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『想い雨 』
シャナ・ルースティン2220

 今日で、決まる。
 今日が、始まる。

 一日という名に、どれほどの差異があるわけでもない。
 また、誰にとっても等しく同じだけの時間があるわけでも。

 ただ―――

 今日は、答えをもらえる日。
 先月のあの日から、待ちに待った今日という日の――





 遠くから輝く星々。
 違う人から見れば些細な小さな星でも、当事者たちから見れば何よりも瞬く。

 見つけにくい星でも、きっと。
 誰かから見ればそれは、降るように輝く星。




 お返しに妻は喜んでくれるだろうか……そんな不安を胸に宿らせながら、シャナ・ルースティンは先月のお礼として妻であり大切な人であるユシア・ルースティンを天文台へと誘った。
 お菓子など滅多に作る事のない妻から貰った、甘さ控えめのガトー・ショコラ。
 ここに来て初めてのバレンタイン、まさか貰える等とは考えても居なかっただけに、一口食べるごとに、何を贈ろうか、何を贈れば喜ぶだろうかと考えを巡らせたりもしたのだけれど。

(結局、この贈り物以外には何も思い浮かばなかった……)

 喜んでくれるだろうか?
 いいや、もし喜ぶと言うほどではなくても、少しでも穏やかな笑顔を返してくれれば、良いのだけれど。

 対する、ユシア・ルースティンは、夫の言葉に幾度と無く瞳を瞬かせた。
「ええと……あの、今から、ですか?」
 突然の夫の誘い。
 先月のバレンタインの光景――照れながら、ガトーショコラを食べていたシャナの姿――を思い出し、一人笑っていたユシアには驚きの誘いであり、まさか今日、天文台へ行こうという言葉を聞こうとは思いもよらなかったのだ。
 ちゃんと、考えていてくれた。
 そんな些細な事が凄く、嬉しい。
「いいや、夜になってからだが……まずは先に言っておかないと、と思ってな」
「まあ…でも、素敵。夜のお散歩、なんて」
「ああ、たまには……」
 笑みを浮かべシャナは、妻の耳飾りへと手を伸ばし、触れる。

 シャラ……。

 音を立て揺れる、耳飾りに微笑を深め「楽しみですね……」と微笑を含んだ妻の声を、音楽を聴くような気分で聞いていた。





 星は彼方から光を放つ。
 星々からすれば、自分達の輝きが空に映し出される、と言うことは考えもしない事なのだろうが。
 空を、仰ぐ。
 天上には見られてるとは気付かない、孤高の星が並び立つ。





 一緒に居る事。
 一緒に暮らす事。

 例えば、一緒に居るだけで家族なのか、と言われたら答えを探すだけで手間取ってしまうし、例えば――そう、夫婦と言うのはどういう物が正しい形かと言われたら更に答えは無い。

 ただ、一緒に居たいから。
 同じ空気を感じて居たいから。

 理由は様々にあるのだけれど。


 ……けれども。


 何よりも大事なのは、ひとり、ではないと言う事と。

 握り返してくれる手の存在がある事。

「……寒いか?」
 春の陽気になってきているとは言え、夜はまだ、少し冷え込む。
 二人で手を繋いで天文台まで歩いているものの、シャナは妻の冷えた掌が、気になった。
 体調を崩しはしないだろうか。
 体調を崩した所為で風邪をひき、寝込む事はありはしないだろうか。

(心配しすぎ、と言われるとそこまでかも知れないが)

 そうして、妻は、そんなシャナの心を読むかのように、微笑う。
 気にしなくても大丈夫ですよと言う様な笑みで。

「いいえ。ここ最近は春めいてきたでしょう? だから、さほど寒さを感じないのですけれど……」
 どうか、しました?と、ユシアは問いかけようとする。
 が、問いかけようとする前に、シャナのもう片方の手がユシアの手を包み込むように触れた。
「では、この冷たさは寒さの所為ではない、と?」
「はい。……もし理由があるとすれば」
「すれば?」
 互いの距離が近づく。
 包み込まれた掌。
 覗き込まれるように見つめられる瞳。

 深い、夜の様なその双眸。
 見惚れそうになるのを堪え、ユシアは下を向くように瞳を逸らすと、
「……、僅かに緊張している所為でしょう」
 一息に言い終え、再び、シャナの顔を仰ぎ見た。

"緊張している"

 間違えてはいないけれど正しくもない言葉。
 嬉しくて、つい力が入ってしまうだけなのだが――、上手くは言えなくて。
 そうして、ユシアの思い通り、シャナの顔が訝しげな表情を浮かべていく。
「? 別に緊張する事もないだろうに」
「そうは仰いますけれど……」
 中々、難しいものなんですよ――

 ユシアは、その言葉を言うか言うまいか迷い、触れられてる掌を繋ぎなおし歩き始めた。

「ユシア?」
「…このお話は、また今度に。今は天文台へと連れて行ってくださるのでしょう?」
「ああ」
 天文台へ行くには、まだ少しの距離がある。
「では、次の機会にゆっくりと……言質は取った」
「あら……」

