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『小さなおもちゃ箱 』
倉前・高嶺2190)&天樹・燐(1957)&倉前・沙樹(2182)




 人の多い場所は苦手だった。
 どうしたって人の多い場所では周りに気を遣ってしまう。
 家柄のせいで身代金目的で狙われる事の多い倉前高嶺にしてみれば、人混みの中など無防備に敵陣の中に入っていく事にも等しい。
 しかしそう思って外出せずに人との関わりも絶つというのもいただけない。
 世界中全ての人が自分の敵である訳がないのだから。
 敵になるのはいつだって本当に数える位の人数に過ぎない。
 それを恐れてびくつくことを高嶺は良しとしなかった。だから人混みが怖いという訳ではない。
 ただ単にあの大勢の人混みの中、揉みくちゃにされながら動き回るのが苦手なだけだった。気圧されてしまうのだ。
 それを考えるだけで気が重く、そこに赴くのが億劫に思えて仕方がない。

 高嶺は、ちらり、とテーブルに置かれた母から渡された数枚のチケットを眺める。
 それは会社が建設に携わった遊園地の入場券だった。
 なんでも最新の絶叫系マシーンやら辺りを一望出来る観覧車など、高嶺の心をくすぐるような乗り物が多数あるとの話だった。
 人混みの億劫さとそれらの期待を高嶺は心の天秤にかけてみる。
 その時、人が多い所は苦手だが最近克服しようと決心したのを思い出した。
 それを思い出すと、脳裏に二人の人物が思い浮かぶ。
 一人は従兄の倉前沙樹。もう一人はこういったことが好きそうな天樹燐。
 よし、と高嶺は覚悟を決め高嶺は二人に連絡を取る事にする。
 この際だから遊園地で人混みを克服しようと。
 二人には楽しみながらそれに協力してもらおうと。

 そう考えると高嶺の行動は早かった。
 あっという間に二人から快い返事をもらうと、高嶺は嬉しそうにカレンダーにきゅっとマルを付ける。
 高嶺の人混み克服作戦が決行されるのは今週末だった。




■□■


 当日の朝、三人は待ち合わせをして遊園地へと向かう。
 周りにいる人々も同じ場所へと向かっているのだろう。天気の良い休日に遊園地は大盛況のようだった。
 遊園地に向かう途中、小さなリュックサックを背負った少年の手を引いて母親が、はぐれないようにね、と笑いかけている姿を見かけた。
 デパートや人混みの多い場所で自分もよくやるなぁと高嶺が苦笑する。
 一緒に歩いていても相手をあっという間に見失ってしまうのだ。それに関しては天才的だと思う。迷子の天才、情けない話だがウソではない。
 人並みを掻き分けて進むという事が慣れていない為ことさら難しく、それに必死になっているといつの間にか一緒にいた人物は消えているのだ。それでも途方に暮れてる高嶺を必ず見つけてくれる人が居る。だからそれでも平気だった。
 そんなことを思いながら歩いていると、あっという間に三人は遊園地の入場口へと辿り着いていた。
 にこやかな笑みを浮かべた遊園地の受付嬢に促されるままに、三人は高嶺にとっては戦場とも言える遊園地に足を踏み入れた。

 目の前には桜並木で作られた春限定のアーチがあった。
 それを嬉しそうに見上げながら燐が言う。爽やかな風が燐の髪を吹き上げ、桜の花を散らし見上げる三人の上に降り注ぐ。
「なんだか私達を歓迎してくれてるみたいですね」
「本当に綺麗。高嶺ちゃん、素敵ね、これ」
「あぁ、本当だ」
 高嶺も桜を振り仰ぐ。人はかなり多かったが、その花を見ていると少し心が安らぐようだった。

「よーし、今日はたくさん回りましょうね。まず初めは‥‥これなんてどうですか?」
 悪戯な笑みを浮かべ燐がパンフレットを開いて差したのは絶叫系マシーンだ。
「えっと‥‥初めから飛ばすんですね」
「もっちろん♪ 今日は一日三人で楽しむって決めてきたんだから」
 燐は笑い、高嶺の手を取る。
 え?、と驚いた高嶺にウインクをして燐は告げた。
「はぐれないように」
「ほら、高嶺ちゃん、行こう」
 そしてもう片方の手を沙樹に取られ引かれる。
 ととっ、と足が前に出た。
 高嶺は笑顔で頷いて引かれるがままに走り出す。
 三人が向かう先は大人気で何分待ちか分からない程並んでいる絶叫マシーンの一つだった。

