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『闇夜の邂逅 』
ジュドー・リュヴァイン1149)&エヴァーリーン(2087)




 夜の闇を駆けていく姿があった。
 金色の髪が靡いて夜空に舞う。
 前髪が揺れるたびに、整った顔についた傷が見え隠れした。
 何処までも前を行く人影を追う。
 額に浮き出た汗で張り付く髪を振り払おうともせず、ジュドー・リュヴァインは逃亡中の盗賊を追いかけていた。





 それは数日前の事。
 ジュドーがいつものように食事をとっていると、今週の賞金首が発表されたのだ。
 それだけだったら対して珍しく無い事だったが、その賞金首が現在エルザード城下町に潜伏中との話を聞き、その話題で周りは一気に盛り上がる。
 何時何処に現れるか分からない賞金首の居場所が分かっているのだから随分と簡単ではないか、と誰もが騒ぎ立てた。
 この城下町にいる間に捕まえてやろうぜ、と皆が目の色を変えている。
 ジュドーもただの賞金首だというだけだったら、興味をもたなかったかもしれない。
 しかし、盗賊捕縛依頼としてよく依頼を持ちかけてくる人物に話を振られ、ジュドーはついその依頼を受けてしまったのだ。聞いてみれば大分辺りに悪名を轟かせていた盗賊という話だ。相手にとって不足はない、とジュドーの中に闘争心が芽生える。ここ最近、強い相手との手合わせをしていないのだ。
 早く対峙したい、と期待を込めるものの、先に情報を得ておかなければならないだろう。
 ジュドーは依頼人からありったけの盗賊の情報聞き出し、自分なりに分析をする。
 しかし依頼人からはたいした情報を得る事は出来なかった。
 逃げ足だけは速い事は分かったが、それは盗賊として秀でてなければならない事項のような気がする。

「他に特記事項か何かないのか?」
「それが特に目立ったことは無いんですねぇ。これでよく賞金首にあがったもんだと思うんですが‥‥」

 期待はずれか、とジュドーは少々がっかりしたが、受けてしまった依頼を取り消すなどという事はジュドーには出来ない。

「全力を尽くそう」

 そう言って、ジュドーは依頼人と別れたのだった。





 月が辺りを照らしている。
 怪盗よろしく予告状を叩きつけたその盗賊を狙うのは、ジュドーの他に賞金に目のくらんだ者、ゲーム感覚で楽しむ者など様々だった。
 しかしその目をかいくぐり、大がかりな爆発に乗じて裏口から侵入し、お目当てのものをしっかりと頂いた盗賊。
 目隠し目的だったのか、白煙がその押し入った家の前に朦々と立ちこめた。その煙に一瞬目を奪われたジュドーだったが、目の端に映った走り去る人影に気付いた。他の者達は白煙に気を取られ、走り去る人影に気付いた者は居ない。
 そのままジュドーは一人追跡を開始した。
 追ってくるジュドーに気付いた盗賊は走る速度を上げる。
 ジュドーも負けてはいない。
 狭い路地を行く盗賊を必死に追いかけた。
 路地を駆けながら、ジュドーは視線は前を行く盗賊をしっかりと見据える。
 耳元で風が鳴っていた。
 逃走経路を練っていたのか、盗賊の足取りに迷いはない。
 ここで蒼破を抜いてもその間に盗賊に振り切られてしまうだろう。
 ジュドーはただ盗賊を追い続けるしかない。
 屋根の上などから盗賊の動きを見つつ追えれば良いのだろうが、ジュドーは軽業を得意としなかった。
 盗賊は先を行きながら、ジュドーの足を止めるべく、脇にある樽を転がしてきたり、木箱を道に蹴り飛ばし塞いだりと工作を仕掛けてくる。
 それを器用に避けながら、なおもジュドーは盗賊を追う。

 その様子を、高い場所から静かに見つめる影があった。
 月を背に立ったその影は、ジュドーと盗賊が駆けていくのを見送る。
 しかしやがてその姿が遠くなると何処かへと消えていった。

