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『〜二人の帰り道〜 』
和泉・大和5123)&御崎・綾香(5124)





 和泉 大和は、相撲部の部室の整理を終え、ようやく部室に鍵を掛けた。
 相撲部のマネージャーである大和は、部員の中で一番最後まで残り、部活の後片付けをしていたのである。
 もっとも、この時に日頃の日課もこなしているので、別に悪い気はしていない。後輩の中には、片付けを手伝おうといいだしてくれる者もいるぐらいで、悪い気がする筈がなかった。

「さて、結構遅くなっちまったな」

 大和は、鍵を職員室に戻してから下駄箱へと向かう。靴箱から靴を取り出し、スリッパを仕舞ってからその場を後にした。
 下駄箱を後にして校庭に出る。校庭には、既に人影も何も無い。いくら高校でも、日が落ちるこんな時間帯まで大事な生徒を校内に置こうとはしない。大和は顧問に顔が利くため、特別に許して貰っていたのだ。つまり大和は、生徒の中でも、少しだけ例外に入るだろう。
 そのため、少し急ぎながら校門に向かう途中で、まだ明かりを灯している道場を見て、それとなく気に掛かったのもおかしいことではない。

「何だ?まだ人がいるのか?」

 大和が、その明かりに歩いていく。時々その道場からは、パシュッ!、バシュッ!っと、何かを鋭く放ち、刺す音が聞こえた。

「あ〜、弓道場か」

 大和が弓道場の扉を開けて、中を見てそう呟いた。弓道場の中にいるのはたったの一人。しかも同級生の女生徒が残っており、黙々と矢を番えては放っていた。
 額から滲んでくる汗を拭い、相当長い間そうしていたのだろう。明らかに疲れが見えている。
 大和は少しの間そうして見ていた。大和が見ているのにも気が付かずに矢を放っている女生徒は、やがて手持ちの矢が無くなりかけているのに気が付き、ようやく放つのを止めた。

「精が出るな」
「………いつから居た」

 女生徒、御崎 綾香が大和に気が付いて、少し棘のある声で言う。大和は全く気に掛けず、勝手に靴を脱いで弓道場に上がり込んだ。

「何してる?」
「見て解るだろ?片付けだ」
「何故そんなことをしているのだ」
「もう遅い。教師だって帰ってるぞ?」
「………」
「ほれ、とりあえず……これは何処に仕舞うんだ?」
「……そっちだ」

 綾香はどうでも良くなったのか、片付ける場所を気のない声で聞いてくる大和に指示を出しながら、自分も片付けを始めた。矢と弓を片付ける。床の清掃などは早朝に部員でやるので、簡単に済ませた。
 二人でやった御陰か、十分程で終える。やれやれと息をついて、大和が何事もなかったかのように戻っていく。
 綾香は、そんな大和の後ろ姿に向かって話しかけた。

「何しに来たんだ?お前は」
「別に、気になったから来ただけだ」

 本当にそうだったため、大和は頬を掻いて、少し考えながら言った。綾香は、何も考えていなさそうな大和に少し戸惑ったが…………

「一緒に帰るか?」
「………着替えるから待ってろ」

 大和の申し出を、意外にもあっさりと了承した。








「待たせたな」
「別に……行くか」

 弓道場の前で待っていた大和は、下駄箱経由、外靴に変えてから戻ってきた綾香に素っ気なく言うと、一人で歩き出した。歩き出す大和の横に、綾香が並ぶ。
 …………並んだは良いが、二人は黙々と歩いていくだけだった。綾香も大和も、特にペラペラと話す様な性格ではないため、ただただ歩いていくだけだった。
 辺りはもう暗い。大和が弓道場に来た頃はまだうっすらとしていたが、今では道の蛍光灯が灯っているのに違和感がない程暗くなっていた。それが、二人の雰囲気を、どうも気まずくさせる。
 綾香もだが、少しだけ大和もだんだん居たたまれなくなってきていた。大和は「む〜」と短く唸ると、何とか口を開く。

