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『バケツでプリン! 』
アリステア・ラグモンド3002)&伍西・耕大(3357)&アイン・ダーウン(2525)

 さて、プリン好きには古今東西今も昔も共通するある一つの夢がある。
 それ即ち、究極のデザート『バケツプリン』である。
 バケツにいっぱいのプリン…食べても食べてもプリン、おなかいっぱいプリン。
 プリン好きなら一度は夢見たはず…さて、今日はそのバケツプリンに挑戦してみたいと思う。
 用意するものは牛乳、業務用プリンミックス…このようなインスタントを使うのは本来邪道なのだが、バケツはオーブンにも鍋にも入らない為やむなくこのような仕儀となった。


「…バケツプリン…」
 アリステア・ヨハン・ラグモンド、二十一歳男。
 ネットで見つけたその記事に、彼はその青い瞳を輝かせた。
 好奇心と冒険心、興味とその他諸々、とにかく心惹かれる記事である。
 だがしかし、バケツプリンが食べたいという彼の主張は一度は却下された。
 食べ物を粗末にしてはいけないし、バケツサイズのプリンを一人で食べきるのは無理だと判断された為である。
 自分でこっそり作ろうにも彼は台所入出禁止令を食らっている上に、こっそり作れるようなサイズではバケツプリンの醍醐味の十分の一も味わえない。
 どうしてもバケツプリンが食べたい。
 アリステアのその思いは強く、他の神父達に相談し、粘り、説得した結果。
 『必ず全部食べるなら』と言う条件付で、冷気使いの神父と料理上手の見習い神父にバケツプリンを作ってもらえることになった。
 さて、そこで必要になるのがバケツプリンを消費する人員である。
 一人や二人では到底足りない、そして教会にプリンを大量消費できる人材がいるはずもなく。
 考えた末にアリステアは近所の草間興信所に相談することにした。

「…と言うわけなんですが…」
 話を聞いた草間氏は、その時点で既に食傷気味だったのだが、その妹、零の反応は違った。
「すごいですね〜…私も参加させてもらっていいですか?」
 バケツで作るプリンの全貌を想像してか目を輝かせている妹。
 物珍しさ故か、やっぱり女の子だからか零はこういうものが嫌いではない。
 苺と生クリームを飾ろうだの、バナナと生クリームにしようだの、カラメルをたっぷりかけようだの。
 集まった他の面々も会話興味を示し、壮大なる計画に場は否応にも盛り上がり始め。
 その光景を兄は微笑ましいんだか呆れればいいんだかよくわからない面持ちで見守っていた。

 そうして計画実施当日。
 発案者のアリステア他、草間 零、アイン・ダーウン、伍西 耕大の4名が関東聖印教会食堂に集まったのである。
 甘いものが好きといえば女の子…という鉄則を無視して4人中3人が男であるのはご愛嬌。
 冷気によって綺麗に固められたバケツプリンは、アインとアリステアの手によって教会の台所で一番大きなバットの上にひっくり返された。
「…………」
「………………」
 一同が固唾を飲む中、そろりそろりと引き上げられるバケツ。
 中から現れたのは綺麗な卵色の、ぷるん、というよりはぶるん、な巨大物体だった。
 身長は三十センチあまり自重で変形しつつ、どうにかそこに佇んでいる姿は圧巻と言うより他にない。
「…………」
「…………」
「……え、えっと生クリームいきましょう!」
 あまりのサイズと迫力に一瞬誰もが無言になってしまったのだが、気を取り直すように零が真っ白な生クリームのたっぷり詰められた絞り袋を手にしたことで沈黙は破られた。
「あ、じゃあ俺飲み物用意しますね」
「オイラも飾りつけ手伝だよ〜」
「私も手伝います〜」
 食堂は一点和やかムード、華やかに飾られた巨大プリンが出来上がった。
「美味しそうですね〜」
「そうですね〜」
 さて、皆様は知っているだろうか?
『バケツでプリンを作ると自重ですぐに崩壊してしまう』と言う伝説を。
 プリンは相変わらず、ぶるんぶるんと弾力を持って揺れている。
「じゃあいただきましょうか」
「お玉とカレースプーンは必須ですよねー」
「写真取っておきましょう、写真!」
 プリンをよそう為の皿を配り、スプーンとお玉を用意。
 いざ戦闘開始、とバケツプリンに襲い掛かった瞬間。
 それは起こった。
 ぺしゃとかどぺとか、そんな可愛い音ではなかった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 どうんとか、ぼてっとか、そんな音を立てて、プリンタワーが崩壊したのである。
 同時に生クリームのついた苺が一つ、ころりと机の上に転がった。
 プリンの柔かさは、自重に負ける…それを証明した一瞬であった。
「……あ、味は変わりませんよ!ちょっと崩れちゃいましたけど!」
「そ、そうですよねっ!あったまっちゃわないうちに頂きましょう!」