 やっと順番がやってきて三人は乗り込む。
 安全装置でしっかり固定され、動き出すマシーン。
「このゆっくりと動き出す瞬間がたまらないのよね」
 くすくすと笑う燐に同意を示す沙樹。
「そうですね。そしてこの後に待ってるのがあの感覚だと思うと余計にドキドキと」
「あぁ、あの落ちる感覚か‥‥わっ」
 そう高嶺が後ろに座っていた沙樹にちらりと視線を送った瞬間、もの凄い勢いでマシーンは下降する。身体に襲いかかる重力。下降する勢いのまま斜めに駆け抜け、そして何度も回転する。
 その度に横からの重力がずんと身体にのしかかる。
 しかしそれが愉しいのだ。
 密かにこういった絶叫系の乗り物が好きな高嶺はその感覚を堪能する。

「次、あれは?」
 隣接していた絶叫系マシーンを指す高嶺。
「あー、上からだーって落ちてくるタイプのね。これ楽しいのよね。行きましょうか?」
「楽しそう」
 三人は笑顔を浮かべそのまま次々と絶叫系マシーンを総なめにする勢いで回る。
 待ち時間でカラフルなアイスクリームを食べたり、高嶺が隣にいた子供が離してしまった風船をすんでの所でキャッチして渡してやったりと色々ハプニングなどもあったが、絶叫系マシーンは乗りつくした。

「ちょっと待ってー」
 ぐるぐると回転するタイプの乗り物から降りた沙樹が、余りにもそのタイプの乗り物に乗りすぎてふらついた。
 それを支えた高嶺が燐と顔を見合わせる。
「ちょっと休憩しましょうか。もうそろそろお昼だし」
「あの芝生で皆食べてるみたいだな。沙樹、お弁当大丈夫?」
「うん、それは死守」
 絶叫系マシーンに乗っていてもそれは離さなかった。
「それじゃ、ご飯にしましょ」
 芝生に向かうとてきぱきとシートを引いて、ぽんぽん、と自分の隣を叩く燐。
 その手慣れた様子に高嶺と沙樹は笑いながら近づいた。
 春の柔らかな日差しの中で、沙樹の手料理の詰まったお弁当を広げる。
「美味しそう。色も綺麗」
 彩りも美しく、そこにも春が来たようだった。
「それじゃ、いただきます」
 動き回って程よくお腹も空いていた三人はお弁当に箸を付ける。
 沙樹はしっかり高嶺の好物も入れてくれていた。
 もくもくと食べる高嶺に燐が、はい、どうぞ♪ と声をかける。
 なんだろう、とそちらに視線を向けた高嶺は一瞬驚くが、口元に運ばれた料理を笑いながらぱくりと食べた。
「そうそう、これ高嶺ちゃんが作ったんですよ」
 そんな二人を笑いながら、燐にお弁当の中身を指し示す沙樹。
「へぇ、そうなの? 美味しそうね」
 はしゃぐ燐は、ずずっ、と高嶺に迫る。
「今度は私にも食べさせて下さいね♪」
 にこやかに微笑みながら告げられるお願い、もとい要求。
 ぱくり、と食べてしまった手前、やらなければいけないだろうか、と高嶺は戸惑いながら燐と沙樹に視線を向ける。
「うっ‥‥」
 有無を言わせぬ笑顔が燐の顔には広がっている。沙樹は柔らかに微笑んでいる。
 気恥ずかしさに赤面しつつ、高嶺は自分の作った料理を燐へと差し出したのだった。
 それを沙樹は楽しそうに見つめる。
 まるで姉妹のように仲の良い三人だった。