「お前さ、何か悩みでもあるのか?」
「いきなりだな。別に悩みなどない」

 少しムッとしているような声で綾香が答える。大和は、「そうか?」と言った後で、思い帰すようにまた唸った。

「その割りには、結構集中が乱れてたな。的中率も悪かったぞ?見てただけだが、ほとんど外枠に当たってたな」
「む……」
「まぁ、言いたくないなら別に良いんだ。と言うか、立ち入ったこと聞いてすまんな」
「別に。私には、悩みも何も無いのでな」
「そう言うんなら、別に良いけどな。…………そう言えば、クラスの奴に聞いたんだが、お前の家って神社なんだってな?時間とかに五月蝿いって聞いたけど……」

 少しストレート過ぎる会話だったが、何とか二人の間に会話が続く。一回始まったそれは、何故か途切れることもなく延々と続いた。ほとんどが身内についての取り留めもない、しかし妙に込み入ったことばかりを話す。
 二人とも、テレビや雑誌などの話をするようなことはない。そもそも、二人ともあまりそう言ったことには興味なかった。綾香は家が厳しいからネタがなく、大和はそれを勘で分かっているからこそ、話を振らなかった。むしろ、家や自分のことを話していた方が落ち着くのも、二人では確かなのだ。

「ほう。この前の騒ぎの原因はおまえだったのか」
「まぁな。俺も一枚噛んでいたってのは確かだ。でも、直接の原因は俺じゃないぞ?」
「一年生が喧嘩を売ってきたと、そう聞いている」
「見ていなかったのか?」
「興味がなかったのでね」

 綾香の返事に、大和が「せっかくの俺の活躍を見てなかったのか……」と少し大袈裟に肩を落とした。こうしてリアクションを付けるのも、大和にしては珍しい。普段では、学友と話していても割りと淡白にしか返さない。綾香にしても、こうして話しているだけで、クラスメイトが見よう物ならたちまち噂になりかねない程に珍しいことだ。
 もっとも、綾香は周りが思っている程、無口な方ではない。ただ単に、会話が合わないため、すぐに途中で途絶えてしまうだけだ。綾香が身に纏う雰囲気と、皆が綾香に抱いている『高嶺の花』という印象が、会話を続けなくさせるのである。だからこそ、こうして、大和のような『そう言うことを全く気にしない人間』としか、まともな会話にはならないのだ。厳格な家に生まれたために冗談も通じず、本人自身、真面目で冗談も言わないため、そう言う、少し対人関係に臆病になってしまっているのも、仕方ないことなのだろう。
 さて、そんな綾香は、半分嘘を付いた。いや、実際興味はなかったのだが、大和とエースの騒ぎを、見てはいたのだ。
 騒ぎが最高潮に達していた頃、弓道場の部員達も観戦に行ってしまい、自分も気になり始めて集中出来なかったため、気晴らしに足を運んだ。結局最後まで、相撲自体に興味は湧かなかったが、エースの一年を、怪我のハンデを持っているにも関わらず一蹴する大和が、非常に印象に残ったのである。

 …………………そうでもなければ、こんな夜道を、男と一緒に帰ったりなどあり得ない。

「相撲って好きじゃないのか?テレビとかでやってるだろ」
「父親が時々見てるが、その時間帯は修行中なのでな」
「神社の娘だろ。国技ぐらい見ろって」
「善処する」
「善処するって……御崎、意外と素直だな」

 大和の言葉に、綾香の足が一瞬止まる。しかし、すぐに何事もなかったかのように歩き出した。少し歩を早め、大和の隣まで追いつく。

「意外とは何だ。私が素直だと、似合わないか?」
「少なくとも、皆の言っている印象からは懸け離れているな」
「…………………皆は何と言っているのだ」
「『高嶺の花』」
「………そうか」
「これって、女子にとっては最上級の賛辞じゃないのか?御崎、少し落ち込んでるだろ」
「別に。気にしてなどいない」
「………御崎、面白いぞ」
「嬉しくない」

 心なしか、綾香は悔しそうだ。敬遠されているとは思っていたが……まさかそう思われているとは思わなかったのだ。誰も話しかけてこないはずである。
 大和はそんな綾香の反応に気が付いているのか気が付いていないのか、「そうか」と返事して、次の話題を考え出す。だが、今度はあまり思いつかなかったのか、何も言おうとしなかった。
 綾香は、妙に真面目な顔で思考に没頭している大和の顔を横目に見る。普段見かける時の顔とは少し違う雰囲気に、綾香は大和の評価を変えた。

