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『【ホワイトデー】日帰りツアーに行こう! 』
アルベルト・ルール0552



 ☆オープニング★

 とある町のレストランで食べ放題付『ホワイトデー限定・日帰りツアー』が行われる事になった。恋人や友人、家族と一緒に、このツアーに参加してみませんか?

 ◆

 そのレストランの張り紙を見た時に、アルベルト・ルールは真っ先に自分の彼女の顔が思い浮かんだのだ。ホワイトデーに彼女と二人で過ごす。オーソドックスかもしれないけれど、それが何よりも一番楽しいと、そう思ったのだ。
 ツアーの前日まで何食わぬ顔をし、突然彼女へそんな計画があると伝えて驚かせようと思っていた。しかし。
「急に仕事なの」
 彼女にあっさりと連れない返事をぶつけられたのだ。そんな、年に一回のホワイトデーに仕事とは寂しいもんだ。じゃあ自分がもうちょっと早く伝えておけば、仕事の方を断ってくれたのだろうか。いや、しかし今さらそんな事を言っても仕方がないじゃないか。
 アルベルトは事前にレストランで購入して置いたツアーの参加チケットに視線を落とし、これをどうしてくれよう、と思ったのだが、次には別の人物の顔が頭に浮かんだ。
「余らせても勿体無いしな。おふくろに声をかけてみるか」


 翌日、アルベルトは母親のジェミリアス・ボナパルトと一緒に集合場所であるレストラン前に向かう事となった。
 細身のアルベルトに対して、ジェミリアスはふくよかな肉付き、しかし親子揃って背がスラリと高いものだから、まるでモデルが撮影でも兼ねてやってきたかのようだ。
 おまけに大きなサングラスを着用しているジェミリアスは、子供を産んでても崩れない見事なプロポーション、どう見ても20歳そこそこにしか見えず、二人で並んでいればカップルと思われても不思議はないのであった。
「結構参加者いるじゃないの。さすがはホワイトデーよね」
 まるで子供のような笑顔を浮かべて、ジェミリアスがまわりの様子を伺っている。
 ツアーに参加するのが楽しいのか、それとも息子から誘われたのが嬉しかったのかわからないが、昨日アルベルトがチケットを手にしたまま、ジェミリアスに声をかけたところ、妙に乗り気になって一緒に行くと言葉を返してきたのだ。何がそこまでジェミリアスに期待をさせているのかはわからないが、とりあえず単純にこのツアーを楽しもうと、アルベルトは思っていた。
 やがてレストランの前に送迎バスがやってきた。レストランの中からスタッフと思われる人物が出て来て、すでに溢れるほどになったツアー参加者へと声をかけた。
「お集まりの皆様、今回は当レストランのホワイトデー・ツアーに参加下さり、誠に有難うございます。これからバスで公園へ向かいますので、順番にご乗車下さい!」
「あのバスで連れて行ってくれるのね。どんな公園に行くのかしら、楽しみだわ」
「おふくろ、昨日から何でそんなに乗り気なんだ」
 バスに乗り込みながら、アルベルトは母親の言葉に顔をしかめる。
「あら、息子と出かけるのよ、それがつまらないなんて事はないでしょう?」
 しかし、ジェミリアスの表情は何か言いたそうな気がする。
 レストラン前にいた人々が全員乗り込むと、バスはゆっくりと出発した。アルベルトが思ってた以上に参加者がいるようで、バスは補助席までもがいっぱいになっている。家族連れや友人同士で参加している者もいることはいるが、やはり男女カップルがほとんどであった。そして、公園についたらどんな事をしようかとか、食事は何が出るだろうなど、様々な話をしているのである。
 さて、公園についたらおふくろと何をすればいいのだろう、この母親は何をしたいと思うだろうか、などと考えていると、窓際で外の景色を見ていたジェミリアスが、急に自分の方を振り向いた。
「自由行動の時にテニスをやらない?」
 アルベルトが何となく見たバスの窓に、どこかの学校のテニスコートが見え、そして流れていった。
「テニスか?俺は構わないけど」
「それなら決まりね。だけど、ただテニスをするのもつまらないわよね?負けた方が隠し事を言うってのはどう?」
 えー、なんだそれは。何でそんな賭けをしなきゃならないんだ。大体20歳の男ともなれば、親に隠し事のひとつやふたつはあるものじゃないのか。
 アルベルトは楽しそうな顔をしているジェミリアスの提案を却下したかったけれども、黙ったまま頷くしかなかった。そんな事やりたくない、などと言えば、ジェミリアスの鉄拳が飛んでくるのだとわかっていたからだ。



