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『【 人形日記・ある日の散歩編 】 』
桂山・雛5397

ある晴れた昼下がり、桂山・雛(かつらやま・ひな)は自由気ままに歩いていた。
年の頃は、14〜5歳ぐらいといったところだろうか?
露出の低いドレスに身を包み、銀色の瞳に銀色の美しい髪と白磁のような白い肌、誰もが認める美少女だ。
ちなみに自分の体よりも長い髪を地面に引きずっているが、何故かその髪は汚れたようには見られない。
顔には表情を浮かべてはいないが、その瞳は目に見えるものに対する好奇心でいっぱいだった。
「まぁ、お人形さんのような女の子ねぇ」
「あら、本当に。可愛いわぁ」
通りすがりの老婦人達が、雛を見かけて囁きあった。
当たり前である。
雛は、人形そのものなのだから――。


さて、人形である雛を見つめる1人の男がいた。
年齢にして30半ばぐらいといったところの、糸目が特徴的な男はひょろりとした長身。
そして、何年も切っていない様な長めの黒髪を後ろで一つ括りにしている。
糸目の顔を隠すように、灰色の帽子を被った男は全体的に『細い』と感じさせる男だった。
その男の視線は、ねっとりと怪しく雛の髪へと注がれている。
銀色の美しい髪に、男は思わずごくりっと喉を鳴らした。
「…あぁ…あの子にしよう…」
男はどす黒い欲望を押し隠すように、被っていた帽子を深く被りなおす。
「あの子を…僕のコレクションに加えよう…」
恍惚とした響きを持つ声が、男の口から吐き出された。


ふらふらと目指す目的地がないように歩く雛に、いきなり帽子を深く被った見知らぬ男が声をかけてきた。
「やぁ、お嬢さん」
付喪神として生まれて間もない雛は、何に対しても興味を持ってしまう。
なので、いきなり見知らぬ男に話しかけられたとしても警戒心の欠片もなく男の話を聞いてしまうのも、仕方がない事だった。
「…あなたは…?」
「あぁ、いきなりすまないね。 あまりにも美しい髪だったから、つい呼び止めてしまった」
ペラペラと男は雛に喋りかける。
淀みのない喋り方は、聞くものに対して好印象を与えるものであり、警戒心を薄れさせていく。
まぁ、元々雛はこの男に対して警戒心を持ってはいないのだが――。
「…ありがとう…」
美しい髪と聞いて、雛は微かに笑みを浮かべながら上機嫌になった。
雛にとって、この髪は自慢の髪なのだ。
「――そうだ。おじさんは人形師をやっていてね。 興味があるなら、おじさんが色々な人形を見せてあげよう」
「…人形……?」
同じ人形である雛は、男の言葉に興味を持った。
自分のほかにどんな姿の人形がいるのか、この人形師をやっているという男がどんな人形を作るのか――。
疑問と興味が、どんどんと心の中で膨らんだ。
「どうだい? 行くかい?」
「……」
雛が静かに頷くと、男が嬉しさを前面に押し出すような満面の笑みを浮かべた。
「良かった、おじさんの家はコッチだよ。 さぁ、おいで――」
雛は手招きする男に連れられるまま、歩いていく。
その足取りには、やはり警戒心の欠片さえ持ち合わせていなかった。


「ほら、おじさんの家は此処だよ」
男に案内された先は、平均的家屋よりもかなり大きめの家だった。
「遠慮しないでいいよ。 どうぞ、中へお入り」
「…お邪魔します…」
男に手招きされるまま、家の中に入り込む雛。
完全に入りきるのを確認してから、男は素早く玄関の鍵を閉めた。
「こっちにおいで、人形を見せてあげよう」
物珍しそうに家の所々に視線を移している雛に、男は妖しく笑って雛の腕を取った。
「こっちだよ、こっち――」
ずんずんと歩いていく男。
歩幅の違いがあるせいか、雛は腕を引かれるままに小走りで男の後をついていった。
男が浮かべる、あの妖しい笑みの意味を知らずに――。


