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『受け継がれる魂 』
葉月・政人1855)&陳・堅虎(4992)&里見・俊介(3072)


 警視庁超常現象対策本部の眠れる獅子・FZ-00が起動して、もうどれくらい経つだろうか。当初は強力すぎるエネルギーの反動や装着の感覚に大きな不安を抱えての出動が続いたが、現在のテストや実践での数値を見ても世界最新鋭のスーパーコンピュータが弾き出した適合係数とほぼ一致するまでに至った。装着者の葉月 政人は警視庁の地下格納庫でマスクを脱ぎながら、いつものように算出されたデータを専用バイク『トップストライダー』のスピーカーから聞いている。彼はほんの最近までこのオペレーターの報告を聞くたびに溜め息を漏らしていたが、今はある程度の手応えをつかんだらしく落胆するかのような素振りはまったく見せなくなった。これを装着することになった経緯が経緯だけに、自分がいつまでも不安がっていては仲間たちまで不安がらせてしまう。それに若き装着員の失踪事件も解決していない。自ら場を暗くするのはよくないと思っているのだ。しかし、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかった。今は「なんとか軌道に乗った」という確信が葉月にはある。彼はすべての装着を解除し、自然とシャワールームへ足を運んだ。
 滝に打たれる修行僧のように、ただ降ってくる水を一身に浴びる葉月。この目まぐるしく変わる状況の中でその時の最良を判断するというのはとても難しいことに思える。だが、そこは現場に慣れている葉月だからこその独特の発想が物を言う。常に決断を迫られる状況の積み重ねが彼を少しずつ大きくさせているのだ。葉月を濡らす温かな水はその強靭な身体を伝い、そして銀色の板を潜り抜けて闇に消えていく。


 今日のFZ-00の出動と前後し、対策本部では新たな変化があった。荘厳な雰囲気が同居する本部長室の中では、警視長にして超常現象対策本部長である里見 俊介が目の前に立つ若き青年にある辞令を言い渡す。対策室で働く事務員たちが脇でそれを見守る中、青年は両手でしっかりと辞令書を受け取ると子どものような笑みを浮かべるのだった。

 「ありがとうございます。これでボクも強化服装着員のひとりなんですね!」
 「そういうことだ、陳 堅虎。だが、研修ではそれなりの実績を見せてほしいところだな。現地スタッフに向けた出動から事後処理、そしてメンテナンスまでのマニュアルも制作段階だから、ゆっくりとここで実地に向けた訓練を経験するといいだろう。新規FZ-01の説明は開発担当と葉月からしっかり聞くようにな。」

 陳と呼ばれた青年は流暢な日本語で「ハイ!」と答える。彼は香港警察特殊部隊の刑事のひとりだ。このたび彼が来日したのは、新たに開発されたFZ-01の受領と研修のためである。ここまで言えば派遣の理由はおのずとわかるだろう……そう、陳の所属する香港警察が警視庁の開発したFZ-01の採用を決定したからなのだ。
 今回開発された新型強化服のベースとなったFZ-01やFZ-01Eはすでに激しい戦いを経験して破壊されており、警視庁では封印されていたFZ-00のみで今までの事件や戦いを乗り越えてきた。しかしその間も強化服の開発は着々と続けられており、孤軍奮闘する葉月の力となるべく装置の設計から新装備の開発、そしてFZ-00のメンテナンスまでこなしていたのである。そんな影の苦労が実を結んだのか、FZ-00の活躍というものは海を越えて広まった。特に都市形成の中で風水などを重要視し、霊干渉の強い土地柄に存在する大都市を警備する香港警察はこの特殊強化服なる存在に着目した。そして警視庁に打診し協議を繰り返した結果、今回の導入決定にまで漕ぎつけたのである。
 開発に携わった頬のこけた技術者が陳を部屋の手前にあるソファーに座らせ、さっそく新型強化服の説明を始めようとした。その時、本部に通じる扉が数回の音を奏でた。そして「失礼します」という声が響く……扉の向こうには出動から帰ってきた葉月が立っていた。近くにいた事務員が扉を開けると、技術者が葉月に資料の束を見せながらこっちこっちと手招きしている。とっさに状況を把握した葉月は里見に一礼し、そのままソファーに座った。そして彼が顔を上げると、陳がなんとも嬉しそうな顔をこちらに向けているではないか。年上とは思えないようなミーハー振りに少し戸惑いつつも、葉月は真剣な面持ちのまま軽く会釈する。そのまま陳は喋り出さん勢いだったが、そこは技術者が制した。もちろん陳もこんなことで気を落とすような性格ではない。身体を話し手の方に向け、気持ちをパッと切り替えた。それを見た葉月が少し驚く。

