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『*・゚゚・*:.。..。.花 も 嵐 も・゚゚・*:.。..。.:*・゚ 』
鈴森・鎮2320)&鈴森・夜刀(2348)&鈴森・転(2328)


 3月の下旬に入っても寒い日が続き、一時は不安視された桜の開花も、
いざ4月に入ってみると無事にその花を開いて、各地で花見客の目を楽しませていた。
やはり、一年のうちのほんの短い時間しか咲かない薄桃色のあの小さな花を見ていると…
日本人ならお茶漬け…いや、日本人なら心が癒やされるものなのだろう。
 どこの桜も花見客でごった返し、週末になるとさらにいっそう賑わいを見せていた。
「いいねぇ…”ブードゥー”だねぇ…♪」
「夜刀、それを言うなら”風流”だろ…知らない言葉を無理して使うな…」
「なんかわざわざ難しい間違いしてんなー兄貴!…あ、もしかして計算だったりして?」
「そんなわけないだろ…鎮、夜刀に限って」
「おいこら!失礼な奴だな…俺様だってたまには知的なボケをしてみたくなるのさ☆」
どうだか…と、呆れ顔で、鎌鼬三兄弟の長男、鈴森 転はため息をついた。
 ここは某所の河川敷にある桜並木。
毎年、花見の季節には三兄弟揃って花見に訪れるのが恒例行事となっていた。
もちろん、前もって場所取りをする事も忘れず、今年は次男の夜刀の担当だったのだが、
そんな地味な役目を大人しくするわけがなく、『あの木の下にミニハムが集まってくるんだぜ♪』と騙された三男の鎮が、
昨日からゴザを引いてねばっていた。無論、ハムスターなど集まってくるわけもなく。
その代わりに集まってきたのは、ガラの悪いオッサン達だけだった。
待っている間、オッサンに絡まれたり、野犬に追いかけられそうになったりとろくな事が無かった。
 それだけ苦労した場所取りだけあって、余計にこの”花見”は精一杯楽しみたい鎮なのだった。
ちなみに、三人が囲んでつまんでいるお花見料理は、転の担当。
和洋折衷とまではいかないものの、和食らしく卵焼きや煮物もあり、鶏のから揚げやエビフライもあり、
見た目の色合いにも栄養バランスにもこだわった出来だった…が、そんなもの、夜刀や鎮が気にするわけもない。
「…なんかちょっと塩味濃いぞ?」
「兄ちゃん、俺、卵焼きは大人の味がいいって言ったじゃん!甘すぎるよー!」
「―――おまえ達…」
 手伝いもせずに言いたい放題の弟達のダメ出しを、額に青筋立てながら顔は笑顔で聞くのだった。
特に、夜刀に関しては何にもしていないのだから…余計にちょっと腹が立つ。
「……ま、まあせっかくのお花見なんだし…怒ってたら勿体無いか…」
「なにわけのわかんねぇ事言ってんだか!そ・れ・よ・り・も…」
 ひょいとから揚げを頬張った夜刀は、目を細めながら周りの風景をぐるりと見まわす。
「このたくさんの桜達…いい景色だと思わねぇか?兄貴…」
 そして、ふっと笑みを浮かべながらそう呟いた。
「夜刀…」
 転は心底驚いた顔で弟を見つめてしまう。
まさか、まさかこの弟の口から”花を愛でる言葉”が聞けるなどと思ってもいなかった。
いや、百歩譲って言ったとしよう。
しかし今のこの表情は、誰が見ても、心から『美しいものを愛しく見つめる』顔なのだ。
「そうか…お前にもやっとそういう感情が芽生えたのか…なんと言うか、嬉しいよ…」
 目頭が熱くなる想いの転。
夜刀は、優しい笑みを浮かべたまま、そんな転の後方へすっと人差し指を向けた。
「ほら見ろよ兄貴、あんなところに桜の妖精が踊ってるぜ…」
「お前にそんな風に情景を詩にするようなことが出来るなんて…」
 嬉しく想いながら振り返った転だったが、その表情はぴしっと凍りつく。
そこには、別の花見のグループの女子大生達が、いい感じに酔っ払って服を脱ぎながら踊っていた。
「………」
「うっひょー!たまんねー!!もう最高の景色じゃん!なあ兄貴っ!」
「お、おまえ…」