 料理上手の見習い神父が作成しただけあって、プリンの味は申し分のない出来であった。
 教会の職員全員にも配られたが概ね好評…一人前分を食べるには…で、柔かすぎず固すぎず、甘すぎずあっさりとしていながらまろやか。
 卵とミルクの風味が生きた職人技の一品である。
「憧れのバケツプリン…美味しいです…!」
「ホントに美味しいです…ぷっちりプリンとかとは全然違いますね」
「うまいし、幾ら食べてもへらねぇからええなあ」
「神父様料理上手ですねえ」
 だがしかし、そんな極上スイーツも。
 量がすぎれば負担となる。
「……」
「……」
 十分もすぎた頃には一部言葉少なになり始めていた。
「……美味しいですけど…全部片付けるのには随分時間がかかりそうですね」
「んだなぁ、食いきる前に溶けちまうんじゃねぇべか」
「…よし、ここは俺に任せてください!」
 そういって、アインは銀のスプーンを高々と掲げた。
 …この男、実は強化人間である。
 東南アジア出身なのだが、とある組織に攫われ勝手に改造され、一時はグレ(?)て戦争まで引き起こしかけた過去を持つ。
 現在は9人の恩人の手によって更正し、こうやって皆でバケツプリンを突くまでになった。
 そんな彼の特殊能力は、サイボーグとなった彼の身体に組み込まれたマッハ5まで加速できる装置である。
「はい?」
 不思議そうに首をかしげたアリステアの前で、それは発動した。
 目にも止らぬ速さで動くスプーン、プリンの山が崩れ、その一角が消える。
「おお〜!」
「すごいです〜」
 そのスピードに上がる感嘆の声。
 これならどうにかなる、かと思われたが。
 アインにあったのは所詮、スピードだけであった。
 幾らスピードが速くなっても、胃袋のサイズが変わるわけではない。
 むしろ超スピードで詰め込まれたプリンはあっという間に彼の胃袋を埋め尽くし、身体を冷やす結果と相成った。
「……すみません、限界が…」
「だ、大丈夫ですか…?」
「無理はしね方がええだよ」
 ひょいと相変わらずマイペースにスプーンを口に運ぶ耕大。
 ここで活躍するのが彼である。
 一見普通の小学生に見える彼は、だが実はその正体は餓鬼である。
 餓鬼とは餓死した子供が化した妖怪で、一般的によく食べる。
 何でも食べる、とにかく食べる。
 満たされない子供であったからか、とにかく貪欲と言うか胃袋底なしと言うか…全てに置いて餓えた存在である。
 耕大の場合、祖父母に可愛がられ、愛されたお陰か餓えに苦しむこともなくなり、満たされているお陰か最近は普通の子供のように成長も始めたようだが…その胃袋はまだ健在である。
 彼の限界は、胃袋以外のところに現れた。
 突然スプーンを置いたのである。
「どうしました?」
「…美味しいだどもあきただ」
 そりゃ飽きもするだろう。
 プリンの総量は10リットルである。
「…え…」
「ちゃ、ちゃんとプリンを食べきりませんと…」
「何か甘くねぇもんねえかなあ。」
 苺を口に運びつつ溜息を落とす耕大…胃袋にはまだ余裕がありそうである。
「…あ、甘くないものですね。そうですよね、これだけ甘いものばかりだと…何かないか聞いてきます。」
 食べることはダウンしたアインが台所へと向かう間も残り三名はプリンを突きづつけるしかない。
 何故ならこれを作るとくの条件が『必ず全部食べるなら』だったからである。
 アインもらってきた甘くないお菓子…クラッカーだのチーズだのサキイカだの…とプリンを交互に口運びぶ耕大。
 その間も、零はひたすら地道に食べていた。
 お玉で掬って自分のお皿に打つし、カレー用のスプーンで崩すと言う過程を一体何回行ったものか。
 詰まればお茶を流し込み、クラッカーで口直しをして…やめたいのは山々慣れど、残すのは勿体ない。
 その一心が彼女を支えている。
 さてその横で。
 最初っから最後まで終始笑顔だった人物がただ一人存在していた。
 主催者であるアリステアである。
「美味しいですね、バケツプリン…」
 ほこほこほっくり、落ちそうなほっぺたを抑えてご満悦と言った様子。
 同じ味の連続にもその量にも全くダメージを受けていないのはバケツプリンが食べたいと言う夢が叶った喜びからか。
 ぽわわんとしつつ、彼はほぼ一人で5分の2ほど食べ。
 残りも三人がかりで消費されて一時間後、何とかバケツプリン完食となった。

「もう一回やりましょうよ〜」
 そうしてアリステア以外の全員が。
「…わ、私は遠慮しておきます…」
「オイラもちょっと…」
「俺も…」
 バケツプリンなんて二度とやるまいと心に誓ったのであった。

 食べ物は、大切に。

                                  −END−
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
結城 翔 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年03月29日

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