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『++   訪問診療   ++ 』
オーマ・シュヴァルツ1953


「先生…結構腕の立つ医者なんだって…?」
「……お?」
 男の向けた視線の先、戸口の隙間から小さな顔を覗かせる子供がいた。
 恥ずかしがりなのか、中へ入ってこようとはしない。
 彼はにっと口の両端を引き上げると、「こいこい」とばかりに子供に手招きをする。
 ところが彼は首を左右へ振い、中へ入ってくるような素振りを見せなかった。

 (可愛らしいねぇ)
 オーマは笑みを深めて子供をじっと見詰めた。
 黒い葡萄粒のような瞳が、じっと彼の赤い瞳を見詰めてくる。
「どうした?」
「この辺で先生の噂を聞いたんだ。腕がいいって」 
 オーマは暇でキィキィとしならせていた椅子の背を立て直し、子供の方へ向き直った。
「あぁ、まぁな。俺様は筋肉ギンギン☆ラブ医者だぜ」
 グッと親指を立てて胸の辺りでポーズを決める。
「いや、そんな事聞いてないから」
「おぉ、そうか」
 子供にあるまじき冷静な突っ込みに、オーマは何か誰かに似てんなぁ、等と考える。
「ま、いいや。なら家までちょっと来てくんねぇかな」
「言葉使いの悪いお子さんだねぇ。誰に教育受けたんだ? ラブラブマッスル☆教育してやろうか」
「……要らないから」
「あ、そうか? 汗と感動と親父愛のミラクルラブ☆大胸筋コースも特別におまえさんにゃ用意してるぜ?」
「なんだよ、結局大胸筋しか鍛えねぇのかよ」
「おっっ? ボーズ、やっぱし興味あんじゃねぇか。じゃあ特別に首筋メリメリ☆コースも…」
「筋肉関係ねぇ〜」
「何言ってる! 男は鎖骨も命だぜ!? わかってんのかよ、あぁん?」
「今度は骨かよ! おっさんやる気あんのかコルァ!!」
 子供が急に顔の影ををくわっっと(般若のように)濃くしたので、オーマは思わず椅子からよろけた。
「おぉっと……やっぱラブラブマッスル☆教育が先だな」
「だから要らないってのに…とにかく、来る気あるのか、無いのかだけ答えてくれないかな」
 気を取り直してオーマに質問を投げかける少年に、彼は首を少し捻った。
「どんな用件だ? 医者を必要としているんなら状況を説明しろよ」
「えっらそうに」
「あんだと〜?」
 急に立ち上がった身長二メートルを越す巨体に怯んだ様子の子供が、少し小さめの声で話し始めた。
「ばあちゃんが病気なんだよ。毎日唸り声上げて苦しんでる。難しい病気なんだって事は、俺にだって見てれば分かる」
 子供は、真剣な表情でオーマに訴えかけた。
「なのに父さんや母さんは、ばあちゃんをベッドに縛り付けて医者も呼ぼうとしない。何を考えているのかわからない。俺がガキだからって教えてくれないから。でも……」
 彼は睨みつけるようにオーマを見据えてくる。
「助けたいんだ」
 その言葉にオーマは再びにっと笑みを浮かべた。
「おぉ。よく言ったぜボーズ。この腹黒ラブ医が原因を突き止めてやるぜ」
「……その言葉はありがたいんだけど「腹黒」って辺りが信用ならないんだけど?」
「はっはっは、気のせいだ!!」
「……そうかな?」
「そうだ、気のせいだ気のせい」
 そう言いながら背中を大きな手でバシバシと叩いてくるので、子供はけふっけふっと叩かれるごとにむせた。
「…とにかく、来てくれるって事でいいんだよな?」
「おうよ。行ってやろうじゃねぇの」
 子供は安堵した様子で表情を和らげる。
 二人は訪問診療の準備を済ませると、子供の家へと向かって歩き始めた。


「おまえ、幾つだ」
「今年で十一」
 オーマは何故かにやりとして口の端を引き上げる。
 子供には、ぶっきらぼうでもそれなりに愛嬌というものがあった。
 何より……資質がある。
 オーマの瞳が怪しく輝いた!
「へぇ、おまえ腹黒同盟に入んねぇか」
「何だよ腹黒って」
「腹黒っつってもそんじょそこらの腹黒とは違うんだぜ。なんつったって聖都公認☆
腹黒本能の赴くまま、親父桃源郷を夢見てラブ胴上げ! 何でも有りマッスルで楽しく華麗に腹黒親父とラブダンシング☆ヒートアップでズキュン!」
「あんたもう何言ってんのかわかんねぇよ…俺親父じゃねぇし」
「そんな心配筋肉無用☆親父じゃなくても熱烈歓迎!!
しかも今なら青眼鏡一撃ズキュンレアアイテム贈呈だぜ!」
「何だよ青眼鏡って」
「それに……」
 オーマは不意に神妙な面持ちで子供の両肩に大きな手をそっと置いた。

