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『初夏の暑い日に…… 』
和泉・大和5123)&御崎・綾香(5124)

 六月の終わりにもなると、気温はかなり高くなってきた。
 今年は梅雨が遅いのか、それとも来なかったのか………雨もほとんど降らなかったため、朝晩問わずに蒸し暑い日が続いている。
 そんな中でのプール開きは、休みは好きでも暑いのが嫌いな学生達にとって、それこそ神の助けに等しかった………




「でだな、俺の友人が、授業中にコソコソと小声でスクール水着の素晴らしさを語り出してさ。注意されたのは良いんだが、俺まで巻き添えを食ってしまってな」
「そうなのか」
「ああ。女子生徒に白い目で見られるわ、他の男達には笑われるわで大変だった………」
「ご苦労だったな。だがそうか。明日からプール開きだったな」

 隣で歩きながら、思い出したかのように呟く御崎 綾香を見て、和泉 大和は意外そうに綾香に訊いた。

「知らなかったのか?」
「あまり意識していなかっただけだ。確かに暑いが、そんなにプールを喜ぶほどではない」

 綾香はそう言いながら、涼しげに歩いていく。その隣の大和は

「そうか?こんなに暑かったら、プール開きはありがたいだろ………ここ最近、昼は30度を下回ってないしな」
「そうだな。家でお祖母様も、「着物は暑すぎる」と言って夏服を探していた」
「………あの人、倒れたりしないのか?あの格好で」
「夏用の着物は涼しいんだ。何も年中あの格好ではないぞ?」
「なら、Tシャツとか着るか?」
「いや、それは見たこと無いが………」

 取り留めもない話をしながら、二人して並んで歩いていく。もう、一緒に並んでいても自然に話が出来るようになった二人は、高校であったことや家族のことを遠慮無く話し合って笑っている。
 最初の頃の二人は、部外者から見ると違和感だらけだったが、今ではむしろ、この状態が自然に見えるようになっていた。

「む?」
「どうかしたのか?」

 大和は足を止めた綾香の横を通り過ぎて気が付き、怪訝そうな表情で振り返った。
 話をしながら歩いていて、足下への注意が散漫になっていたのだろう。綾香は、ポイ捨てされていた雑誌を蹴飛ばしてしまい、足を止めたのだった。

「ただのゴミだ。全く、すぐ近くにゴミ箱まであるというのに……」

 綾香はポイ捨てに憤慨しつつ、雑誌をゴミ箱へ捨てるために手を伸ばした。綾香の手が雑誌に触れるかどうかと言うところで、夏の強い風が勢いよく吹き抜けた。
 長い髪が顔に掛かるが、すぐに振り払う。やれやれと思いながらもう一度手を伸ばして……

「あ………」
「ッつ、何でこんな物を!」

 風で開いた雑誌を、大和はガバッと手にとって、すぐ近くにあったゴミ箱に投げ捨てた。乱暴に捨てられた雑誌はガチャンと音を立ててゴミ箱を揺らす。
 綾香は雑誌の中身を見た瞬間から体が固まり、硬直状態になっていたが、そのゴミ箱の揺れる音を聞いてハッと我に返った。
 そして、一瞬前に眼前で公開されていた光景を思い出す。

(!!!!????)
「おい御崎!おい!?」

 また硬直した綾香に、大和が声を少しだけ大きくして呼びかけた。その声を聞いて、綾香は再び我に返る。

「あっ……」

 顔を赤くする綾香を見て気まずくなったのか、大和も頬を掻きながらそっぽを向いた。
 綾香と大和の見てしまった雑誌には……その…………ちょっと未成年は御法度な写真やら何やらが大きく載っていたのである。
 二人とも知識がない訳ではないが、それでも二人きりの時にそんな物を見てしまうと、どうしても意識がそっちへと行ってしまう。
 二人の間の空気が重くなる。
 意識してしまうのは不可抗力だ。どうしようもない。
 二人はしばらくの間そのままでジッとしていたが、しばらくしてから「帰るぞ」、と言う大和の声を合図にし、先ほどよりも少しだけ距離を開けて歩き出した………







