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『想い雨 』
リラ・サファト(w3k421)

 今日で、決まる。
 今日が、始まる。

 一日という名に、どれほどの差異があるわけでもない。
 また、誰にとっても等しく同じだけの時間があるわけでも。

 ただ―――

 今日は、答えをもらえる日。
 先月のあの日から、待ちに待った今日という日の――





 降る花は、雨に似ている。
 ううん、もしかしたら雪に一番似てるのかもしれない。
 音もなく降って、風に乗って、何処までも飛んでいく。

 ねえ、でもそれは。

 何の為、ですか――?




 キーンコーンカーンコーン……

『下校時刻になりました…校舎内に居る生徒は、速やかに下校してください。繰り返します……』

 チャイムと同時に入るアナウンス。
 ばたばたと下駄箱へと駆けていく同級生たち。
 下校ラッシュに巻き込まれないように、忘れ物は無いか、一つ一つチェックしながらリラ・サファトは、一つの包みを見た。
 他の子達にあげたのとは確かに違う包みは、リラが作った中でも一番に力が入っているものだ。

 とは言え、誰かと言う特定の人にあげるより、皆にあげたり貰ったりしている方が楽しいのだが、今回は…少しでも距離を縮めようと、相手が下校する時を見計らって渡そうとしていた物であるだけに、戸惑いを隠せない。
 そう。
 相手は、何時の間にか下校してしまっていたのだ。
 こうなると一旦家に帰ってから、郵便ポストにでもこっそり入れるくらいしか考えが浮かばない。

「ふぅ、今年も色々友達からあげたり、貰ったりするだけで終わっちゃったな……」

 手作りクッキーと市販の飴のセットを大量に用意していた筈だが、それももうごく僅か。
 代わりにお返しとして色も形も様々な包みが顔を覗かせていて。

 ぽつり、と自分が一人呟いた言葉にリラは肩を落とす。。
 お菓子を作るのは好きだし、甘いものも大好き。
 でも、でも、本当は――

(……どう、したいんだろう?)

 此処まで考えて、いつも困ってしまう。
 結局、どうしたいかなんて思いつかないまま、終るのだ。
 この季節だけは、いつも、いつも。

「…考えても仕方ないのかな」

 頷く自分と首を振る自分の存在を感じ、リラはひとつだけ、手渡す事ができなかった包みを、そっと鞄の中へと仕舞った。
 そろそろ、下校ラッシュもおさまっただろう昇降口へと向かいながら。





 一方、その頃――

 リラが校内を探し、居ないと肩を落とした人物は、リラの家に居た。
 いいや、正確にはリラの家がやっている道場の中に、だが。
 何度となく型を取り、竹刀を振り下ろす、その姿は何処か少年らしさとはかけ離れているようではあったけれど。
 何度となく、自らで確認し、ぶれがないかきちんと振り下ろせているかに余念がない。
 一人でなければ、稽古の一つもつけれただろう。

 ――道場内に一人でさえなければ。



「ただいま……」
「お帰り。おやおや、今年も沢山のお菓子を貰ってきたねえ」
 にこにこ笑いながらリラの持っている袋を見ると祖母。
 リラもリラで「後で一緒に食べようね、おばあちゃん♪」と言い、着替えるべく自室へ向かおうとする。
 が。
「そうそう、そう言えば道場に藤野君が来ているよ」と言われ、リラの動きが止まった。
「え……?」
「おじいちゃんが居ないから稽古はつけれないよって言ったんだけど…型のお浚いやら素振りやらをしていきたいだけだからって……」
「そ、それって、まだ終ってないよね?」
 もしかしたら、今年こそ渡せるかも知れない。
 焦りを見せるリラにのんびりと祖母は答える。
 まるで、まだ時間はあるのだと言わんばかりに。
「多分終ってないんじゃないかね。帰る時には声をかけるように言ってあるから」
「ありがとっ、おばあちゃん!!」
「頑張るんだよ」
 一体何を頑張るのか、謎に思う言葉を貰いながらリラは制服姿のまま、沢山のお菓子を持ったまま、道場へと小走りで駆けていった。

 渡せるかも知れない。
 渡せないかも知れない。

(でも……藤野君、一人だけだったら……)

 希望は、ある。
 いつも、話し掛けられないままに目で追う人。
 初めて、手渡す事が……――、

 シュッ……

 いきなり、聞こえてきた音に、リラは自分自身が道場へ辿り着いたのだと気付いた。
 物思いにふけると、目当ての場所を通り過ぎてしまう事があるリラだけに、音が聞こえたのは良かったと言える事柄だった。