「舞い踊る俺の桜の妖精ちゃんたち☆数え切れない花が咲き乱れてるぜコンチクショー!
そこの綺麗なおねーさん!俺の為の桜にならなーい?」
 夜刀はたまらず立ち上がると、ゴザを飛び出して女子大生のグループの中へとダイビングして行く。
凍りついたままサラサラと崩れ落ちてかき氷にでもなりそうな兄を見て、鎮はポンとその肩に手を置く。
「兄ちゃん…」
「鎮…」
「いいかげん学習しようぜ…あのバカ兄貴は変わらないって」
「―――はー…」
 どこかアンニュイな雰囲気の漂う三男坊の言葉に、転はうなだれるしかないのだった。
「それよりもっ!兄ちゃん、俺っ…決めたことがあるんだっ!」
「うん?何をだい?」
 うなだれた転だったが、鎮が突然叫んで立ち上がったのを見て、不思議そうに首を傾げる。
鎮は両手をぐっと握って仁王立ちになり、瞳を潤ませて桜の木を見上げていた。
なんとなく、いやーな予感がするのは長男の直感か。
「鎮…どうし…」
「俺っ、男になるっ!」
「は?!」
「もう俺の事、子供だとか彼女イナイ歴約500年とか言わせないんだっ!」
「い、言われたの…かい?」
「俺はっ…俺はっ…この子と結婚するんだ―――!!」
 どーん!と、背景に集中線や崖っぷちの描写でも入っていそうな勢いで、
鎮はそう叫ぶと同時に、ちみっこイヅナのくーちゃんを手の上に乗せて転へと突き出した。
「………し、鎮…?結婚って…」
 このイヅナと?と、転はくーちゃんを指差す。
くーちゃんはひょいとその指に手をかけて、小さな目を丸く開いて転を見上げた。
「可愛い…可愛いだろにいちゃん!」
「え?あ、うん…いや、そうじゃなくって」
「こんなに可愛いくーちゃんと結婚できるんだ…俺は幸せ者だよにーちゃーん!」
 鎮はがばっと自分の方にくーちゃんを引き寄せると、頬にぴとっとくっつけて何度もスリスリする。
その瞬間、緊張が緩んだのか『ぽんっ』と音をたてて鎮の体が小さくなった。
いや、正確には…鼬の姿に戻ってしまった。
「わー!わーっ!慎っ!」
 転は一般の人にその瞬間を見られてはいないかと、慌てて自分の身体でガードを作る。
しかし、こんな花見の宴の席で、周囲を気にしている者など誰一人いなかった。
「鎮っ…はやく人型に戻るんだ…」
「くーちゃん、やわらけー…♪」
 ぎゅうっとくーちゃんを抱きしめて、なおもスリスリし続ける鎮。
その見た目は小動物が小動物を抱いてじゃれついているだけの姿で…
「………は…いや、僕が和んでどうするんだ…」
 思わずほんわ〜っとした気分で転はそれを見つめてしまったのだった。
「ったく…せっかく今日はゆっくりと桜の風情を楽しもうと思ってたのになぁ」
 転はやれやれとため息をついて、仕方なくその場に腰を下ろす。
そしてふと、自分の手元に転がっている空き瓶を見つけて視線を鎮へと向けた。
「―――梅酒で酔ったのか…鎮…」
「にゃははははっ!くすぐったいよくーちゃ〜ん!」
 ゴザの上でごろごろと転がりながら戯れる三男。
まあ、こうやって遊んでいる分には迷惑もかからないし、自分はまったりと一句詠もうかと桜の木を見上げた。
「あ〜に〜きっ♪」
「?!」
 瞬間にがばっと上から何かが覆いかぶさってきて、転は両手をバタバタさせて転ばないようにバランスを取る。
「マイ・チェリー☆ブロッサムズが俺らとご一緒したいって言ってるんだけどどうよ?」
「夜…刀ッ…その前にっ…ど、どいて…くれっ…」
「ん?なんだって?オッケーだって?!さっすが兄貴っ!おーい、カモンベイビー達♪」
 自分を覆っていた者が離れて、転はようやく体勢を立て直す。
すぐさま振り返って立ち上がったその目に、上半身下着姿の女子大生が夜刀と抱き合ってる場面が飛び込んできた。
一瞬で耳まで真っ赤にした転は、急いでゴザの上に転がっている鎮の目を両手で隠す。
「んなっ!?なんだよ兄ちゃんっ!?見えねーよ、くーちゃんが見えねーよっ!」
「ダメだよ鎮っ…お前には刺激が強すぎる…っ」