 バスでの賭けをジェミリアスが忘れるわけがなく、公園に到着した二人は、レストランの場所を確認した後、すぐにテニスコートへと向かった。
 公園は思っていたよりも大きな場所で、公園の中央には湖のように大きな池があり、人々がボートに乗って楽しんでいる。ランチやおやつを摂るレストランはその湖から少し離れたところにあり、さらに奥にはドーム型の植物園も見えている。
 テニスコートはレストランから歩いてすぐのところにあり、すでに先客がテニスを楽しんでいるのであった。
「結構混んでいるのね。順番を待ちましょうか」
 アルベルトとジェミリアスは、先にラケットやボールを借りてきて、コートが空くのを待っていた。テニスボール独特の、軽快な音がコート中に響き渡っており、負けたら何を話そうかと、アルベルトは負けた時の事ばかり考えていた。
 やがて、3つあるうちの真ん中のコートのグループが帰る支度を始めた。それを見ながら、いよいよか、もうここまで来たら全力でやるしかないなと、アルベルトは思った。
「手加減はなしでいくわよ?」
 相変わらず、ジェミリアスは楽しそうにしている。
「俺だって本気でいくぜ?何しろ賭けがあるんだからな」
 アルベルトは運動神経はかなりいい方なのだ。相手がジェミリアスで無ければ、勝てる自信はあるのだ。だがジェミリアスも、アルベルトにひけを取らない運動神経を持ち、しかもとんでもない頭脳の持ち主だ。おそらく、巧みな頭脳プレーを仕掛けてくるに違いない。
 そう考えている間に、アルベルトは早々にスマッシュを入れられる。
「考えてばかりじゃ勝てないわよ」
「んな事わかってる!」
 ラケットを握り締めながら、アルベルトは言い返した。まったく無駄の無い動きで、アルベルトはサーブを打つ。しかし、ジェミリアスは計算され尽くしたような動きで、アルベルトの打った球に見事なレシーブをいとも簡単に決めるのだ。
 そうしてまるでプロテニスのようなラリーが続くのだが、結局最後にはアルベルトが予測もつかないような動きの球を入れられてしまう。いや、知能ではアルベルトだって負けてはいられない。ジェミリアスの動きを計算し、裏の裏をかいたスマッシュを決める事もある。
 コートにはいつのまにか、二人のゲームを観戦している人で溢れていた。アルベルト達の両サイドでゲームをしているグループまでもが、自分達の方を見ている。
「何時の間にこんなに!これはますます負けられない」
 アルベルトは点数の書かれた板に目をやった。明らかにアルベルトが押されている。どうにか逆転をしなければと、頭をフル回転させ、全身の筋肉をバネのようにしてジェミリアスに最後の戦いを挑んだ。
「ゲームセット!残念ね、私の勝ちよ!」
 わずかな点数差まで追い上げたものの、今一歩届かず、結局賭けはジェミリアスの勝ちとなった。それと同時に、まわりの観客が二人に拍手を送る。
「ずいぶん人が増えていたのね。ねえ、アルベルト」
 ラケットを片付けながら、先ほどまで楽しそうにはしゃいでいたジェミリアスが、今は真面目な表情で自分を見つめている。
「どう…したんだ、おふくろ?」
「ちょうど良い機会だと思ったの。聞きたい事が色々あるのよ」
 ジェミリアスはそう言って、まわりに視線を走らせる。
「でも、ここでは無理ね。何時の間にか観客が増えたし」



