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『必ず、殺す技 -Arts- 』
ノエミ・ファレール2829

街に着いた瞬間、慈しみに満ちた歌声と澄んだ音が耳に届き、ノエミは思わず足を止める。
天から降り注ぐ慈雨の如く、乾ききった心に染み入ってくる歌声。
豊かな自然に抱かれた湖畔の街にふさわしいそれにノエミは引き寄せられるかのように街路地を歩いていくと、広場の中心にある天使像の元で、子供達に囲まれ、竪琴を弾く淡い翠の瞳をもつ吟遊詩人の姿を見つけた。
意識したわけではなかった。
ふいに顔を上げた相手と何気なく見つめていたノエミの視線が絡み合う。
「旅の方ですか?お嬢さん。」
集まっていた子供達に2〜3言葉をかわすと、穏やかな笑みを浮かべて吟遊詩人は親しげに声をかける。
警戒心を解かせるその微笑にノエミはええ、と微笑み返すが、目に見えない緊迫感を感じ取り、自然と柄に手が掛かっていた。
「この街は初めてかな?どこから来られた?」
「ノエミ・ファレールと申します。修行中の身ではありますが騎士の端くれにある者です。」
その笑みとは違い、疑心に満ちた矢継ぎ早な問いかけにノエミは言葉を選びながら慎重に応じる。
沈黙。そして吟遊詩人の口元に笑みが零れ、何かの合図なのか片手を挙げた。
すると、街の男達が武器を手に吟遊詩人の背後に集まり、ノエミの表情に緊張が走る。
「無礼を許して欲しい、騎士殿。事情があって試させていただきました。」
主犯格である吟遊詩人は優雅な仕草ではあるが、偽りなき真摯な態度で頭を垂れ、ノエミに非礼を詫びた。
「私はカレン。この街を支援するため聖都から来ました。」
「聖都から?」
困惑するノエミに吟遊詩人―カレンはうなずいた。

「この街は土地柄からか、とても寛容でしてね。難民となった人々に手を差し伸べているのです。」
「アセシナートの難民に、ですか?」
ノエミの問いかけに小さくうなずくカレン。
アセシナート公国の迫害に耐え切れず、国外で逃れた民は数え切れない。が、その多くは迫害を受け、安住の地を求め、放浪の日々を送っている。
彼らにとってこの街は手を差し伸べてくれる数少ない街の一つなのだ、と。
「誰もが平穏に・・・平和に暮らしたい。アセシナート人も、平和を願う心は同じはずさ。なのにアセシナート人というだけで迫害するものが後を絶たない。」
悲しげに瞳を曇らせるカレンにノエミはかけるべき言葉がなかった。
ただ平穏に暮らして生きたい。
誰もが願うことなのに、争いは絶えない。
旅の途中、難民が迫害される光景を目にしてきただけにノエミの胸が痛んだ。
「この街も全てがうまくいっているわけじゃない。最近、『パトリオット』がここを襲撃するって言う噂があってね。だから貴女を試させてもらったんだ。」
「襲撃なんて……そのパトリオットと言うのは一体」
なんなのですか、という問いは切り裂くような悲鳴と怒号によってかき消された。

