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『『雪月歌 〜ひだまりの中で歌う唄〜』 』
友峨谷・涼香3014)&彩峰・みどり(3057)


「よくもみどりをぉ」
 ぎりっと歯軋りした友峨谷・涼香の顔は完全に理性を失っていた。
 赤い血が滴り落ちる手で紅蓮を握り締めて、それを振り上げる。
「やぁ、いや、やめてぇくれぇ。助けて」
「死ね」
 助けを請う彼に涼香は無慈悲に剣を振り下ろした。
 凍りついた廃村。
 一条の日の光も差し込まぬそこで、涼香は修羅と化し、
 そして凍りついた大地の上に出来上がった赤い血の水溜りの中には彩峰・みどりが横たわっていた。
 陽は未だ、極寒の世界に居る二人を照らさない。






【声の意味】


『………助けてぇ』
 叩きつけるような風。
 その風の向こうに消えてしまったみどり。
 ごめん。
 うち、またあんたを助けられへんかった。
 みどりは今も苦しんでいる。
 心を痛めている。
 暴走した力の中で。
 そう、暴走した力。
 みどりの中にある雪女としての性。
 あの娘の心はその身に流れる妖、雪女の血に囚われて、ずっと独りで泣いて、苦しんでいると想っていた。
 いや、多分それは間違いじゃない。
 あの娘は怖がっていた。拒絶していた。嫌悪していた。雪女としての自分を。
 なら、あれは、どうして?
 どういう意味があったのだ、あの言葉には?



『………助けてぇ』



 助けようと想った。
 手を差し出した。
 だけどその手を握らなかったのは、誰でもないみどりだった。



『今、もう一度、封印したるから、あんたの力を』
 ―――それを告げた瞬間にみどりはさらにその力を解放させた。
 そう、間違いなく彩峰・みどりが。
 力を解放したのは雪女のみどりではなく、みどりだった。



 なのに………



『………助けてぇ』
 雪女みどりの手を止めたみどり。
 口から紡がれた言葉。声。願い。
 だけどその願いは果たしてどちらのモノだったのだろうか?
 見上げた空はどこまでも晴れ渡り、透明で、透けるような青を誇っていた。
 春ももう終わる。
 しかし涼香の思考は澱み、心の目は真実を見る事ができない。




「わからへん」
 助けたいと想った。
 助けるために剣を振るった。
 しかしあの銀色の髪に縁取られたみどりの顔を見た時、涼香は自分が決定的に何かを間違えたのだと確信した。
 だが自分は何を間違えたというのだ?
 どこが間違っていたというのだ?
 それがわからない。
 ―――いや、無意識に涼香は自分が何かを忘れていると想った。
 何を?
 それが涼香の心の眼に目隠しをした。
 彼女は今、真っ暗な闇の中に居る。
 その闇の中でどれだけ疑問や焦り、怒りを叫ぼうが、闇にその声が反響するだけで、それはどこにも届かない。
 道に迷った子どもはどうすればいい?
 道端でしゃがみこんで泣いていれば、誰かが助けてくれる?
 それがわかっているから、子どもも泣いている。
 助けて欲しい。
 苦しい。
 悲しみの声を聞いて、聞いて欲しい。
 でも泣けない。
 いつから涼香は素直に泣けなくなっただろうか?
 再会、そして恋。あの同級生が自分のせいで死んだ時から?
 母親が殺された時から?
 母親。
 いつも涼香が泣いて帰ると、優しく微笑んで抱きしめてくれた母。
 大切な友達と喧嘩して、仲直りしたかったけど、でもどうやって謝ればいいのかわからなくって、
 独りでとぼとぼと学校から帰った夕暮れ時の道。
 そしたらその道で偶然母親と会って、
 母親はにこりと涼香に微笑んでくれて、『お帰り、涼香』、と優しく言ってくれた。
 夕暮れ時の橙色の世界に静かに流れたその母親の声に、
 それまでずっと我慢していた感情が堰を切ったように溢れ出した。
 目から涙が溢れ出して、拭っても拭っても止まらなくって、
 そうしたら母親が『あらあら、どうしたん、涼香。泣いてもうて。お天とうさんが笑うで』、優しく微笑みながら温かな手でその頬を濡らす涙を拭ってくれて、ぎゅっと抱きしめてくれた。
 それまでは自分は独りだと想っていた。
 大好きな友達と喧嘩して、仲直りできなくって、独りで、寂しくって、哀しくって、もうこのまま自分が夕暮れ時の橙色の光が溢れる世界に溶け込んでしまうと思えた。
 本当に本当に寂しかった。不安だった。怖かった。
 このまま世界中の誰からも嫌われたらどうしよう? って。
 だって大好きな友達に嫌われてしまったんだから。
 だからこそ母親の優しい温もりが嬉しかった。安心した。
『あらあら、それは困ったねー』
 母親は優しく涼香の話を聞いてくれて、涼香を励まし、言ってくれた。『ごめんね、をしようね』って。
 喧嘩の理由はもう忘れてしまった。些細な事だったのだと想う。幼い子どもの喧嘩だ。
 それでも涼香は嬉しかったのだ。
 世界中の誰からも嫌われてしまうと思っていた中で母親がちゃんと自分を受け止めてくれて、そして話をちゃんと聞いてくれたから。


