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『『ナイトクルーズは朱に染まる』 』
友峨谷・涼香3014)&風間・悠姫(3243)&水上・操(3461)


 居酒屋『涼屋』。
 何人かの男たちがその看板の前を通り過ぎていく。暖簾の下。店の出入り口からひょっこりと顔を出して、それを見送った彼はぷぷっと笑った。
「まさか爺も俺様がこんな場所に居るとは想うまい」
 身なりのいい服装をした、何だか小生意気そうなその容貌はようするにお坊ちゃま、という言葉を想像させる。確かに高級ブランドのスーツは居酒屋よりも高級フランス料理店にでも行くような格好だ。つまりがそのどうみても小学校高学年か中坊ぐらいのガキは生粋の金持ちという事。
 ふふん、と笑って彼は扉を閉める。顔には勝ち誇った顔。爺、そう彼が呼ぶ者から彼はこの鬼ごっこ、勝ったつもりでいるのだろう。
 そして彼は身を翻して、腰に手をやって店の中を見回す。
 店の広さは彼の屋敷の庭の隅にある鳥小屋のサイズ。紫煙とやきとりなんかを焼く煙が店の中をたゆたって、料理と酒の染みがついたテーブルが並べ立てられて、そこに乗せられた料理を箸でつつきながら、酒を飲み交わす下々の者たち。窮屈そうに席に並んでいるくせにその顔に浮かぶ表情はひどく楽しげだ。
 いつも大きな部屋でたったひとりでテーブルについて食事を摂る彼は果たして窮屈そうで、本当に下々の奴らは哀れだな、と想ったのか、それとも別の何かを想ったのか?
 しかし彼のまだ幼さが残るその顔に浮かんだ表情からそれを読み取る前に表情はがらりと切り替わる。
「そこで何しとるん、ぼく?」
 おもむろに大阪弁の綺麗なお姉さんに顔を覗き込まれたから。しかもかがんで自分の顔を覗き込んでくるお姉さんのシャツの胸元から胸の谷間が見えているし………。
 かぁーっ、と顔を赤くした後に、彼はそっぽを向いた。
「ちょ、ちょっと用があって、立ち寄っただけだ」
 高慢な物言いは彼の生まれ故であったが、それが早口で、しかも最初の方がどもってしまったのは、どうやらやっぱり子どもの彼には大人の女性の魅力は早すぎたからだろう。
 ショートカットの青の髪に縁取られた美貌には何だか訝しげな表情が浮かんでいる。
「あんた、ひょっとして、まだボンの癖にお酒を飲みに来たとちゃうやろうね?」
 茶色の瞳を細める彼女に彼は鼻を鳴らした。
「違う。誰がこんな場所で酒なんか飲むか。それにこんな店にはワインなんかないだろう? 俺様は高級ワインしか飲まん」
 大仰に両手を開いて肩を竦める彼。ちゃんちゃらおかしくって、臍で茶を沸かせそうだ。
 そんな高慢に塗れた表情が浮かぶ彼の頬は引っ張られた。
「こら。こんな店、こんな店って失礼やろう。これでも涼屋は皆の憩いの場で、親父さんの城なんやで」
 しかも何やら人の頬を引っ張ったままもう片方の手の人差し指を立てて、くどくどと説教を始める始末。
「えーい、お姉さんぶるなー」
 彼としてはちゃぶ台を引っくり返す気分で、彼女の手を振り払った。
 そしたら彼女は小麦色の健康的な顔ににこりととても無意味にかわいらしい笑みを浮かべて、両手で、彼の頬を引っ張ってくる。
「身上にはけ・い・ご! わかった?」
「ひゃくたいはひゃめろ!!! (虐待はやめろ)」
 どうも自分の大人としての良識ある愛の教育的指導は伝わらないらしい事を悟って彼女は溜息を吐きながら両手を離した。
 彼は自慢のほっぺを摩りながら彼女を睨めつける。
「で、ほんとは何をしに来たん? ここに親を探しに来たなんて嘘は通じへんよ。あんたみたいな良い服を子どもに着させてあげられるような人なんてうちの店の常連さんにはおらへんもん」
 おい、と店の常連客全員がこの女店員に突っこんだのは言う間でもない。
「冗談やよ」
 それから彼女は腰に両手を置いて、お説教モードで彼に再び向き直る。
「兎にも角にももう夜の11時をまわっとるで。小学生が出歩いていい時間じゃないやろ?」
「中学生な俺。中学一年生」
「に、してもや。正直に言い。あんた、あれ。プチ家出なんやろう?」
 右手の人差し指立てて言う彼女に彼は呆れたように肩を大きく竦める。
「違う。探し物をしているだけだ、俺様は」
「探し物? せやけどここにはあんたの探し物なんか無いやろう?」
 小首を傾げる彼女に彼は鼻を鳴らした。
「それはこの俺様が決める事だ」
 目を細める彼女。
「あんたの探し物って、何なの?」
「それは…」と言いかけた彼のお腹の虫がそこで盛大に自己主張した。ぐぅ〜。
 彼は恥かしそうに両手でお腹を押さえる。この馬鹿。腹の虫め、たかが朝からちょっとぐらい食事を摂らなかっただけで何を鳴いているんだ、この根性無し!!!
 だけどさっきまでずっと眉間に皺を刻んでいた彼女が急にそれを弛緩させてけたけたと笑い出す。それはどこか母親が浮かべるしょうがないなー、この子は。という優しい表情に見えて、彼は死んだ母親を思い出した。
 だからずっと小生意気そうだった彼の表情もしゅんと歪む。
 そんな彼の鼻の頭を潰す彼女の右手の人差し指の先。
「何をする、無礼者」
「お腹、空いとるんやろう? 性の無い子やわ。うちがご飯奢ったるさかいにそれを食べたら警察行くんやよ」
 どうやらまだ自分の事をプチ家出だと想っているし!
 だけど彼女が先ほど浮かべた表情のせいだろうか。礼もわきまえぬ騒がしい女だ、と想っていた彼女の事を少し微笑ましくも想う。
 それでも憎まれ口を叩くのはそれが思春期特有の男の子の性だからだろう。
「金は自分で払う」
「中坊が偉そうに」
 さらりと肩に回される手。布越しに感じる指の感触に、肌に感じる彼女の温度。頬がほんのりと熱くなる。気持ち早くなった心臓の鼓動に自然と両目が半眼になった。
 彼女に案内された席には先客が二人居る。
 ひとりは銀髪に赤い瞳の美女。
 もうひとりが黒髪黒瞳の美少女。
「逆ナン成功、おめでとう。涼香♪」
 そうからかうように笑ったのは銀髪の美女の方だ。
「ちゃうやろう。ちゃう」
 枝豆をひとつ手に取って、器用に指で豆を皮から飛ばす。
 頬杖ついてお酒を飲んでいた彼女はそれをこれまた器用に口でキャッチした。
 美少女の方はオレンジジュースを飲みながらそれを見て笑っている。じゃらりと揺れた両手首のブレスレットはなんだか彼には怖く思えた。
「誰が中坊なんか! うちはショタコンちゃうわ、悠姫!」
「ああ、じゃあ、ストライクゾーンは16までなんだ? だけどそれだって年下。よ、年下キラー」
 それを悠姫に言われた涼香は顔を真っ赤にして今度は枝豆を皮ごと投げて、今度は悠姫はそれは手で受け止めて、自分で豆を口に運んだ。
 美少女の方はちょっと苦笑を浮かべた。
「悠姫さん。いじめちゃ、涼香さんがかわいそうですよ。それにこの子も」
 飾らない言葉の合戦を始めた涼香と悠姫はまあ、いつもの事なのだろう。ほかっといて、美少女はそれを半眼で見ている彼に笑顔でしゃべりかけた。
「こんばんは。焼きおにぎり、食べます?」
 お腹が空いている彼は小皿に乗せられた焼きおにぎりを受け取った。やたらとでかい。割り箸でそれを一口サイズに分けて、口に運ぶ。こんがりと焼けた米の感触の後に醤油の味と米の甘味が口の中に広がった。
「私は水上・操と言います。こちらが友峨谷・涼香さん。そしてこっちが風間・悠姫さん。それであなたは?」
 彼は素直に自分の名前を名乗った。やっぱり子どもだからご飯を食べるのに夢中で、無意識に自分の名前を口にしてしまったのだ。
 操はその彼の名乗った名前の苗字を口にしながら小首を傾げた。なんだか聞いた事があるような。
「それよりも16って、何だ? さっきに涼香に」
「だからけ・い・ご! ほんまにこの子は」
 ぱちんと指で彼の額を打つ涼香。
 打たれた額を両手で押さえる彼に悠姫がにこりとクールに笑いながら言う。
「涼香の大事な婚約者の年齢」
「な。こら、ばかぁ。悠姫。うちは………」
 顔を真っ赤にする涼香にふふんと意地悪に笑う悠姫。苦笑する操。この三人はいつもこういう感じなのかもしれない。
 だけど彼はそんな光景とは無縁で、絶句していた。
「なんだ、涼香。おまえ。婚約者が居るのか?」
「だから敬語、言うてるやろう?」
 注意する涼香にしかし、彼は聞いてはいない。何やら腕組みして真剣に悩んでいる。
「あら、そんなにショックだった? 自分を逆ナンした涼香に婚約者が居た事?」
「だからうちは、そんな………ちゃうもん」
 最初は強く、後半から元気が無い声でそう言う涼香に彼は目を見開く。
「違うのか?」
 目だけを明後日の方向に向けていた涼香に勢いづいて言う彼。涼香は顔を俯かせてそれに答える。
「そうや。いきなり許婚とか言われたかて、うちやって困るもん」
 半ば独り言のように言う涼香。戸惑いまくっている乙女心はまだ相当の時間を要するようだ、その事に関して彼女なりの整理をするまでは。
 しかしこれに彼が喜んだ。
「そうか。涼香も親の決めた婚約とかそういうのは嫌なのだな。だったらおまえも俺様の嫁候補にしてやる!」
 涼香の右手を両手で握り締めて彼が真顔で言った言葉に、涼香はもちろん顔を真っ赤にするし、悠姫や操も驚いた顔をする。
「えぇ〜〜っと」
 ドキドキと顔を真っ赤にしながら挙動不審で目を左右に動かしつつ上手い言葉を探す涼香。だからうちはショタコン、ちゃうて!!!
 だけど彼はそれは無視して、すんなりと涼香の手を離すと、右手で悠姫の手を、左手は操の手を握って、そうして笑顔で言うのだ。
「悠姫も操も、俺様の嫁候補にしてやっても良いんだぞ」
 つまり何と言おうか、このクソガキは!!!
 涼香の顔には歪な笑みが浮かんで、悠姫はバナナで釘が打てそうなほどの冷たい笑みを浮かべる。操は困ったように苦笑した。
 そんな時に開いた『涼屋』のドア。入って来たのはメイド服を着た少女だった。
 その彼女は、彼を見た途端に目を潤ませる。
「お坊ちゃま」
 彼は苦々しげな表情を浮かべて、そして操はようやく先ほどの思考の答えを出した。彼はあの大財閥の御曹司だ。
 驚く三人に対して彼は悪戯っぽく舌を出した。



