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『Beginning 』
御影・蓮也2276

――先が見えるというのは厄介だ

 彼は思った
 特異な力有る故に
 修行に没頭した
 しかし、何であるか分からない
 意味もなく続ける修行
 道標のない行為は
 彼の心は荒んでいった


 御影蓮也の少し過去の話である。
 御影家の跡取りは特殊な物を見る。
 人の運命を糸で“視る”のである。
 例えばAという人物が「何月何日何時何分、如何なる行動をとっても事故で死ぬ」という運命を視るのだ。
 ただ、不完全な能力のため、彼には漠然とした未来しか見えないし、常時其れが視えてしまう。その制御のためだったのか、覚醒なのか彼自身分からないまま家に伝わる修行をこなしていた。おそらく自分の運命は見えなかったらしい。
 目的、意志がなければ、幾ら修行しても無意味と言うもの。強くありたいというのは目的にならぬ。御影の剣士はそうであろう。幼い彼にこの運命を視る能力は厄介なものでしかなかった。ただ、何もかも鬱陶しいものに成り代わろうとしている。
 

「おまえ、なにかっこつけてんだ?」
 と、不良グループに絡まれ人気のないところに連れ込まれる物の、勝つのは決まって蓮也であった。
「止めておけ……俺に勝てないから」
 と、当て身で気絶させて1人だけ起こし、そう言って去る。
 しっかり、勉強はするのだがあまり頭に入らない。
 ぼんやりとした運命の糸を人の命以外にも当てはめれば簡単にカンニングも出来るのだから……。彼の性格上しないのだが。
 彼自身の素行自体悪くないのだが、不良にマークされている事や、元々人と距離を置きたがるために、怖がられており、彼には友だちが居なかった。


 そんなとき、転機は訪れようとしていた。
 彼の運命は見えないことが幸いなのか……其れは分からない。
 中3の春、クラス変えで隣になった女子が、
「おはよう、これからよろしくね」
 と、笑いかけて挨拶する。
「?……ああ、おはよう」
 愛想無く挨拶する蓮也。
――めずらしい……挨拶なんて
 しかし、彼女を“視た”ときに彼は心の中で驚いた。
――不治の病により、苦しみの死を迎えると……
 どうあがいても、彼女は死ぬと。
 しかし、彼女は、

――ずっと笑って学校生活を送っている

 どうして? と彼は思った。
「あ、御影君、また寝てる」
 笑って、彼女は声をかける。
「俺が怖くないの?」
「どうして? そんなこと聞くの?」
「俺のウワサぐらい知っているだろう……構わないでくれ」
 蓮也はそっぽを向いて訊いた。
「どうしてだろうね。御影君が、寂しい顔しているもん」
 彼女は笑っていた。

 蓮也は彼女の運命を知っているために苦しかった。
 しかし、同時に惹かれてしまった。

 最初は挨拶程度、徐々に言葉の数が増えていった。
 ぼうっと、夕焼けを観ていた蓮也に彼女が声をかける。
「もう学校終わったよ? どうしたの?」
「話があるんだ……」
「?」
「実は……俺は、人の運命を視ることが出来る……」
 と、自分の“能力”を知っている限りの分を教えた。
「そうなんだ。だからなんだ」
 少し彼女の顔が曇る。
「何故、あんたは、この先苦しんで死ぬというのに……何故、笑って居られるんだ? この先どう頑張っても……? 何故?」
「えっとね……」
 蓮也の問いに、苦笑して女生徒は俯き加減でこう言った。
「運命と闘っているの」
 と。
「……」
 蓮也は止まってしまう。
 彼女は話を続けた。
「医者にも言われたの、先は短いって。これが運命だと受け入れるしかないと思った事もある。でもね、だからって『ハイ、そうですか』って受け入れるなんて悔しいし諦めたくないから」
 彼女は、次第に笑顔から、
 今にも泣きそうな顔だった。
「精一杯生きて、運命を見返してやるんだって……。だから笑うんだ……でも、
 どんどん声が弱くなる。
「既に先が見えている御影君の前なら、泣いて良いかな……?」
 と、尋ねる
「……苦しいとき、悲しいときは泣いた方がいいよ」
 蓮也は哀しい顔をして頷いた。
 と、彼女は蓮也に抱きついて大粒の涙を流し……。
「死にたくない! 本当は死にたくないよ! わああん!」
 今まで我慢していた分、彼女は泣いた。
 蓮也は、彼女を抱きしめてあげるしかなかった。


 それからと言うもの、蓮也と彼女は親友であり、一時一時を大事に他愛のない会話や何処かに出かけ遊ぶこともあった。貴重な思い出として。そして、蓮也に今まであった空虚感を埋めていく。修行にも力が入った。
 夏休みに入る前、彼女は入院した。面会謝絶になるまで蓮也は見舞いに来ていた。
 彼女はベッドの上でも笑顔を絶やさなかった。

 半年にかけて、自分の力の在処と、変える力を修行で知った。
 認められたのか、一族の継承者に呼ばれる蓮也。
「お前が相応しい持ち手となるならば、これを託す」
 御影家伝統の双子の小太刀。
「精進しろ」
「はい……」
 未来を変えるために、自分があるのだと理解していく。
 しかし、
「大変よ! 蓮也!」
 母親が大急ぎで蓮也を呼ぶ。
「……な、なんですって?」
 蓮也は、クラスメイトのあの少女が死んだと聞かされた。

 急いで病院に向かう。
「そ、そんな……」
 死に目に会えないのはとても悲しかった。
 しかし、布をとって彼女は
 笑顔であった。
 彼女の母親は、
「この子、苦しいのに……ずっと笑って……」
 泣きながら、話してくれた。

――運命に勝ったんだな

 無意識に握り拳を作る。
 御影蓮也はこれを機に、運命を変える力を得ようと決意した。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
滝照直樹 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年06月22日

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