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『らしくない人、らしい人。 』
久良木・アゲハ3806)&南・広大(3508)

 …近衛誠司さん――近衛兄さんとは一族の裏稼業でのお知り合いです。
 今日は、その近衛兄さんに頼まれた書類を、私が届けに行く事になりました。
 約束の時間帯としてはちょうど学校帰り頃になります。一旦帰宅して着替えてから約束の場所まで出ていくのは少し忙しいかもしれない。そのくらいの時間と場所になります。話を聞きながらもそう思っていると――何故か制服のままで行くようにと言われました。
 学校帰り、制服のままで構わないと言う事です。
 そうなると…それは裏稼業絡みの書類を学校に持って行くのは少し不安が残りますが、時間に余裕はあります。
 特に無理をする必要もありません。
 ほっとしましたが――同時に、どうして制服のままでと言われたのでしょうか?
 一族の裏稼業に関係する事である以上、本来ならば学校の制服なんて所属や素性が確りわかる服装は嫌がられると思うのに。私はただでさえ生まれ付き色素が無くて凄く目立ってしまうから、余計にそう思うのです。普段生活している時からそうなのに、一族の裏稼業に関る話で動くとなれば、余計にです。
 …着替える事まで考えたら忙しくなるだろう事を、見越して気を遣ってくれたんでしょうか。
 でしたら、とっても有難い事なのですが。
 こんな裏稼業をしている一族なのに、私の周りには、優しい人が多いのです。

 夕方と言うより夜に近い――薄暗くなってくる時刻です。
 私は色素が無いアルビノ体質なので日が落ちた後の方が色々と楽なのです。この時間帯を選んでくれたのも近衛兄さんや周囲の皆が気を遣ってくれたからなのでしょうか。…本当に有難い事です。
 待ち合わせのお店では、パフェまで奢ってもらいました。
 本当にとてもいい人なのです。
 近衛兄さんは私が持参した書類の中身を確認しています。
 その間、私は奢ってもらったパフェを食べつつ待っています。
 美味しいです。
 ですが。
 何だかここに入って近衛兄さんと同席してから、色々と周囲から視線を感じます。
 見られているのでしょうか。
 …やっぱり制服では目立つと思います。
 少し悩みます。
 …本当にこれでよかったのでしょうか。
 やっぱり甘えずに着替えてくるべきだったのでしょうか。
 そんな風にそわそわしている私に、近衛兄さんはどうしたのかな、と静かにこちらを気遣ってくれます。が、書類確認の邪魔をしてしまってはいけません。…何でもありません、パフェ美味しいです。御馳走様です、とお礼を言っておきます。気にしなくていいですよと言ってはくれましたが、邪魔にならないようにそれ以上は話しません。
 …どうも先程からひそひそ声も聞こえる気がします。
 その声が大きくなったのは気のせいでしょうか。
 何故でしょう?
 気になりました。
 でも、人様の話を盗み聞きしてはいけません。
 我慢です。

 …ちょうどその時です。
 あっ、と大人の男の人の声がしました。
「?」
 思わずそちらを見る為に振り返ってしまいます。
 …どうしたのでしょう?
 今、あっ、と声を上げた人は、何となく堅気じゃなさそうな雰囲気の――スーツ姿の二人組さんの片方で。どうやら私たちの席の近くに座るところ、だったらしいです。今、店に入ってきたばかりのようです。
 ちなみに、私は見た事が無い人たちです。
 ですが、その二人組さんの片方は、こちらを見て声を上げてしまった様子です。
 それも一度見て声を上げただけでは無く、どうやらそれ以降、席に着いてからもこちらを頻りに気にしている様子なのですが…。
 私たちがどうかしたのでしょうか?



