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『<<<The meaning of existence…>>> 』
オーマ・シュヴァルツ1953



『何かが存在する限り、それには必ず存在理由があるのです』

 青年が教会の前を通りかかった時、見慣れぬシスターが集まっている人々にそう説いていた。
彼女の前には真剣に聞き入っている者もいれば、ただ暇つぶしの為に足とを止めている者もいる。
 その中のいったいどれくらいの人々が、その言葉の意味を理解しているのか…。
「存在理由か…そんなモンがあるのなら…」
 裏道に青年が足を踏み入れた瞬間、”それ”はたちまち形を成して目の前に現れる。
”ウォズ”と呼ばれる異形の存在。
この世界には元々存在してはならぬモノであり、ヴァンサーである青年…オーマ・シュヴァルツが狩らなければならぬモノ。
「こいつらが…俺がここに存在してる理由はなんだってんだ…」
 オーマは小さく誰に言うでもなく呟くと、すっと手を掲げ精神を集中させる。
刹那、手を基点にして黒い光が彼の片腕へと集まり、彼の身長を越えるほどの長さで何かを形作っていく。
それは一丁の銃。
普通の人間ならば、とうてい扱うことはおろか持つことすら出来ないような銃を、オーマは軽々と手にしていた。
「俺が銃をお前に向けてる理由もな…」
 本来ならば、自分が狩るべき相手であるウォズ。
しかし、オーマには敵意も、戦うことを、相手を倒すと言う目的も無かった。
できる事ならば、何か共存する道はないかと…
 そんな彼の想いはしかし、今目の前に居る相手には伝わることは無い。
話をしようとしても、話など出来そうにない事がその全身から伝わってきていた。
「チッ…仕方ねえか…」
 オーマは舌打ちひとつ、銃を構え銃口を向け…
『先生ぇ―――っ!オーマせんせぇえええ!』
「へっ?!」
 突如、背後で泣き叫びながら自分の名を呼ぶ声が聞こえ、一瞬オーマの気がそれる。
その瞬間…対峙していたはずの”ウォズ”はふっと空気に掻き消えるようにして…その姿を消した。
「お、おいっ?逃げやがったのか…?」
『うわあぁあん!せんせぇがいない―――せんせぇ―――っ!!』
「なんだってんだ何があったんだ!?」
 ウォズの事も気になるが、自分を呼ぶ明らかな子供の声の方がよほど気になる。
具現化していた銃を消すと同時に、オーマは険しい表情をいつもの顔に変えてその声のする方へと向かった。