 +++


 港に停泊している船を見上げる三人。涼香と操は悠姫が見立ててくれた黒のイブニングドレスを着ている。胸元は攻撃的なまでに大きく開いており、手折れそうなほどに細い首を飾るのは美しい細工が施された高級なネックレスだった。両の手首にも煌びやかに輝くブレスレットがある。
 悠姫の方は前にも大きなパーティーで着ていった黒のチャイナドレス。前回の『涼屋』で涼香と交わしたチラリズムを武器とした恰好だ。攻撃的なまでに大胆に、しかし妖艶な女の魅力を最大限に発揮しているのはうなじだろうか。自慢の美しい銀髪は後ろでひとつにまとめてアップにしていた。血管が透けそうなほどに白い首筋はとても魅力的で、それが豊満な胸を持つ彼女の色香をまた増させている。
 彼女が歩く度に風鈴のイヤリングが揺れて、海の波の音に重なってかすかな硝子の音色が奏でられた。
 三人は向かいに来たメイドに連れられて船の中へと移動して、その豪華な内装に驚き、夢見心地となった。
 メイドは丁寧な口調で船の歴史や、内装、それから今日開かれる彼女の主であるあの中学生の彼と、彼の婚約者であるこの豪華客船の持ち主である同じく大財閥会長の孫娘について語った。
 要するに彼はそれが嫌で、それでこの三人を自分の嫁候補としてここに呼んだのだ。このパーティーをぶち壊すために。
 大まかに船とパーティーの説明をされた三人は、与えられた船室へと案内された。充分の広さを持つとても綺麗で豪華な部屋だ。
「それではパーティーがまた始まりましたら呼びに来ますので、それまでここでごゆっくりとおくつろぎになってください」
「おおきに」
 ぺこりと去っていくメイドに頭を下げて涼香はソファーに腰を下ろした。それからちょっと苦笑を浮かべて、バックから取り出したハンカチで手の平を拭く。あまりにも豪華すぎるこの船に、妙に緊張してしまうのだ。
 向かいに座っている悠姫はそんな涼香にくすくすと笑った。
 悠姫はその仕事柄、財政界とも繋がりがあって何度か大きなパーティーにも出席しているのだ。だから場慣れしている彼女はもうだいたいの普段の調子はこの豪華すぎる船の中にあっても取り戻しつつあった。
「緊張しすぎ、涼香は」
「そんな事言うたかて………なぁ、操」
 部屋の丸い窓から、夕暮れ時の海を見ていた操は視線を二人に向けて、こくりと頷いた。
「やっぱり緊張しちゃいますよね、こんな豪華な船」
 祖母が宮司をする神社で巫女をしながら女子高生をやっている彼女としては自分の人生の中で、こんな豪華客船で開かれるパーティーに自分が招待される事があるとは想ってはいなかった。
 あらためて巫女の服や制服、そして普段の私服とは違う、大人の女性が着るような大胆な黒のイブニングドレスを着る自分の格好を見て、顔を赤くする。
 口許に軽く握った拳をあてて二人に恥かしげに彼女は訊いた。
「あの、私、おかしくありませんか?」
 涼香と悠姫はお互いに顔を見合わせて、くすりと微笑みあう。
「大丈夫、操。かわいいよ」
「ええ。よく似合っているわ、操。ああ、でももう少し…」そう言いながら悠姫は自分のバッグから化粧道具を取り出すと、操を手招きして自分の横に座らせて、ほんのわずか数秒でさらりともう少しだけ操に化粧を施した。
 18歳という肌は化粧の乗りもよく、その隠しようも無い若さの煌きと、悠姫の化粧技術が操を実年齢よりも少し年上な大人っぽい雰囲気に見せた。
「わぁー、かわいいやん、操。さっきまでのナチュラルな感じもええけど、こっちの方が断然大人っぽくって綺麗やよ♪」
 胸の前で両手を合わせて言う涼顔に操は耳まで赤くして俯いてしまった。
「あ、ありがとうございます」
 化粧道具を鞄の中にしまい、悠姫は先ほどまで操が見ていた丸い窓の向こうの風景に視線を向ける。
 赤い夕日はもうほとんど海平線の向こうで消えていた。まるで本当に夕日が海の中に沈んでいっているように。
 操はちらりとまだ顔を赤くしながら横目で悠姫の横顔を見て、それからなんだかそこに見慣れない彼女の表情でも見たのか顔をあげて、しっかりと悠姫を見据えた。
「どうしたんですか、悠姫さん?」
 涼香もいつの間にか悠姫を見ている。
 二人のなんだか神妙な視線に悠姫はだけどつい、笑ってしまった。
「ん。なんだかあの夕日の色、血の色みたいで不気味だな、って少し想っちゃっただけよ。せっかくの豪華客船でのナイトクルーズなのに、って。やーね。私もなんだかんだと言って緊張しているみたい」
 大きく悠姫は溜息を吐きながら肩を竦め、涼香と操は顔を見合わせた後に、くすくすと笑って、それから三人で楽しげに笑った。



 +++


 脱力した女の首筋を覆う髪を掻きあげながらそれは唇をあてて、牙を突き刺した。
 ちゅるぅ。ずるるるるるるぅぅぅぅ。ずずずずずずずずずずずずず。
 船室を満たす、ひどく冒涜的で、人の尊厳とかそういうモノを一切と無視した、そんな狂気を音声化した音。
 そしてその音が止むと、若さの特権とも言うべき張りのある艶やかだった女の肌はしわくちゃの老婆のような肌となっていた。完全に、血が抜かれてしまっているのだ。
 ただしベッドはずくずくに血で濡れてなどはいない。しわくちゃとなっているシーツには何かが零れ落ちた跡などは無いのだ。なら標準的な大人の女性の体の中に流れる血液はどこへ行ったというのであろうか?
 女に腕枕をしていた腕を抜いて、ベッドから降りた男は乱れた前髪を無造作に後ろへと掻きあげた。
 つぅーっと彼の口の片端から顎にかけて肌を伝い、床に落ちたのは赤い色をした液体だ。
「閣下。お戯れがすぎますのでは?」
 その女は果たしていつから居たのだろうか? 先ほどまでは確かにその部屋に居たのは閣下、そう彼女が呼んだ肌の浅黒い男と、有名なオーケストラでビオラを弾いているその、ミイラとなった女性だけであったはずだ。
「なんだ、妬いて、いるのかい?」
 嘲笑うように彼は言う。
「違います。私が申し上げたいのは閣下はこのプロジェクトの大切さをちゃんとご理解していただけているかということです」
 真摯な部下の発言はしかし、主には鼻先で笑われて、切り捨てられた。
「このボクがそんな事もわからぬ愚か者だとキミは想うかね? わかっているさ。これはボクら【悪の華】がこの日本で活動するためにあたって一番最初の作戦だ。まあ、それがたかが13歳の男の子どもを殺すだけのしょぼいものだというのはいささかプライド高いボクにとっては不満なのだけどね」
「しかしこれが上手く行けば今回のクライアントがそのままサポーターとなってくれて、日本での活動はし易くなります。この日本、という国は我ら異国の吸血鬼にとってはいささか活動がし難い国であるのですから。それに彼を殺す、というのは我らにとってはこのオペラ(作戦)での舞台の一つでしかありません。この船が抱える人間どもをすべて拘束し、中国領海に入った後にあちらの組織にそれまでに精製したアクアウィタエ(人間から搾り取った血液)を売る手はずにもなっています。それで得られる資金もまたその重要性はわかっていらっしゃいますでしょう?」
「ふん。わかっているさ。だけどね、ボクとしてはこう華やかなデビュー戦が良かったのだけどね」
 彼は虫けらでも見るように女のミイラを見て、そしてシーツを掴んで翻らせると、ミイラを床の上に捨てて、それから彼は部下の彼女の手を取り、踊るように彼女の身体を自分の方に引き寄せて、ベッドの上に寝かせると、彼女の上に覆い被さって、メイド服を脱がせ始める。
「342年前、農家の一人娘で、次の日に結婚を控えたキミの血を啜った夜は格別だったさ。だからボクはキミを大のお気に入りにして、こうして転向(人間から吸血鬼に)させて、今も愛で続ける。ボクが愛しているのはキミだけだよ」
 体を男に貪られながら、しかしメイド服を着た女が顔に浮かべた表情は、ひどく冷めた表情だった。