駆けつけた彼女達が目にしたものは一方的な殺戮。
血に飢えた目をした男達が斧を振りかざし、女子供、老人も関係なしに逃げ惑うアセシナート難民達に次々と斬り捨てていく。
家族を、仲間を守ろうとわが身を盾にしながらかばうアセシナートの男達を無慈悲な刃が襲い、血で大地が紅に染め上げられる。
呆然となるノエミの手を引き、細い路地へと逃げ込みながらカレンが冷静に口を開いた。
「彼らが『パトリオット』。聖都の……極端な聖獣王崇拝の右翼集団で、アセシナート人排除を掲げている……おそらく、ここの難民達を皆殺しにするつもりだ。」
告げられた言葉の意味にノエミは絶句した。
アセシナート人だ、というだけで殺す?
そんなことが不条理な事が許されていいのだろうか。
飛び交う怒号と叫びがノエミの裡に怒りを呼び起こす。
無抵抗な―しかも、幼い子供まで―アセシナートの難民達を斬り捨てるパトリオットの兵達。
一体何の権利があって彼らの命を奪うのだろう、という純粋な怒り。
だが、同時に複雑なものが胸の中で渦巻く。
自分達が生きるために異世界に混沌を撒き散らすという侵略。
ここで今起こっている混乱も自国・イングガルドに住まう魔族にとっては最高の糧。
パトリオットと自分達。そこに一体、どれほどの違いがあるというのだろうか?
変わりはないのだ、彼らと自分達は……
それでも、とノエミは顔を上げる。
今、目の前で起こっていることを見逃すことはできなかった。
「カレンさん、難民の避難をお願いします。」
「どうするつもり?」
決意に満ちたノエミの硬い声にカレンは足を止め、彼女を見返す。
握っていた手が自然と離れ、ノエミはすらりと剣を抜く。
「彼らを…倒します。」
「…戦いは、生か死か。覚悟はできているのかい?」
騎士とはいえ、あれだけの兵達を相手に戦うことができるのか。
ゲームとは違う。負けることはすなわち、死なのだ。
まだ少女の域を出ていない彼女にそれだけの覚悟があるか。
その全てを込めたカレンの問いかけにノエミは瞳に深い色をにじませて微笑んだ。
「敵を倒すことに…ためらいはありません。…それに私には、敵を必ず倒し生き延びるための『切り札』があります。」 
決然と言い放たれた言葉に静かに微笑むとカレンは黙ってノエミに道を開けた。

避難所である教会に通じる細い路地を幼い子を胸に抱いて逃げる少女をパトリオットの兵達が狂気に満ちた薄笑いを浮かべて追い詰める。
許しを請う少女の柔らかな長い髪を兵の一人が乱暴に掴み、縄のように引きずりあげた。
「覚悟しなっ!アセシナート人。聖獣王の御為に!!」
血に染まった凶刃が振り下ろされ、少女は泣きじゃくる幼子を庇い、襲い来るだろう痛みを予期し、きつく目を閉じた。
響き渡る鋭い金属音。続いて、どうと何かが倒れたのに気づき、恐る恐る顔を上げた少女の瞳に飛び込んだのは白銀の鎧に身を固めた騎士―ノエミの姿。
「早く逃げなさい。」
凛とした声に励まされ、少女はノエミに頭を下げると、教会へと再び駆け出す。
その姿を見送ると、ノエミは仲間を倒されていきり立つパトリオットの兵達と対峙する。
「なんだっ、貴様は!!アセシナートに味方する気か?!」
「なに相手は女一人だ……殺ってしまえ!!」
「聖獣王の御為に!!」
血走った目をした兵達は口々に叫びながら襲い掛かる。
迫り来る敵を前にノエミは不思議なほど冷静にその動きを読み、攻撃を受け流し、力ある言葉を解き放つ。
「インサニティ・ボルト!!」
漆黒に染まった雷が兵達の身体を貫き、倒れ伏す。
すさまじい魔法の威力に残った兵達は一瞬攻撃を躊躇する。が、戦いにおいて迷いは命取りにつながることを彼らは忘れていた。
つかさずノエミは剣を振るい、兵達を斬り伏せていく。
何とか体勢を立て直し、襲い掛かる兵達の斧をシュヴーアで受け止め、弾き返すと同時に斬り込む。
相手を倒し、無防備になった背後から襲う兵の刃をかわすとノエミは振り向きざまにインサニティ・ボルトを唱える。
爆音と共に正気を失った数人の兵が斬り倒され、生き残った兵達は恐怖をにじませる。
「ば……ばかなっ!!たった一人に一個部隊が全滅だと!?」
「な、何者なんだ?こいつは!!」
ゆっくりと近づくノエミの姿に兵達はじりじりと後退する。
もはや彼らに戦う意思は残っていないのは明白だった。
おとなしく投降するよう呼びかけようとしたその時、風切り音を立て、鮮血に染まった戦斧がノエミに向かって投げつけられる。
(避けきれない!)
とっさにノエミはシュヴーアで受け流す.
鈍い痺れが腕を走り、弾き返した戦斧は意思をもった生き物のようにくるくると回転しながら、一人の男の元に向かってく。
微動だにせずそれの柄を掴むと、男は好戦的な目で身構えるノエミを見据えた。
「やるじゃねーか、小娘。いい腕だ…が、アセシナートなんぞに味方するとはいただけないな。」
轟然と胸を張る男にノエミは答えず、睨み返す。
「俺はこのパトリオットを束ねる者だ。偉大なる聖獣王の御為、アセシナート人を排除という崇高な使命の…」
「罪もない人々の命を奪っておいて何が崇高と言うんです!!アセシナート人であろうとなかろうと、貴方達に命を奪う権利なんてありません!!」
あまりに身勝手な首魁の言葉にノエミは怒りを爆発させ、斬りかかった。
小さく舌を打ち、首魁はノエミとの距離をとると、戦斧を投げる。
ブーメランのように攻撃する首魁の技を見抜いたノエミはシュヴーアで弾くと同時に、一気に間合いを詰める。
唸りをあげて戻ってくる戦斧を掴み、応戦しようとした首魁だったが間に合わなかった。
「ミラー・スマッシュ!」
反射魔法のかけられたシュヴーアで思い切り叩きつけられ、戦斧どころか首魁の身体は空中に吹っ飛ばされ、隙を与えず、ノエミは詠唱を完成させた。
「シャイニング・ディザスター!!」
しゃむに振られる首魁の戦斧はノエミの身体をかすりしないどころか、攻撃自体が全く届かず、雷光を纏った刃が無数の閃光となって切り裂く。
重力を無視したような身軽さで着地したノエミが剣を収めた小さな音が響いた後、全身に火傷と切り傷を負った首魁が大地に落ちた。
瞬く間の連続攻撃と圧倒的な強さにパトリオットの兵達は呆然と立ち尽くす。
やがて馬の嘶きと共に完全武装した新たな兵士達―聖都軍がなだれ込むように現れた。