 兄として、可愛い弟の教育上よろしくないものは絶対に見せてはならぬという使命感に燃える転。
「ハロー、マイブラザーズ♪チェリーちゃん達のお出ましだぜ」
「夜刀っ!鎮がいる前でなんて事してるんだっ」
「固いこと言うなっての!今日は花見だぜ!飲んで歌って騒いで触っての大宴会だ―――♪」
「ヤダもー夜刀ちゃんたらぁ!」
「お触りは無・し・よv」
 そんな兄の心、弟知らず…夜刀は女子大生を連れてやって来る。
「キャー!見てみてー!なにこれ可愛いーっ!」
「なになに?猫?犬?狐?」
「あー、あたしこっちのお兄さん超タイプ〜…!」
「うわっ…や、やめて下さ…」
 酔っ払っている女子大生の数人は、ゴザの上に転がっている鎮とくーちゃんに飛びつき、
また別の数人は転に向かってアプローチを仕掛けてくる。
くどい様だが、その誰もが服を着崩してしまっていて、露出度は限りなく高くなっているのだ。
 鎮の目を隠していた転の手も、割って入った女の子達に離されてしまう。
さらに、女子大生達は鎮をひょいと抱き上げて胸にぎゅーっと押し付けるように抱きしめたり、
くーちゃんを手にして頬擦りしたりし始める。
「わーっ、わーっ鎮っ!そんなっ…そんな事しちゃいけないっ!」
「やわらけー…っておよ?くーちゃんじゃない!?くーちゃんどこだー!?」
「なにこの子しゃべったわよー!」
「バカもー酔っ払いすぎよぉ〜」
「うわーん!俺からくーちゃんを奪うなー!」
 じたばたと暴れる鎮だったが、鼬の姿では女子大生の腕力にかなうわけもない。
転も転で、根が優しいせいでまとわりつく女子大生を無理矢理引き剥がす事も出来ず、
べたべたと触られたり抱きつかれたりとされるがままだ。
「う〜ん、実にいい景色だ…酒は美味いし、料理も最高っ!何より目にも優しい、薄桃色の咲き誇る肌☆」
 すでに桜の花なんか見ちゃいない夜刀。
日本酒片手に、すっかりその辺の酔っ払いのオッサンの仲間入りを見事に果たしていた。
「や、夜刀っ…この人たちには帰ってもらってくれ…っ」
「なんで?」
「僕は兄弟三人でゆっくりと花見がしたいんだよ…わかるだろ?」
「まあまあ固いこと言うなっての。こんなにも綺麗なお花に囲まれてるんだからさ♪」
「違うだろっ!」
「いやー、もうホント花見サイコ―――!」
「夜刀っ!」
「ほらほら、兄貴も一緒に…花見っ、サイコ―――っ!!」
 転は、ふつふつとたまりにたまってこみ上げてくる怒りをなんとか必至に抑えこむ。
普段は冷静で礼儀正しくやんわりとしているだけあって、その怒りの限界も強度も未知数だ。
自分自身でもそれが炸裂してしまった時の事を考えるとどうなるかわからない。
それだけに、何が何でもこの怒りは抑えなくてはならないと…
「俺のくーちゃんに手をだすなあぁぁあっ!必殺、卵焼キーックッ!」
 酔いとパニックで自分でも何をやっているのかわかっていない鎮が、
転の焼いた卵焼きを手にとって女の子へと投げつける。
残念ながらそれはむしろパンチではないのかと言うツッコミは誰からも出ない。
「おーいっ、転兄貴ィー!酒切れてるぞー!」
 夜刀は顔を真っ赤にして、カラになった瓶を高々と振って見せる。
なにがおかしいのか、女の子を両脇に従えて陽気に笑いまくっている。
―――もう一度言うが、怒りの限界もその強さも全てが未知数なのだ…
だから、なんとしてもその怒りは抑えなくてはならな…
「……おまえら…」
い…
「いいかげんに…」
と…
『いいかげんにしろ―――!!』
 叫び声を上げた転の体の周辺から、ぶわっと一気に凄まじい勢いの突風が巻き起こる。
「うわわわわわわっ!」
「きゃああああっ!いやああああんっ!」
「くーちゃーん!」
 竜巻のようにぐるぐると上空まで巻き上げられた一同。
周囲の花見客は、何が起こったのかと一斉にそちらに注目する。
巻き起こった部分的な竜巻は、人と同時に桜の花びらをいくつも吸い上げて、
少し離れてみると、桃色の柱が天に向かって伸びているように見えたという。