「おまえも何時かは親父になるんだよ」

「……………ぜったいに嫌」
「何我儘言ってんだ、おまえの未来は既に確定されているんだぜ。
未来はみんなの夢親父☆ってか〜」
「なんね―よ!」
「ホント我儘な子だねぇ、そろそろ観念しとけよ。
将来の夢は腹黒色物親父です☆って桃色卒業文集に書くんですヨ」
「ふざけんな、書かね―よ!!」
二人がぎゃあぎゃあと騒いでいる内に時間は過ぎ、彼らは町外れにあるその子の家にたどり着いた。


「今日は家の親、留守にしてるから。今の内に入っちゃえば大丈夫」
「あんまこそこそする事ねぇんじゃねぇの? ここはおまえの家なんだし、俺は医者な訳だし。
返って怪しいっつぅか」
「怪しくて結構」
「…おーいボーズ、この桃色青春夢見る親父の名声地に落としてぇの? 何が狙いだよ」
 そろそろ疲れたのか、子供はハハハ、と乾いた笑い声をたてる。
「大丈夫だって…ばあちゃんの毎日の呻き声のせいで、近所の人、誰も近付いてこないから……」
「……おまえ」
「誰も関わろうとしないし、見てても見ないふり……だから、大丈夫」
「………」
「安心した? ……開けるよ」
 子供が首から下げていた鍵でドアを開くと、オーマは彼よりも先に部屋の中へと入っていった。
 部屋に一歩足を踏み入れた瞬間から、先程までは感じられなかった妙な気配が渦巻くように首筋を撫でつける。
「先生、ばあちゃんの部屋…」
 後から部屋に入ってきた子供が何か喋るのを手で制し、オーマは医療用具を詰め込んだ鞄を片手にどんどんと奥へ入ってゆく――迷う事無く。
 最奥の部屋の前へたどり着くと、何かが「ううぅぅぅ」と、低く唸るような声が聞こえてくる。
 彼は臆する事無く、具現能力で厳重な扉の鍵を消し去り、そのまま扉を勢い良く押し開いた。
「先生、鍵は…? かかってなかった?」
「……あぁ」
 足を踏み入れるまでもなく、オーマは顔を顰める。
「酷いだろ? 今日はまだ、大人しい方。
夜になると、どんどん声が大きくなって…暴れるから、父さんも母さんも、近付かなくなった。…最初は近所の人も黙ってた。
それから抗議をしてきたんだ。夜中にあんな大声で煩いって。眠れないって…でも、次第に皆、何も言わなくなって……無視されるようになった。影で、ひそひそ言ってる人もいる。俺、普通に外で遊べなくなって…友達も皆、離れてって……」
「……ばあさんがこうなったのはいつ頃からだ」
「もう…一月以上になる」
「一月以上も……こんな状態で居たのか」
「先生、人間ってご飯を食べないと動けないよね」
「……あぁ」
「ばあちゃん、もう一月も何も口にしてない…どうして生きていられるんだろう」
「………おまえ」
オーマは子供の方を振り向いて目線の高さを、彼のものと合わせるように屈み込んだ。
「おまえが俺を頼ってきたのは大正解だったみたいだぜ。このばあさんは俺が責任を持って治してやっからよ、おまえは……ここを動くな」
「…どうして」
「誰が入ってきても、この部屋には入れるんじゃねぇ。この治療は途中で止めちゃなんねぇモンなんだ。誰にも邪魔されるわけにゃいかねぇのよ。んでもってその重要な役目を未来の桃色親父に任せようって訳だ。解るな?」
「……桃色親父の下りは理解しないけど、最初の方はわかったよ、先生。誰もばあちゃんの部屋には入れさせない。それでいいんだろ」
「上出来だ。後は全理解に務めてろよ」
「そろそろ脳みそがカチカチになって動かないよ、先生」
「おめ、コンニャロ…ぜってぇに腹黒同盟入りさせてやっからな!! 覚えてろよ」
 そう言ってオーマはばたりと部屋の扉を固く閉じた。
 閉じられた扉の前に立ち尽くし、少年は身動ぎもせずに立ち尽くす。
「なんすか先生、そのヤラレキャラの逃げ口上みたいな台詞は」
 憎まれ口を叩きながらも、彼の顔はくしゃりと歪んでいる。
 哀しさと 恐怖と 不安とで押し潰されそうになりながら。
 彼は扉に背を向けると、その場にしゃがみこんだ。
「あんたとの約束通り、ここは誰も通さない」
 固い意思をその小さな胸に秘めて――