 『その場の状況を判断して冷静に対処した……なるほど、辞令を下すには十分な素質の持ち主という訳か。装着者として選ばれた理由もよくわかるな。』

 葉月は陳の動作からそんなことを感じ取った後、彼と同じく技術者の話に耳を傾けた。研修中はFZ-00に同行して実地訓練もあると聞いている。名称こそ過去の物とまったく同じだが、どんな機能が追加されたのかは経過の中でしか聞いていない葉月は手渡された資料に見入った。
 開発した強化服のベースはあくまでFZ-01であり、現在稼動しているFZ-00のような強力なデータを元にしたわけではないと前置きされた。気づけばいつの間にか里見本部長が陳の隣に座っており、詳しい経緯について話し始める。FZ-01は以前よりもパワーが劣るが、「魔都」とも揶揄される香港に対応すべく機体追従性を高めた。その結果、短時間なら霊体への接触も可能となり、武器にもその力が伝導するようになっている。通常装備のライフルやピストルの弾にもその機能が対応されており、必殺の一撃を見舞う際には最適な装置なのだ。
 ところが、ここで技術者が『ある問題』を陳に説明する。非常に便利な機能ではあるが、これを使用するとバッテリーに過剰な負担がかかってしまうという。香港での着任時になるべく多くのバッテリーパックを用意する予定だが、あまりこの機能に頼り過ぎることのないようにしてほしいとの注意があった。霊視可能なスコープを使用しての確認やバックアップスタッフの適確な指示も大きな力になることを研修で感じ取ってほしいと彼は訴える。陳は大きく頷いた。そんなやり取りを凛とした表情で静かに見守る里見本部長。

 説明が一通り終わってそろそろFZ-01の試着という時、室内にけたたましく警報が鳴り響いた。全員が顔を上げる。オペレーターのアナウンスでは『繁華街に虎の化物が暴れているとの通報があった』とのこと。里見は全員に指示を与えた。

 「葉月はFZ-00、陳はFZ-01で出動だ。スタッフは主に陳のサポートに回れ。」
 「いきなりの実践ですね。ボクは不慣れなんでよろしくお願いします。」
 「どんなことでも最初から慣れてる人なんかいないですよ。とにかく緊張しない程度にがんばって下さい。」

 そう言って葉月は陳の肩を軽く何度か叩くと、ふたり揃って地下格納庫へと走った。こうなると対策室は慌しくなる。里見も今日ばかりはとメインモニターの前に陣取り、ふたりの戦士に直接の指示を送るためのマイクの位置や画面設定などを調整し始めた。その間も敵は我が物顔で暴れ続けている……
 しばらくするとガラス越しからでもわかるくらい大きなふたつのサイレンが高層ビル街を縫うように響いた。事件のあった繁華街まではバイクを飛ばせばそれほど遠くはない。ただそれはあくまで特殊車両である『トップストライダー』のようなバイクで赴くから近いと感じるのだ。いわば現場慣れから来る錯覚である。さすがの里見もそこまでは読み切れていなかった。まさかこの後、この当たり前の事実が大きな問題を引き起こしてしまうとは……


 現場に到着したFZ-00とFZ-01が最初に目撃したのは騒ぎから逃げ惑う人々の群れだった。まずはスピーカーを使って彼らを安全な場所へと誘導することから始まる。どの方向に逃がすかはオペレーターからの指示がメインとなるので、葉月は陳に「悲鳴に混じって聞こえる本部の指示を聞き逃さないように」とアドバイスした。すでに周囲への避難勧告は終わっており、車道を走る車もまばらになっている。恐怖に脅える人々を逃がすと、いよいよ敵の姿が明らかになった。確かに両足で立つ虎の化物だ。葉月はすぐに『テクニカルインターフェース』という単語を連想したが、今日は研修生もいるので目前の敵の撃破だけを考えることに専念した。

 「敵を発見、霊的波動の反応が微弱ながら感じられますが……」
 「周囲の被害を考慮に入れるなら、一度ボクが殴ってみればいいんですよ! とぅわぁっ!!」
 「あっ……陳刑事!」

 葉月にそう言い残すと、空中で華麗に一回転して敵の目の前に立ち塞がるFZ-01。その手には武器を一切持っていない。彼は自らが習得している中国拳法の構えで戦おうとしているのだ。じりじりっと迫る強化服の男に気づいた怪物は猛々しく吠え、一気に間合いを詰める!

 「お、思ったより早いぞ。陳刑事っ!」
 「わたぁぁぁぁっ! しゃあぁぁーーーっ!!」

 石頭を前に向けて突進してくる怪物……相手が自分の間合いに入った瞬間、FZ-01は機敏な動きで身を屈めて低空の蹴りを見舞った。勢いを横から縦に向けられた虎はすさまじい勢いでしこたま顔面を打ち、かなり痛そうな素振りを見せる。葉月は自分が同じ物を装着していた時と違う動きをするFZ-01を見て、多少の違和感を持っていた。従来の性能では体術を駆使した戦い方は不可能に近かったからだ。そんな彼の疑問に里見が答える。

 『香港側の強い要望でこういう仕様になった。射撃時の照準システムも大幅に改善されているというのにな。打撃を加える際に装甲が壊れるようでは困るので、特殊加工金属を何層にも圧縮した上でコーティングしてある。葉月からすれば無茶な攻撃に見えるかもしれないが、それに耐えうるだけの性能は確保されている。さぁ、電磁警棒を持ってサポートに回ってくれ。敵の生命反応はそれほど大きくない。』
 「はい、わかりました!」

 バイクから短い棒を抜いた葉月は勢いよく振り下ろすとある程度の長さまで伸びた。これが電磁警棒である。そして自らも敵に向かって突っ込む! それをセンサーで感知したFZ-01は敵の頭を鷲づかみにして無理やり体勢を起こすと、空中でスピンして強烈な回し蹴りを見舞おうとジャンプした!

