「ありがとう。きっと喜ぶよ」
「ほら。金平糖さんの顔も晴天になったわ」
悪戯っぽく笑ってみせた真に「鈴蘭ちゃんにはかなわないな」と男は目を細める。
幾つもの他愛もない話をして、黄金の陽がいつしか大地に近付き始めていた。
「もう暗くなるね、帰らなくて平気かい?」
「……今日は母の娘さんが亡くなった日なの。私、母の本当の娘じゃないのよ。今日はできるだけ母を一人にしてあげたいの」
だって、私が居たら母はきっと泣く事も出来ないから――。
「そうか――……There's a yellow rose of Texas……♪」
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♪THE YELLOW ROSE OF TEXAS
−テキサスの黄色いバラ−(アメリカ民謡)
There's a yellow rose of Texas テキサスに黄色いバラのような娘がいて
That I am going to see 今すぐでも会いに行きたい気分だ
No other fellow loves her 俺以外の誰も
Half as much as me 俺以上に彼女を愛してなどないから
She cried so when I left her 別れてきた時彼女は泣きじゃくって
It almost broke my heart 俺も心が張り裂けそうだった
And if we ever meet again 生きて会うことができたら
we never more will part. もう二度と離れるものか
She's the sweetest rose of color 彼女はテキサスの土地に咲いている
That Texas ever knew 全てのバラの中で最も美しい
Her eyes are bright like diamonds 彼女の瞳はダイヤモンド
They sparkle like the dew 朝露のようにきらきらと輝くんだ
You may talk about your Annabel お前達が大事なアナベルのことや
And sing of Rosa Lee, ロザリーのことを歌ったりしてもいいけど
But the Yellow Rose of Texas テキサスの黄色いバラは
Beats the bell of Tenesee. テネシーの美人よりきれいなんだ
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「素敵な歌ね、何の歌なの?」
「亜米利加の花の歌だよ……僕にとって美しい花は『Lily of the valley』だけどね」
夕日を見詰め茜に染まった男の横顔を覗いて、真は「日本語で言ってくれなきゃわからないわ」と抗議する。
「ははは、わからなくて良いよ」
「もう、金平糖さんは意地悪だわ」
頬を膨らませそっぽを向く真に、男は出会った日と同じように吹き出した。
「この国は、日本は世界で一番美しい国だよ。海神に囲まれ季節が巡り、優しく逞しい人々が住まう――」