 そう。あの夕暮れ時の世界で確かに自分は母親に会うまでは独りだったのだ。


 涼香は桶とお供え用の花束を持って母親のお墓へとやって来た。
「母さん、来たよ」
 微笑しながら母に話し掛ける。
 そして桶を置いて、隅に花束を置くと、雑草を抜いて、花を供える筒と湯飲みを手洗い場の井戸の所へ持っていって、そこの水で丁寧に洗って、花を供え、火の点いた線香を供えて、お墓に丁寧に水をかけた。
 線香の香りがたゆたう空間に涼香の抑揚の無い声が響く。
「うち、もうわからへんわ。うちは本当は何とどう向き合えばよかったんやろうね? うちの目は何を見とったんやろう? なあ、母さん」
 みどりの事は理解しているつもりだった。
 だけどその事にはもう自信は無い。自分が見ていたみどりは、そうだと想っていたみどりは、しかしあそこにはいなかった。
 ―――『じゃあ、もうやめるん、涼香?』
 聞こえた、母の声。
 涼香の体がびくりと震え、そして辺りを見回して、墓を見つめる。
 寂しげに笑う涼香。
 死んだ母親が幽霊になって出てきたのではない。
 泡が浮かぶように記憶の淵にあった母の声が浮かび上がったのだ。
 これは幼い涼香が友達と喧嘩して、その話を聞いてから母親が口にした問い。
 詰問するのではなく、窘める訳でも無い。
 ただ優しくそう口にしたのは、涼香自身に自分で自分の想いを見つめさせ、反芻させるため。
 涼香は懐かしげに、同時に今にも泣き出す寸前の幼い子どものような表情で、母の墓に向って首を横に振った。
 あの夕暮れ時の世界でそうしたように。
 ―――『うん、そうか。じゃあね、涼香。まずは落ち着こう。いつもの涼香に戻るの。悲しい気分のままではちゃんとしたモノは見えへんでしょう? 心の目の目隠しを外すにはまずは普段の冷静な自分に戻る事や。どうすればええと思う? 簡単やよ。自分は落ち着いている。冷静だ、って自分に言い聞かせるんの。そうすれば想いは落ち着くんやから』
「落ち着け、うち。落ち着け。クールに。冷静に。ただ普段のうちに戻ればいいんや」
 そうだ。そういえばあの夏からずっと自分は焦燥と怒り、悲しみに捲くし立てられて、冷静ではなかったように想う。
 それが心の目を目隠ししていた。
 しかし今は違う。明鏡止水。今なら舞い落ちる葉の位置や数までわかる。
 大丈夫。冷静だ。
 ―――『魔法の言葉を教えてあげる、涼香。その魔法の言葉を唱えれば、あんたは世界と一つとなれる。そうすればきっと見えないモノが見えるようになるで』
「大地の鼓動に耳を傾け、川のせせらぎとお喋りし、風のワルツを見る」
 母親が教えてくれた魔法の言葉。
 それは術士の理。
 涼香が優れた戦士であるからこそ、その理は最大の効果を生む。
 どくん、と世界の鼓動と涼香の心臓が脈打つのとが重なった。
 涼香の頭が冴え渡る。全ての感覚が鋭くなる。
 ―――『落ち着いた、涼香?』
「うん、ありがとうな、母さん。落ち着いたよ」
 ―――『まずはどうして喧嘩をしたん?』
 どうしてみどりを助けたいと想った、自分は?
「うちはみどりが自分と同じだと想ったからや」
 そうだ。
 うちは独りだった。
 みどりも独りやった。
 お互いに大切な人を失った。


『よくも――よくも―――奪ったな! 私の―――私の、かけがえのないものをッ!!』


 大切な者を奪われた悲しみは自分にもわかる。
 だから自分たちは同じ傷を持つ者同士わかりあえていると想っていた。
 お互いに心に入った罅にヌクモリを塗りこめていって、癒しあっていた。
 だけどみどりは、再び自分の心に入った傷に涼香が触れようとするのを拒否した。
 ―――嫌われた?
 違う。嫌われたのなら、嫌った相手に助けなんて求めない。
 ―――『わかってあげへんとね、涼香。お友達の事。もしも涼香がその娘の事を理解してあげられたなら、そしたらあんたたちはもっと仲の良いお友達同士になれると想うんよ。涼香、人は違う。ひとりひとり。それをちゃんとわかってあげられる事から大切な関係は紡がれていくと想うんよ、お母さん』
 わかる。
 わかってあげられていると想っていた。
 ―――本当に?