 「葉月さん、行きますよ!」
 「よし! うおおおぉぉぉぉぉーーーっ!!」

 怪物は渾身の力で振り抜かれた電磁警棒を胸に、そして強烈なキックを背中に受けると無機質な声を轟かせながら倒れた。すると虎は煙のように消え、その場には1枚の呪符に変化する……それに気づいたFZ-00は空いた方の手でそれを拾う。彼のセンサーはさっきまで怪物から感じ取っていた以上の霊波動を感知していた。

 「これは……なんだ?」
 『葉月さん、FZ-01の身体データに異』
 「うぐっ! おわぁぁぁ……………ば、バカな、敵は倒したはず!」
 「フォア……アアア!」

 葉月は激痛を背中に感じた。このタイミングで攻撃を受けるなんてあり得ない……しかし高周波単結晶ソードのように鋭い手刀が彼の背中を一閃したのは紛れもない事実である。葉月は誰がそれをしたのかはわかっていた。FZ-01を装着している陳がFZ-00に攻撃を加えてきたのだ。不測の事態に混乱する葉月をサポートすべく、里見は即座にオペレーターへ命令する。

 「FZ-01の装甲を遠隔装置で今すぐに強制排除しろ。陳に対する排除予告は必要ない。早くしろ!」
 「装甲解除!」

 オペレーターの合図でFZ-01の装甲が弾け飛んだかと思うと、中からは陳よりも大きな身体を持った虎の化物が再び現れた! だが、さっきの怪物とは存在感が違う。さっき繰り出した連携から敵の強さを推測する葉月。しかし考えれば考えるほど、自分が危機的状況に置かれていることがわかるだけで空しさすら感じてしまう。画面にはバッテリーユニットの損傷を知らせる文字が浮かんでいる。それ自体は深刻なダメージだが、短時間の活動には支障がないことが不幸中の幸いだった。

 「銃は使えない……あの身のこなしを考えるとおそらく当たらないはずだ。第一、装備を選んでいる暇もない。これしか……ないな。」
 「ウガオォォォーーー!」

 陳が変化したであろう虎は猛然とラッシュを仕掛けてくる。鋭い爪や太い脚から繰り出される攻撃は非常に重く、FZ-00の装甲の中にまで響く。バッテリーの消費をわずかに抑えようとなるべく身体を振らないように心がけるが、敵の暴力でどうしても左右に激しく揺れてしまう。その結果、露出したユニットから幾度となく放電を起こし、どんどんエネルギー残量がなくなっていく。これ以上、戦いを延ばすことはできない。
 FZ-01を装着していた陳だったが、今の攻撃はさっきまでの緻密な動作はなりを潜め、ただ力任せに猛然と身体を振るってくるだけだった。葉月はその癖を見抜き、パッと後ろに飛び退く……それはほんの数歩の距離である。虎はそんな彼を見て猛り狂い、高速のボディープレスを仕掛けてきた!

 「ブガロォォォォーーーーーーーッ!!」
 「かかった! 今だ!!」
  ドスッッ!!

 葉月はとっさの判断に賭けた。間合いを広げれば、間違いなく相手から仕掛けてくるだろうと踏んでいた。そしてそれに対する手段を経験と本能で乗り切ろうとしたのである。決して敵の攻撃が遅かったわけでも隙だらけだったわけでもない。並みの戦士なら圧殺されているはずだ。ところがFZ-00は自らの身体を潜りこませ、電磁警棒で脇腹を貫いた。それはさっきのFZ-01に似た動きである。頑丈な身体を持つ虎はそこを貫かれることはなかったが、ここに打撃を加えられればただでは済まない。しばらく唸ったかと思うと、そのまま巨体を地に転がした。適確に弱点を突いたFZ-00の技術が、虎のパワーとスピードに勝ったのだ。

 「ウガ、ウガガガ……」
 「はぁっ、はぁっ……目標を行動不能にしました。ただバッテリーの残量があとわずかなんで、早急に戻りたいと思います。」
 『葉月、気をつけろ。本部のセンサーに反応がある……!』
 「まっ、まさか!」

 誰もいない街の上に立つFZ-00に迫り来る影。まだ戦いは終わってはいない……バッテリーの残量は残りわずか。果たしてこの状況を乗り切ることができるのか?!

PCシチュエーションノベル(グループ3) -
市川智彦 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年06月21日

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