「お腹も一杯になった事だし、あれなんてどうかしら?」
 燐の指の差す方にあるのは『ミラーハウス』。
 全面鏡張りの迷宮だ。合わせ鏡でどこまでも道が繋がっているように見える場所。
 簡単に出てこれるだろうと高嶺は頷く。
「よし、行こう」
 隣に立つ沙樹の手を取り、鏡の世界へと足を向けたのだった。
 中に入ると燐はすいすいと鏡に惑わされることなく進んでいく。
 しかし沙樹と高嶺はその後を追おうとするが、燐と同じ速度では歩く事が出来ない。
 燐の姿を追って沙樹が前へ進むが途端に鏡に思い切り衝突し額を酷く打った。
 鏡に騙された沙樹を、しょうがないな、と苦笑しながらその場に座り込み額をさする沙樹に手を貸してやる。
 その手を取って立ち上がった沙樹だったが、鏡に動く燐の姿を見て声をあげた。
 すると高嶺が、今度こそ捕まえよう、と笑みを浮かべ前へと進む。
 しかし燐の手を掴み引き寄せようと伸ばした高嶺の手は空を掴み、先ほどの沙樹同様に額を鏡に打ち付けた。
 そこへ、ひょこっ、と燐がやってきて高嶺の額を撫でてやる。
「大丈夫ですか? 二人とも」
 なんか凄い音がしたから、と戻ってきた燐は申し訳なさそうに苦笑しながら告げた。
「もう少しゆっくり歩きますね」
「お願いします」
 高嶺と沙樹も苦笑しながら燐に頷いた。

 じゃれ合うように遊園地内を動き回る三人。
 子供だましのようなものもたくさんあったが、そんなことも笑いに変えて遊園地を堪能していた。
 夕暮れ時に、最後まで残しておいた観覧車を見上げる。
 沙樹が観覧車を好きだった事を高嶺は覚えていた。
 そして今日、この観覧車をとても楽しみにしていた事も。
「残るはこの観覧車のみね」
「遠くまで見渡せるかな?」
「ここら辺では最大級って話だけど‥‥乗ってみるのが一番」
 行くよ、と高嶺は先に立って観覧車へと向かっていった。

 三人は観覧車に乗り込み、夕闇の迫る遊園地を一望する。
 ゆっくりと高度を上げていく観覧車は、風で微かに揺れてはいるが怖がる程のものではない。
 高度を上げるにつれ、瞳を輝かせる沙樹。
 最大級の名はウソではないようだ。
 遠くまで眺める事が出来る。
 今日一日遊んだ遊園地はとても広く思えたが、観覧車の上から眺めるそこはそこまで広くは見えなかった。

 遊園地は小さなおもちゃ箱。
 その中で遊んでいた小人が自分たちで。

 そんなことが脳裏に浮かんで、高嶺はくすりと笑みを漏らした。
 沙樹と燐は窓に張り付いて外を眺めており、その笑みに気付く事はない。
 ぼんやりと小さく見える人混みを眺める。
 その時、心になにか引っかかるものを感じたが、沙樹に手を引かれ現実に引き戻される。

「見てみて! さっきあそこでお昼ご飯食べたよね」
「あの向こう側にあったんだ、噴水」
「なんで見つけられなかったんでしょうね」
 残念、と燐が肩をすくめる。
「でもまた来た時のお楽しみってのもあるかも」
 そう高嶺が告げると沙樹が嬉しそうに笑った。
「また遊びに来れたらいいね」
「今度来るのは夏っていうのは? 噴水の側で夏なら遊べそう」
 燐が瞳を輝かせる。
「夏は更に人が多いかもしれないけど」
 沙樹の言葉に高嶺は先ほど感じた違和感を思い出した。
 人混みの多さに気圧されてぐったりすることを予想していた高嶺だったが、そんなこともなく途中から人混みなど気にならなくなっていたのを不思議に思ったのだと。
 ただ純粋に三人で遊園地内を堪能することに夢中でそんな思いは何処かに飛んでいってしまっていた。

 これは上手くいったかもしれない。
 人混み克服作戦は。

 一人にやつく高嶺に首を傾げる沙樹。
「人混みも楽しかったから気にならなかった。だからまた来よう」
 ニッコリ、と高嶺は二人に笑みを贈る。

 本当に楽しい一日だった。
 だから二人に最高の笑みを。
 夕闇の中でその笑顔はとても綺麗に輝く。

 高嶺の笑顔につられて、沙樹と燐も笑顔を浮かべた。
「うん」
「次が楽しみ♪」
 二人も頷き観覧車の中には笑い声が漏れる。
 
 おもちゃ箱の中に響くたくさんの笑い声。
 ぱたん、と蓋を閉じてその想いを閉じこめて。

 今日は良い夢が見れそうだ、と高嶺は二人の笑顔を前にそう思った。
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
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東京怪談
2005年04月25日

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