 ウチハ、ナニカ、タイセツナモノヲ、ミオトシテイル。



『そのバンダナは? いつも右手首に巻いて。よっぽど大切なモノなんね』
『うん。お兄ちゃんにもらったバンダナなの。私の宝物』



 バンダナ………お兄ちゃんの形見。



 オニイチャンヲ、ウバッタ、ニンゲン。



『よくも――よくも―――奪ったな! 私の―――私の、かけがえのないものをッ!!』



『わかってあげへんとね、涼香。お友達の事。もしも涼香がその娘の事を理解してあげられたなら、そしたらあんたたちはもっと仲の良いお友達同士になれると想うんよ。涼香、人は違う。ひとりひとり。それをちゃんとわかってあげられる事から大切な関係は紡がれていくと想うんよ、お母さん』



「ああ、そうか。だからうちは自分とみどりが似ていると想ったんや。同じなんや、やっぱりうちらは」



 ―――『わかったみたいやね、涼香。ちぃーっとばかし涼香は自分の想いに囚われとったみたいやね。せやけど涼香はもうその娘の事をわかってあげられたんよね? せやからきっと母さんは涼香がちゃんと自分でごめんね、を言えたら、その娘と大の仲良しさんになれると想うで』


 立ち上がった涼香。
 そして彼女は墓に向かい、微笑みを浮かべる。
「ありがとうな、母さん。母さんのおかげでうち、とても大切な事に気付く事ができたわ。せやからうち、あん時みたいにちゃんとみどりと大の仲良しになれるで」
 そかれから肩を竦める。
「ああ、せやけどみどりの所に謝りに行く前にいけずな奴らのお相手をせなあかんみたいやけどな」
 悪戯っ子のように口の片端を吊り上げて、
 それと同時に呪符の防護壁が背後から迫ってきたクナイを弾き飛ばした。
 そして涼香はもはや一片の迷いも無い凛々しき表情で周りの黒装束たちの見回した。
「ほな、さっさと始めようか、葉隠れの生き残りはんたち。うちは早よ、みどりの所に行ったらなあかんのやから、せやからちーっとばかし、扱いが雑になるけど、許したってな」
 美しき舞姫の剣舞が、今始まる。



【氷の殻】


 とぼとぼと歩いていくみどり。
 茶色の瞳から零れ落ちた涙は氷となって、世界に落ちた瞬間に世界を凍らせる。
 雪女のみどり。
 銀色の髪を揺らして、世界を凍りつかせて歩いていく。
 茶色の髪を揺らして泣き叫ぶみどり。
 茶色の瞳から溢れ出す涙は温度を持っているけど、でもそれで世界を凍らせる氷は溶かす事はできない。
 みどり独りでは、雪女みどりを助ける事はできない。
 だからみどりは言う。
「助けて、涼香ちゃん」
 呟く声は凍てついた世界に響いた。
 だけどそれだけ。
 茶色の髪は銀色へと変わり、雪女みどりは声にはならぬ声をあげながら、凍りついた世界…凍りついた廃村で、泣いていた。
 誰にも助けを求めることは無く。
 ただただ泣いていた。
 迷子の子どもが泣けば、誰かが助けてくれるかもしれない。
 泣き声が、母を呼ぶかもしれない。
 だけど雪女みどりは知っている。泣いても自分には誰も居ない事を。
 自分の泣き声は誰にも届かない。
 なら、どうして自分は泣いている?
 本当は祈っているのではないのか?
 ―――大切な誰かに、自分を想ってくれる誰かに、自分の泣き声が届くのを。その泣き声を聞いて母親が駆けつけてくれるように、その誰かが来てくれる事を。
 違う。自分はそんな事など願ってなどはいない。
 人間なんて皆嫌いだ。誰も信用できない。
 皆が自分を苛める。憎む。優しく包み込んでくれたお兄ちゃんはもう居ない。
 ならばこんな世界など滅ぼしてしまえ。
 お兄ちゃんの居ない世界なんて、滅んでしまえ。


 例えば光の届かない暗い牢獄に閉じ込められていたのなら、光なんて求めない。
 例えば世界の匂いが届かないのなら、世界なんて求めない。
 例えば人の声や草木の唄、鳥のさえずりなんかが聞こえてこなければ、孤独なんか感じない。


 だから世界なんて滅んでしまえばいい。
 凍りついた世界ならば、光も、世界の匂いも、人も、温もりも、もう何も無いのだから。



『そうやってあなたはすべてを拒絶して、否定して、壊して、その果てに何を求めるの? そこに何があるの?』
「何も無いから、壊すの。私には何も無いから、何もいらないから、だから壊すんだ、私はァッ」