 やがてランチの時間がやってきた。アルベルトとジェミリアスはレストランに入り、窓側の一番隅の方にある席に座った。
 「レストラン・ハートシェフ」は、その名の通りハートの模様が店内に散りばめられており、食器や皿までもがハートの模様で飾られており、カップル向けというよりもどこかの遊園地のレストランのようであった。
 ランチはバイキングなので、ひとまずアルベルトもジェミリアスも普通にランチを楽しんだ。
「なかなか美味しい食事ね」
「そうだな、これで食べ放題なんだからお徳だな」
 やがて腹も満たされた二人は、食後のデザートを取りながらさきほどのテニスの話などを交わしていた。
「さてと、アルベルト。私が賭けに勝ったわけなんだけど、この機会に聞いてみるわ」
 秘密と言っても何を言えばいいのやらと、あれこれ迷っているうちに、ジェミリアスの方から言葉が発せられる。
「聞くって、何を」
「心当たりがない?あなた、以前に連邦のデーターベースにハッキングしたでしょう?」
 ジェミリアスの表情は、真剣そのものだ。
「しっかり問い合わせがきていたわ、しかもテロリストに関する事が」
 何を言い出すんだおふくろは、と思いながらアルベルトは母親の次の言葉をじっと聞いていた。
「彼…貴方の父親の事を調べようとしたのよね?貴方ももう20歳だし、そろそろ全部話した方がいいわよね」
 ジェミリアスはコーヒーを一口飲むと、話を続けた。
「貴方は気づいてないかもしれないけど、追尾システムは、この私が作ったのよ」
「えっ!?」
 そう返事をするだけが精一杯であった。アルベルトは、頭の中が真っ白になり、何かを考える余裕すらなくなった。
「結論を先に言うとね、遺伝子が私と息子で全く同じなの」
「それはどういう事なんだ?」
「ここからは私の推測も入るのだけどね。私は軍に入った時、遺伝子を登録しているのだけど、貴方を出産した後に遺伝子の型を調べたのよ。そうしたら、型が変わっていたわ。『神』の遺伝子が、私にも影響が出たんじゃないかと思う」
「それはつまり」
 やっとの事でアルベルトは返事をする。
「俺とおふくろは『神』半身で、遺伝子が同じって事は俺とおふくろは2人で、1人って事になるってことか?」
「そういう事ね。ついでに謹慎中に、連邦のデーターを改ざんしておいたわ。あら、どうしたの目を開いたまま固まっちゃって。情けないわね」
 衝撃の事実とはまさにこういう事だと、アルベルトは思った。俺は神様なのか?それを知ってしまった俺は、一体どうすればいいんだ、そう思った時、ジェミリアスがにっこりとして口を開く。
「事実がわかったところで、現状は変わらないでしょう?」
 まあ、そうだな、確かにいきなり神様だと言われてもな。アルベルトは心の中で呟く。
 どうしていいのかわからない複雑な気持ちのまま、アルベルトは窓の外に視線を向ける。すっかり話し込んでしまったのだろう、すでに夕暮れ時になっていた。
「夕日が綺麗ね」
 ジェミリアスが晴れ晴れとした表情で外の景色を見つめている。
 ああ、本当に綺麗な夕日だよ、目にしみるぐらいにな。まったく、最悪のホワイトデーになってしまったよ、どうしてくれるんだ、胃が痛くなってきたよ。
 その後アルベルトもジェミリアスも、言葉の無いまま、オレンジの夕日が沈んでいくのを見つめているのであった。(終)

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◆登場人物一覧◇

【0552 / アルベルト・ルール / 男性 / 20歳 / エスパー】
【0544 / ジェミリアス・ボナパルト / 女性 / 38歳 / エスパー】

◆ライター通信◇

 アルベルト・ルール様

 初めまして。新人ライターの朝霧・青海です。今回は朝霧のホワイトデー限定ノベルに参加下さり、本当に有難うございました!

 アルベルトさんとジェミリアスさん、親子での参加という事で、こういう場合どんな会話をしながらツアーを楽しむのだろうと、色色と考えながら執筆しておりました。後半の、衝撃の事実の告白が、全体の中で一番重要な部分だと思い、その部分はプレイングのまま、シリアスな雰囲気で書かせて頂きました。プレイングの雰囲気がそのまま出るよう、地の文章にアルベルトさんの心の言葉が出たりしています。

 それでは、今回はどうも有り難うございました!
ホワイトデー・恋人達の物語2005 -
朝霧 青海 クリエイターズルームへ
PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2005年03月31日

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