 +++


「この船室ね。彼が選んだ花嫁候補が居る船室は」
 彼女は腰に両手をやって溜息を吐いた。まさかこのあたしの婿となる事にそこまで抵抗を示してくれるとはね。で、あなたがそこまでこの婚約に反抗して選んできた女って、どんなのよ?
 この船のオーナーの孫娘の特権を最大限に利用して彼女は船室の扉を開いた。がちゃりと、扉を開けて部屋に入ると、その部屋に居た三人の女性は驚いたように自分を見据えた。
 にたりと彼女は笑う。
「今日はあたしの社交界デビューのパーティーに来てくださってありがとうございますですわ。でも、このあたくしから彼を奪い取ろうなんて百万年早いですわ! 彼はあたしのモノ。あなた方には渡さなくってヨ」
 きっぱりと彼女は言い切ってやる。びしぃっとカッコよく伸ばした人差し指で三人の女を指差して。
 彼女にとってみればこの婚約、祖母に言われたからするモノではなく、彼女は全身全霊を持ってこの婚約を望んでいるのだ。
「あたし、彼の事を愛しているの。だからあなた方のような人に負けません事よ」
 逃げ出すのなら、今のうちでございますわよ! もう一度びしぃっと人差し指を伸ばして彼女らに言ってやる。腹の底から声を出して、きっぱりと。
 しかしあろうことか彼女らは逃げ出すどころか、
「うわぁ、何、この小さいの。めさめさかわいいやん」
 むぎゅーっと後ろから抱きしめられた!
「ほんと、かわいいわね。ほっぺがもちもち」
 自慢のほっぺたを抓られて、引っ張られる。
「こらこら、涼香さんに悠姫さん。順番ですよ。順番」
 笑顔で良識的な事を言うけれども、多分ぬいぐるみ感覚か、小動物感覚で言われている………。
 黒髪黒瞳の彼女はにこりと笑って彼女をむぎゅーっと抱きしめた。
 まさしく女子高に迷い込んだ仔猫感覚で扱われる事に彼女はムキィーっとなって、どかーんと爆発した。
「えーい、やめぇー」
 癇癪を起こして地団駄を踏むけれども、それすらも三人にはかわいいと言われて笑われる始末。
 こうなったら泣いてやろうか?
 彼女は最終兵器発動へのカウントダウンに入ろうとしたが、その前に優秀なメイドがさりげなくフォローを入れる。
「皆様、いくらお嬢様がムニムニのポチャポチャで、かわいらしくっても、これ以上のご戯れはちょっと。こう見えてもお嬢様、まだまだ7歳の傷つきやすい女の子ですから♪」
 笑顔のメイドの言葉に三人もまたものすごくいい笑顔で「はーい」と言いながら、彼女を取り囲んだ。
 …………なんだか軽いいじめだろうか? 彼女は本気で考える。
「ほんならあんたがあの子の許婚なん?」
「そうですわ。だから絶対に彼はあなたたちには渡さなくってよ」
 背伸びして言う彼女。涼香は苦笑を浮かべながら肩を竦める。
「大丈夫ですよ。私たちはあなたから婚約者さんを奪うような事はしませんから」
「嘘!」
 彼女はヒステリックに言う。そんな彼女に操はにこりと微笑んだ。
「いいえ、嘘は言いません。私は神に遣える巫女ですから」
 悠姫は彼女の左右の頬に手を触れて、傾げさせた自分の顔に甘やかな微笑を浮かべた。
「そうよ。操と私はショタコンじゃないから、安心して。ここにはただ彼に頼まれたのと、豪華客船でのナイトクルーズが目当てで来ただけでね」
 こつんと悠姫は彼女の額に自分の額を合わせて、笑みを深くする。「ねえ、なに? 何であんたと操だけなん? うちもショタコンちゃうて!」、後ろから入るツッコミは無視して。
「だから私たちはあなたの恋敵じゃないから安心して。後ろのも許婚が居るしね。年下の」
 彼女は目を大きく見開く。それから顔を真っ赤にして、口を両手で覆った。
「それではあたしは、大きな勘違いを………本当にお姉さま方は」
 ばん、と船室の扉が開く。
 ずかずかと怒り顔で入ってくるのはあの彼だ。
 その彼に彼女は顔を乙女モードで輝かせ、三人は何やらにこにこと彼に笑いかけて、彼は眉根を寄せる。
「何をしている、こんな所で!?」
「あ、あたしは………」
 困ったように口ごもる彼女を後ろから抱き寄せて、悠姫はにこりとどこか意地悪に微笑んだ。
「乙女の雑談よ。まざる、男の子が?」
 ん? と、仔猫が捕まえた仔ネズミをいじめるような表情を悠姫がする。その表情と、これまでのやり取りでもはや疑いようも無い、裏切られたのだ!!!
「うわぁ、ひでぇ!」
「女の子はやっぱり女の子の味方なものですよ。特にこんな恋するかわいらしい女の子なんですから」
 彼が睨みつけた操はしかし、ん? と小首を傾げただけで、さらりと揺れた前髪の下にある美貌にはやっぱり宥めるような優しい笑みが浮かんでいるだけだ。
「かわいい許婚さんやん」
 うぐぅ。完全に彼女らは敵側に回っている。彼は顔を引き攣らせた。これだから女は厄介だ!!! 恋愛云々になると本当にすぐに首を突っ込んで、人をくっつけようとするんだから。徒党を組んで。
「俺様にだって選ぶ権利はある。それに涼香。おまえだって許婚を勝手に決められて俺様の気持ちがわかるんじゃなかったのか! それが何だ、簡単に裏切りやがって。もう皆、大嫌いだ」
 彼は部屋を飛び出して、彼女は彼の背中に向かって手を伸ばしながら彼の名前を呼んだ。
 彼女はしゅんとして、それからこほこほと咳をし始めた。
 彼女のメイドは慌てる。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「どこか悪いん?」
「はい。お嬢様は半年前に心臓の移植手術を受けたばかりなんです」
「そうなんか」
 三人は顔を見合わせる。
 だけどその涼香たちを見て、彼女は微笑んだ。
「だからあたし、一生懸命したいんです。生きる事も、恋する事も。本当ならあたしは心臓病で死んでいた。なのに、あたしはこうして生きている。誰かが心臓をくれたから。だからその人の分まであたしは」
 左胸に両手を添えて彼女は言う。
「そうですね。その人の分まで、生きないといけませんよね」
 操はそっと彼女の頭を撫でて、彼女は嬉しそうに微笑む。
「だからお姉さまたちとこうやって仲良くなれた事も嬉しいの。あたし、今までずっと病気のせいで独りぼっちだったから」
 上目遣いでそう言って彼女は、顔を俯かせた。恥かしかったし、自信が無かったのだろう。誰かと友達になるという事が。
「そうやね。うちらもお友達になれて嬉しいよ。なあ」
 そう言う涼香の声に悠姫も操も優しく微笑みながら頷いた。
「さあ、お嬢様。そろそろとお薬を飲んで、パーティーホールに行きませんと。パーティーのホステスがいないと、皆さん、お困りになられますから」
「はい」
 そう頷きながらも躊躇う彼女の心がどこに向かっているか容易に見当がついた。
「大丈夫。私たちでちゃんと見つけて連れて行ってあげますから、先に行っててください」
 そう丁寧に優しく宥めるように操に言われて彼女は頷いて、そうして船室から出て行った。
 静かになった部屋の中で三人は互いに顔を見合わせあう。しかしその彼女らの美貌には緊張の色が見て取れた。
「なあ、気付いとる、この血の匂い?」
「ええ。かすかにだけどこの部屋の空気の中に血の匂い、これは女の血の匂いね。それが漂っているわね。しかもこれ、彼女とメイドがこの部屋に入ってきてからよ」
「どうも和やかに恋の応援だけをしているわけにはいかないようですね。とにかくここで三人別れて行動して、何が起こっても対処できるようにしていませんと」
「どうもそうみたいやね」
「気をつけてね」
「はい。連絡は携帯電話でメールでやりあいましょう。バイブに切り替えておくのを忘れないで下さいね」
 三人で携帯電話をバイブに切り替えて、そして船室を出た。
 それをまるで待っていたかのように『悪の華』も活動を開始した。