 かわいそう。かわいそうな、あなた。もうひとりの私。
 お願い、涼香ちゃん。助けてぇ。
 助けてあげて、涼香ちゃん。
 もうひとりの私を助けてあげて。



 涼香ちゃん、助けてあげて………



 言葉は願いとなって、極寒の殻を通り抜けて、風によって運ばれる。
 それは想う心だから。
 雪女のみどりを。


 そしてだからこそ、その願いは届く。
 彼女に。
 彼女もまた、想う人だから。



「悪いなー、あんさんたち。ほな、うちは行くわ」
 紅蓮を鞘に収めると、涼香は身を翻した。
 その彼女の背に向かい、涼香によって倒された葉隠れの生き残りを統べる男が最後の力を振り絞って声をかける。
「何故だ、友峨谷涼香。我ら組織を敵に回して、おまえもあの雪女も生き残れる道理が無い。おまえは妖を封じる側、我らの側のはず。なのにどうしておまえがそうまであの雪女に肩入れするのだ? 今ならまだ間に合う。だからこちら側に戻り、あの雪女を滅しろ」
 どっと重い声を押し出すその男に、涼香は優しく微笑んだ顔を横に振って見せた。
「命なんて欲しゅうない。みどりを守るためやったらね。みどりにうちは借りがある。あの娘を守るって口にしときながらうちはみどりに剣を振り上げてしもうた。そして何もあの娘の事を理解してあげられてへんかった。その事が一体どれだけあの娘の事を傷つけたか? それを想像するたびにうちの胸が痛むんやわ。せやけどその痛み、みどりの痛みに比べたら、どって事あらへんのやで? せやからうちはその借りを返さんと」
「あれは雪女だ」
 それで涼香の言う事を切り捨てようとする男に、しかし涼香はふっと微笑んだ。まるで自嘲するように。
「雪女、か。そやね、みどりは雪女やわ。うちの母さんの憎い仇の仲間やわ。うちは心底、妖を恨んどった。母さんを殺したのは妖やから。ただそれだけで妖の全てを恨んどったんや。せやけどそれ間違いやったわ。だってうち、みどりの事が大好きやもん。みどりの事が大好きやからこそ、うちはあの娘の全てを受け止めてあげんといけなかったんやわ。あの夕暮れ時の世界でうちの母さんがうちをちゃんと見てくれて、抱きしめてくれたように、あの娘の事をちゃんと見て、抱きしめてあげるのがうちの仕事。そのためやったら、うち、世界の全てを敵に回したるわ」
 そうだ。それぐらいの覚悟が無ければみどりは救えないし、そしてみどりひとり守れないのなら世界も守れやしない。
 にこりと最後に微笑んで、涼香はその場を後にした。
 そして霊園を出た所で、涼香の携帯電話にメールが着信する。協力者からだ。
 その協力者のメールにとある廃村の住所が書かれていた。そこがみどりが居る場所。
「今行ったるさかいな、みどり」



【涼香】


 組織の闇は【葉隠れ】が。
 そして表立った実働部隊として、頂点にあるのが【十二羅帝】だ。
 十二羅帝は十二人の最強の術士たちによって構成される。まさしく最強の部隊。
 ただしそれは戦闘力が特化している者たちを集めた部隊ゆえに品位は無い。慈悲も無い。ただ目の前にいる妖を殲滅するのみだ。それに快感を感じて。周りに人がいようが関係無く術を使い、人を巻き込み、無用な悲劇を生み出す。
 そして武闘派部隊が【十二羅帝】であるのなら、文武派も存在する。こちらは術の理をマスターした法術系のエキスパートたちによって構成された部隊で【十六大護】と言う。
 今回の任務において組織上層部はとある決断をした。それはかねてよりその残虐性が問題となっていた【十二羅帝】をこの機に乗じて抹殺しようとするモノであった。
 しかし【十二羅帝】は組織最強の集団。おそらくは十二人で組織を壊滅させる事の出来る力を十分に持っているはずだ。
 そこで出てくるのだ【十六大護】であった。
 彼らがこの度完成させた術は、どのような強力な妖をも封印することのできる術、【天魔降伏】。
 その術を使い、【十二羅帝】を封印しようというのだ。
 おそらくはいかに【十二羅帝】と言えども雪女みどりを相手にしては無事ではいられないはずだ。何故なら彼女は【葉隠れ】を壊滅させたのであるから。
 そしてそこには友峨谷涼香もいるはずだ。
 組織を離反した友峨谷涼香、雪女みどり、【十二羅帝】、そのすべてを組織は一気に封印して、葬るつもりであった。


「親方様。【十二羅帝】、廃村に到着。間もなく彩峰みどりと接触するモノと想われます」
 十六大護のひとりが言った。彼は自ら両目を潰した事で千里眼を得た術士であった。
 そしてもうひとり、携帯電話でメールをどこかに送信した術士も十六大護の長に報告した。
「友峨谷涼香にも彩峰みどりの居場所、伝えました」
「うむ」
 長は頷き、そして十五人の部下を見回した。
「これより役目に入る。【十二羅帝】、友峨谷涼香、彩峰みどり、こやつらがいる廃村を取り囲み、【天魔降伏】に入る。良いな」
 部下たちは頷き、そして各々の立ち居地へと向かっていった。
 廃村を中心に十六方向にそれぞれが着き、気を最高潮にまで高めて、一気にその気を開放して技を発動させる。
 そうする事で時空に歪みが生じて、その歪みに廃村ごと封印してしまうのが【天魔降伏】なのだ。
 その封印術が発動するまであと1時間。



