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『白い鴉と雨の中…… 』
御崎・綾香5124)&和泉・大和(5123)






 ザァァァァァァ…………

「………む」

 雨が降っているために、弓道場での居残り練習を諦めた御崎 綾香は、靴を履き替えてから、降る雨の強さを見て唸った。
 降水確率30パーセント………この微妙な数字を見た場合、人々は二通りの反応を示すだろう。「危ない危ない。傘を持って行かなきゃ濡れちゃうな」、と「これぐらいなら、帰る時には降ってないだろ」という者の二通りである。綾香はどちらかというと前者なのだが、ついうっかりという事はある。しかも、今まで“忘れ物”等全くしなかったため、置き傘の類は置いてなかった。
 綾香は誰かに貸して貰うか、入れて貰うかしようと思ったが、すぐに首を振った。綾香は、親しい友人知人がいない。しかも、わざわざ神社にまで来てくれるような者など一人も……………多分いない。
 一瞬だけ例外の昼行灯が浮かんだが、屋内競技の相撲稽古が、雨如きで潰されるとは思えない。

「どうしたんだ御崎」

 訂正。屋内の部活である相撲も、どうやら今日は休みの様だ。

「お前こそ、どうしてこんな所にいる?今日は部活はないのか」
「ぁ〜今日はな。顧問が相撲部屋の鍵無くしてな。予備すら無いから、今日は休みだ」

 和泉 大和が頬を掻きながら苦笑する。別段困った事でもないらしく、平然と傘を差していた。
 と、大和が綾香をしげしげと見る。綾香は何事かと自分を見回したが、特に何か変な感じはない。綾香が大和に「何だ?」と訊くと、大和は逆に「傘はどうしたんだ」と訊いてきた。

「……見て解らんか?」
「忘れたのか」
「………そうだ」

 不機嫌そうに、綾香が外の雨を睨みつけた。本当は指摘してきた大和を睨みたい所だが、この男は睨まれようが何だろうが、多分どうとも思わないだろう。
 一人でムッとしていると、雨の中に大和が出て、そのままこちらに向き直った。手に持った傘を軽く上げて、「ほれ」などと言っている

「何やってるんだ。帰らないのか」
「それはこっちのセリフでもあるんだがなぁ………入らないのか?」

 綾香は一瞬だけ迷ったが、かと言ってこのままではずぶ濡れで帰る事になるだろうと判断し、いつもの事だと言い聞かせて大和の傘に入った。綾香は少し前に大和と帰ってからというもの、時間帯が合えば一緒に帰っている。二人とも、居残りしてから帰っているため、ほとんど毎日の様に一緒だった。
 違う点があるとすれば、今は一緒の傘に入っているというのと、二人を見ている人がいるという事だ。周りにいた生徒達は、二人の組み合わせを見て「ええっ!?」という顔をしている。驚きと羨望、中には嫉妬の目まで入っている。

「み、皆が見てるぞ?」
「ん?ああ。まぁ、皆にしてみれば、意外な組み合わせなのかもなぁ」

 相変わらず気がない返事だ。周りの視線も何も、ほとんど気にしていない。綾香も、出来るだけ意識しない様にして、少しだけ歩調を早めた。大和は、綾香に合わせて歩いている。校門を出てしばらく歩くと、もう周りに他の学校の生徒達はいなかった。雨という事もあって、わざわざ追ってくる様な噂好きな者達もいない。

「そんなに気になったか?」
「別に。…………?」
「ん?」

 二人が、ほぼ同時に怪訝そうな顔をする。一瞬、弱々しい声を聞いた様な気がしたのだが………周りは雨の音で五月蝿い。声の発生源がよく分からず、二人は辺りを見渡した。
 すぐ目の前に公園があるため木々が多く、その葉を打つ雨の音で周りは騒々しい。
 あの声を再び聞くには、少し集中力が必要だった。

「今一瞬聞こえたな?」
「ああ、だが………こっちだ」

 綾香が大和の傘から抜け出して走り出した。大和は一も二もなくその後を追う。傘から抜け出てしまった綾香は、強い雨に濡れている事などお構いなしに走り、毎日見ている公園に駆け込んだ。そして、囲い沿いに芝生の上を通過し、隅にあった樹の下を確かめる。