 +++


「まあ、一応は見ておいた方がいいわよね」
 まさか逃げている許婚の社交界デビューのパーティーの会場にきているとも思えないけど、取りあえずは覗いてみた。
 悠姫がダンスホールの中に入ると、中はオーケストラの楽団が奏でる心地良いクラシック音楽で溢れている。
「お嬢様、シャンパンなどはいかがですか?」
 黒服が勧めてくるそれをひとつ手に取って、悠姫が極上の微笑みをくれてやる。
 普段から仕事柄社交界の貴婦人たちを見慣れている彼も悠姫が浮かべた微笑みに心を奪われてしまったようだ。しかし悠姫はただそれだけでシャンパンを持ったままその場からさらりと去ってしまう。
 広いダンスホールを一通り見たがやはり彼はここにはいないようだ。
「さてと、じゃあ、次に行こうかな?」
 肩を竦めながら彼女は呟く。
 と、視線を感じた。そちらの方に目をやると、髪をオールバックにしたビオラの奏者が自分の事を見ていた。お互いに目を細める。
 だがそれ以上、その目を見た途端に胸に湧き上がった感覚について訝しむ暇は悠姫には与えられなかった。
 部屋の明かりが消えて、そして次いでライトがオーケストラと今夜のホステスである彼女にあたる。
 指揮者は大きく両手を振って、そのタクトに合わせて楽団は音楽を奏でるのだ。
 しかし、その華やかな雰囲気はすべてビオラの奏者がおもむろに立ち上がったかと思えば、タキシードの上着の内から何やら取り出して、そしてわずかな動き(悠姫には簡単にわかった。彼が取り出したのは拳銃で、その銃口を指揮者の額に照準したのだと。)をして見せたかと思えば、わずかにあがったざわつきをすべて沈黙させる轟音を奏でた。ビオラという楽器ではなく、拳銃という武器で。
 額を撃ち抜かれて死んだ指揮者の姿にホール内は一瞬静まり返って、そしてその後に悲鳴が上がる。
 反響する悲鳴で揺れるようなホール内には一瞬で目がくらむような光が溢れて、より鮮明に見えるようになったその血の赤にホール内に居た人々はまさに蜂の巣を突いたように混乱した。
 恐怖はあっという間に人々の心を完全に汚染して、我先にとダンスホールの出口を目指すが、しかし先ほど悠姫にシャンパンのグラスをくれた黒服がそこに立っていて、そして今はシャンパングラスを乗せたトレーの代わりにその手には無骨な鉄の塊を持っていた。マシンガンだ。
 彼はその銃口を天井に向けて、掃射した。
 上がり続ける射撃音と広がる硝煙の臭いに人々は茫然とする。
 大きすぎる痛みが痛覚を麻痺させるように、細腕一本で凄まじい反動に襲われるだろうマシンガンを余裕で撃ち続けるその男の姿に、そこに居た人々の心を絶望が汚染したのだ。
 ビオラの男はマイクを手に持っていて、そしてそこに居る人々に告げた。
「この船は【悪の華】が支配下に置いた。無駄な抵抗はよしていただこうか? これ以上商品を無駄零しにするのは忍びないのでね」
 流暢な日本語で伝えられた事は普通の人間には意味不明でも、同族の血を流す悠姫にそれが意味する事が理解できた。
 悠姫は小さく溜息を吐いて、メールを送る、涼香と操に。


 トラブル発生。敵は【悪の華】と名乗る吸血鬼軍団。パーティー会場は制圧された。


 そして彼女は今は大人しく彼らに拘束される道を選ぶ事にする。おそらくは本気を出せばここに居る奴らだけでも倒す事は可能だろうが、それは間違いなく他の人間も戦いに巻き込み、それで無用な被害者を出すことになるであろうから。
 しかし問題なのは………
 ――――あの女の子だったのだが、しかし彼女は、
「いない、ですって………」
 いつの間にか居なくなっていた。
「…………」
 悠姫は口許に手をやって目を細める。思考に集中。
 この船は彼女の家が所有するモノだ。ひょっとしたらパニックルームのような物が完備されていて、あの混乱に乗じて、誰かが彼女を連れて、そこへ逃げ込んだのかもしれない。
 それともあの血の匂い。やっぱりそれが………
 しかしそれ以上は思考する暇は与えられなかった。
「さあ、ではまずはここに居るお客人だけでも先に選別をさせていただきます」
 ビオラの男が高らかに宣言する。
 ある者たちはこの期に及んでまだ悪態をつくし、ある者たちは泣いてばかり。そしてある者たちはすべてをやめている。
 そんな人間どもを見据えながら、吸血鬼たちは若者と老人。若者の男と女。さらに若者の女をまた二つに分けるなど、グループ分けをし始めた。ダンスホールの壁には巨大スクリーンが貼られていて、それに写し出されているのは船の頭上に広がる星々だ。しかしそれを見て悠姫はこの船が予定されていた航路を大きくそれている事に気がついた。航路上の空と、今現在の船の上の空とを見比べた場合、星の位置が違うのだ。
 スクリーンを見つめながら思考する悠姫の前に吸血鬼がやってきた。そいつはスタンガンのような物を悠姫の首に押し当てた。
 びりぃっとしたかすかな電流が悠姫の身体を駆け抜けて、そしてその電子機器に表示されたモノに吸血鬼は何やら驚いたように両目を見開いた。発せられたのは日本語でもなく、人の言葉でもない。吸血鬼たちが使う言葉だ。
 ビオラの男が部下の動揺に気付いて、やってくる。
「どうした? 何を騒いでいる」
「閣下。実はこの女の血液濃度が………」
 その吸血鬼は閣下と呼ぶ男に電子機器の数字を見せた。
 そして閣下もわずかに目を見開く。
「驚いたな。まさかこんな濃度で生きていられるとはな」
「どうしますか、この女?」
「そうだな。この血液濃度では、売り物にはならないか………」
 血液濃度、それは人が使う医学の常識とかそういうモノとはかけ離れた、異形の存在、吸血鬼が血液売買で使う品質管理の目安の事だ。これまでにも幾度か探偵の仕事で血液強奪事件などに関わった悠姫もその事は知っていた。
 そしてこの船が向かう先もそれで確証が持てた。
 やっぱり、この船は中国へ向かうのね。
 中国、近年目覚しい経済発展を遂げるこの国の闇は、日本が抱える闇以上に暗い。
 一人っ子政策による刑罰から逃れるために中国には多くの戸籍の無い人間が存在し、そして戸籍が無いが故に表の世界を生きられぬ彼らは地下へと安寧の地を求め、結果中国の地下には風水と科学、そして闇の力を組み合わせた巨大な闇の世界、【螺旋の街】が出来上がり、そのブラックマーケットでは闇の品が並ぶのだ。日本人の血はそこで高値で取引されるという。だからつまりは選別された後は、おそらくは船に持ち込まれた機械で血を搾り取られて、殺されるのだろう。
「やれやれね」
 悠姫は口の中だけで呟くと、その美貌に艶やかな微笑を浮かべた。
 チャイナドレスを着てきたのは成功だった。涼香と前に冗談で研究したチラリズムが実践できる。
 実際、その豊満なボディーでいつも男の視線を集めている悠姫はどうすれば男が自分に欲情するかもよく知っていたし。
 チャイナドレスから覗く美脚と、薄く血管が透けるような白い首筋、そして豊満な胸に吸血鬼どもの視線が集まる。
 唾を嚥下したのは吸血鬼特有の乾きのせいと、それから欲情したからだろう。
「閣下、こいつ、売り物にならないなら我々で。クィーンだって、文句は言わないだろうし、こいつなら」
 しかし階級が物を言うのは何も人間だけの社会の不条理さではない。吸血鬼の社会でもそれは一緒だ。
「そうだな。だったらこいつはボクが請け負うよ。キミはここでの作業を早急に済ませておいておくれ」
 上司の言葉に部下は顔をしかめるが、次に上司が浮かべた笑みに表情を凍らせた。
「早くしろ」
「はっ」
 そして閣下は悠姫に上品に微笑むと、彼女の両手首に手錠をかけて、連れ出した。



 +++


 携帯電話が揺れる。涼香か悠姫からメールが着信したのだ。
 わずかばかりの緊張を感じながら操は携帯電話を開いて、メールの文面を呼び出した。
「そんな吸血鬼。パーティー会場は制圧!?」
 顔を片手で覆って操は船内の廊下の壁に背中を預けた。直に素肌に触れる壁の冷たさがこれが現実だと教えてくれている。
 とにかくこれが現実であるのであれば、冷静にならなければならない。
「制圧されたのは会場だけ? ブリッジは?」
 よくハリウッド映画などではこういう場合はパーティー会場が制圧されるのと同時にブリッジなんかも制圧されてしまうものだ。そしておそらくは………
 思考に集中していた操の瞳が前を一点に見据えて、鋭さを帯びる。
 素早く携帯電話のボタンを操作してメールを送信した。
 それから彼女はドレスのスカートを両手で持ち上げると、膝少し上でそれを裂いた。
 上等な生地が敗れる音は案外廊下によく響いた。
「お嬢さん。ストリップをやるんなら、もっと色っぽくやってもらえないものかね?」
 そして甘い水が蛍を呼ぶように、ドレスを破る音は銃と防弾チョッキで武装した三人の男を呼び寄せた。どれも不細工な顔に下卑た笑みを浮かべている。操はそれを冷たく見据える。
「この女は俺らが来る前に恐怖でとち狂って、服を破り捨てて、海に飛び込んで死んだ、そういう設定だ、いいな?」
「あいよ」
「了解だ。日本人の若い娘の生き血ってのは上等なワインのように芳醇で、濃厚なんだぜ。俺は知ってるのよ。去年、大学生とかっていう留学生をヤッて、殺って、喉を渇かせてもらったからなー」
 長い舌で唇を舐めながら最後に聞き捨てならない事を言った吸血鬼が操に襲い掛かって来た。犬歯と呼ぶには鋭すぎる八重歯を剥き出しにし、鉤爪状に伸びた長い爪を振り上げて。
 一瞬で3メートルの距離を詰められた。吸血鬼の運動能力は人間のそれを遥かに越える。振り下ろされる爪は操のドレスを引き裂かんと。
 ――――しかし、
「ギャァァァァァァ――――」
 上がった声は無粋な男の耳障りな悲鳴だった。
 吹き上がる男の血で、雪のように白い素肌を操は濡らしている。右手に父の角より打ち出して、母が振るった形見の品を握りて。
 小太刀【後鬼】。それが彼女の二つある力のうちのひとつ。
『腕を斬り落としただけ。それで勝ったつもりでいるなら、死ぬで?』
 小太刀がざわりと殺気を放ちながら操に話し掛けてくる。
 事実、右腕を斬り落とされながらもその傷口から迸る血は数秒で止まり、傷口は塞ぎかけていた。今は夜。それは異形の者どもに無限の力を与える時間だ。
 だが、
「言われるまでも無い」
 淡々と温度の無い声で言葉を紡いだかと思えば、小太刀を持つ方の腕を後ろに引いて、腕の筋肉と、しなやかな上半身の鞭のようなしなりを利用しただけの突きを自分の頚動脈目掛けて牙を剥き出しにして、ものすごい勢いで顔を近づけてきたそいつの左胸に叩き込んだ。
「がはぁ」
 潰れたような空気の塊と大量のどす黒い血を吐き出して、吸血鬼はその直後に灰となって消える。
 刃を濡らす異形の血は腕を一振りする事で、払い落とした。
 そして右足を後ろに引いて、左半身の体制から小太刀を後ろに引いて、突きの構えを取る操。
『この狭苦しい廊下ではオレは使われへんもんな』
 未だブレスレットに擬態しているそいつ、真の姿はやはり父の角より打ち出し、母が振るったもうひとつの形見、長刀【前鬼】が言う。
『そう。ボクだけで充分や。この狭い廊下でもボクなら動ける。そして難なく殺れるやろ?』
 冷たく言い放つ【後鬼】の言葉にもしかし操は表情を変えない。それが退魔師として水神という真名を持つ操の本当の顔。
 どうやら彼女のその姿に吸血鬼どもも、今自分たちの目の前に居る線の細い美少女がただ自分たちの下半身と喉を潤すだけの哀れな子羊ではない事を悟ったらしい。
 手に持つ拳銃の銃口を操に向けて、一斉掃射した。
 この豪華客船の廊下といえどもほんの数秒、硝煙の帳に視界が遮られる。
 見えない現実は彼らにどのような事を想像させたのか? しかしそれを確実にひとりから永遠に聞く事はできなくなった。
「うげぇ」
 隣からあげられた声…否、音が、それが最後にそいつが奏でた音だった。転瞬、鋭い刃で喉を刺し貫かれて、灰となって消える。
 恐怖が吸血鬼としての圧倒的なプライドや自信をも打ち砕いた。目の前の赤い瞳をしたそれはそれほどまでの絶望的な恐怖の権化だったのだ。
 逃げ出す。強靭な運動能力で。
 しかし後ろから囁かれた声。
「逃がすとお思いですか?」
 その瞬間、彼は下半身に置いていかれた。腰から下の彼のパーツだけがそのまま前に走っていって、やがて崩れ倒れて、どす黒い血の湖に沈んだ。
 そして彼はそれを最後に見て、灰となって消えた。
 ただ咽かえるような血と紫煙の臭いが渦巻くそこにメールの着信音が鳴り響く。
 操は左手で携帯電話を取り出して、メールの文面を呼び出した。
 彼女が所属する退魔組織【白神】からのメールだった。
 その文面には【悪の華】についての情報が詳しく記載されていた。構成メンバーは二十八人の小さな田舎の弱小テロリスト集団だ。
「それが何を勘違いして出てきたのか。それでもこれで三人減らしたから、あとは二十五人」
 操は送られてきた情報を涼香と悠姫にも送信すると、ブリッジを目指した。