「正体を現しやがれ…あんな小せぇガキを苦しませやがって……」
「うううぅうぅぅぅぅぅ……」
 老婆が――ベッドに縛られた体を渾身の力で捻りながら、呻き声を上げる。

 オーマは気が付いていた。
 時間が経つごとに、異様な気配が辺りを包み込んでゆく事に。

「余生を孫と楽しんでたばあさんを、そんな目に遭わせやがって……」

 夜の闇が増してゆく――時計の針がその流れを刻む。
 その度ごとに。

「何の理由があってそんな事してんだよ…おまえは」

 【ウォズ】という存在であるという明らかな気配が。
 異様なスピードで急激に膨らんでゆき、充満する。

 オーマの手から放れた医療道具の詰め込まれた鞄が、どさりと音を立てて床の上に落ちる。
「あのチビやばあさんの幸せに、何てことしてくれてんだ。おまえの何処にそれを潰す権利があるっつぅんだよ!!」

 ――夕日がオーマの横顔を紅く染め上げる。
 彼の問い掛けに、薄暗い部屋の隅にあるベッドの上に居る老婆が、ぴくりと反応して動きを止めた。
 口の端から微かに、荒く息をつく音が漏れ出している……

「ヴァ…ン、サー…カ……」

 人語を介するほど高位とは思われなかった【ウォズ】だけに、オーマは眉をぴくりと動かした。
「おまえ…」

「シ…バシ、マ…テ……」

 言葉を発する合間にも端々から息が漏れ出しているのか、甲高い音が部屋に響き渡る。
 オーマは一言も発せずに成り行きをじっと見守っていた。
 ――もしかすると、この【ウォズ】は話し合いを持てる相手かもしれない。
 そんな事を考えながら。

「ヴァンサー…このような錆びれた民家に一体何の用じゃ」

 相手が不意に口を開いた。数分も待たない内に随分と流暢な話し振りだ。
「ばあさんを治療しに来た。こう見えても俺は医者でね…」
「そんなものは不要じゃ…見て解らぬか」
 ケロリとした表情で老婆――いや、【ウォズ】はやんわりと笑って見せた。
「おまえの安否なんざ訊いてねぇよ…ばあさんの体の事を言っているんだ。それくらい解ってんだろ?」
「そうじゃのう…解っておるが…答えも変わらぬ」
「……その体で一体何をしようってんだ。返って不自由だろうが」
「ヴァンサー……あの子に頼まれてきたのか」
「…そうだ」
 【ウォズ】はその答えに目を細めると、どこか遠くを眺めるようにオーマを見据えた。
「あの子は婆さんが好きでな…外に出れん婆さんの代わりに、よく外に出ては土産話をしてくれたもんじゃ」
「それはその婆さんの記憶だろう、おまえのもんじゃねぇ」
「そう…ワシの物ではない。でもなぁ……ワシも孫が欲しゅうて欲しゅうてのう」
「んな勝手な理由で…!」
「助けてやりたかったんじゃよ」
 そう言うと、【ウォズ】は自らの両腕を押さえつけていた布束を引き千切った。
「この体に最初に巣食ったのは別の者じゃった…見つけた時には既に遅く――いくらワシでも無理やりに引き剥がすなんてことは出来んくてのう…そんな事をすれば、ただでさえ弱っとる婆さんを一緒に引きずり出してしまうかも知れんかったんじゃ…
じゃから……一緒に戦ってやる事にしたんじゃよ」
 上半身を起こして頭部を強く押さえつけ、微かに首を引き攣らせる――すると、老婆の頭部から別の顔が引き出された。
「何…?」
「感じるじゃろ…ワシ以外の、この体に巣食う【ウォズ】の気配を…おまえさんはなかなか見込みがある…ヴァンサーにしては、な」
「おいおい…そりゃあ、まさか…そのばあさんの体の中で【ウォズ】同士が戦ってるってことか!?」
「その通り、じゃよ。無論婆さんも一緒じゃがのう……」
 まだまだ厳格そうな老人の顔をした【ウォズ】。その首の後ろに、先程部屋へ入った時に感じたような、禍々しい気配を発する「それ」がいた。
「おい…じいさん、おまえ…」
「老いぼれはちいと油断してのう…首筋に噛み付かれての…ちいとばかし同化してしもうたわ」
 傍から見て解るほど、もう一体の人の形をなしては居ない小さな【ウォズ】が老人の首筋に寄生するかのように喰い込んでいた。
「おかげさんでもう離れられんくなってしもうたわい」
 ふぉふぉふぉ…と愉快そうに笑い声を上げた老人は、不意に真摯な瞳でオーマを見据えた。
「お主は中々のやり手のようじゃ…ワシと一戦交えてみんか。
ワシに勝ったら大人しく封印させてやろう。だが負ければ――この婆さんの命はない。【ウォズ】もろとも、ワシが引きずって行ってしまうからのう…どうじゃ、やってみんか」
「じいさん…そういう事なら、やってやろうじゃねぇの」
「それでこそ男じゃ」
 そう言うと、老人は老婆の体の中に戻り、足を拘束していた布束をぶちりと引き千切って立ち上がる。
「腹黒親父と呼べ!」
 オーマはそのまま具現能力で創り出した、親父マグナム☆桃色カスタムガンを二丁手にし、続け様に発砲した。
「何のまだまだ! この小童が!!」
 宙を舞い、ひらりとかわした老婆が裾から白いヌンチャクを具現化して取り出し、オーマに向けて一撃を浴びせる。
「ちっ」
 オーマはその攻撃を腕で押さえると、相手が武器を引く瞬間目掛けて幾度も発砲する。
「おいじいさん! おまえなんで夜中になると暴れてやがったんだ!!」
 老人は空中で旋回しながら弾を受け流すと、すたっと軽い音をさせてベッドの上に立った。
「老人は皆早寝早起きなんじゃよ!」
 大きく振りかぶった両腕をオーマ目掛けて振りぬくと、そこからかまいたちのようなものが放たれた!
「ついでにゆうておくが、体を縛るように指示したのもワシじゃ!!」
「うおっっ!!」
 慌てて飛び退いたオーマは危うく本棚を破壊する寸前だ。
「部屋を壊さんようにちいとばかし気をつけねばのう」
 老人はふぉふぉふぉと笑い声を立てると、体勢を崩していたオーマの眼前に飛び降り、腹部を腕で鋭く突いてきた。
 容赦なく突き抉られたオーマの体が空を斬って壁に激突する。
「ぐっ…じいさん、ほんとに気をつける気あんのかよ…!!」
 言うが早いか老人の立つ場所に弾丸を数発打ち込んでやると、オーマは老人の次の攻撃に備えて更に右へ飛び退く。
 そのために地を蹴った瞬間……

