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『初遭遇、初対決 』
仁科・星花5020)&神崎・弘介(5036)
●あなたにお願いしたいこと
「あなたが……草間さんですか?」
 開口一番、仁科星花は扉を開いた先に待っていた眼鏡の男性を見て、そう尋ねた。場所は草間興信所、時刻は夕方も近い頃であった。
「ええ。草間興信所所長、草間武彦です。先程電話をかけてこられたのは……」
「あ、はい。私です」
 草間武彦から質問を返され、星花はこくんと頷いて答えた。訪れる前、電話をかけておいたのだ。
「そうですか。ああ、どうぞ。座ってください」
 ソファを勧める草間。星花がソファに腰を降ろすと、草間は一旦台所に引っ込み、茶を持って戻ってきた。
「さて、お話を伺いましょうか」
 茶を星花の前にも置くと、草間は自らの茶に口をつけて話を促した。探偵事務所にやってきたのだ、星花も何かしら草間に依頼を頼みに来たのに間違いないだろう。
「…………」
 星花は少し思案をしていたが、やがて自分がここに来た理由を話し始めた。
「実は、探してほしい物があるんです」
 草間をまっすぐ見据え言う星花。
「物?」
「ええ。2本の剣を――」
 星花は蒼騎星と紅騎星という2本の剣を探していることを草間に告げた。そして、自分の知っている限りの情報を提供する星花。
「ふむ……」
 一通り話を聞いた草間は、難し気な表情になっていた。
「……難しいな……」
 ぽつりつぶやく草間。そのつぶやきに、星花が驚きの表情を見せる。
「難しい……ですか? 草間さんの評判を耳にして、こうしてお願いに上がったのですけど……」
「いや、評判を聞いてわざわざ足を運んでもらったのはありがたい。しかし、今の話を聞いて何から手をつければいいのか……うーん」
 腕を組んで考え込む草間。直接は言っていないが、恐らく情報が不足しているのであろう。
「……さすがの怪奇探偵さんでも難しいんですか」
 小さな溜息を吐く星花。すると、ぴくっと草間が眉をひそめた。
「あー……その呼び名はあれだ……うん」
 草間が不機嫌そうに言った。どうやら『怪奇探偵』という評判は、草間本人は不本意であるらしい。
 その時である。事務所の電話がけたたましく鳴り響いたのは。
「……ちょっと失礼」
 中座し、草間が電話に出る。星花は出された茶に、ようやく口をつけた。
「はい、草間興信所。……警護の依頼?」
 草間の表情が引き締まった。そんな草間に、星花が何気なく視線を向ける。
「はい、ええ……なるほど。そうですか、はい。確認しますが、エンデリオンと名乗る怪盗から予告状が届いたから宝物の護衛をし、ついでに怪盗を捕まえてほしい……と」
 現金な物で、依頼内容を聞いた草間の目が輝いていた。これこそ自分が求めていた依頼、そう思ったのだろう。
 けれども次の瞬間、草間は唖然とすることになる。
「……は? 何ですって? 化け物……? そ、そりゃいったい……」
 怪訝そうに聞き返す草間。
「ええと、いいですか、言いますよ。この怪盗、今までも何度か出没していたが、その度に狸の化け物だったり、うさぎの化け物だったりした……合ってますか? そうですか、合ってるんですか……」
 がっくりと肩を落とす草間。何とも分かりやすい態度である。結局は、その手の依頼がやってきてしまうらしい。
「はい、分かりました。引き受けますが……ええ、では後程伺います」
 がっくりとしたまま、草間は電話を切った。そして、はあ……と溜息を吐いた。
「あの……」
 そんな草間に、星花が声をかけた。無言で星花に視線を向ける草間。すると、星花はこんなことを申し出た。
「相手が魑魅魍魎の類なのでしたら……私に手伝わせていただけませんか? 修行の意味合いも兼ねて……ぜひ」
 深々と頭を下げる星花。草間は突然の申し出に、戸惑いの表情を浮かべた――。

●見下ろす影
 時刻は日付の変わる前――都内某所、洋風建築の屋敷の近く。
 電信柱の上に立ち、屋敷を見下ろしている者の姿があった。黒のシャツに黒のズボンで身を包み、えんじ色らしきネクタイを締め、目元はマスクで覆い隠している。これを怪しくないといえば、何が怪しいのか。
「……今夜はここか……」
 怪しき者は屋敷を見下ろし、薄い笑みを浮かべてそうつぶやいた。つぶやきは、夜の闇に溶けるように消えた……。