「っ!」

 綾香はそこで立ち竦んだ。足下の泥の中に、巣立ち前らしい鴉が一羽、震えながら横たわっていた。綾香が頭上を見上げていれば、そこに巣があるのが見えただろう。
 綾香が立ち竦んでいると、やっとの事で大和が追いついてきた。綾香に「どうかしたか?」と聞いてきたが、綾香が震えているのを見てから、視線を追って鴉を見つけた。
 大和の顔に軽い驚きが浮かんだが、すぐに屈んで、よく見える様に泥を手で拭う。

「やばいな。御崎、近くの公衆電話で、この辺の動物病院に連絡を取ってくれ」
「ぁ、その……え?」
「だから……いや、良い!」

 大和は、鴉の体に大きな怪我がないかどうかを手早く見てから、制服を脱いで鴉を包んだ。後ろで手を振るわせている綾香に強引に持たせてから、「連絡してくるから、少し待ってろ」と言って、近くの公衆電話に駆けていく。綾香は強引に持たされた事でようやく動き出し、鴉を守る様に、その上に身を屈ませた……

……………………
……………
……




「昔、犬を飼ってたんだ」
「犬?」
「ああ、小さい頃に……。ずっと一緒にいられると思っていたんだが、私が小学校に入ったぐらいの時に、病気で死んでしまった」
「…………」
「それからは、どうしてもダメなんだ。ああいう時には、狼狽えてしまって何も出来なくなる………すまない、迷惑を掛けてしまった」
「別に俺は良いけどな」

 あの公園から一番近い動物病院に連絡を取り、すぐに駆けつけた二人は、鴉を獣医に任せて待合室でジッと待っていた。大和が、綾香らしからぬ同様ぶりにどうかしたのか訊くと、綾香は昔あった事を簡潔に、淡々と語った。それを聞いて、大和は気まずそうにする。
 大和が綾香の手を見ると、その手はまだ震えていた。
 少ししてから、診察室の扉が開いて、獣医が出てきた。二人はすぐに立ち上がると、獣医に迫る。

「だ、大丈夫ですか!?」

 綾香はまだ取り乱しているらしく、いつもとは違う口調で強く訊いた。獣医が「まぁまぁ」と手を振り、コホンと前置きしてから言う。

「少し衰弱してますが、大丈夫ですよ。餌をあげて温かい所で休ませていれば、二〜三日で元気になるでしょう」

 獣医が言うと安心したのか、綾香は少し荒くなっていた呼吸を整えようと、軽い深呼吸をした。大和が「それは良かった」というと、獣医は「それにしても……」と続けた。

「白い鴉とは、私も初めて見るね」
「え?」
「気が付かなかったかい?泥まみれだったから黒く見えただろうが、あの鴉は白いんだ。見てみようか」

 獣医が診察室の扉を開いて、二人を招き入れる。二人は入り、診察台に近付いた。診察台の上に寝かされている鴉を見て、二人で感嘆の声を漏らした。
 鴉は泥を綺麗に拭われ、洗われて、雪の様に真っ白になっていた。一見すると、鳩に間違えるかも知れない。だが、細いシルエットは、この鳥が間違いなく鴉だという事を表していた。

「時々いるらしいんだけどね。こういう鴉は珍しい。まぁもっとも。あまり良い事ではないんだけどね」
「そうなんですか?」
「ああ。要するに、体の色素が抜けてしまっている、人間で言うと障害に近いんだったかな?こういう動物は、大抵体が弱いんだ。この鴉も、多分それで弱ってたんだろうね」

 獣医が説明すると、大和は「へぇ……」と気のない様な、しかし何か考えている声を出す。その微妙な違いを聞き付け、後ろで説明を聞いて悲しそうな顔を浮かべていた綾香が少しだけ不審そうになった。
 綾香が何か言おうと口を開くが、それよりも先に大和が獣医に、突拍子もない事を聞いた。

