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『己の在る意味 』
陸・震5085

 最近、陸震には気になることがあった。
 額にそっと指を寄せ、改めて確認する。何度見ても、その事実は変わらない。
 眉の上辺りに、一対の目ができているのだ。
 心当たりがないわけではない。というか、それ以外にこの異変の原因として該当しそうなものがない。
 今から一ヶ月と少し前のことだ。
 陸震は、中国の地・山東省にて甦りし魔神、蚩尤と戦った。その死闘は一ヶ月にも及び、帰ってきたのはつい数日前。
 勝ちを得たのは陸震だ。とはいえ蚩尤を滅ぼしたわけではなく、彼の存在を陸震の身に宿したと言うのが正しい。
 そして地上から天へと戻ってきて、そうして陸震はこの事実に気がついたのだ。
「どういうことだ……?」
 あのような強力な魔神を宿し、なにも変化がないというのもそれはそれでおかしいことなのかもしれない。
 だがこのようにあからさまに自らの外見が変わるような事態になるとも思ってはいなかった。いや、それほどに蚩尤が強い存在と考えるべきか。
 ……そう。
 宿したものの内面――能力だけではなく、外見にまで影響を与えるほどに。
 しかし、目、とは……。どうして、目、なのだろう?
 蚩尤の外見――人身牛蹄、四目六手、頭に角が生えていた事と関係があるのだろうか?
 だが、陸震の変化は外見的なものだけではなかった。食にも変化が現れはじめたのだ。
 常にというわけではない。だが普通ならば到底食べられるはずもない―――けれど、蚩尤の常食であった物質。陸震は、砂や石、鉄などを食すようになっていた。
 表向きはなにも変わらないふうで、陸震は方術と武術の修行に励み続ける。
 けれど、ふいに、このままで良いのだろうかと……そんな考えが頭に過ぎることがあった。
 天仙としての自分。長きの修行を得て、武術だけでなく方術にも長けた自分。魔神を宿したことで比類なき神力を手にした存在。
 けれど思いはすぐにかたちになるようなものではなく、そんな日々の中で、陸震は、ひとつの宝貝を創りあげた。
 倭刀型宝貝『炎皇』――その名の通り炎を宿すが、それはただの炎ではなく、可視不可視に関わらず全てのモノを断つ炎。生死さえも関係無く、一切の例外無く魂までをも断つ力を持つ刀であった。
 この宝貝がそれほどの力を得たのはやはり、蚩尤の体より出でた鉄や金属で鍛えたものであるからという部分も大きいだろう。
 創りあげた炎皇を見ながら、陸震はまた、己を省みる。
 それは自分の存在意義や本質についてであり、また、これから己が成すべきかという疑問。
 繰り返し繰り返し、ゆっくりと。
 それらの問いを自分の中へと染み込ませ、そうしてまた考える。
 けれど答えはいつまで経っても出る様子がなく、ある日、陸震はひとつの行動を起こした。
 これといって明確な理由があったわけではない。ただ、天にいても答えは見つからないような気がしたから……。
 だから、陸震は。
 地上におりることにしたのだ。
 様々な風景を見、様々な人間達を見。
 そんな毎日の中で陸震は、たった独りで泣き耽る子供を見つけた。
 迷子なのか、それとも……。
 汚れた衣服には血がついており、もしかしたら怪我をしているのかもしれない。
 そんなことを考えながら、陸震はその子供へと近づいた。
「…………」
 突如やってきた長身の男――陸震に驚いたのか、子供は驚きにピタリと涙を止めて、陸震を見上げてくる。
「どうした?」
 問うた言葉はひどくぶっきらぼうな口調で紡がれた。
 けれどそれは決して、冷たいものではない。
 ぶっきらぼうでクール。だけど、どこか優しい空気を持つ。
 それは声であり、表情であり、纏う雰囲気から醸し出される空気であった。
 そんな陸震の空気を感じ取ってか……怯えのような表情を見せていた子供が、次第に、その表情を和らげた。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
日向葵 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年04月11日

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