 開け放たれた戸の向こう、乾いた音が、何度となく響く。
 その音しか聞こえないのは、件の人物が声を出す事無く素振りをしているからだ。

 たった、一人で。何度も何度も。
 見えない相手に振り下ろすかのように。

 リラはただ、その姿を見続ける。
 幼い頃から、繰り返し見ていたように、じっと。

「……?」
 その視線に気付いたのか、藤野羽月はリラの方へと顔を向ける。
 一瞬、険しい顔をしていた羽月だったが直ぐに視線の持ち主がリラだと知ると表情を和らげ歩み寄った。
「どうした? もしや、祖母殿が出かけられるのかな?」
「いえ…っ。おばあちゃんは、ゆっくり使ってて構いませんよって……じゃ、じゃなくて、あの……」
 今日が何の日かご存知ですか?
 そんな単純な一言が言えないまま、リラは口をぱくぱくと動かした。
 言いたいのに言えない、このもどかしさの解消法を誰も教えてはくれない。

 たった一言、出すだけでいいのに。
 それだけで、会話が始まるのに。

 言葉を発せないリラに対し、羽月の視線がリラの持つ、手元へと移る。
 通学鞄のほかに、可愛らしい包みが入った袋があり、何処かに寄り道でもして買った物だろうかと思う。
 ほんの少しの興味が、羽月の中に生まれた。

「…随分、たくさんの荷物だ」
「え? あ、あの……もしかして、今日、何の日か知らないの?」
「? さあ……特に何かあるようには思えなかったが」
「えっとね…今日は、ホワイトデーなの。ほら、バレンタインのお返しの日」
 知ってる?と言うと羽月は先ほどの言葉同様「さあ……」と答えた。
 更には、本当に、知らないらしくひっきりなしに首を傾げている。
「2月にチョコ…貰った事無い? お母さんやお姉さんたちからとか……」
「我が家は姉も母もそう言う事に疎い……が、幼なじみからは時々お菓子を貰ってた…覚えがある」
「?? 藤野君は、食べなかったの?」
 覚えがある、と言うのは随分微妙な言い回しだ。
 普通は貰った後、お礼を言い、そうして食べた記憶があるものではないかと思うのだが……今度は逆にリラが首を傾げた。
 気まずそうに羽月が一つ、溜息をつき、そうして。
「…姉に全部没収された」
 と、苦々しげに呟いた。
 苦虫を噛み潰したような顔に、目の前の少年はこんな顔もできるのだとリラは初めて、気付いた。
「? お姉さん、甘いもの好きだったっけ?」
「甘いものではなく、幼なじみが好きなのだ。が、まあ…弟の物は姉の物でもあるらしくてな、大抵貰って帰ると…」
 それらは没収されてしまうのだが。
 と言うのを聞いた瞬間、リラの表情に笑顔が生まれた。

 誰からのも食べた事が無い、と言うのが嬉しいのか何なのかはリラには良く解らない。
 だが、毎年、バレンタインに用意していても他の皆と同じようには渡せずに、いつも自分で食べていたチョコ。
 ホワイトデーにもリベンジとばかりに用意してるのに、やっぱり、渡せずに終っていたお菓子。
 その全てが良かった、と思えてきた。

(良かった……)

 素直に、そう思う。

「あのね、藤野君」
「ん?」
「もし、余ったお菓子でも良かったら、持って帰らない?」
 こう言うの食べた事無いんだったら……と、言葉を繋ぎながらリラは羽月へと「どう?」と思案した。
 見上げる表情は、影が出来ている訳でもないのに読み取りにくい。
 だが、リラもリラで今こそ気張らなくてはならない時なのだ。
 出来うるのなら、拒絶の言葉は聞きたくは無い。

 でも。
 でも――――

(……嫌だって、言われる可能性だってあるんだよね……)

 一体、どう思っているのだろう。
 持って帰るか、要らないのか、早く、聞かせてくれたら良いのに。




 持って帰らない?と言われ、正直、羽月は戸惑いを隠せなかった。
 何の意味も無いのだろうとは思う。
 本人も「余った」と言っているのだし……だが。

(本当に受け取っていいものなのだろうか?)