「おっまたせー!俺を呼んだのはどこの子かな〜っ?」
 聖都エルザードの天使の広場にある自身の病院前で、うずくまっている少女二人が目に入る。
元気ににこにこと微笑みながら声をかけたものの、少女達はどうやらかなり深刻な問題を抱えているようで、
オーマの姿を見つけるなり、怒ったような嬉しいようなほっとしたような悲しいような…
とにかく子供の胸では抱えきれないほどの想いを涙としてあふれさせ、オーマに体当たりでぶつかってきた。
『しぇんせぇえええ!!』
「どわっ!?」
 その場に思いっきり尻餅をついて転倒するオーマは、間抜けな声をあげてしまう。
しかし、自分の胸の中に顔をうずめて泣いている少女に気づくと…
優しく笑みを浮かべて、その二人の頭にそっと手を置いた。
「ったく、あぶねーだろ!何があったよ?どっか痛いんだろ?言ってみな」
「ちがうの…ちがうのぉ…」
「痛いのはあたしたちじゃないの…」
「へ?」
 この展開は犬か猫か鳥でも連れてきたんじゃないだろうな?と、オーマは一瞬思う。
過去にも何度か子供が泣きながら動物を抱いて駆け込んできたことがあるわけで…。
「よーし、わかった。痛いのはポチか?」
「違うよ〜!」
「……じゃあ、タマ?」
「ちがーうっ!!」
「違うのか?!じゃあ間を取って…モンチッチ?」
『違うよっ!!』
 少女二人が声をそろえて抗議の目を向ける。
「この子だよっ…!」
 そして、一人の少女がそっと手の平を開いてオーマにその中のものを見せる。
一瞬、小鳥でもいるのかと覗き込んだオーマだったが、”それ”を見てひくっと表情を固めた。
そこにいるのはどう見ても”昆虫”。
昆虫の中では子供たちの間で一番の人気と言われる、”チャブトムシ”。
 過去に何度も動物を持ち込まれたことはあっても…さすがに昆虫ははじめてだった。
「この子、元気がないの!」
「エサも食べないんだよっ…」
「あ、ああ…確かに弱ってるみたいだけ…ど…」
「せんせぇっ!治してくれるよねっ?!ねっ?!」
「お父さんもお母さんもみんあオーマ先生はいいお医者さんだって言ってたもん!」
 純粋な四つの瞳に見つめられて、オーマは戸惑う。
確かにその辺の医者と比べたら自分の実力は上を行くと自分で言ってもいいほどの自信はある。
しかしそれもあくまで『人間』相手の話で、百歩譲って『動物』相手の話…
『昆虫』などと言うのは、正直どうしたら良いのか…。
「この子わたし達の大好きな大事なお友達なのっ…お注射してあげて?」
「お薬もちゃんと飲ませるからっ…!」
 真剣な眼差しは痛いほどの強さでオーマに突き刺さる。
その様子を見ていると、その少女達にとってその『虫』の存在が本当に大切なものなのだと感じられる。
子供の手の平の中にすっぽりと収まってしまうほどの小さな小さな虫。
しかし、その『虫』を大事に想う少女の気持ちは、人が『人』を想う気持ちと何が違うのだろう。
人が『動物』を愛する気持ちも…対象が違うだけで全ての根本は同じ気持ちなのだ。
「よ…よっしゃあ!わかった!オーマ先生に任せろ!」
「ホント?!」
「おおっ!先生の手にかかればあっという間だぜ!
でもな、おまえさん達が『元気になれ』つって、心の底からお願いしなきゃあこの子は治らないぜ?できるか?」
『うん!できるっ!!』
 声をそろえて言う少女達の頭を、ポンポンと叩いてオーマは立ち上がる。
服についた砂埃を軽く叩いて…病院のドアを開いた。
「ようこそオーマ先生のなんでも病院へ」



 あらゆる書籍を片っ端から見て、初体験の『虫の治療』を無事終えたオーマ。
果たして本当に治ったのかどうかも疑問だが、少女達は嬉しそうに満面の笑顔で帰っていった。
「小さな虫でも…あの子らにしてみりゃあ大事な大事なお友達、か…」
 治療したところで、どうせ虫の寿命なんて知れている。
遠からず必ずその命を終えて、少女達は悲しみに暮れる時を迎えることになるだろう。
それでも、少女達に求められている限り自分は医者としてできる事をしてやりたい、そうオーマは思った。

『何かが存在する限り、それには必ず理由があるのです…』

「差し詰め、この町での俺の存在理由は人と動物と虫の命を守るお医者さんってとこか」
 その反面でウォズと戦い、時にはその命を奪うことにもなる。
できる事なら共存の道を…戦うこと無く、共存し共栄できる道を…
しかし、互いに戦うことが、対立している事がそれぞれの存在理由なのだとしたら…
それがなくなった時、存在理由を失くした両者の関係は、どこへ行ってしまうのだろう。
「―――やーめたやめたっ!考えてても仕方ねえっ!
そろそろ腹も減ったし、愛妻料理でも食べてゆっくりするか!あいつも待ってるだろうし♪」
 落ちて行く日の光と同じように暗くなりそうな気持ちを切り捨てるために、
オーマは愛する妻と娘の姿を頭に思い浮かべ、さっと立ち上がった。

『何かが存在する限り、それには必ず理由がある…ならば自分と、ウォズの存在理由は?』

その答えは、今はまだ…いや、きっといつになっても出ることは無いだろうとオーマは一人呟いた。





<終>



※この度は誠にありがとうございました。
※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますがもしありましたら申し訳ありません。
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聖獣界ソーン
2005年04月18日

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