「桜散る 花竜巻に 省みよ…」

 転はその光景を見上げながら、ポツリと呟いた。
小さく笑みを浮かべた口元、そして目には言い知れない怒りを溜め込んだの色が宿っていたのだった。



「本当になんもおぼえてないのかよ?!」
「……夜刀に注意したところまでは記憶にあるんだけど…」
「マジかよ…痛ててっ…もっと優しく薬塗れよ鎮っ!」
「うるせーっ!俺だってあっちこっちぶつけてて痛いんだからなっ!」
「―――2人とも…本当にごめん…」
 転が我に返って、竜巻が収まったのは15分後の事だった。
さすがに15分もぐるぐる回っていた事もあって、鎮達が復活するのにさらに15分かかった。
なんとか意識もはっきりしたと思ったら、今度はあちこちに軽い傷が出来ていたのだ。
 転は、自分がその竜巻を発生させた張本人であると言う記憶がまったく無く、
ただひたすら、弟2人に何度も頭を下げるしかなかった。
「兄ちゃんもういいって…俺も悪かったと思うし…」
「鎮…」
「ま、確かに俺もちょっとハメはずしすぎたかなとは思ってる…」
「夜刀…」
「せっかく兄弟三人でゆっくり花見しようって言ってたのにゴメンなっ」
「俺も悪かった…謝る」
「……2人とも」
 この弟達が自分から進んで謝るなんて…と、転は目じりに薄っすらと涙を浮かべる。
なんだかんだ言いつつも、弟達は本当は兄想いのいい子達なんだと改めて思いながら。
 しかし…。
「まったくさー!そもそも、兄貴が女の子ナンパすんのが悪いんだぜ!」
「ああ?!おまえ俺のせいにしようってのか?!そもそもテメーが酒飲んだのが悪いんだろうが!」
「飲んでねーもんっ!梅酒はお酒のうちに入らないもんねっ!」
「そーゆーのを”ガンクツ”つーんだよ!梅酒くらいで酔っ払いやがって…ガキ」
「が、ガキって言ったなー!?けっ!第一それを言うなら”ヘリクツ”だよクツしか共通点ないだろこのバカ兄貴っ!」
「ガキじゃねえか!人をバカよばわりしやがってこンの、チビ!」
「ち、チビまで言うっ…?!いくら兄貴でも許さね―――っ!!」
 再び、言い争いをおっぱじめる鎮と夜刀。転の額には、また再びピシッと怒りの四つ角が…
「二人とも…いいかげんに…」
「はっ!?あ、いやそのー、なんでもないなんでもない…な、鎮っ?」
「そ、そうだぜ兄ちゃん!俺も夜刀兄貴も別にケンカなんかしてないしっ!」
「ほらほら鎮クン、花見の仕切りなおししようじゃないか…!」
「そうだな夜刀お兄様っ…♪仲良くコンビニに買い出し行こうよお兄様っ」
 わざとらしいくらいくっついて、仲の良さをアピールする鎮と夜刀。
転はにっこりと微笑を浮かべてほっとしたように息をついた。
「それじゃあ二人に買い物お願いしようかな…飲み物とかお菓子とか」
「ま、任せてくれよ!すぐ買ってくるから!」
 あはははははっ、と作り笑いをしながら夜刀は転から五千円冊を受け取ると、
ひょいと小脇に鎮を抱きかかえるようにしてその場からダッシュで離れて行く。
「桜…少し散ってしまったな…」
 そんな兄弟の背中を見送った後、転は頭上の桜を見上げて…小さくポツリと呟いた。


 今年のお花見は三兄弟にとって”転の怒りが限界を超えると、自分を台風の目にして竜巻を起こす”と言う、
重要な事が判明した貴重なお花見となったのだった。





*・゚゚・*:.。..。.:*・゚おわり*・゚゚・*:.。..。.:*・゚*




※この度は誠にありがとうございました。
※お久しぶりな三兄弟を書かせていただいて本当に楽しかったです(笑)
※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますがもしありましたら申し訳ありません。
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
安曇あずみ クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年04月08日

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