「はぁ〜、眼福眼福。どうよ旦那。お眼鏡にかなう女子はおりますかね?」
「お前の番だぞ。行ってこい」
「え?ちょ、待!?」

 大和にニヤニヤ笑いながら話しかけてきた同級生をプールの中に蹴り落として、大和はチラッとだけ女子達の方を盗み見た。
 女子達は全員スクール水着で、自分の泳ぐ順番が来るまでの待ち時間を、友人達と談笑して過ごしている。その中で不思議と違和感なく一人でいる綾香は、大和と目があって素早く目を反らした。
 大和も綾香とほぼ同時に、視線をプールへと移す。
 昨日からと言うもの、どうしてもお互い『何か』を意識してしまい、まともに目を合わせることも出来ない。最低限挨拶はしているが、周りで傍観していた者から見ると、ギクシャクしているのがバレバレである。
 だが何と言うか、噂の『高嶺の花』と『昼行灯』では長続きしないとでも思っていたのか、同級生達は特に突っ込みを入れるようなこともせずに観察するだけで止めていた。

(まずいな、どうもこれは………)

 このギクシャクした空気をいつまでも続けるのは良いことではないと感じた大和は、どうにかならないかと一考する。その隙をついて、先ほど蹴り落とした同級生が、大和の背後に回って抱きついてきた。

「引っ付くな。蒸し暑い」
「そう言うなって。で?誰目当て?ん?お兄さんに暴露しなさい!」
「しつこいぞ」
「ん〜、そういう風に答えるか……まぁ良いけど、でもな……」
「でも?」
「お前の番だ、行ってこい」

 大和が何か答える前に同級生の蹴りが炸裂し、大和は内心で悪態を付きながら水の中へと飛び込んでいった………





(何をやっているんだか………)

 綾香はプールの中へ蹴り落とされても、そのまま何事もなかったかのように泳いでいる大和を眺めながら、綾香は溜息をついた。
 チラチラと大和の方へと視線がいつの間にか向いてしまうことに、周りの同級生には気が付かれていないと思うのだが、大和には気が付かれてしまったようだ。
 視線があったときに、思わず目を反らしてしまった。大和も気になるのか、今日だけでも何回視線が交差したことか………

(いつまでも、こうしている訳にも行かないな………)

 昨日のは事故なのだし、あんな事で一々狼狽えている訳にも行かない。よくよく考えてみると、あれはあんな物をあんな場所に放置した愚か者が悪いのだ。それで大和との関係が遠くなっているのはおかしいと思える。
 綾香はスクッと立ち上がり、プールサイドを歩いて、順番待ちをしている列に並ぶ。
 早いうちに順番が来た。飛び込む体勢に入り、チラッとだけ男子側のプールサイドを盗み見る。
 幸い、大和は持ってきていたタオルで頭を拭いていたため、こちらが見ているのには気が付いていない。

(今日帰るとき、謝っておこう)

 そう心中で呟き、綾香は大和よりも早く泳ごうと、勢いを付けて飛び出した……







 その日の帰り道、大和と綾香は、お互いに意識し合いながらも、結局いつものように下校を共にした。もはや日課、生活の一部になりかけているのか、自然とどちらかが待つようになってしまっているのだ。
 だが二人の間には微妙に距離が開いていた。お互い何も言うこともなく、気まずい空気を漂わせて歩を進めていく。

(いかんな、今日中に、いつもの空気に戻すつもりだったんだが……)
(……………話し掛け辛い)

 二人して、悶々としながら歩いていく。しばらくの間そんな時間が過ぎていったが、不意に大和の方が「ん〜〜〜」と唸りだし………

「あのさ御崎」
「な、なんだ?」
「いや、その……今日の体育の時、覗き見していたみたいで、すまないな。そんなつもりはないんだが、どうも目が御崎の方へ向いちまって」

 頬をポリポリと掻きながら、綾香に顔を向けずに、大和は照れくさそうに言った。
 綾香は少しだけキョトンとしてから、すぐに元の雰囲気に戻り、「私の方こそすまないな」と返してきた。

「私の方も、どうしても和泉の方を見てしまってな。気が付いていただろ?」
「そりゃあな。……お互いチラチラ盗み見ばかりしてたのか」
「朝からな。御陰で何回目が合って反らしてを繰り返したことか………」

 可笑しくなったのか、綾香が口元を緩ませて「フッ」と笑った。大和も後頭部を掻きながら「そう言えば、何回も繰り返してたような………」と呟いて苦笑する。
 完全に元の通りとは行かないが、それでも空気が重くなったりはせず、だんだんと普段の調子を取り戻して話し始めた。
 しばらくそうして歩いていると、昨日の事件現場へと到着する。回収されて空になっているゴミ箱を確認してから、大和は「昨日のあれはビックリしたなぁ」と切り出した。
 言われて内容を思い出したのか、綾香は赤面して沈黙した。大和も沈黙し、しかしやがて意を決したように、そっと隣を黙々と歩いている綾香の手を取って握りしめた。
 綾香は、体が意志に関係なく、一瞬だけ震えるのを感じた。しかし振り解くようなことはせず、自分の方からも、僅かに握り替えして答えた。
 それに自信を持ったのか、大和は………