 +++


 閣下の話ではそのガキを殺す事こそが大事で、つまりは殺せれば問題は無いという事で、じゃあ、殺しちまってもいいって事だ。
 そいつは口を大きく開け広げた、剥き出しにされた犬歯と呼ぶには鋭すぎる八重歯からは涎が滴り落ちる。完全に真紅の瞳はイッていた。ドラッグ中毒とかそんな生易しい感じではなく理性を兼ね備えたイッた表情。
 鉤爪状に湾曲した爪で廊下の壁を引掻きながらそれは彼に近づいてくる。
 彼は後ろに後ずさろうとするが足がもつれて転んだ。尻もちをついた彼に、それが襲い掛かる。
「シュゥワァ――――――ァ」
 まさしく肉食獣が草食獣に襲い掛かるようなものだった。頚動脈目掛けて飛び掛るそれに彼は瞼を強く閉じた。身体を丸めて。
 ―――ついで上げられたのは、凄まじく耳障りで奇怪な異形の叫び声だった。
「ギャァァァァァ――――――ァッ」
 鼻腔に無理やり押し込められたように刺激する臭いは何か肉を焦がしたような不快な臭いだ。
 瞼を開けば、目の前で吸血鬼が顔に符を貼り付けながらのた打ち回っていた。
 後ろを振り返る。
「涼香ぁ」
「涼香お姉さん。け・い・ご」
 黒のイブニングドレスの長いスカートを生地を破ってミニスカートにして、手には何枚かの呪符を持っている涼香がそこにいた。
 そして彼女は彼の手首を掴んで、引っ張り起こすと、すぐ横にあった部屋の扉を開いて、そこに彼を押し込んで、また部屋の扉を閉めた。
 起き上がってきたそいつを見据えて、笑う涼香。
 それのケロイド状に焼き爛れた顔はしかし、既に再生が始まっている。
「やっぱり夜はあんたらの時間やねー」
 吸血鬼はふるふると身体を震わせている。
「くぅおの、くそぉ女がぁ―――ァ」
 鉤爪を振り上げて吸血鬼は涼香の顔を引き裂かんと。
 だがそれに引き裂かれてやる理由などもちろん涼香は持ち合わせてなどいない。
 彼女はわずかに身を後ろにそらせて紙一重でそれをかわすと同時にそいつの腕を両手で決めて、投げ飛ばした。
 合気道の部類に入る投げ技だ。相手の力が強ければ強いほど、床に相手を叩きつけた時に、与える衝撃はその強さを増す。
 吸血鬼は床をわずかに陥没させて、割れた額から溢れ出す血の湖に顔を沈めさせた。
 腕はまだ決めているが、しかし吸血鬼はトカゲが尻尾を切るような感覚で腕を切り捨てて、逃げ出した。
「うげぇ」
 気持ち悪そうに腕を放り捨てると同時に涼香は呪符をそいつに放った。両足と残りの腕に張り付いた呪符は涼香が念を込めると同時に爆発して、そいつは両足と残っていた腕を無くして床に転がる。
 静かに涼香はそいつの傍らにまで歩いていって、つま先でそれをうつ伏せから仰向けに転がして、胸に片足を乗せた。
「つまらん芝居はやめとき。今は夜。こうなってもあんたらが死なないのはこれまでの戦いで経験済みや。せやからやっぱりよう知っとるんよ。それでもあんたらの心臓か、脳みそを破壊してやれば、あんたらを殺せるとな」
 酷薄に浮かべるその表情はまるで死神が浮かべるそれのようだった。まったくもって笑える要素など、その笑みを向けられた相手には無い表情。
「た、助けて」
「あんた、さっきあの子を殺そうとしとったけど、あんたらの目的はこの船の乗客の血を絞り取って売り捌く事やろう? ならどうしてあの子を殺そうとしたん?」
「た、頼まれたんだ、閣下が。それをやったら俺たち【悪の華】が日本で活動できるように手配してくれるって」
「そいつは誰?」
「か、閣下しか知らねーよ」
「そう」
 涼香は足をどけると同時にそいつの左胸と額の上に呪符を置いていった。
 そして歩いていく彼女はふと、足を止めて後ろを振り返る。
「ちょっとでも動けば、ボン、や。いったいどっちが早いやろうな? あんたが動いて死ぬか、それとも窓から差し込む朝日に照らされて死ぬか?」
「は、わ、い、いやだぁ」
 男は悲鳴をあげて、その振動が呪符に伝わって、ぼん。
 涼香は背後で上がった音と、酷くなった血の濃密な香りに辟易とした表情を浮かべながらただ肩を竦めた。
 部屋の扉を開くと、彼はそこで座り込んでいた。床は失禁で濡れている。
 涼香はただ優しく彼の頭を撫でてやった。
「もう少し待っててな。必ずうちらがあんたを助けてあげるから」
 そして去ろうとする涼香の手を彼が握った。
「待って。あいつ…」彼は許婚の彼女の名前を口にする。「あいつは、大丈夫? あいつ、心臓を手術したばかりで、こんな状況になったら…助けなきゃ」
 震えながらそう言う彼に涼香はわずかに口を開いて、そしてその後に微笑んだ。
「何で? あんた、あの子の事を嫌いやったんちゃうの?」
「ち、違う。許婚って、そうやって勝手に決められた事が嫌で。ただそれだけだったんだ。それに中一が小一を好きになれるものかよ。ロリコンだ、それはぁ」
 その言いように涼香も苦笑する。
「苦労するね、お互いに。自分よりも年下の許婚やなんて。あ、ちなみにうちもショタコンちゃうで」
 右手の人差し指一本立てて、ここだけはちゃんと神妙な顔で言ってやる。
 そうしたら彼はそこでようやく笑ってくれた。
「涼香。雇うよ、俺様はおまえらを。おまえら、あいつらよりも強いんだろう。だからボディーガードとして」
 懸命に言う彼の頭をこつんと叩く。
「ばかたり。親友を守るのは当然の行為やろう? うちも、悠姫も、操も皆、あんたやあの子の親友やから、戦って、おるんや」
「涼香…」
「さん」
 にっこりと笑う涼香に彼は大きく頷いた。



 +++


 ブリッジは既に沈黙していた。
 左胸を一突きにされて、血を一滴残らずに吸取られた死体が五つ、転がっているだけだ。
 そしてそこに吸血鬼どもの姿は無かった。
「第二ブリッジを最初から使っていた」
 操はうめくように言う。
 こういう豪華客船にはもしもの時を踏まえて第二ブリッジが作られている。そしてその場所は船のクルーしか知らないのだ。
 事実ブリッジの船内地図にすらそれは載っていない。
「すでに政府に手を回して【白神】が動いてくれているはず。直に援軍も来てくれる。でも、日本国領海を出られたら………」
 操には予想はついていた。この船は中国領海へと向かっている事。そしてその商談相手がそれ故に中国政府の高官にもメンバーがいる【螺旋の街】だということも。
「このままでは。だったら」
 操は船内地図に視線を走らせた。そして船の動力部までの道のりを頭に叩き込む。船を止めてしまえばいいのだ。
 ブリッジを走り出て、操は船の動力部を目指した。
 船内に人の気配はもう無い。
 船客はすべてパーティー会場に集まっていたし、そして船員はすでに皆殺しにされているのだろう。
 操の走る足音だけが響く廊下にしかし、彼女はそれ以外の音を聞いて、足を止めた。
「誰かの泣き声。女性の?」
 操は焦燥に駆られながらそちらに走った。
 そこに居たのはあのメイドだった。
 名前を呼ぶと彼女は顔をあげて操に抱きついた。
「もう大丈夫ですよ。安心してください。でもよくご無事で」
 落ち着かせるために優しく言う操。だが、その彼女の美貌が、歪んだ。
「え?」
 見たメイドの顔はとても無邪気に微笑んでいた。
 そして次に見たのは自分の腹。操の薄い腹には彼女の腕が肘ぐらいまで深く埋まっていた。おそらくは刺し貫かれている。
「…………どう、し…て?」
 ほとんど声にはなっていない空気の塊と大きな血塊を吐き出しながら操は言った。
 彼女は意外にも無邪気なトーンの透明な声で教えてくれた。
「あたしも吸血鬼で、【悪の華】のメンバーだから」
 腕は抜かれて、操は口と傷口から大量の鮮血を迸らせながらその場に崩れ倒れた。
 この船が中国領海に入るまでにあと30分弱。