 微かに微笑いあう声を響かせ、二人は手を繋ぎ歩いていく。





 店先で、一目見て手に入れたいと望んだ。
 柔らかな金の曲線、ただ光を放つだけでは終らない、穏やかな紅い、石。

 ……誰よりも何よりも良く似合う、腕の持ち主を知っているから。
 だからこそ、贈りたいと望んで――


「……どうか、なさいました?」
「ん? あ、ああ……済まない、少しぼんやりしてしまってたようだ」
「いいえ、本当に綺麗な星空ですもの」

 ぼんやりしていた、という言葉に安心したのだろう、ユシアは再び、星空を見た。
 天文台へ着いての、穏やかな一時。

 始めは星々について話をしていた二人だったが何時しか星の美しさにただ見惚れ、言葉もなく見上げてばかりいた。
 いや、ユシアにしてみたら、これがお返しだと思っているのだから尚更だろう。

 何時、渡すべきか。

 これが、問題だ。
 今すぐにでも渡したいが、いきなりすぎるのも良くないし――タイミングをはかってはいるものの、中々きっかけがつかめない。

(こんなに嬉しそうに星を見ているのに邪魔しては悪いような気がするし……)

 と、シャナがひたすら、考えている内に、何時からあったのだろうか紅い星が見えた。
 蒼く輝く星とは違い、光を惜しむように、静かに輝きを放つような色にシャナはユシアを自分の見ている方向へと引き寄せる。
 柔らかな芳香が鼻をくすぐる。

 この馨りだけは以前居た場所から変わることは無い、妻が持つ馨りの一つだ。

 引き寄せられ、ユシアはきょとんとした顔をシャナへ向ける。
「……?」
 言葉もなく問い掛けられシャナは指を天へと向ける。
 丁度、真上に当たる位置。
 その場所に紅い星は輝いていた。
「丁度、上だ」
「え……ああ……」

 紅い星がユシアの瞳にも見える。
 滅多に見ることの無い色は、いずれ消える星だということを示している。
 そのくらいの、ささやかな光と、色。

「穏やかな光ですね……」
「ああ」

 シャナは頷き、一つの包みをユシアへと差し出す。

「これは……?」
「先月のもう一つのお礼だ。気に入ってくれると良いんだが……バレンタインの時は、本当に有難う」
「何でしょう……開けてみても良いでしょうか?」
「勿論。ユシアのために買ったのだから」

 その言葉にユシアは丁寧に包みを開け、小さな声を漏らす。

 先ほど見た星のように穏やかな色の紅い石が嵌め込まれた腕輪。
 柔らかな金の曲線に、知らず知らずの内にユシアは自らの腕に通していた。

「綺麗……ありがとうございます、大切にいたしますね?」

 同じような紅い服と呼応するような金の光。
 嬉しそうなユシアにシャナは同じように微笑みを返し、
「やはり、この色が一番似合うな」
 と、言って掌へ触れようとした時、更に早くユシアが触れ――、シャナの顔に朱が、走る。

 それを隠すかのようにシャナは空へと視線を向ける。
 …ユシアは触れた掌の力を緩める事無く、微笑んだまま。
 こう言うところが可愛いと思う。
 五つも年上の筈なのに、触れられると赤らんで、照れてしまう、人。

 だが、その触れた掌がぴくりと動いたような気がしてユシアも空へ視線を移す。
 流れ落ちていく、星。
 それも一つではなく、数個もの星が流れては落ちていく。

 隣に居る人は願い事を言っただろうか?

「――何か、願い事を言いましたか?」
 ユシアは問う。
 もし、願いがあるのであれば叶えばいいと思う。
 ほんの小さな願いでさえ叶う事が無かった人だから尚更。
 その問いにたいし、シャナは、
「いや……願いは……叶っているから、いい」
 と、空を見つめたまま答える。

 妻は気付いてはいないかも知れないが願いは既に、叶っているのだ。
 国から出て、時に哀しいと思う事があろうとも、何よりも傍にいる人のぬくもりと笑顔さえあれば幸せだと言う気持ちに偽りは無い。

 一緒に居る事。
 共に手を繋ぎあうことが出来、歩める事。

 そう言う幸せこそが本当に貴重なのだと思えるから。

 ユシアがそっとシャナの肩へと凭れる。
 二人で共に見上げる星空。
 何度見上げても見飽きることの無い、星々たち。

 いつもと同じ空、星であるはずなのに不思議なものだ。

 共に居てくれる人が居る。
 それだけで全てが優しく美しく見える。


 降るようにさざめく星々。
 天に輝く姿は、孤高の如く見えたとしても、見る人にしてみればそれは唯一つの星。
 想いのように光を放ち、また、言葉でも追いつく事などのないような。

 唯、一つ。

 天においても地上においても、自分たちで見つけられる星。






━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2220 / シャナ・ルースティン / 男 / 24 / 旅人】
【2221 / ユシア・ルースティン / 女 / 19 / 旅人】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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シャナ・ルースティン様ユシア・ルースティン様。
こんにちは、初めまして。
WRの秋月 奏です。
今回、こちらのホワイトデーノベルにご参加頂き有難うございました。

凄く奥様を大事にしてらっしゃるシャナさんが印象的で、また、ユシアさんも
穏やかながら芯はしっかりしてて時にお茶目さんな部分もあるんじゃないかと
思いながら書かせていただきました(^^)
ほんわかな夫婦さんを書くのはとてもとても、楽しかったですv

また、こちらの受注窓の設定がおかしい部分があったようで、お手数をおかけしてしまい(汗)
その分、少しでもお気に召した部分があるといいな、と思っております。

今回は、書かせていただきまして本当に有難うございました!
また、何処かにてお会いできる事を願いつつ……、そして、お二人が今後も幸せな日々を
過ごされるようにとも祈りつつ。
ホワイトデー・恋人達の物語2005 -
秋月 奏 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2005年04月11日

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