 そしてその事実を知らぬままに運命の環は動いていく。



 +++


 涼香が廃村に入ると、ざわりと肌に鳥肌が立った。
 いや、冷気のせいではない。
 戦慄だ。
「この気は? 【十二羅帝】が居る? いや、でも違う。この胸騒ぎはもっと何かこう危険なモノに対してで。せやったら………くそぅ」
 舌打ちすると涼香は凍てついた大地を踏みしめて廃村へと向った。
 その廃村は山間にある村で、もう何十年も人が足を踏み入れた事が無いために道は荒れ果てていた。
 その道無き道でさらに涼香の行き手を阻む雪と氷の眷属。
 道から生えた3メートル近い巨大で太い霜柱を紅蓮で薙ぎ払い、そして襲い掛かってくる氷狼や雪人形どもを斬り倒す。
「邪魔やぁー」
 鋭い突きの一撃で雪人形を粉砕する涼香。
 その彼女に向かって来るクナイ。
「ちぃ」
 次は十二羅帝か。
 紅蓮の横薙ぎの一閃でクナイを叩き落そうとするが、しかしそれを寸前でやめて、涼香はそのクナイを紙一重でかわした。転瞬、クナイが直撃した樹が爆発する。
「はっ。何だよ、かわしちまったのか、涼香。せっかくおめえのいい声が聞こえると想ったのによ」
「この変態が」
 毒づく涼香。
 しかしその涼香の言葉に嘲笑が上がる。
「変態? 変態ってのは、俺様じゃなくそいつのような事を言うのさ」
 転瞬、涼香の足下が流砂となって、彼女の体が沈んでいく。そしてその砂地獄の底に居る男はべろりと気色の悪い舌舐めずりをした。
「いひひひひ。涼香。ようやく夢が叶うぜ」
「はっ。人を気色の悪いの妄想の対象にせんどいてくれへん」
 鼻を鳴らして言葉を紡いだ涼香は紅蓮で流砂を叩きつけた。その衝撃で宙に舞うと、逆手で紅蓮を持ち替えて、涼香は流砂の底の男目掛けて落ちていく。
 だが男は水に潜るように流砂の底に潜り、
 そして涼香は舌打ちすると、まるで水面に浮かぶ木の葉のように流砂の底に浮かんだ呪符の上に舞い降り、それを蹴ってもう一度空に飛んだ。
 その彼女目掛けて、あらゆる方向から飛んでくる法具。
 しかしその涼香の体を囲う呪符数十枚。それが結界を張って、涼香を守る。
 すばやく動く涼香の瞳。飛んできた方向、タイミングから人数を割り出す。
「モグラを含めて六人。うちとみどり相手に半々に分けたっちゅう事か」
 そしてそこで涼香は口だけで笑う。
「舐められたもんやね」
 いや、寧ろそれに感謝するべきか。
 涼香目掛けて飛んでくる巨大なブーメラン。
 その一撃が呪符の防護壁を破って、涼香を囲んでいた呪符が地上に散らばる。
 ―――しかしその枚数が、多くなっているように見えるのは果たして観察者の気のせいであろうか?
 ブーメランを受け止める紅蓮。
 だがそれで衝撃を殺せるわけも無く、涼香の体が背中から後方にあった霜柱に叩きつけられる。
「がはぁ」
 口から迸る鮮血。
「興奮するぜぇー、涼香ぁー」
 戻ってきたブーメランを受け止めて、それを振り上げて襲い掛かってくる大男。まさかそのブーメランを鈍器のように扱って、涼香の頭をぶち割るつもりか?
 大男が自分の放った一撃で涼香の頭がぶち割れた光景を想像して、興奮の絶頂に達したような表情を浮かべた瞬間、しかし涼香は呼気とも嘲笑とも区別のつかぬ声を発して、自分が叩きつけられた霜柱を後ろ足で蹴って、自分から前に飛んだ。
 そうだ。涼香は霜柱に直撃する瞬間に体をくの字に曲げて衝撃を殺していた。
 舞姫が紅き刀身に弧を描かせて放った一閃は大男の両手を肘から斬り落としていた。
 そして擦れ違う瞬間にぐん、っと体を捻らせて、空中で半回転すると、両肘から赤い血をぶちまける大男の背に目掛けて一撃を叩き込み、大男は地面に直撃して、もはや動かなかった。
 地に着地する涼香。
 そして前に走って、仲間の凄絶な死の姿に動けずに居た男に向かって剣を振り上げて肉薄する。
「ふざけるなー」
 男は叫んで、放出系の法術を放った。それは炎の龍となって涼香を迎撃せんと。
 しかし涼香は構わずにそれに突っこんだ。
「馬鹿め。我が炎に燃やし尽くされろ」
 燃やし尽くされる?
 馬鹿はあんたや。
 そんな声が聞こえてきそうなほどの表情(あくまで鉛筆は手で折れるよ? と普通に言わんばかりの表情)を浮かべて出てくる涼香。
「馬鹿な、符術の防護壁などで俺の炎を耐えたというのか?」
 そうだ。それが涼香なのだ。彼女の符術は最強で、そして彼女はどの属性も使いこなす故に炎への耐久性もあった。故の現実。
「おのれぇー」
 男は自分の武具である二又の槍を構えて、鋭い突きを涼香に放った。
 だがそれは紅蓮によって打ち流し、そのまま男の目の前で回転しながら男の懐に飛び込むと同時に全体重と回転の威力を込めた肘打ちを男の水月(鳩尾)に叩き込んで、そして大きく前に揺らいだ男の顎に涼香は掌底を叩き込んだ。
 仰向けで倒れた男はもう見ない。
「残り四人。いや、三人や」
 涼香の見た地面の上の呪符。
 その呪符が燃える。そしてその転瞬に地上から飛び出した男。彼にとってみれば完全に涼香の虚をついたと想っていた。当たり前だ。自分は今の今まで地下に居て、その自分がどこから現れるのかわかる訳が無いのだから。しかし涼香は彼のための鈴を置いておいた。それがあの呪符だ。呪符が燃えれば、そこから男が現れる。
 素早く印を結ぶ涼香。そして男に向かって指さした。転瞬、男に落ちた雷。
 三方向から突っこんでくる残りの十二羅帝の面々。
 しかしその突き出された攻撃をすべて紅蓮によって叩き落し、打ち払い、受け止めて、返す刀は確実に彼らの命を薙いだ。
 美しき舞姫の踊る演目は剣舞。
 その踊りの御代は命。
「みどり」
 紅蓮を濡らす血を破った上着で拭うと、刀身を鞘に収めて、涼香は先を急いだ。