 +++
 

 両手足はそれぞれ手首、足首に一個ずつ手錠がかけられてベッドに拘束されていた。
 閣下と呼ばれる吸血鬼は紳士を気取って落ち着いた穏やかな笑みを浮かべながら悠姫の上に乗り、チャイナドレスの前を開いた。
 露になった下着と、白い肌。
 右手の人差し指の爪の先で、悠姫の透けるような白い肌をわずかに薄皮一枚傷つけて、赤い、小さな珠を作り出した。
 屈辱に歪む悠姫の顔を楽しむかのように顔を近づけてきたそれは、そのまま牙の先を、悠姫の首筋、白い肌に透ける血管に合わせて這わせる。
 ぷつり、と鋭い牙が悠姫の首の皮を貫いて、入り込んできて、血の滴が彼女の首を流れ落ちて、真っ白なシーツを染めた。
 しかし美女の血を何よりものご馳走とする吸血鬼が嚥下したその血に喉を両手で押さえて、自分の下にある悠姫の顔を睨み吸えた。
 当然だ。吸血鬼にとって同族の血とは、毒薬なのだから。
 そしてその吸血鬼にとって何よりもの計算違いは悠姫が半分といえども同族の血を流していた事だけではなく、魔眼メデューサの持ち主であった事だ。
 彼女の瞳の色が真紅から金色に変わる。
「うぉぁ…」
 石となった彼の下から、悠姫は己の身体を霧へと変えて、ベッドの傍らに立った。
「権力志向の男はいつだって自分が一番有能だと想っているから、自分の性欲を満たすためにしかないと想っている頭のいい女に足下をすくわれて身を滅ぼすのよ」
 肩を竦めながら呟き、彼女は部屋を出ようとした。
 しかし後ろで夜の闇がざわつく気配を感じ、後ろを振り返ったその瞬間、巨大な力で頭部を拘束されて、そのまま廊下の壁に頭から叩きつけられた。
 眩暈がして、口の中に血の味が広がると同時に意識が遠のく。
「まさか同族の血を流しているとはね。だけどそちらにとっても予想外だったようだね。ボクがレジスト、石化を無効化できる能力を持つ事が。そう、ボクは真祖。雑種のキミとは違うんだよ。このクソぉアマが」
 怒気を音声化させると同時に彼は悠姫を廊下に叩きつけた。
 立ち上がろうとする彼女の前に一瞬で移動して、その腹部に横薙ぎの一撃を叩き込む。鋭い爪の先はチャイナドレスの布ごと悠姫の腹を裂いた。
「がはぁ」
 ぼたぼたと傷口からと口から大量の鮮血を零しながら悠姫は後ろに下がる。
 それでも彼女は拳銃の銃口を吸血鬼に照準すると共にトリガーを渾身の力を振り絞って引いた。
 ガウン。ガウン。ガウン。
 連続で獣の咆哮かのような銃声が発せられるが、しかしそのどれもが吸血鬼の爪の間に受け止められているのだ。
「終わりだよ、キミ」
 吸血鬼は冷たく言い放つ。そしてひしゃげた銃弾を足下に捨てて、悠姫にとどめを刺さんと近寄ってくるが、だがそこで彼にとっては想定外の事柄が起こり、足を止める事となる。
 船が、止まったのだ。
「馬鹿な」
 吸血鬼はうめいた。
 それに対して悠姫は笑う。涼香が操、そのどちらかの仕業だろう。
「だからあなたのような男は失敗すると言っている。浅はかな思考しかしないから、こうやって想定外の事柄に思考を乱されて自滅するのよ。この田舎の弱小テロリストが」
 せせら笑う悠姫に吸血鬼は歯軋りをし、そして今度こそ悠姫にとどめを刺さんと瞬間移動。彼女に霧となって逃げる暇も与えずに血を零し続ける腹に渾身の力を込めた一撃を叩き込む。
 その衝撃に悠姫の身体は浮き上がった。ぼたぼたと床に落ちる血の勢いが弱くなっていく。
「キミらのような虫けらがこうやってボクの邪魔をする。ボクらがいたイタリアの街にもキミのような勘違いした正義気取りの奴がいてねー、そいつのせいでボクらはその街にいられなくなったんだ。たったひとりの刑事を殺したぐらいでさ」
 びくり、と、悠姫の身体が震えた。
 彼女は口の中に溜まった血を吐き捨てると、か細い声を出して、彼に訊く。
「あなたは刑事を殺したの?」
 吸血鬼はにやりと笑い、悠姫の耳元で囁く。
「ああ、殺したともさ。ついでにそいつの婚約者も妹もヤッて、殺って、血を絞り取った。とても美味しかったね。親の方は切り刻んで野良犬どもの餌にしてあげたよ」
 その時の事を思い出してでもいたのだろうか? 下卑た歪んだ快楽に耽った笑みを零していたその顔が何故か引き攣った。そしてそいつの真紅の瞳はもはや虫の息の悠姫に向けられる。
「そう。あなたは刑事を殺したの。それじゃあ、私はあなたに余計に殺される訳にはいかないじゃないの」
 ぞくりとするような冷たい声。最強生物の闇の純血種、真祖の吸血鬼があろうことか震える。恐怖に。
 そしてそれを感じた後に屈辱に歪んだ表情で、吸血鬼は悠姫を投げ捨てた。
「悠姫ぃ」
 悲鳴のような声が聞こえた。それが何とか意識を繋いでくれる。
「ちぃ。仲間が居るだとぉ」
「そおや。うちの友達を随分と痛めつけてくれたようやね。覚悟しぃや、自分」
 悠姫の前に陣取った涼香が両手の呪符を構える。
 ―――だけど……………
「ごめん。涼香。こいつは私がやる」
「せやけど悠姫。あんた、その傷で」
「だから、ごめん。血をくれるかしら?」
 ぼろぼろになりながらも立ち上がる悠姫に涼香は驚いたような顔をして、それから微笑んだ。
「今度奢りやよ、あんたの」
 涼香は首を傾け、
 彼女の首筋を覆う青い髪は右手で掻きあげて、左手は涼香の後頭部の髪に埋め、素肌をくすぐる悠姫の吐息に涼香は体を小さく震わせて、悠姫は小麦色の肌に舌を這わせると、両目を艶やかに細めて、その後に唇を当てた。
 犬歯と呼ぶには鋭すぎる八重歯の先が涼香の肌の弾力を感じる。
 しかし残念ながらその柔肌を楽しむ暇は今は無い。ぷつり、と牙が皮膚を貫いて、その感触と共に、腕にも抱き抱える涼香が身体に異物が入ったその感覚に震えたのを感じながら溢れ出てきた血を嚥下した。
 聞こえた小さな悲鳴に、血が濡らす唇を離して、視線をそちらに向けると、彼が怯えた表情でこちらを見ていた。
 悠姫は彼に、どこか哀しげな表情で微笑んでみせる。
「じゃあ、うちらはパーティー会場に行くわ。人質たちを助けてくる」
「わかったわ。あれを倒したら、私も行くから」
「うん。待っとるわ」
 取り出した呪符を涼香は吸血鬼に投げつけた。
 それが強い光を放ち、それに吸血鬼が怯んだ瞬間に涼香は彼と共に脱兎の如くその脇を走りぬけた。
 悠姫が微笑んだのは、彼が擦れ違い様に、「がんばって、悠姫さん」と言ってくれたから。
「そう言われたら余計にお姉さん、がんばらないといけないじゃない」
 両手の指が鉤爪状に湾曲に伸びる。
 悠姫は唇を濡らす涼香の血を舌で舐めとって、にやりと微笑む。
 涼香という強力な術者の血は悠姫に力を与える。
 廊下の床を蹴って、悠姫は吸血鬼の前に一瞬にして移動する。
 そしてヒット&アゥエー。鋭い爪の横薙ぎの一撃をそいつの腹部に叩き込んだ。
「馬鹿な、おまえ。どうしてそんな動きぃ。たかが人間の血を吸っただけで、雑種が真祖の反射速度を上回るだとぉー」
 吸血鬼は反射しきれなかった分だけ両手を巨大化させた。縦横無尽、むやみやたらに振り回す、それを。
 しかしそれをすべて悠姫が避けきって、そして完全にそれの懐に再び飛び込んだ。両手が巨大化した分だけ、リーチが長くなった分だけ、懐が空きやすくなっていたのだ。
「これで終わりぃ」
 能力発動、【捕縛結界】、後ろでアップしていた髪が蛇のように動いて、吸血鬼を捕縛する。
 そして身動きできずに屈辱に歪むそいつの腹部に鋭い掌底の一撃を叩き込んだのだ。全身全霊を込めたその一撃に吸血鬼の上半身だけが吹っ飛んで、それは貫いても尚衰える事の無かった悠姫の一撃に開けられた壁の穴から夜の海へと落ちて消えた。
 後ろにふらふらとたたらを踏んで、悠姫は廊下の壁に背中を預けた。
 血に濡れた方じゃない手で悠姫は前髪を掻きあげて、溜息を漏らす。
「さすがにしんどかったかな。あはははは」
 それでも悠姫はふらつく足で友が居る場所を目指した。



