『【ホワイトデー】日帰りツアーに行こう！ 』

大道寺・是緒羅（0593）

　☆オープニング★

　とある町のレストランで食べ放題付『ホワイトデー限定・日帰りツアー』が行われる事になった。恋人や友人、家族と一緒に、このツアーに参加してみませんか？

　◆

「食べ放題つきの日帰りツアーだって？」
　ホワイトデーを目前にしたある昼下がり、大道寺・是緒羅は腐れ縁の知人、エリア・スチールからの連絡を受け取り、驚いた声を出す。
　そう、もうすぐホワイトデー。色々なところでラブラブなイベントが開催される時期だ。エリアが言っているレストランの広告も、是緒羅は実は知っていたのだが、一人で行くのはさすがに寂しすぎだろう、でも行きたいそのツアー、などと思っているちょうどその時にエリアから誘いがあり、是緒羅は何となく心が躍っているのであった。
「了解だよ、エリアさん。当日は楽しみにしているからな、そのツアー。あ、バナナがおやつに入りますか？」
　しかし、すでに電話は切られているので、是緒羅はバナナを諦め、チョコバナナを持っていく事にしたのであった。
　


　数日後、いよいよ今年のホワイトデーがやってきた。バレンタインに比べると、ホワイトデーはそこまで大きく騒がれはしないが、それでも記念の日に良い思い出を作りたいと思う人が多いのだろう。
　是緒羅が集合場所であるレストランの前に着いた時には、すでに何人かのグループがレストランの前に集まっていた。家族連れや友人同士だろうと思うグループもいる事はいるが、やはり男女ペアでの参加者の数の方が他よりも多い。
「あ、是緒羅様！先に来ていたのですね。おはようございます！」
　店の前で待っていると、動きやすい服装をしたエリアが、ぱたぱたと駆け寄ってくる。
「おはようエリアさん。思ったよりも人がいるな。やはり、カップルが目立つが。あとおやつはチョコバナナにしたよ、無難なところで」
　そう言って、是緒羅はまわりの人々へと視線を流した。
「チョコバナナって…おやつは出るんじゃなかったでしたっけ？」
「ん、そうだったか？ま、とにかく！そんな事には関係なく、今日は二人で楽しもう。ちょっと前に誘いの連絡をくれてから、結構楽しみにしていたんだ」
　誤魔化すように是緒羅がそう言うと、エリアもにこりとしてそれに答えた。
「私もですよ。どんな公園に行くのでしょうね。とても楽しみです」
　エリアがそう言った時、レストランの裏口からスタッフらしき人物が出てきて、そこいらにいる人々に呼びかける。
「皆様、ようこそ『ホワイトデー限定・日帰りツアー』に起こし下さいました。これから順番にバスにご乗車頂き、公園まで移動いたします。参加の方はお連れ様と一緒に、こちらへお並びください」
　人々がスタッフの誘導により、ひとつの列を作り始めたので、是緒羅とエリアもその後へと続き、参加費用をスタッフへ渡すと、バスへと乗り込んだ。是緒羅達の後もツアーへ参加する人は増えて、バスは補助席を使うほど満員になった。
　是緒羅とエリアは隣同士に座り、是緒羅はエリアに公園についたら何をしたいか、とか、バレンタインではこんなことがあった、などと話しながらほんの少しのバスの旅を楽しんだ。



「この公園だな。思ったより広い公園じゃないか」
　是緒羅は窓の外を見つめていた。すでにバスが公園の敷地内に入ってきているのだ。
　見渡す限り、芝生が広がっており、公園の中央に噴水のある池があり、そのまわりに動物の形にカットされた植物が並べられ、今は何もない花壇も置かれており、もう少し暖かくなればイギリスの庭園のような風景が楽しめるかもしれない。
　バスが進むにつれて、遊戯施設も見え、子供が駆け回っているアスレチックや、ポコンパコンと良い音を弾ませているテニスコート、今は誰もいないがプールなど、沢山の施設があった。
「テニスコートもあるんだな！後でやらないか、テニスは得意なんだ」
　すでに荷物に中にテニスラケットを用意している是緒羅が、テニスコートを見て顔を輝かせていた。
「そうですね、それは楽しそうです。ランチまでは自由にしていいと聞きましたので、早速行きましょう」
　バスが到着すると、是緒羅達は早速テニスコートに向かって歩き出した。