「御崎、その……俺はな!」
「あ、ああ!」

 大和が声を強くしたのにつられて、綾香も中途半端なところで答えてしまう。また気まずい空気が漂い始めるが、大和はそれが充満する前に、続きを口にしようとする。

「俺は、お前のことが…………」
「………………」

「ジーーーー………」
「カァーーーー!」

「うわっ!」
「ッ!いったい何時から居るんです!お祖母様」

 二人同時に後ろを振り返った。そこには、夏用の浴衣に着替え、白鴉のカー助を肩に乗せた綾香の祖母が立っていた。わざわざ擬音を口にして自分の存在を教えてきている辺り、明らかにわざとやっている。

「つい先程から。最後まで言ってても良いんですよ?私が許しますから」
「いえ、いえ!もう良いです」

 大和が笑いながら、慌ててブンブンと手を振った。綾香とつないでいた手は、後ろに立つ二人に気が付いた時に解かれている。
 珍しく大和の方が慌てているのが面白いのか、綾香は肩で少しだけ笑ってから、祖母の隣に移動した。大和はムッとした顔になって押し黙り、祖母の肩の上でくつろいでいるカー助を回収した。祖母の話では、夏用の着物を買いに行っているところで偶々会ったらしい。妙に気があったらしく、そのままお持ち帰りするつもりだったとか。

「一応俺が飼ってるんで、連れて帰りますね。……では、俺はこれで」
「はいはい。あ、家にはいつでも来てくださいね。遠慮の欠片もいりませんから」
「じゃあ、また明日な。綾香」
「ああ。また明日」

 綾香の答えを聞くと、大和はカー助を逃げられないように小脇に丸めて抱え込んで、「焼き鳥と唐揚げ、どっちにするかな?」等と不穏当な言葉を呟きながら小走りに走り去った。
 大和が居なくなってから、綾香は小さく溜息をついた。対して、祖母の方は上機嫌だ。

「仲が良いのね、綾香さん」
「……そう見えましたか?」
「見えましたし、聞こえましたよ。名前で呼ばれるくらいに仲が良いんでしょ?」
「え?」

 祖母に言われて、少しだけ記憶を巻き戻す。

――――「じゃあ、また明日な。“綾香”」――――

「あ………」
「ふふふっ」

 赤面する綾香。それを見て、祖母は口元に指を当てて微笑した。その目と笑みは優しく、綾香は妙な気恥ずかしさを堪えきれずに歩を早める。
 夏の日差しは、まだ始まりにもかかわらず強い。吹き抜ける風は穏やかだが力があり、どこからか涼しく、しかし暖かい空気を運んでくる。
 綾香は、自分の顔が染まっているのは、夕方の真っ赤な太陽の所為だと祖母と自分に言い聞かせ、半ば逃げるように神社への階段を駆け上がり始めた……










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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
5123 和泉・大和(いずみ・やまと) 男性 17歳 高校生
5124 御崎・綾香(みさき・あやか) 女性 17歳 高学生
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■         ライター通信          ■
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 最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。メビオス零です。
 毎度毎度ギリギリの納品で申し訳ありませんってオーバーしてますね。すみません。
 さて、第6話になって私は告白します。白状します!!

「綾香のお祖母さんが気に入ってます!!」

 以上、現場からのリポートでした……訳分かりませんな。暑さでやられ始めとる。
 今回は、最後のラストシーンで大和と綾香のキスシーンに逝こうか、それとも告白か………と悩んだんですが、名前を呼び捨てるだけに止めました。今まで『御崎』とばかり呼んでいましたからね。次は綾香の方が呼びますか。そして二人は更に親密に……
 カー助は何となくです。影が薄いんで、登場させてみました。言っておきますが、彼(?)は焼き鳥にも唐揚げにもなっていませんよ?

 では、今回もご依頼頂き、誠にありがとうございました。
 またご縁がありましたら、よろしくお願いします。(・_・)(._.)
 夏の陽射しへlet's go!!(壊れ気味)
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
メビオス零 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年06月29日

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