 +++


 気が遠くなりそうだ。流れ出る血に体温を奪われて。
 操は下唇を噛みしめながら呪符を腹部の傷口に当てた。
 じゅぅ、っという肉が焼け焦げ、血が蒸発する独特の臭いが鼻腔を突いて、呪符は操の傷口を塞いだ。彼女の身体に呪符が擬態したのだ。しかしそれで完全に傷が治ったわけでも、流した血が戻る訳でも無い。完全な応急手当で、本来なら動いていい傷でも無いのだ。気休めである。
 しかし操は立ち上がった。
 この事を伝えなければ涼香と悠姫に。だけど携帯電話は今ので壊されてしまった。
 彼女は壁に手をつきながら歩いていく。
 二人は何処に?
 悠姫はパーティー会場。
 いや、船を止める事が先か。
 船の動力室へ行く?
 ダメだ。流した血液が多すぎた。
 傷も重症だ。
 思考がまともに働かない。
 その時に操の眼に映ったモノがあった。



 +++


 涼香は呪符の枚数を数える。持ち数は13枚。
 彼女はダンスホールへと続く通気孔ダクトの中に居た。
 吸血鬼の数は五人。
「やれる」
 冷静な声で涼香は呟く。冷静でいようとするのだ。そういう時はなった気でいて、そういう声を出すといい。そうすれば意識は騙される。いささか血が足りない。軽い貧血症状。だけど友のためだし、自分が相手をするのは雑魚の吸血鬼。ちょうどいいハンデか。
 船客は何やら変な機械が作り出す人工結界装置の中に入れられていた。それがありがたい。少なからずの衝撃…銃弾程度ならばあれは充分に跳ね返してくれる。
 ばん、ダンスホールの扉が乱暴に開けられた。
 吸血鬼どもの視線が一瞬で、飛び込んできた彼に向かう。
 そう、吸血鬼どもの標的の彼だ。囮にはこれほど適任の者は居ない。
 閣下から殺す事を許された標的。上手そうな餌を前にもう乾きは最高潮に達しっていた。
 雑魚だからこそ、理性は脆いのだ。もはやそれらにあるのは欲望のみだった。
 だから通気孔ダクトから飛び出してきた涼香に反応できない。
 彼女は呪符を投げて、一撃必殺ですべての吸血鬼を灰へと還した。
「ようやった。偉かったやん」
「当然」
 彼は誇らしげに鼻の下を擦ったが、しかしそこに彼女は居なかった。
「坊ちゃま」
 人工結界装置を切ると、メイドが走ってきて、彼を抱きしめる。
「良かった、坊ちゃま。本当に心配していました」
 彼はそれよりも彼女は? と、メイドに問いただした。メイドの話では【悪の華】が動いた瞬間に消えてしまったという事だった。
「パニックルーム、そういうのがここにあるんやないの?」
 涼香は小首を傾げ、そして彼女はダンスホールを見回す。
 彼は隣で眉間に拳を当てて何かを考え込み、そして涼香の手を引いて、ダンスホールの奥の壁を押した。するとそれは簡単に回転したのだ。
「隠し通路?」
「聞いた事があったんだ。彼女のメイドに。ここに隠し通路があるって」
「そうか。なら、ここから行ったんやね」
「追おう」
 彼は壁の向こうにある階段を走り、そしてそれを涼香とメイドも追いかけた。



 +++


 それは貨物用のエレベーターだった。
 操はボタンを押して、扉を開くと、ケージに乗り込んだのだ。
 ケージが辿り着いたのは船の下層、貨物コンテナ内。
 チーン、静かなケージ内にそのチャイムが鳴り響いて、扉が開いて、そして操はその光景を見てしまった。
「涼香さん」
 操はその涼香の絶体絶命の光景に悲壮な声をあげた。
 そう、涼香が居る場所にあのメイドが居たのだから。



 +++


 涼香が辿り着いたのは船の下層にある貨物コンテナだった。
「ここにあの娘がおる?」
 彼は大声で彼女の名前を呼んで、そしてそれに応えるように物音がひとつ。
 あの彼女のメイドがそこに現れたのだ。
 彼女は左腕で気絶したあの娘を抱いて、そしてその右腕は肘まで血に染まっていた。
 涼香たちの方を向いて彼女は口を開ける。
 剥き出しにされた牙は犬歯と呼ぶには鋭すぎて。
 ―――それは明らかに吸血鬼の牙だった。
「ちぃぃぃぃ。あんたぁー」
 涼香は残りの呪符一枚を手に握って前に飛ぶ。
 だがしかし、そのメイドはあろう事か涼香に主を投げ捨てた………いや、託した?
「何やて?」
 慌てて気絶した彼女を受け止めて、そして涼香は身を翻した。
 涼香の視線の先で、女の子のメイドが彼のメイドに襲いかかるが、しかしその鋭い爪の一撃をやはり鋭い爪の一撃で弾き返されて、そしてもう一方の手の爪で腹を貫かれた。
 激しく鮮血が宙を舞い、
 そうして腕を引き抜いたそのメイドは涼香へと襲い掛かる。
 だが涼香は両腕で彼女を抱きしめているが故に動けず、結局彼女が取ったのは背中を向けて、自分が彼女の盾になる、ただそれだけだった。
 しかし――――
「涼香さーん」
 一陣の風がそこを駆け抜ける。その風は鋭き刃を持っていた。
「おまえは、まさか」
「水上操。あなたのお相手は私がします」
 操は長刀【前鬼】と小太刀【後鬼】を構え、言った。



 +++


 躊躇う間は無かった。
 この身に流れる異形の血。それは諸刃の剣。振るえば敵ばかりではなく自分の身さえも滅ぼしかねない力。
 だけどこれで自分の自我が崩壊しても構わなかった。何故ならそれで涼香を守れるのだから。
 だから彼女は鬼の血を解放する。
 どくん、心臓が脈打ち、そして全身を力が駆け抜ける。
 熱い、血が、熱い。
 血管が破れそうで、細胞のひとつひとつが蒸発しそうなほどに。
 瞳が真紅に染まり、そして彼女は両手に【前鬼】と【後鬼】を握り締めて、風となりて駆け抜ける。
 そして涼香を守るために陣取った。
「水上操。あなたのお相手は私がします」
 猛る血に自我を飲み込まれそうになっても操は【前鬼】と【後鬼】の力によって、そして自らの精神力によってそれを回避している。だけどそれだってもってわずか数分。受けていたダメージが大きいのだ。だから力を加減する事ができない。
 メイドは両の爪を打ち合わせて、そして操に襲い掛かる。
 繰り出される両の鋭い爪の一撃を操は【前鬼】と【後鬼】で打ち流し、払い、受け止めて、切り替えし、一撃を叩き込まんとするが、しかし乗っ取られそうになる意識の内での自我と鬼の血とがぶつかり合い、そちらに力が取られて、戦いに集中できないのだ。
 硬質化した爪と、鬼の角を打ち出した刀とがぶつかり合う音は死霊の叫び声かのような奇怪な歌声を奏でる。
 その音が焦燥させるのだ、操を。
 焦りが技を雑にさせる。
 その隙をつかれる。
 操の細い体を包み込む黒のドレスは流れる血にずくずくに濡れて、もう既にズタボロだった。
 流れる血が体温を奪い、そして焦る心に囁いてくる。
 意識を任せろ、と。
 ―――嫌だ。そうすればおまえは野獣とかして、本能のままに命が尽きるまで暴れ狂う闇となる。
 視界の端に映る涼香。彼女の腕の中の女の子。血黙りの中で沈んでいるメイド。そして彼に、ここに来た悠姫。
 悠姫は拳銃の銃口を操へと向ける。そして彼女は微笑んだ。とても綺麗に気高く。
「あなたが暴走したら私たちがちゃんと殺してあげるわ」
「操。任せておき」
 二振りの剣で敵の攻撃を受け払いながら、耳朶を叩いたその声に、操はもうほとんど感覚を無くしていた身体に再び細胞のひとつひとつまでに熱き力を感じ始めた。
 どくん、心臓が脈打つ。熱く。激しく。
 そして彼女は敵を押し飛ばして、視線を悠姫と涼香に向けて、微笑んだ。
「お願いします」
 もう怖くはなかった。
 暴走したら二人がちゃんと自分を止めてくれる。それを信じられる。だから、彼女は血との戦いをやめて、受け入れる。血を。
 瞬間、傷が一瞬で塞がり、そして真紅の瞳をしたそれは、床を蹴って、女の吸血鬼を二振りの剣で切り捨てた。彼女に反撃する暇も与えずに。
 それが操の血、の力だった。
 その勝利を代償に紅い血の中に操の意識は沈もうとした。だけどその彼女の両手を掴み、それから引き上げてくれる温もり。
 右手を母が、
 左手を父が、
 掴んでくれていた。
 そしてその温もりはブレスレットとなって、輝いた。
 そう。それは絆の力。鬼の血よりも強い。
「操、しっかりしぃ」
「操、操。大丈夫?」
 瞼を開けると、涼香と悠姫の顔があった。
 ゆっくりと操は上半身を起こして、灰となって消えていく彼女を見据えた。
 どうして彼女はそういえばあの時に自分の血を吸わなかったのだろう? そうすれば完全に自分を殺せたのに。
 灰となって消えていく彼女はどこか安らかに微笑んでいて、そして男の名前を口にしながら完全に消えた。