 残り15分36秒。
「十二羅帝を倒した? なるほど、さすがは友峨谷涼香か。しかしそれ故に我らから離反したあなたは滅されなければならない」
 十六大護の【天魔降伏】は確実に発動の時を迎えようとしていた。



 +++


 凍てついた氷の世界の中心で叫ぶ声はしかし、何を叫んでいるのだろうか?
 雪女みどりはそれがわからない。
 ―――ううん。本当はわかっているでしょう? あなたは、私たちは涼香ちゃんを待っているんだよ。
「嘘だ。あの女は私を否定した。人間なんか信じられるものか。信じるものか」
 ―――ならばどうしてあなたはこの人たちを殺さなかったの?



 雪女みどりの周りには半死半生の男たちが転がっていた。さすがの十二羅帝でもみどりには敵わなかったのだ。
 そう、雪女みどりは彼らを殺さなかった。
 人間を憎んでいたはずなのに。
 人間は自分から優しかった、大好きだったお兄ちゃんを奪った憎い奴らだったのに。



 お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。



 みどりにとってお兄ちゃんは世界の中心。神様。そのお兄ちゃんが居なくなった時、世界は色を失って、壊れた。
 だからそんな寂しくって悲しいばかりの世界は壊してやろうと想った。
 そう想いながらもしかしみどりは、みどりたちはだけどどうしようもなく本当は………



「違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違ぁーーーーうぅぅぅぅぅぅ」
 銀色の髪を振り乱して、雪女みどりは叫んだ。
 それはまるで悲鳴のようだった。
 そうだ。それを聞いた涼香は確かにそう想った。だから涼香は叫んだ。
 届けたかった、自分がここに居る事を。みどりは、みどりたちは決して孤独ではない事を。
「みどりぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーぃッ」
 激しい風雪の壁がしかし、止んだ。
 見詰め合う涼香と雪女みどり。
 涼香はようやく迷子の娘と出逢えた母親のような表情を浮かべた。
 だけど雪女みどりが銀色の髪に縁取られた顔に浮かべたのは見られたくない所を一番に見られたくなかった母親に見られた幼い子どもがだからパニくって浮かべるような表情。
 銀色の髪に縁取られる顔。雪女みどりが浮かべる表情は冷酷無比な冷たい表情。氷の彫像のような表情。故にその顔に浮かぶ表情は変わる事は無く。
 でもだけどしかし、今の雪女みどりはどこかもうどうすればいいのかわからなくって、消えてしまいたい、だから何もかもすべて滅茶苦茶になって、滅んでしまえばいい、そんな風に願う表情。
「うるぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー」
 胸が張り裂けそうな声は激しい風雪を呼んだ。
 息も出来ないほどの。
 せり出す霜柱。それが涼香の肢体を貫く。
 雪女みどりを包み込む氷。氷柱の中の雪女みどり。
 彼女は完全に世界を拒絶した。
 だけど、
「悪いなー、みどり。それでもうちは…」
 涼香は紅蓮を大地に突き刺した。
 そして彼女は無手で、みどりの下へ歩いていく。
 激しい霜に覆われていく涼香の体。呪符の防護壁も展開していない彼女の体はみるみる体温を奪われて、唇も真っ青になっていた。それでも彼女がその口を動かして紡ぐ言葉は………
「みどり、堪忍してなー。うち、ようやっと自分の間違いに気付いたわー。うちは本当のあんたをよう見てやっておられへんかったねー」
 優しく微笑む。
 そして過去に涼香の母親がそうしてくれたように、涼香も娘に優しく問いかける母親のように言う。心を言葉に織り込めて、口から紡ぐ。
「うちはあんたを助けたいと想った。それはあんたがうちにそっくりだと想っとったから。うちもあんたもとても大事な人を奪われたから」