(何だ。昼行灯と聞いていたし、私もそう思っていたが………。鋭いな、胆力もあるみたいだし、皆が思っているよりも頼りになるのかも知れん)
(『高嶺の花』……ね。どっからどう見ても、普通の女の子じゃないか)

 それぞれ相手の印象が残った。普段は会話すらしないというのに、ほんの偶然、帰りを共にしただけで、少しだけ距離が縮まる……
 やがて、綾香の住む神社への、長い階段に差し掛かった。
 ここからは分岐点。これで終わりだ。多分、また偶然が重ならない限りは、一緒に帰るようなこともないだろう。

「おっと。そっか、ここだったのか。………そう言えば、正月にも見かけてた様な………」

 大和が呟く。綾香は今まで、実家の手伝いで神社の仕事をしており、何度か顔を合わせていたのだが、本当に気が付かなかったらしい………
 らしいと言えばらしいので、綾香は、大和のそんな所が妙に気に入ってしまった。

「じゃあな。また明日にでも、学校で」

 言ってから、サッサと帰ろうとする大和。
 …………本当に綾香のことを特別視していない。

(そうだ………そんな男だからこそ)

 綾香は、そう思った瞬間、反射とも言えるような感覚で呼びかけていた。

「和泉!」
「ん?」

 大和は、急に背後から呼びかけられたことにか、それとも綾香が、今までとは少し違う雰囲気で声を掛けてきたことにか、驚いたように振り返った。

「その……なんだ。えっと………これからも、時間があったら、一緒に帰らないか?ちょうど方向も同じだしな」

 多少どもりながらも、途中からは一気にまくし立てた。普段から話し慣れていないため、こういう事を言い出すのには、普段の不器用さがフルに発揮されていた。最後ら辺は、言い訳にも聞こえる。
 まぁ、どこぞのラブコメのように、途中で走って逃げ出さない分、そこら辺は綾香である。
 大和は、そんな綾香をジッと見てから………

「別に良いぞ」

 それだけ言って、今度こそ「じゃあな」と、背を抜けながら手を振って歩いていった。今まで通りの気のない、皆が思っている通りの昼行灯な大和だ。『高嶺の花』の綾香からの誘いでも、別に気にするようなことではないらしい。大和の姿は、暗く染まった夜の住宅街へと進み、やがて角を曲がって見えなくなった。
 大和が見えなくなるまでずっと見ていた綾香は、しばらく経ってから、自分が言った言葉に気が付き、更にずっと大和を見ていたことに驚きながら、慌てて神社への階段を駆け上がり始めた。

 いつもよりも、今までよりもずっと早く駆け上がったにも関わらず、神社にたどり着いた綾香の顔は、誰が見ても、今までの綾香とは違う雰囲気を醸し出していた………












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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
5123 和泉・大和(いずみ・やまと) 男性 17歳 高校生
5124 御崎・綾香(みさき・あやか) 女性 17歳 高学生
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■         ライター通信          ■
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 二度目(三度目?)のご依頼、ありがとうございます!メビオス零です!!
 さて、今度はちょっと遅れてしまって申し訳ありません。色々立て込んでまして………言い訳は要らないですね。はっはっは(ヲイ)
 ええ〜、今回は……ああ、なんてこった。綾香が積極的に動いとる。良いのだろうか……?結構疑問。このままではラブコメになりかねない。書いてて好きなんだけど(コラマテ)
 大和は昼行灯というよりかは朴念仁?いや、結構鋭いし………どっちだ?にしても、こっちもやっぱり良く喋っとるなぁ……もっと無口なキャラだったような気がするので…………失敗?
 と思いたくないですが、出来れば感想を下されば有り難いです。どこか反省点が有れば、どうぞご遠慮なく。書き手として、レベルアップには必要な事です。

 では、またの御機会がありましたら、是非ともよろしくお願いします(ロ_ロ)ゞ
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2005年04月21日

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