「……これは……」
「どうだい、美しいだろう?」
腕を引かれてたどり着いたのは、3階にある広々とした部屋だった。
大きな棚が並び、人形独特の硬質的な匂いが篭っていた。
棚の上には、ずらりと人形が置かれ、部屋の中を見回すといたるところに置いてある人形達と必ず目が合う。
そして、雛は気づく。
並べられた人形は、全て髪が腰に届こうというほどの長い髪だということに――。
「…全員…」
「ん? なんだい?」
「髪が…長いんですね…」
何気なしに呟いた雛の言葉に、男はニンマリと笑った。
――狂気に満ちた笑顔だった。
「あぁ、勿論さ。 髪は女性の命! 女性の髪こそが、世界で一番美しいものなんだよ!」
狂気を含む声で、男は言い放つ。
「そう、だから、僕は――君の髪が欲しいんだ」
熱っぽく雛を見つめ、うっとりと呟きながら徐に雛へと手を伸ばす。
『 汝、人形であれ 』
不思議な音色を帯びた声が、雛の頭の中を揺らした。
「………」
(えーっと…これは…?)
頭の中を揺らしただけで、雛の体には何の変化も訪れない。
ただ、今の言葉からするに、この男は雛を人形にしようとしたらしい。
(…元から私は人形なのに…無意味な事を…。 …でも…暇つぶしには…丁度いいですかね…)
一瞬でそう結論づけ、雛は【動かない】人形のフリをする事にした。


(………さて…丁度いいとは…思ったものの…)
予想以上にこの『遊び』は退屈だった。
元々【動かない】人形だったとはいえ、今は【生きている】人形の雛なのだ。
じーっと棚に飾られているというのも、暇で暇でしょうがないのである。
しかも、雛を棚に飾った男といえば―――。
「あぁ、美しい…」
棚に並べられた雛の長い髪を飽きませず延々と撫で、恍惚に浸っている。
その手つきは、妖艶にしてガラスを扱うように丁寧なものだった。
これがテレビでいっていた【フェチ】というものなのだろうか?
雛はその言葉の意味をよく分かっていないまま、退屈を紛らわすようにそう考えていた。
(………そういえば……)
棚に並べられている人形は、この男に人形へと変えられてしまった被害者達なのかもしれない。
男の手馴れた様子を見ると、雛が初めてではない。
――――常習犯だ。
(…ということは…悪い奴だったんですね…この人は……)
何を今更な答えであるが、やっと雛はこの男が犯罪者である事を理解した。
「何て美しい髪だ――」
理解した途端、雛の髪を撫でる男の手がとても不快に感じる。
自分の大切の髪が汚される――雛は、そう思った。
「……触らないで…」
思わずそう呟く。
雛の声を聞いて、男が驚いたように目を見開いた。
自分の能力で人形にしたはずの少女がいきなり喋りだしたのだ、驚きもするだろう。
「お、お前、なんで…っ…!?!?」
男の動きが止まった。
―――否、止められた。
「…貴方のような悪人に…人形を…髪を扱う権利はない…」
雛の髪が、男の全身に絡み付いていた。
ぎりぎりと絡みついた髪は、男の自由を奪い、その体を雛の思うままに操る。
「ひっ…ひぃ…!!助け――ぁああああ!?」
雛の髪に操られた男は、その部屋の窓を開け外へと身を乗り出した――。


グシャっとした音と共に、男は絶命した。
後で警察に調べられても、自殺としか思えないような形で。
雛は、ぐるりと周りの棚に置いてある人形達を見回した。
もうすぐ、この男にかけられた呪いも解けて自由となるだろう。
「…世の中…色んな人が…いる、と……」
学んだ事を反芻するように呟いて、雛は何事もなかったかのように男の家から出て行った。


今日の散歩はおしまい、さぁ家へ帰ろう。
きっと明日も面白い事が起きると信じて――。


【END】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
黒猫 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年06月20日

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