 …書類の束から目を離さないまま内心で嘆息。
 当然ながら態度には見せない。
 恐らくは張り込みなのだろうが――また間の悪いところに出くわしたものだ。
 一族の連中も繋ぎにこの娘――久良木アゲハをこんな時間にこんな場所、それもわざわざ制服姿のままで送るとは、気遣っているのだか遊んでいるのだかわからない。いや、遊んでいるのだろう。どう考えてもそちらが本心だ。そして後でそれを責めたとしても、繋ぎがアゲハであるならば――制服姿の女子高生であるならば裏稼業に関りあるようには到底見えないだろう、一番の偽装になる、とでももっともらしい言い訳まで予め作ってあると目に見える。
 それはいつもの事でもあるし先が読める事なのでもうどうでも構わないが。
 …ただ、張り込み中らしいふたりの態度が鬱陶しい。連中の今の仕事は私にとってはどうでもいい事だが…そのままこちらを気にしていては、張り込みの対象にさえも警戒してくれと言っているような状態になり兼ねないだろうに。…気にしているなら素人でも気配が読めるぞ。事実、見てさえいないのに私にまで連中の張り込み対象が何処に座っているか既にわかってしまった。…まったく。
 彼女の事はどう思われようと仕方がないか。…そもそも一族の連中は悪戯がてらそれを期待している。そして――この手の誤解を周囲から受けた場合、気に食わないが下手な弁解は逆効果ともわかっている。
 まぁ、ここで慌てる程私とて阿呆ではないが。
 それに、今この状況でまず気付かれる事はないだろうが――この久良木アゲハは件の暗殺業の流れを汲む一族の人間である事には変わりはない。部下や所轄の人間に自分とこの一族との繋がりを知られる訳には行かんからな。このままで放っておいたら何処かで何かの拍子に話が流れ、繋がってしまうかもわからない。…アルビノの人間はそうそう多い訳じゃない。今の時点では見当違いの意味で私が怪しまれるだけで済むが、もしアゲハの特徴から繋げられてしまえば、知られるのは早いだろう。
 ひとまず、軽く口止めしておくとするか。



 …何だか唐突に、先程のスーツ姿の二人組さんがとても怯えています。
 理由はよくわかりません。
 ただ、先程までは頻りにこちらを気にしていたのに、今度は極力こちらを無視しているような形で、何だかかちんこちんに固まっているようです。私と目が合いそうになると、わざわざ逸らしています。
 額に冷汗も見えるのは気のせいでしょうか。
 …ちなみに、私と同席している近衛兄さんの様子は、先程から全然変わりません。
 二人組さんから、あっ、と言われた事も気にしてません。
 きっと、そのくらい集中して書類を確認してるんですね。凄い集中力です。
 私も今回は、これでちゃんとお役目を果たせた事になればいいんですが…。
 出来る事くらい、確りしないとですから。



 …なかなか物分かりの良い奴らで苦労が無くて済む。
 だがそれでも…反応がどうにも浅墓に感じるのだが…それ程動揺させてしまったかな。
 まぁ、奴らの仕事に不手際があろうと、私に塁が及ばなければ構いはしないが。
 アゲハもまた、私が『口止め』した後の彼らの様子を気にしている。…ただ、どうして彼らの態度が変わったのかはわかっていない。不思議そうに見ている。私がした事に気付いていない。
 どうやら彼女の中では私はいい人で通っている事は見て取れる。疑う対象では無いようだ。
 …元々、そのくらいの懐柔はしているが――それでも一族の他の人間にはこの方法は一切通じない程度の事しかしていない。もっとも、パフェを奢るなど一族の他の奴にはする気にもならないが。
 この娘を見ているとつくづく不思議でしょうがない。『あの』家系から何故にこんなに素直で優しく純朴な、真っ直ぐな子が生まれるのか。突然変異か神の悪戯か、これはもう奇跡以外の何物でもない気がする。
 素直にパフェを食べながらも、私が書類を確認する邪魔をしないように気を遣ってもいる。書面は既に一通り確認どころか頭に入っているのに、気付いていない。今私が書類に目を落としているのはそこの二人組――同僚や、他、周辺の様子を窺う為のただの偽装だ。出くわしてしまった同僚以外に取り敢えず問題はない。そちらも取り敢えずは誤魔化せた。小さく頷いてから、私は書類を封筒に仕舞う。
 そして、食べ終わったらそろそろ出ましょう、とアゲハに促すと、彼女ははいと慌てて頷き、パフェを食べる速度を上げ急ぎ出す。
 本当に素直だ。
 …『あの』家系に生まれながら、これ程『らしく』ない人間は他にいない。



 暫くして。
 パフェを食べ終わった久良木アゲハと、それを穏やかな態度で待っていた近衛誠司の姿が、何処か遠慮がちな――それでいて親密そうな微妙な態度で連れ立って店を出ていくなり。
 …その後のその店では。

 今のふたり絶対怪しいって。
 兄さんって呼ばれてたけどあれ、見るからに血縁無いよな…わざわざそう呼ばせてるんだよきっと。
 かたそーな顔してロリコンじゃねぇのあれ。女の子の方と話す時いきなり表情変わってたぞ。
 こんな時間からいったい何処行く気なのかしらっ。まぁ、イヤねっ。
 制服からして神聖都学園の子だったわよ。
 素直そうな顔してるのに人は見た目に拠らないって事かしら…今時の子って…。
 今時のお偉いさんの趣味って、ねぇ…。

 そんな話題が近場のあちこちのテーブルから上っていたりして――ついでに先程の張り込み中の二人組の胃が仕事故ではなくその話題故にきりきりと痛くなっていたりしたのは。
 話題に上っている当のふたりには知る由も無い事でした。

【了】
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年06月03日

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