聖都軍に次々と連行されていくパトリオット兵達を横目に、カレンは荒く肩で息をつくノエミを見つけ、安堵し―その顔を強張らせる。
彼女の足元に倒れ、聖都軍の兵士の検分を受けているものがパトリオットの首魁だと知り、言葉を失った。
炭化した鋭い切り傷。
ここに来るまでの間に倒された兵士達に付けられたものと全く同じもの。
ノエミの強さをまざまざと見せ付けられ、カレンはただ驚くしかなかった。
「カレンさん…ご無事でしたか。」
「貴女のお陰ですよ。被害は最小限で防げました。街の者に代わってお礼させていただきます。」
街を守れたというのにノエミの表情はどこか影を帯び、暗い。
不信に思ったカレンが声をかけるよりも先にノエミは口を開いた。
「私は……正しかったのでしょうか?」
「え?」
何を聞かれたのかと戸惑うカレンにノエミの心は重い。
確かに街を、アセシナートの難民を守ることはできたが、その代償がパトリオット兵達の死。
果たして本当に正しかったのだろうか?
誰かを守るために誰かの命を奪った自分の行為は。
苦悩するノエミの心情を察してか、カレンはゆっくりと言葉を紡いだ。
「死を肯定する気はないよ。…でも、大切なものを守るために戦わなければならない時はあると思う。」
その穏やかな声にノエミは顔を上げ、彼女の顔を見つめる。
咎めるでもなく慰めるでもなくカレンは淡々と話す。
ただそれだけのことなのに、心が平静を取り戻していく。
「貴女が戦ったことでパトリオット兵の命を失ったが、難民だけでなく、この街の人々も救われたんだ。それだけは受け止めて欲しい。」
絶対に正しいとは言えない。
それでも、守れたものがあるのは確かなのだ、と。
互いの無事を喜び合うアセシナートの難民達の笑顔にノエミは少しだけ心が晴れていくのを感じた。



PCシチュエーションノベル(シングル) -
緒方 智 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2005年07月21日

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