「じゃ、この鴉。俺が面倒見ても良いですか?」
「え?この鴉を?」
「そう、この鴉を」
「だって……こいつ鴉だよ?」
「知ってますよ」
「鴉を飼うって……良いのかい?」
「何とかなりますよ。飼い方、教えてくれませんか?」
「鴉の飼い方って……えっと、そうだな」

 突然言いだした大和に、獣医は酷く驚きながら、鴉の飼い方と言うよりも鳥の飼い方を教えていく。それを鞄から取り出したメモ用紙に書き取りながら、大和は度々頷いていた。
 綾香はその光景を見ながらも、獣医以上に大和の発言に驚き、柄にもなく大和の後ろでオロオロとしていた…………

…………………
……………
………




 二人は獣医にお礼を言い、後日また来る事を伝えてから動物病院を後にした。
 外の雨はまだ降り続けており、冷えてはいけないからと肝心の鴉は病院で貰った温かそうなタオルに包み、制服を畳んでクッションの様にして、その上に乗せてやっていた。
 その鴉を、綾香が大和の代わりに持っている。大和は傘を差しながら、時々鴉を突っついていた。

「結局。最初から最後までやって貰って、すまない」

 終始狼狽えて何も出来なかった綾香は、大和が見てもあからさまに落ち込んでいた。さっき聞いた昔話の事を思い出し、「別に良い」と言って、制服に包まれている鴉を突いてやる。鴉は、もう意識自体はハッキリしているのか、「カァーー!」と鳴いて、大和の指を突き返した。不思議と痛くないのは、鴉が手加減しているからだろう。何となく意思疎通が出来てしまっていた。

「私は、今日はダメだったな。狼狽えてばかりだ……」
「そう悪い事ばっかり思い起こすなよ。良い事だってあっただろ?」
「無い。思い当たらないぞ」
「こいつに会えた。知ってるか?白い鴉は何か良い事がある時の使いなんだぜ?」

 笑顔でそんな事を言う大和から視線を外して、綾香は鴉を見る。大和が鴉に向かって「ほれ」と言うと、鴉は綾香に顔を向けた。そして、綾香を見ても「カァーー!」と鳴く。
 何故か綾香には、突かずに身を乗り出して擦り寄っている。綾香はその鴉の頭を撫でながら、「“良い事”か……」と呟いた。

「どうだ?良いもんだろ」
「そうだな……こういう事があっても、それはそれで良いのかも知れん」
「解ってくれれば良いんだ」
「しかし、本当にこの鴉を飼うのか?」
「ん?そりゃ当然だ。何たって幸運の鴉だからな」
「………苦労しそうだな。お前」

 綾香はそう言って、鴉の頭を撫で続けた。鴉は気持ちよさそうにタオルにうずくまる。大和は、「鴉に苦労なんかさせないぞ」と言って、綾香を苦笑させていた。
 二人が並んで、いつもの様に帰っていく。いつもと違う点があるとすれば、それは恐らく雨が降っている事と、鴉を一羽、綾香が抱いている事。
 それは恐らく、この雨がもたらしてくれた、一つの偶然………
 雨はこの鴉が呼んだ幸運の一つだったのかどうかは分からないが……



 同じ傘に入る二人の距離は、ほんの少しだけ縮まっていたのだった………











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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
5123 和泉・大和(いずみ・やまと) 男性 17歳 高校生
5124 御崎・綾香(みさき・あやか) 女性 17歳 高学生
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■         ライター通信          ■
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 三度目のご依頼ありがとうございます!メビオス零です!
 今回はシリアス系列に………なってるのかなってないのか、どうなんでしょうか?
 自分では判断出来ません。中途半端な出来かと……う〜む…………
 どうも恋愛系の小説だとラブコメになりがちなのは、多分、今まで呼んでいた本とかがそうだったからでしょう。一応努力はしてるつもりなんですが……
 例に漏れず、また反省点などは言ってきて下さればありがたいです。前のファンレターは、とても参考になりました。いや、本当に。
 読み返して「確かに……」って思えましたから。
 では、ここら辺でお暇します。改めて、今回もありがとうございました!
 またの御機会がありましたら、よろしくお願いします。(・_・)(._.)

Writer:メビオス零
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2005年05月06日

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