「くっ！また点入れられた！」
　サーブを決められたエリアに、是緒羅が苦笑してみせる。
「相手がエリアだから油断出来ないと思ったのだが、本当に油断出来ないな」
　さっきゲームやる前にあまりテニスはうまくないと言ってたが、あれは嘘だったのか！と、エリアの見事な動きに是緒羅は驚きを隠せない。いや、むしろ悔しいような気がしないもでない。
「テニスもなかなか楽しいですね。あまり得意ではないのですが、やっているうちに慣れて来ました」
　慣れるの早すぎだろ、と思いつつ、是緒羅はエリアのその飲み込みの速さに感心さえ覚える。いや、エリアだからそこそこには出来るだろうと、わかってはいたが。
「これでどうだっ！」
　ラリーに終止符を打つかのように、是緒羅が目つきを鋭くし、激しいスマッシュをエリアに打ち込んだ。
「あっ！」
　エリアはそれを打ち返そうとしたのだろう、コートを素早く走ったが、さすがに是緒羅の会心の一撃には体が間に合わず、エリアは是緒羅に見事に点数を入れられた。
「今のは凄かったですね。さすがは是緒羅様です」
「まあ、本気を出せばこんなものさ」
　是緒羅が得意げに笑って見せた。
「さて、もう１ゲームやるか？」
「あ、そろそろランチの時間じゃないでしょうか？」
　エリアがテニスコートの脇にある時計に目をやり答えた。
「もうそんな時間か？あっという間だったなー。じゃあ、行くか？」
「ええ、そうしましょう。お腹、空いてきましたしね」



　レストラン『ハート・シェフ』は、その名の通りハート模様の椅子やテーブルが設置された可愛らしい店で、運ばれてくる食器までもがハートの模様や装飾品がついていた。
「カップル向けの店のような気もしますが、御伽噺に出てくるような店にも見えますよね」
　店の様子を見ながら、エリアが言う。
「どこかの遊園地のレストランみたいだな。で、食べ放題なんだろ？もう取りにいっていいんじゃないのか？」
　すでに他の参加者もレストランに来ており、食べ物が置いてあるテーブルに人が殺到していた。
「俺は肉が食いたいな。エリアは何を食べるんだ？」
「そうですね、私はサンドイッチみたいな軽食がいいでしょうか」
「じゃあ、一緒に取ってきてやるよ」
　是緒羅が席を立りあがると、エリアも同時に立りあがった。
「では、私は飲み物を用意しますね」
　是緒羅は出来上がったばかりのステーキをここぞとばかりに皿にさらい、冷たい緑茶とライスとセットにして食事を楽しんだ。 エリアはサンドイッチと紅茶を食べていたが、よくそんな軽食で体がもつものだと是緒羅は思ったりした。
　食べ放題なので、料理は次々と色々なものが運ばれてきたが、楽しい話をしながら調子にのって食べていると、すぐに満腹になってしまった。
「ちょっと食べ過ぎたかな」
「食べ放題だと、元とろうとして食べ過ぎる人っていますよね」
　是緒羅の様子を見たのか、クスクスとエリアが笑う。
「次はおやつですね。それまで、どうしましょうか？」
「そうだな、さっきバスでここを通った時、湖があったよな？そこへ行かないか？」
「湖ですね！私、ボートに乗ってみたいです！」
　是緒羅達は店を出ると、美味しい料理に満足をしながら湖へと向かうことにした。



「なかなか大きな湖だな。じゃ、早速ボートを借りてこようか」
　是緒羅が料金所へ向かい、二人用のボートを出してもらうと、エリアが桟橋からそっとボートに乗り込んでいた。
「あの、是緒羅様」
　どうせ自分が漕ぎ手になる。いや、この場合女の子に漕がしてはいけないだろうと思った是緒羅は、エリアがその言葉を最後まで言う前に答えて見せる。
「わかっているよ、俺が漕ぎ手をやるよ」
　そう言って是緒羅はボートを漕ぎ始めるが、なかなかうまくいかない。見ているだけだと、ボートを漕ぐのは簡単そうに見えるが、実際はそうではないのだ。
「あの、なかなか進まないみたいですが」
「何だか難しいな、ボート漕ぐのは」
　ゆっくりゆっくりと進むボート。しかし、エリアはそれを楽しんでいるようにも見えた。
「是緒羅様、ほら、あそこ！」
　エリアが指差した先に、白鳥が優雅に水面を漂っている。
「おー、白鳥だ。すいぶん慣れているんだな、ほら、あんなに人がそばに来ているのにちっとも逃げない。観光客がえさをあげまくるのかな？」
「この湖に住んでいるのかもしれないですね、あの白鳥達。ところで、是緒羅様、それって釣り道具ですか？」
　是緒羅の足元に置かれている釣り道具に、エリアは目を向けていた。
「あ、ああ、そうだとも。釣りも好きだからな」
　どうせ大きな湖まで来たんだ、釣りもやりたいと思った是緒羅は、ボートに乗る前に釣り道具もレンタルしていたのであった。
「どうせだから少しやってみてはどうですか？あまり水鳥がいないあたりで」
　エリアがそう答えたので、是緒羅は笑顔で釣りスポットを探し始めた。
「そうか？じゃあ」
　是緒羅達は、ボートで移動して釣りを試みたが、ちっとも魚は釣れない。やっとかかったと思えばガラクタばかりで、お約束のように長靴や空き缶が釣れたりするのだ。
「長靴を釣ってしまったよ。もう一足釣れば、使えるかな？」
「是緒羅様…釣っても左右でサイズが合わないかもしれないし」
　それに納得した是緒羅は、さらに１時間ほどかかって、やっと小さな鯉みたいな魚を釣り上げた。
「だめだなー、この池」
「魚があまりいないのでしょうか？そういえば、そんなに釣りやっている人もいないような気も」
「ま、少し釣りも出来たからいいかな。この魚は帰してやろう。こんな小さいの持ち帰ってもなあ。ところで、今何時だ？」
　是緒羅がつり道具を片付けながらエリアに尋ねる。
「あと２０分ほどで３時ですね」
「そうか、ちょうどいいな。おやつの時間だ」