『よくも――よくも―――奪ったな! 私の―――私の、かけがえのないものをッ!!』
 ―――あんたはお兄ちゃんを人間に殺された。
 うちは母さんを生き人形に殺された。



 その悲しみで繋がっていると想っとった。
 うちら二人はその悲しみを癒すために二人で居るんやと想っとった。



 せやけどそれは違っとったんよね。



 涼香は優しく微笑みながらみどりを包み込む氷柱にそっと触れて、そしてもうほとんど凍りついた体を無理やりに動かして、両腕でみどりを氷柱ごと抱きしめる。
 あの夕暮れ時の世界で、ずっと自分は独りぼっちだと想い、怖くって、悲しくって、絶望していた自分を母親が抱きしめてくれたように。



 大好きな大好きなお母さんの温もり。
 匂い。
 柔らかみ。



「うちとあんたは孤独やった。とても大事なモノを奪われてしもうた。せやからうちらはその悲しみを癒すために二人一緒に居るんやと想った。同じ孤独を知る似た者同士。せやけどそれは違う」



 びくりと氷柱の中でみどりが動く。



「うちらは孤独やからこそ、本当は誰かを求めておったんや」



 瞼を開く、みどり。



「うちらは独りだからこそ、その悲しみを知るからこそ、だから誰かを求めずにはおられへんかったのや。うちらは人を求めておるんや」



 震えるみどりの唇。



「あんた、言うてたな、奪ったな、って。それってな、そういう意味なんよ。あんた、その事自分でも気付いとらへんかったやろう?」



 涼香は自嘲の笑みを浮かべる。



「うちもあんたも独りの悲しみと不安、恐怖を知るからこそ、誰かを求めずにはおられへんかった。それでうちらは二人一緒に居た。やっぱりうちらは似た者同士やった。せやけどうちはみどりを求めるばかりにその想いが先行して、うちは本当のあんたを見てあげる事ができへんかった。ごめんなー、みどり。寂しかったやろう? 苦しかったやろう? 哀しかったやろう? 堪忍な。うちはみどりを求めるばかりにあんたの中の雪女を否定してしもうた。あんたは生粋の雪女。雪女のあんたもあんたなのに、せやけどうちは………。堪忍な、みどり。堪忍してな、みどり。雪女のあんたもうちの大切な妹や。堪忍しとうてな、みどり。堪忍な」



 ぽろぽろと涼香の目から溢れ出る涙。
 そして氷柱の中のみどりも涙を流す。



 二つの涙が溢れて、落ちて、そしてその二つの温もりが、世界を凍てつかせる氷を溶かす。



「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
 嫌いにならないで。
 嫌いにならないで。
 私を嫌いにならないで。
 ―――雪女の私は、雪女だから、誰にも愛する事をもう許してもらえるとは思えなかった。その恐怖、悲しみ、寂しさ。
 お兄ちゃんのもう居ないこの世界でずっと私は独りぼっちだと想っていた。
 だけどここに居た。ようやく見つけた。
 お兄ちゃん、ごめんね。許してくれるよね、お兄ちゃん………



 お兄ちゃん、ごめんね。



 みどりは涼香に抱きついて、そう言い続けた。



 孤独を知るから、孤独の悲しみや恐怖、寂しさを知るから、だからうち(私)はあなたを求める。孤独を知る人は、だから人を求めずにはいられないから。



 二つの心は今ここに結びつき合った。



 +++


 長は気を開放した。
 廃村を取り囲む十六方向から光の柱が昇り、世界を流れる気の道が強制的に歪められる。



 +++


 十二羅帝の長はそれが十六大護の【天魔降伏】だと気付いた。
 ぎりっと歯軋りする。怒りが湧き上がった。
 そして彼は自分たちがこんな目に遭わされる原因となったみどりに刀を振り上げて、襲い掛かった。



 +++


 完全に油断していた。
 普段の涼香ならば気付けた、反応できた。しかしみどりが帰ってきてくれたその嬉しさに完全に油断してしまっていたのだ。
 そして何よりもみどりが涼香を動かさなかった。
 涼香をぎゅっと抱きしめて。
 そうして涼香は雪女の力を解放して、十二羅帝の長を倒さんとするが、しかしもはや自暴自棄に陥った彼をそれで倒す事は叶わずに、彼はその手に握った剣でみどりの背中をざくりと斬った。
 涼香の腕の中で失われていく温もり。嫌でも蘇る生き人形に殺された母親の姿。
 ぷつん、と涼香の頭の中で何かが音を奏でて切れた。



 +++


 力が抜けていく。
 背中の傷から溢れ出す血と一緒に、自分にとって何か決定的な何かが流れて行くのだ。



 お兄ちゃん………



 置いていかれたから、だから今度は自分が置いていくの、みどり?



