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『Parental Affection 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)


 念じると、杖の先に炎が宿る。ぽつんと出てきた炎は杖を振ることによって飛び、目の前にいる女性に向かっていった。だが、女性は軽く身体を捻るだけで、簡単に炎を避ける。
「ううー……」
 杖を握って女性を睨むファルス・ティレィラは、杖を大きく振り被ると勢い良く振り下ろした。杖の先から炎が生まれ、飛んでいく。
「やああー!」
 ティレィラは杖を何度も振り下ろしては幾つもの炎を女性に飛ばした。だが女性は右に左に身体を捻るだけで、ひょいひょいと炎を避けていく。
「ティレ、頭を使いなさいって言っているだろう?」
「ううー、頭ー?」
 女性に言われて、ティレィラは杖と一緒に頭も振り下ろす。先程よりも勢いはついたがコントロールは格段に下がり、炎はあらぬ方向へ飛んで行ってしまった。口をへの字に曲げるティレィラに、目の前の女性、シリューナ・リュクテイアは呆れたように溜息を吐く。


 話は一時間程前に遡る。いつもどおり、魔法を習得させて貰えるものと思っていたティレィラの前に、シリューナは数本の杖をゴロゴロと荒っぽく置いた。
「師匠ー、これなあに?」
「杖だ。見れば判るだろう」
「杖なのは判るけどー……」
 その中の一本を手に取り、ティレィラはふるふると振り回す。一見、何ら変哲もない、木の杖だ。片方の先が少し曲がっているだけで、ただの棒に見えなくもない。
「私がただの杖を持ってくるわけないだろう?」
 そう言って、シリューナはティレィラの持っていた杖を取り、軽く振った。すると、杖の先にバチバチと弾ける光の球体が生まれる。
「うわぁ!」
「これらの杖は、念じることで魔法が発動する、いわゆる魔法の杖だ」
「すごいすごーい! 師匠、これ、私に使わせてくれるの?」
「当たり前だ。これが今日の試練なのだからな」
「え?」
 その言葉に首を傾げたティレィラに、シリューナが杖の先を向けた。
「それらの杖を使って、私に一回でも魔法を命中させろ。それが今日の試練だ。出来なければおやつは抜きだ」
「ええー!?」


 そうしてティレィラの悲鳴が魔法薬屋に響いてから一時間後の今、ティレィラはシリューナに一度も魔法を当てることも出来ず、刻々とおやつの時間が迫って来ている状態なのであった。
「ほらほら、ティレ。あと十分しかないぞ」
「うえぇー」
 おやつは食べたいけど魔法が当てられない上に時間はあと少ししかない。この切羽詰った状況にティレィラの頭は混乱しっ放しだった。冷静になれというシリューナの言葉も馬の耳に念仏である。
「ううー……」
 ティレィラは本日何度目かになる唸り声をあげ、持っている杖を変えた。今度は地面にぶつけることで、地面から蔦が生えてくる束縛系のものだ。だが、シリューナはそれも軽くジャンプするだけで易々と避けてしまう。
「どうせ威力は最弱に設定してあるんだから、遠慮なくやっていいのだぞ?」
「遠慮なんてしてないよー」
 腰に手を当てて仁王立ちしているシリューナはまるで隙だらけなのだが、何故当たらないのか。ティレィラはだんだん悲しくなってくる。
「ううー……応用……応用……頭を使うー……」
 ぶつぶつと言いながらティレィラは杖を見下ろした。そして、何かを決心したかのように頷くと、杖を持つ手に力を込める。
「これならどうだ! えいっえいっえいっ!」
 気合を入れて、ティレィラは杖を地面に三回叩きつけた。すると、杖が叩きつけられた場所から三本の蔦が生え、正面と左右からシリューナを襲う。
「ほう」
 シリューナは少し感心したように呟きつつも、三本を高く飛び上がって避けた。瞬間、空中で身動きがとれないシリューナに向かって、雷の球体が迫ってくる。
「時間差攻撃か。なかなか考えたな」
 しかし、これもシリューナは身体をくるりと前転させることによって、難なく避けてしまう。そして空中で体制を整え、地面に降りようとしたとき、目の前で何かがキラリと光った。
「しまった」
 咄嗟に顔を腕で庇う。その腕を氷の矢が掠り、シリューナは少し驚いたような顔で地面に降り立った。
「まさか氷を雷で隠して放つとはね」
「師匠ー! 当たった? 当たったでしょ、今のは!」
 感心するシリューナの腕が微かに凍っているのを見て、ティレィラの顔がぱあっと輝く。その笑顔にシリューナもにこりと微笑んだ。
「コントロールはまだまだだけど、作戦は良かった。ギリギリ及第点をあげよう」
「及第点?」
「合格ってことだ」
「やったー!!」
 シリューナの言葉に、ティレィラが満面の笑みで飛び上がる。腕についた氷を払いながら、シリューナはおやつー! と叫びながら家に戻っていくティレィラの背中を満足そうに見つめていた。










★★★

ハジメマシテ、緑奈緑と申します。
今回はシチュエーションノベルのご発注、有難う御座いました!
そして遅延、まことにすみませんでした!大変反省しております。
その代わりと言っては何ですが、初のシチュノベ『ツイン』ってことで、気合充分、集中して、お二人の楽しそうな感じを全面に押し出そうと頑張りました。シリューナはクールにカッコよく、かつちょっとお茶目に!ティレィラはとにかく可愛く!とパソコンの前でにやにやしながら書かせて頂きました(笑)。ので、是非楽しんで頂けていたなら光栄です!

以上、魔法の杖は先がぺろぺろキャンディーみたいに丸まっているものが好きな緑奈緑でした。

★★★
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
佐伯七十郎 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年04月21日

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