●彼の者が、やってきた
 屋敷の中では、草間が応接室に詰めていた。応接室といっても、ちょっとしたパーティなら開けそうなスペースはある。
 応接室では部屋の中央にケースに入った首飾りがあり、依頼者がうろうろと落ち着かない様子でぐるぐると歩き回っていた。
「落ち着いてください。浮き足立っていると、相手の思うつぼですよ」
 草間が依頼者に落ち着くよう言った。が、依頼者は頷くものの、一向に歩き回るのを止めようとはしない。言っても無駄なのかもしれない。
 応接室には草間と依頼者の他にも、家人やらガードマンやらの姿もあった。そして、星花の姿もそこにはある。
「……質問があるんだが」
 小声で星花に問う草間。助手扱いということで、事務所での営業用の口調から普段の口調へと戻っているのはご愛嬌。
「はい、何でしょうか」
「魑魅魍魎にそれで対抗するのか?」
 草間が指差した『それ』――星花が手にしていた木刀1本である。
「そうですけど」
 きょとんとした表情で答える星花。何かおかしいのだろうか、そう言いたげであった。
「いやまあ、各々だから別にいいんだが……」
 何だか釈然としない表情の草間。頭では理解してるのだろうけれども。
 と――突然、部屋の明かりが落ちた。真っ暗になる応接室。草間がすかさず叫んだ。
「動くな! 犯人の罠かもしれない!」
 その咄嗟の判断は正しかった。しかし、次の瞬間にはそんなこと守っていられない状態になってしまった。狸の化け物が、どこからともなく現れて応接室で激しく暴れ始めたのである。
「うわわっ、出たーーーーっ!!」
「化け物だーーーっ!!」
「ひいぃぃぃっ、お助けぇぇーーーっ!!!」
 阿鼻叫喚とはこのことだろうか、パニックに陥る依頼者たち。草間が必死でなだめようとするが、まるで効果はなかった。
「はっ!!」
 木刀で狸の化け物を威嚇する星花。その時、星花は狸の化け物の背後で動く影を見付けた。動物ではない、明らかに人の影だった。
(まさかっ!?)
 はっとした星花は、混乱状態の応接室を飛び出していった――。

●物語の歯車はまさに回り始めて
(ふふ、簡単だったな……)
 怪しき者――怪盗は、混乱に乗じて盗み出した首飾りを手に、庭へ躍り出た。その瞬間、頭上が突然暗くなった。
「ん?」
「待ちなさい!」
 星花の声が庭に響いたかと思うと、怪盗の頭上にそのまま降ってきた……星花が。直接怪盗を追いかけず、2階のテラスに回って庭へ飛び降りたのだ。
 不意を突かれた怪盗は避けるのも間に合わず、星花のダイブをまともに受けることとなってしまった。
「うぐっ!!」
 星花直撃で庭に転がる怪盗。星花はすかさず怪盗の腕をつかんだ。
「逮捕です!!」
 はい、勝負あり。星花は首飾りを回収すると、怪盗を立たせた。もちろん連行するために、である。
「やれやれ……女の子のすることじゃないな」
 観念した素振りを見せ、苦笑しながら怪盗が立ち上がる。少し得意げな表情の星花。そして怪盗を連れて屋敷に向かって歩き出そうとしたが――そこに油断があった。
 怪盗は星花の耳元にすっと顔を寄せると、こう囁いたのである。
「君の下着、上下ともに白なんだね」
「!!」
 急な囁きにかあっと顔を赤らめる星花。まさに、その通りであった。
 だが、怪盗の行動はそれで終わらなかった。何と、ふぅ……と耳に息を吹きかけたかと思うと、そのまま星花の頬に軽くキスしたのである!
「あ……っ……」
 背筋がぞわっとし、星花はへなへなとその場にへたり込んでしまった。怪盗をつかんでいた手も、そのショックでつい弛んでしまった。
「油断大敵」
 怪盗はそう言って、星花の手から首飾りを奪って逃げ出そうとした。だが……。
「ふぇ……」
 突然のことにパニック状態に陥ったか、星花は泣き出しそうになっていた。怪盗は泣きそうになっていた星花の表情を、まともに見てしまった。
「……参ったな……」
 怪盗がぼそっとつぶやいた。
「女の子を泣かすのは、趣味じゃないんだけどな」
 そう言い、小さな溜息を吐く怪盗。ややあって、怪盗は首飾りを星花へ投げた。両手で首飾りを受け取ると、星花は怪盗の方へ向き直った。
「……え……?」
 何故、怪盗が首飾りを自分の方へ投げたのか、星花には分からなかった。すると、星花に怪盗が尋ねてきた。
「名前は?」
「あ……仁科星花……」
「ふうん……星花ちゃん、か。俺は神崎弘介。星花ちゃんのその顔に免じて、今回は返してあげるよ。次はどうだか分からないけどね」
 怪盗エンデリオン――神崎弘介はくすっと微笑むと、その場を立ち去ろうとした。そして壁の所まで来ると、再び星花の方へと向き直った。
「ああ、1ついいこと教えようか。それ、元々は盗品なのさ。ちょっと調べれば分かることさ。中に居る怪奇探偵とやらに頼んでみればいい。……じゃ、またどこかで会えるかな」
 弘介はそう言い残し、颯爽と壁を乗り越えていった。後に1人残された星花は、ただじっと首飾りを見つめていた。
 星花の物語は、未だ始まったばかりである――。

【了】
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
高原恵 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年05月10日

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