 +++


 涼香は女の子のメイドを抱き寄せた。
「大丈夫ですか?」
「はい。あたしは吸血鬼、だから」
 噂には聞いた事はある。中国ではキョンシー。欧米などではヴァンパイア。そうやって他の国には血を吸う化け物が居るのに、八百万の神が居るとされるこの日本にその吸血の化け物の伝説が無いのは、時の権力者と日本の吸血鬼が密約を交わしたからだ。権力者の力となるかわりに自分たちの事を守ると。
 つまり彼女も大財閥に遣える吸血鬼だったのだろう。
 そう、だから………
「あんたはこうなる事がわかっていて、【悪の華】を雇ったんやよね? それがこのメイドを倒せたら良し。最低でも大きなダメージを与えてくれれば、後は自分がする。確実に勝利得られるように」
 涼香は言う。メイドが見つめる先に居たそいつを見て、すべて悟って。
 そしてコンテナ内に拍手の音が鳴り響いた。
「お見事です。それにしてももう少しぐらい役に立ってくれるとは想ったのですが、やれやれ」
 それはあの執事だった。
 そいつの手には一振りの刀が握られている。
「爺、おまえ、どうして?」
「どうして? はっ。私がこれまであなたに仕えているフリをしていたのはすべてあなたの家の財産を奪うためだった、それだけ。さあ、もうこうなってしまったら良いです。私があなたを殺しましょう。こうなるのなら最初から私が殺っていればよかった」
 ただ淡々と紡がれる言葉に彼は泣き叫んだ。
 その彼の頭を悠姫が撫でて、抱きしめる。
 操は再びその手に【前鬼】と【後鬼】を握って、女の子とメイドを守る。
 そして涼香は最後の呪符を指に挟んで、呪を口にする。
 それは雷の鳥となって、執事に襲い掛かるが、しかし執事はそれを抜き払った剣で一刀の下に叩き落とした。
 だがそれは布石。
 涼香は素早く彼の前に突っ込み、蹴りを放つ。上段、下段、中段。肘打ちや拳も。
「無駄ですよ。こう見えても私も元は暗黒街に生きた男。その程度で何ができますかぁ?」
 薙ぎ払う剣風に腕を交差させてガードを作り上げた。もしも操が投げてくれた呪符のガードがさらに無ければ、その剣風に涼香の両腕は落ちていたはずだ。
 ―――この男、言うだけあって、強い。
 力が、足りない。
 望む、力。
 力を望む時はいつもそれの声が、聞こえていた。


 我の名前を呼べ―――


 振るわれる凶刃。涼香はそれをすべて紙一重で避けていく。
 感覚は研ぎ澄まされていく。
 殺気が線を作っているのだ。その線を見切れば、涼香は奴の振るう剣を避けられる。それは達人の域を極めた剣士だけが持つ事のできる目だった。
 避けながら彼女は唇を動かす。
「うちは何時だって呼ぶよ。あんたを」
 そうだ。母の仇はまだ取っていない。
「こんな所で死ねへんもん」
 この身に忌まわしき呪いをかけた彼女との因果もまだ断ち切れてはいない。
「守りたい人たちだって居るんや。だからぁ―――ァ」
 涼香は叫ぶ、その力の名前を。


 その憎しみを昇華したくば、我を呼べ―――


 何時だって呼んでいる。その力の名前を。
 この道がどこに繋がっているかなんてそんなのは知らない。
 だけどその道を歩む過程で、守れる命があるから、その先にあるモノだって、何とか信じられる。
 血生臭い自分が嫌いだからこそ、だからそれを振るい続けられるのだ、涼香は。
「紅蓮」
 ―――それがその力の名前。
 どくん、とコンテナ内の空気が震えて、そしてそれは次元を飛び越えて、涼香の目の前に現れる。
 鞘を左手に持ち、剣を腰に引き寄せて、右半身の姿勢。
 その涼香に斬りかかる執事。
「何を生意気な、小娘がぁ――――ァッ」
 打ち出される剣の一撃を見切ると同時に、居合い一閃。
 真紅の刃が打ち出したその剣撃は執事の剣を叩き折って、彼の身体に吸い込まれた。
 激しい鮮血を噴き上げて、そいつは衝撃に後方に舞った。
 床でバウンドして、そしてぴくりとも動かない。かろうじて生きているようだ。
 それが涼香の腕だった。



 +++


「爺」
 彼は歩いていく。自分を殺そうとした者の所へ。
 そして哀しげな瞳で血黙りの中に沈む老人を見下ろした。
 涙に顔を濡らしながら何かを言おうとしたその瞬間、だけど再び闇が悲鳴をあげた。
 船内の壁を打ち破って、現れたそれはあの真祖の吸血鬼。
 手にミイラ化した鮫を持って飛び込んできたそれの身体は未だ再生途中。
 だが早い。
 完全にふいを突かれた涼香たちはそれを許してしまった。
 吸血鬼は彼を目指す。
 固まる彼。
 繰り出される拳。
 だがそれが貫いたのは突然男の子の前に陣取った執事だった。
「やれやれ。私はいつの間にか………」
 それが最後。
「じぃぃぃぃぃ――――――」
 悲鳴があがり、吸血鬼は執事の血を嚥下し、そして復讐に狂うそれは襲い掛かってくる。完全に再生した身体で。
 だが―――
「ちぃぃぃ。あんたはぁー」
 涼香の一閃が胴を薙いだ。
「なにぃぃぃぃ?」
「許されざるべきあなたは、もはや完全に死になさい」
 操の放つ二振りの刀の剣風は彼の両手を落とし、
「さようなら」
 悠姫は今度こそその命を奪わんと銃口を額に照準して、トリガーを弾いた。
 ガゥン。
 死の堕天使が泣いた。命、散る者のために。



【ラスト】


 船は無事に港に到着し、【白神】の術者たちが船内に入っていき、今回の被害者たちの手当てにとりかかった。記憶操作によってきっと彼らは今日の悪夢は忘れるだろう。それがせめてもの彼らにとっての救いか。
 涼香は港のロープを結ぶそれに腰を下ろして、朝日が昇っていくのを見つめていた。長い夜だった、本当に。
 そしてその彼女の前に彼が立つ。
 もう泣いてはいなかった。そしてその子どもの顔は、少しだけ成長したようだった。
「涼香、ありがとう。本当に」
「涼香さん。ありがとうございました、やろう?」
 涼香は笑いながら訂正し、そして彼は肩を竦める。
 それから彼はまた微笑んで、その表情に涼香は不覚にもどぎまぎして、そうして彼は頭を下げて、帰っていった。
 悠姫と操がやってくる。にこにこと笑って。
 そんな二人を見て、涼香は唇を尖らせる。
「うちはショタコンやないよ」
「はいはい。わかっているわよ」
「はい。わかっていますよ」
 ますます唇を尖らせる涼香。笑う二人。
 朝の陽光はそんな三人を優しく照らし出し、そして涼香は両腕を悠姫に絡ませる。
「それよりも約束。奢り。忘れとらへんよね、悠姫」
 悠姫はちょっと引き攣った表情を浮かべて、そして操はくすくすと笑って、涼香と同じように悠姫に両腕を絡めた。
 両手に華。悠姫は肩を竦め、そうして有名ホテルの名前を口にして、そこでのモーニングを提案した。涼香は美味しいお好み焼き屋の名前を口にして、そこでのお昼を提案し、操が口にしたのは『涼屋』の名前。そこで夕食を提案。
 今日一日女三人での食べ歩きを計画して、楽しげに笑いあった。
 明るい朝日が照らすそこで、潮風に髪を遊ばせながら。


 ― fin ―




 ++ ライターより ++


 こんにちは、友峨谷・涼香さま。
 こんにちは、風間・悠姫さま。
 こんには、水上・操さま。
 このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。


 今回はご依頼、本当にありがとうございました。
 いかがでしたでしょうか? 『ナイトクルーズは朱に染まる』は。
 もしもお気に召していただけていましたら幸いです。^^
 あ、ちなみに第二ブリッジを制圧して船を止めたのはメイドさんです。^^


 友峨谷・涼香さま。
 いつもありがとうございます。
 紅蓮とのやり取りは涼香さんを書かせていただける時の楽しみの一つです。^^
 男の子とのやり取りや、最後の執事との戦いは書いていてすごく楽しかったです。
 それと悠姫さんとのやり取りも。^^ 
 最後の港でのシーン、成長した子どもの姿にほんの少しだけ、どきりとしてしまったようですが、そういう涼香さんの顔を書けたのもまた本当に嬉しかったです。^^


 風間・悠姫さま。
 いつもありがとうございます。
 今回は悠姫さんを任せていただけて本当に嬉しかったです。
 いかがでしたでしょうか? ちょっと、涼香さんとのやり取りはPLさまのイメージを崩していないか、心配だったりします。;
 吸血鬼のハーフとの事で、悠姫さんには真祖の吸血鬼の相手をしていただきました。それ故に戦闘は苛烈な物となったのですが、書いていて本当にすごく楽しかったですし、悠姫さんの過去の一端や、それに吸血シーンなんかも書けて良かったと想いました。^^ 


 水上・操さま。
 はじめまして。
 いかがでしたでしょうか?
 ちょっと中盤から大ピンチで酷い事になってしまって、すみませんでした。
 でもその分、鬼の血の事や、絆などを演出したシーンなんかが書けて、すごく楽しかったです。PLさま的にはイメージはいかがでしたでしょうか。大丈夫でしたか?^^
 あと【前鬼】や【後鬼】、この二振りの刀もすごくツボで、最後のブレスレットとなって輝いた、という所はお気に入りだったりします。^^



 それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
 ご依頼、本当にありがとうございました。
 失礼します。

PCシチュエーションノベル(グループ3) -
草摩一護 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年07月22日

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