　再びレストラン『ハート・シェフ』に戻ってきた是緒羅達は、今度はケーキ、ゼリー、アイスクリーム、プティングやようかんなどの色々なお菓子を楽しんだ。
　ランチの時よりはやや空き気味だが、おやつを食べているのはほとんどが女性で、男性の方はお菓子をつつきながらコーヒーを飲んだりしている。
「このチーズケーキが美味しいですよ」
「アイスは、変り種があるな。ビールにきなこ、日本酒アイスなんてのもある」
　こんな公園の施設で、ここまで用意すれば、公園というよりもレストラン目的で来る人もいるのではないか、と思いつつ、おやつを食べ終わった是緒羅達は、最後に植物園に向かう事にした。
　巨大ドーム型のその植物園には、エリアごとに各国の植物を展示していた。何十メートルにもなる熱帯の植物や、背を低くして葉を広げた高山の植物。薄暗い部屋に置かれたキノコは見ているだけで異様で、中には珍しい光るキノコまであった。
「このキノコは猛毒らしいな、そう書いてあるぞ」
　それぞれの植物には、そばにあるプレートに名前と説明が書かれている。
　よく、派手なキノコは猛毒、と聞くのだが、この植物園のキノコを見る限り、そうでもないらしい。やはり、普通のと毒のとを見分けるのは難しいようだ。
「こっちの草は、山菜に似ているけど間違って食べると大変な事になるみたいです。全然わからないですけど」
エリアが眺めていた植物は、山菜のフキにそっくりなハシリドコロであった。うっかり食べてしまったら大変な事になってしまう。是緒羅は、山で植物を採るときには気をつけねば、と思いつつ、終わりに世界最大の花・ラフレシアを眺めた。
「この花のにおいはつまり、あー、トイレだな」
「ハッキリ言わないでください、是緒羅様…」
　確かに大きくて、特徴的な花ではあるが、何しろ香りがあまり良くない。もしこの花が自分の家の周りに沢山生えたら近所になんと思われるだろうか…などと考えながら、是緒羅達は植物園を後にした。
「さてと、そろそろ解散の時刻だな。このまま帰って良かったんだよな」
「そうですね、それぞれで解散していいみたいです」
「じゃあ、家まで送っていくよ。行こうか」
　時計で現在時刻を確認すると、是緒羅はエリアを連れてシティのバスへと乗り込み、楽しい思い出を頭の中で思い出しながら、公園にお別れを言った。
「今日は無理を言って付き合って頂いてありがとうございます。おかげで、とても良いホワイトデーを過ごす事が出来ました」
「こちらこそ、誘ってもらって楽しかった。また来ような、まだ行ってないところもあるしな、あの公園は。ラフレシアはもういいけどな」
　エリアを自宅まで送り届けた是緒羅は、今日、このツアーに誘ってくれた彼女に礼を言うと、手を振るエリアが見えなくなるまで手を振り、自宅へと赴いた。（終）

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

◆登場人物一覧◇

【0592　／　エリア・スチール　／　女性　／　16歳　／　エスパー】
【0593　／　大道寺・是緒羅　／　男性　／　20歳　／　エスパーハーフサイバー】

◆ライター通信◇

　大道寺・是緒羅様

　初めまして。新人ライターの朝霧・青海です。今回は朝霧のホワイトデー限定ノベルに参加下さり、本当に有難うございました！サイコマでの執筆は初めてになりますので、世界観など色々な物を調べているうちに、納期いっぱいになってしまいました、お待たせして申し訳ありません（汗）
　今回はサイコマの物語の流れに関係なく、ほのぼのとしたデート依頼を書かせて頂きました。ですが、コメディＯＫという事でしたので、ところどころに変な文章が混ぜてあります（笑）是緒羅さんをちょっととぼけたキャラにしてみましたが、如何でしたでしょうか？かなりどきどきです（汗）
　植物園のシーンは、名前を出した植物はネットで調べたりしました。勉強になりましたが、ラフレシアって世界最大の花という部分以外は、ちょっと奇妙な植物だと知ったり（笑）
　同参加者のエリアさんとは視点別になっておりますので、そちらもご覧になるとまた違った方向から楽しめるかもしれません（笑）それでは、今回はどうも有難うございました！

ホワイトデー・恋人達の物語２００５

朝霧　青海

PSYCHO MASTERS　アナザー・レポート

2005年03月28日