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『混沌の拡散者 -Spreader- 』
パメラ2873

 パメラは、つい先日得たばかりの情報を手に、とある企業へとやってきていた。
 リーザ・カンパニーと言う名のそこは、各軍に武具や魔導兵器、聖獣装具を販売し、巨万の富を得ている中立軍事企業だ。
 パメラがここにきた理由はひとつ。彼女の目的であるオペレーション・ケイオスの円滑な進行のためだった。
 いくらパメラが優秀であっても、ひとりでできることなどたかが知れている。いや……優秀だからこそ、いかに他者を利用するかを考えるのだ。
「いらっしゃいませ。ご用件はなんでしょうか?」
 受付の女性に、社長との約束があると告げると、どうやらその予定はすでに受付嬢も聞いていたらしい。すんなりと応接室まで通してくれた。
 巨万の富を得ているだけあって、応接室は立派なものだった。高価な家具にソファー、貴重な芸術品。ここにあるものだけでも、一般家庭が数年は裕福に暮らしていける金額になる。
「お待たせしてごめんなさいね」
 応接室に通されてから数分ほどして、ひとりの女性が部屋へと入ってきた。
 きつい目元に、口紅であかく彩られた唇。微笑むその表情は柔らかだったが、見る者が見ればその奥には、鋭く光る刃のような瞳が見えた。
「あたしの力で御社に協力したい」
「ええ、聞いているわ。万物を創る力があるそうですね」
 ふわり――と。女社長は静かに口の端を上げて頷く。
「まずは貴方の力を見せてもらえるかしら? 話はそれからだわ」
「ああ、構わない」
 言うが早いか、部屋のあちこちに巨大な槍が生まれた。
 ……そのどれもが高密度で精密。光を受けて煌く姿は、名工の研いだ武具にも劣らぬものにも見える。
「これでどうだ?」
 あまりの量に半ば茫然としていた女社長は、パメラの声にハッと我にかえった。
「素晴らしいわ!」
 ずっと部屋の入口付近で立ったままだった女社長は、ここにきてやっとパメラの正面へと腰掛けた。
「我が社は、争いの早期終結のために努力してきたけれど、なかなかそれは実現されませんでした。貴方の力を化していただければ――」
「それで? あたしは何を創ればいい?」
――大嘘つきが……。
 内心の思いを口にせぬまま、女社長の言葉を遮って、パメラは淡々と告げる。
 どうやったって争いの終結を望むようには見えないリーザ・カンパニーの動きはパメラにとってはどうでも良いことだ。
 手段を選ばず争いの終結を望むのならば、戦力バランスを崩してやればいい。中立なんてかたちを取らず、どちらかだけに協力すれば良いのだ。
「そうね……ついて来てくださいな」
 言って立ちあがった女社長に続いて、ビルの中を下へと向かう。
 女社長が案内した先は、リーザ・カンパニーのヴィジョン使いが使用している魔法陣室であった。
「聖獣装具の原型を作って欲しいのだけど……頼めるかしら?」
「わかった。報酬は?」
 どこまでも無表情なパメラに何を思うふうでもなく、女社長はにこりと柔和に微笑んだ。
「あなたが作った聖獣装具の原型は、我が社の優秀なヴィジョン使い達に送ります。お客様に長く使って頂く品ですから、安全性には細心の注意を払っていただく必要があります」
「心配は必要ない。あたしの術の安定性は極めて高い」
「自信がおありですのね。ですが、やはり実物を見るまではその価値はわかりませんわ」
「……つまり?」
 つまらない値段交渉などする気はない――安く見るんじゃない、と。牽制を込めて向けた鋭い視線を、女社長は見事なまでの微笑で受けとめて、告げる。
「報酬は出来次第ということでお願いします。もちろん、質がよければそれだけ金額は上乗せします」
「いいだろう。ただし、あたしは高いぞ?」
「ええ。それはもちろん、承知しております」
 チラと威圧を込めた瞳で女社長を一度睨んで、それからパメラは、創成術を開始する。
 指定された形、性質。それを寸分違わず――いや、指定以上に精密に丁寧に創りあげる。
 依頼されたものは決して少なくはなかった。
 けれどその全てを完璧に。しかも素早く。
 パメラは、あっという間に創り上げてしまったのだ。
「まあ、素晴らしいです!」
 瞳を輝かせる女社長に一瞥をくれてやると、女社長は上機嫌で笑みを返した。
「これだけの品なら、800万は出せますわ。これでどうでしょう?」
「いいだろう」
 告げたパメラに、女社長の艶やかな笑みが向けられる。
「良い取引相手と会えました。次も楽しみにしています」
「任せてもらおう」
 告げて金を受け取ると、パメラはそれ以上何も言うことはなく、リーザ・カンパニーをあとにした。
 とりあえずこれで、また、戦は長引くだろう。
 賑やかな街並を歩きながらパメラはひとり、静かな思考の中にいた。
 誰にも見えぬ胸の奥でだけ、嘲った。

――あの女も、あたしと同じ混沌の拡散を望む者……利用できる……。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
日向葵 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2005年07月21日

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