 そんな上空の人影に気付く事もなく、二人は未だに路地裏を走っていた。
 途中大通りに出たが、夜中という事もあり人通りは皆無だ。二人を阻むものはない。
 盗賊はまだ追いかけてくるジュドーをちらりと振り返る。
 これだけ走り回ってもジュドーは未だ脱落する様子はなく、ぴったりと同じ距離を付いてきていた。
 もしかしたら微妙に距離は縮まってきているかもしれない。

「大人しく捕まったらどうだ」

 そんなジュドーの声が盗賊の背後から飛ぶ。
 盗賊はその声に振り返る事もせずに必死に逃げた。せっかく盗みも成功し、これから高飛びをしようとしていたのに、こんな所で捕まってたまるかと。この際、祈りでもなんでも捧げてやろうとまで盗賊は思ったが、それはジュドーも同じだ。ジュドーとてみすみす盗賊を逃してたまるものかと速度を上げる。
 盗賊も身体を鍛えてはいたが、ジュドーの毎日の鍛錬にはほど遠いものがあった。
 ゆっくりと二人の距離は縮まっていく。
 よしっ、とジュドーは漸く見えた勝機に更に速度を上げた。
 しかしその瞬間、ジュドーは眼前に張られた煌めく何かに気づき慌てて足を止める。
 盗賊はこの隙にと、ニヤリ、と笑うと走り去っていった。

「なんだこれはっ!」

 ジュドーが舌打ちしつつ、自分の行く手を阻んだものを目を凝らして眺めてみれば、闇に煌めいていたのは鋼糸だった。
 もしこのまま突っ切ったらどうなっていたのだろうか。
 そんな事をジュドーが思っていると、ふいに上から声が振ってきた。

「悪いわね」

 慌ててジュドーは空を見上げる。
 屋根の上には黒装束の女性が静かに佇んでいた。突然の事にジュドーは呆けそうになるが、すぐに女性に向かって誰何する。

「何者だっ!」

 それと同時に、遠くで先を行った盗賊のものと思われる悲痛な叫び声が辺りに響き渡った。

「かかったようね」

 その上空から呟かれた言葉でジュドーにも何が起きたか分かる。きっとジュドーを引き留めた鋼糸で作られた罠か何かに、盗賊は見事に引っかかったのだろう。
 女性はジュドーを一瞥し告げた。

「悪いけど……あの獲物は私のもの……じゃあ、これでね……」

 そう言い残し背を向ける女性をジュドーは思わず呼び止めていた。
 何故呼び止めてしまったのだろう、とジュドーは一瞬思うが、考えるより先に口が動いてしまったのだから仕方がない。
 女性はジュドーの呼びかけに対し足を止め、くるりと振り返る。瞬間、長い髪を白い紐でグルグルと結わえ付けた髪が揺れた。
 そして、すっ、と目を細め、……あなたに名乗る理由はないけれど……、と言いつつも意外にもすんなりと名を名乗る。

「エヴァ……エヴァーリーン……覚えておく必要はないわ……」

 今度こそ、エヴァーリーンと名乗った黒装束の女性は闇に溶ける。
 身軽にあっという間に夜の闇に溶けたエヴァーリーンに感嘆の溜息を吐くジュドー。
 もう見えなくなったその姿を何時までも追いながら、ジュドーは消えていった闇を見つめた。

「エヴァーリーン………エヴァか………」

 胸に刻むように、その名を呟くジュドー。
 獲物の横取りをされたというのにも関わらず、ジュドーの胸には心地よい程の闘争心が疼き出していた。
 やっと自分の胸を躍らせるような人物に巡り会う事が出来た、と。
 この街に居ればまた出会う事があるかもしれない。
 同じ依頼を受ける事もあるだろうと。
 一度手合わせしたいものだ、とジュドーは爽やかな笑みを浮かべた。
 
 まるで闇を統べる女神と光を統べる女神の邂逅にも似て。
 相反する存在で、戦闘方法も何もかもが違う二人だったが、きっと互いに再び引かれ合う事になるだろう。
 胸の中に宿る同じ闘争心に導かれて再会するであろう戦女神達。
 別々の場所にいる二人を、空から同じ月が照らし出していた。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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聖獣界ソーン
2005年06月21日

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