。
まさかそんな風に、自分へ”お誘い”が来るなんて思っていなかっただけあって、
彼女は少し面食らった顔で、パチパチと数回瞬きをする。
 そして、如神が好きなあのメガネを上げる仕草をしてから、やっといつもの微笑みに戻って…。
「…そうね。如神君が1位を取って、私に仕事のお休みがあって、時間があれば…ね?」
「ホント?!ホントに一緒に香港で遊べる?」
「お仕事もあるし、絶対に…とは言えないけれど…」
「いい!わかってる!でも、お仕事休みなら行ける?」
「そうね…考えておくって事で構わないかしら?」
 金銭面やら仕事面やら社会面やらで色々とあって、簡単に「はい」とは言えない汐耶。
如神もそれはわかっているつもりゆえに、汐耶の返事にも何度もコクコク頷いて答えた。
行くと言ってくれなくてもいい、行きたくないと言われなかった事が…嬉しい。
「よーっし!じゃあ俺も頑張って1位取る!」
「うん、その意気よ。それじゃあ始めましょうか」
 二人はニコッと微笑み合って、早速お勉強の時間を開始した。



 静かな館内に、どこからとも無く音楽が流れ始める。
この音楽は閉館の時刻が近づいていることを告げる音楽で、それを聴いて皆帰り支度を始める。
 勉強に励んでいた如神も、如神を教えつつ司書の仕事もこなしていた汐耶もその音楽を聞いて顔を上げた。
汐耶は目で、如神に「今日はこれでおしまいね」と伝える。
いつものことなので、如神はすぐにそれを理解してコクリと頷き後片付けを始める。
汐耶は図書館の閉館作業にかかり、受付カウンターの中でパソコンを手際よく操作していく。
「あ、あの…汐耶お姉ちゃん…」
 忙しそうにしているから少し遠慮がちに、如神は声をかける。
汐耶は手はキーボード上で動かしたまま、顔だけ如神に向けて「なあに?」と首を傾げた。
「…もし良かったら…今日も一緒に帰ろ?」
 如神としては、大好きな汐耶お姉ちゃんとの幸せなひととき、ちょっとした”でぇと”のつもりなのだが、
まさかそんな風に思っているとは思わない汐耶は、
いつものように教え子を家に送っていくような感覚で「いいわよ」と如神の好きないつもの笑顔で答える。
 汐耶がどう思っているか感じつつも、それでも如神は嬉しくて心が弾む。

 二人の片づけが終わり、仲良く並んで図書館を後にしたあとは…
近所にあるオープンテラスのアイスクリーム・カフェに寄ってささやかな”でぇと”気分。
「俺はピーチシャーベットと…カシスとチョコ!」
「わ、私は…そうね…ブルーベリーレアチーズ…いえ、レモンクリームクッキーも良いかしら…うーん…」
 美味しいことで有名で種類も多いお店だけあって、汐耶はどれにするかで悩む。
「汐耶お姉ちゃん、悩むなら両方にしたらいいよ」
「両方だとさすがに食べすぎになっちゃうわ…」
悩んでいる汐耶の横顔を見ているのも、なんとなく如神は好きだな…なんて思いつつ、
「それじゃあまた明日も来よう!ね!今日はブルーベリーにして、明日はレモン!」
 えへへっと笑う如神の顔を見て、汐耶は少し目を丸くする。
「確かに…それもそうね」
「ね!毎日来て、お店のアイス全部食べちゃうのもいいよ!」
 それなら毎日二人で”でぇと”出来るし、と如神は心の中で思う。
そんな気持ち知ってか知らずか、汐耶は「それもいいわね」と微笑み返してブルーベリーレアチーズを注文する。
アイスを受け取った二人は、歩行者道路に面したテラス席部分を確保して、
図書館では出来なかった色々なおしゃべりを楽しむ事に。
 話すことに夢中で、アイスが溶けそうになる如神にすかさずハンカチを差し出す汐耶とか、
一生懸命に話す如神の言葉を一言一句聞き逃さずに聞いて、きちんと返事をしてくれる汐耶とか、
こうやって一緒に話をすればするほど、如神はどんどん汐耶が好きになっていくような気がして幸せな気持ちになる。
 けれど、楽しいひとときは流れてくのも早い。
どこかの公園にあるからくり時計が、街にいる人々へ帰宅の時間であることを告げる。
「そろそろ帰らないと遅くなっちゃうわね」
「うん…」
 もっとここでお話していたいと思うけれど、そんなわがままは言わない如神。
だって、明日も会えるのだから。
これから毎日だって会うことは出来るのだから。

 如神は汐耶と並んで駅に向かいながら、隣に立つ汐耶を見上げる。
今はまだ、見上げないといけないけれどいつか大きくなったらもっと顔が近くなる日が来るのだろうか。
もしそんな日がきたら、汐耶はきっと驚くだろうな…と思いながら。
 駅に着くと、帰宅途中の人が足早に動き回っていた。
そこで立ち止まり、汐耶はくるっと如神に向き直り微笑みかけた。
「それじゃあ…如神君、気をつけて帰るのよ?」
「汐耶お姉ちゃんもだよ!」
「ええ、気をつけるわ」
 自分よりも十歳ほど年の離れた教え子に心配されて、汐耶はなんだか少しおかしくて笑ってしまう。
でもそれは決して、嫌な笑いではなく…どこか嬉しそうな笑顔だった。
 お互いに『今日はお別れ』の言葉を告げて、帰途へとつく。
如神は汐耶の姿が見えなくなるまで、見えなくなってもずっとずっと手を振り続けた。
―――これだけ離れてしまえば、声も聞こえないだろう。 
―――聞こえなくてもいい。むしろ、聞こえないほうがいい。
「お姉ちゃん、俺、汐耶お姉ちゃんのこと大好きだよ…!」
 夕闇せまる街角で、如神は手を振りながら汐耶へとそんな声を投げかけた。
もちろん、返事は返ってこなかったけれど…その言葉を発すだけで、
如神はなんだか心があったかくなって、嬉しくなって、本当に足が弾むような感覚で自宅へと歩き始めたのだった。





□□結□□





※この度はご依頼、誠にありがとうございました。
※呼び名が間違っておりましたら申し訳ありません。
※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますがもしありましたら申し訳ありません。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
安曇あずみ クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年08月05日

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