 暗い闇の中。
 みどりと雪女みどりがそこで向かいあっている。
 冷酷無比な表情しか浮かべないはずの雪女みどりが、だけどみどりに優しく微笑みかけていた。
「私たちは置いていかれる悲しみを知っているでしょう? だから置いていっちゃダメ」
「でももう、私たちは………」
「大丈夫。大丈夫だよ。もう私たちは自分を否定しないでしょう? 私も、あなたも、もう自分が雪女だという事を否定しない。だってそれでも涼香はあなたも雪女の私も大切な妹だと言ってくれた。だから………」
「うん。もう私たちは自分を偽らずに生きていける」



 二つの心は優しいぬくもりと絆を拠り代として、結び合い、ひとつとなる。



「私は生きている」
 静かに瞼を開くみどり。
 背中の傷はもう治癒していた。それが己が性を受け入れたみどりの力だ。
 銀色の髪に縁取られた美貌に大切な人を想う表情が浮かんでいた。
 銀色の髪を持つみどり。それが本当の彼女の姿。
 させない。
 そうだ、させない。
 涼香に憎しみの剣は振らせない。
 だからみどりは叫んだ。
「涼香ちゃーん」
 確かにお兄ちゃんの、がんばれ、みどり、という声を聞きながら。



 声は聞こえた。
 紅蓮の切っ先が男の額を割ると想われたその瞬間に。
「みどり。みどりぃー」
 生きているみどりを見て、涼香はまた泣いた。



 残り0。
 十六大護は【天魔降伏】を発動させた。



【次元の道】


「ちぃ。これは【天魔降伏】。ろくな事をせんな、奴らは」
「涼香ちゃん」
 身を寄り添わせるみどりの頭を涼香は優しく撫でた。
「大丈夫や。そう、大丈夫やよな。うちとあんたがおれば」
 そして涼香は【十二羅帝】の長を見る。
「【天魔降伏】は無理やりに気の流れの道を捻じ曲げて、それによって次元に歪みを生じさせる技や。十二羅帝の長であるあんたならば、十六大護の作り上げた歪みの道への扉を開けるやろう? そこにうちがありったけの力を込めて、一撃を放つ。そうすれば助かるはずや」
「ふん、よかろう。チャンスは奴らがこの廃村を封じるその瞬間だ。しくじるなよ」
「はっ。誰に物を言うとるのや? うちは友峨谷涼香やで」
「来るぞ」
 そして凄まじい寒気が襲ったその瞬間、
 長は十六大護が作り上げた空間に道を開けた。
「あとは貴様次第だ、友峨谷涼香ァ」
「ああ、わかっとるよ」
 紅蓮を振り上げる。
 そして、
「たぁぁぁぁぁぁ―――――――ァァァッ」
 気合いと共に剣撃を放った。それで生み出された衝撃はすべての属性を持った一撃だ。
 その一撃が、不死鳥となって、まずは空間の中心にいる十六人を包み込む防護壁を砕いた。
 そして十六人は一匹の巨大な龍となって、涼香に向かってきて、その龍に向かって、涼香は第二撃を放った。
 だけどその一撃は龍の進行を止めるだけだ。空間でぶつかり合い、均衡する力と力。
「いかん」
 涼香は悲鳴をあげる。
「このままでは、空間が爆発して、世界が消失するで」
 正しくは長が作り出した道がブラックホールとなって、世界はそこから吸い込まれて、破滅する。
 しかし涼香は、そして十六大護も、十二羅帝の長も忘れていた。
 そこには、
「我が従順たる氷の眷属よ、我が下に集いて、そして我が命ずる敵を討て」
 詠うように紡がれる言葉。
 みどりの下に氷の精が集い、そしてそれは氷狼となって、荒れ狂う次元の扉に飛び込んで、涼香の放った一撃と共に、十六大護の【天魔降伏】を粉砕した。



「長」
「ふん、やられたわ。もはや【天魔降伏】を破られた我らには力は無い。引くぞ」
「はっ」



「友峨谷涼香、彩峰みどり。いつか我ら【十二羅帝】の生き残りが必ずや貴様らを殺す。そうだ。組織と【十六大護】を滅ぼしてやってくれてからな」


【ラスト】


 もう春も終わる。
 直に夏が来る。
 それを感じさせる夕暮れ時の世界で、涼香とみどりは居た。
 涼香はみどりに手を出す。
 その手をみどりは握る。
「お帰り、みどり」
 微笑む涼香。
 わずかに目を見開く、みどり。その後にとても嬉しそうに微笑む。
「ただいま、涼香ちゃん」
 銀色の髪に縁取られるみどりの顔にはようやっと母親に出逢えた迷子の子どものような安堵に満ち溢れた表情が浮かんでいた。



 お兄ちゃん、私はもう大丈夫だよ。



 ― fin ―


 ++ライターより++



 こんにちは、友峨谷・涼香さま。
 こんにちは、彩峰・みどりさま。
 このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。


 今回はご依頼ありがとうございました。^^
 まさか任せてもらえると想ってはいなかったので、本当に発注表を見た時は嬉しかったです。^^
 PLさまのプレイングを読みつつ、そこに書かれている涼香さんとみどりさんの想いを想像しながら今回の二人の想いを想像し、そして紡いでみました。
 いかがでしたか? お気に召してもらえましたら、幸いです。^^


 それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
 ご依頼本当にありがとうございました。
 失礼します。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
草摩一護 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年05月02日

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