 確か、こう言うものにはお返しが必要…ではなかったろうか。
 うろ覚えの記憶ゆえ、そうだと言える物は何一つ無いが……貰ったとして、彼女に何を返せるだろう。
 幼なじみの筈なのに、彼女の好きな物さえ知らない、自分に。

 やはり、受け取るわけには行かないか…と、考え、リラへと言おうとした時、真剣な眼差しとぶつかった。
 低い身長の彼女は、見上げるようにして、ただじっと、こちらを見ているのだ。
 いつも見る視線よりも更に強く。

 受け取れない等とは、流石に言えなくなり、羽月は、
「何のお菓子があるのだろう?」と聞く事にした。
 ぱあっとリラの顔が、さっき見た笑顔の表情へと変わり、
「あ、あのね……手作りのクッキーと、それから飴なんだけど…」
「ほう……手作りと言うのは凄いな。飴は、どの味があるのだろう?」
「そ、そうかな? 時折お砂糖と塩、間違えちゃうんだけど…あ、勿論、クッキーは間違えてないから安心してね? えっと、飴は苺と檸檬と葡萄があるけど、どれが良い?」
 がさがさと音を立てながら鞄からクッキーが入っているのだろう包みと、飴を差し出した。

"どれが良い?"

 その言葉に、何処か懐かしさを感じながら羽月は「檸檬の飴を」と言い、包みを受け取る。

「藤野君は檸檬の飴が好きなんですね…私は……苺の飴でも食べようかな」
「リラさんは苺がお好きか?」
「はい! だって本当に美味しいし……今の時期は沢山苺を扱ったお菓子が出ていて…見ていても楽しくて」
「成る程。では、お返しは――」
 苺のお菓子でも贈るとしようか。
 あまりに、さらりと言った所為だろうか、リラがきょとん、とした顔を返す。
「――え? え?」
 今、何て言ったのだろう?
 渡せて一安心のところに、耳まで都合よくなってしまっているのだろうか?
(だけど……)
 もう一度、言ってくださいとは言えない。
「いや……リラさんが気にする事ではないが……まあ、お楽しみにと言う事で」
「えっと、あの……」
「ん?」
「……来年は余ったのじゃなくてちゃんとしたの、作っても良い?」
「リラさんが面倒でなければ」
「そんな…面倒なんて!! いつも、お祭みたいで楽しんでるから……」
 ぽつり、と呟くリラに羽月は柔らかそうな髪を撫でると、
「楽しみにしている」
 そう、言いながら微笑を浮かべた。
「はい!! あ……」
 羽月の姿のその向こうに、祖父がリラが生まれる年に植えたのだと言う花桃が見えた。
 鮮やかな色合いは、色合いとは似ず、穏やかで。
 散り行く花は喜ぶように風に乗っていく。
 リラは、その花の姿をじっと見つめる。
 リラが何を見ているか羽月も、その方向を見、大きく頷いた。
「……? ああ、此処からは花桃が良く見えるな」
「はい……でも、こんなに此処から見える花桃が綺麗だとは思いませんでした……」


 降る花は、雨に似ている。
 音もなく降って、風に乗って、何処までも飛んでいく。

 花は全ての祝福の為に。

 降る花びらは、想いのままに。

 ひらり、ひらりと、音も無く、舞い上がる。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【w3K421maoh / リラ・サファト / 女 / 17 / 学生】
【w3a101maoh / 藤野・羽月 / 男 / 17 / 学生】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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リラ・サファト様&藤野・羽月様。
こちらの世界では、初めまして(^^)
いつもお世話になっております、ライターの秋月 奏です。

ホワイトデーで、何処か意識してるような意識してないような…と
言う感じを目指してみたのですが、所々、挫折している気がします……
す、すいませんっ(><)
でもでも、本当に楽しく書かせて頂きました。

藤野さんからはリラさんのプレイングと合わせる感じでと言う
指定もして頂きましたし……リラさんのプレイングが、これまた
可愛くて……色々と懐かしいものを思い出したりもしまして。

お二方の歩かれる道が少しずつでも、重なっていくと良いなあと思いつつ。
ええと、それから「花桃」ですが…花言葉を調べたら意外な花言葉で
吃驚でした……まさか、そう言う意味があるなんて…と思ったり…面白かったですv

それでは、今回はこの辺にて失礼いたします。
また、何処かでお会いできる事を祈りつつ。
ホワイトデー・恋人達の物語2005 -
秋月 奏 クリエイターズルームへ
神魔創世記 アクスディアEXceed
2005年04月04日

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