 ドゴォッッ

 老人の拳がオーマの居た、正にその場所を打ち抜いていた。
「老体……ちったぁ労われよ」
「……ふぅむ。久々に血肉沸き踊る思いじゃよ」
 老人はその場にすっと立ち上がると、にっと笑ってオーマの方をじっと見据えた。
「ちいとばかし興奮してきおったわ…いかんのう…お主と戦っておると、あの男を思い出すわい」
「へっ…誰だか知らねぇけどよ、こ〜んな元気なじいさんと遣り合えるなんざ、よっぽどのマッチョだったんだろうぜ、なぁ?」
「……そうじゃのう」
 老人は目を細めると、懐かしいものでも眺めるかのようにふっと柔らかく微笑んだ。
「大変じゃったのう…あの頃は。
おまえさん、あれから一体どうして居ったんじゃ? ん?」
「……じいさん、俺を知ってんのか?」
「……ふぅむ、人違いかのう」
 飛び上がった老人は、再び大きく腕を振りかぶり、かまいたちを投げつける。
 何度も振りぬかれた腕から放たれるかまいたちは、オーマの腕を掠り、血を滴らせた。
「ちっ…このっっ」
 銃弾を打ち込み、数発かわされた所で更に具現化したガトリングガンを撃ち鳴らす。
 手元でがたがたと揺れる黒い塊を押さえつけながら、ひらりひらりと身軽に弾をかわす老人を、面白いものでも見るかのようににやにやしながら見据える。
「おぉ、そうじゃ…いいことを思いついたわ」
 そう言うが早いか、老人は老婆の体からずりゅっと自らの首を引き抜いた。

ぐりんっっ

「んなっっ!!」
 とても人体がそこまで曲がるとは思えない領域まで老人の首が回転する。
 そこへ、オーマの放っていた銃弾が減り込んだ!
「おぉ、いてて、あぁ、いたた」
 老人が針にでも刺されたかのように首筋を掻き毟る。
「え? …おい、じいさん」
「いやはや、流石はヴァンサー、じゃの。
ほれ、何をぐずぐずしとるんじゃ、とっととこやつを封印せんか!」
 老人の首からオーマの弾丸で引き千切られた【ウォズ】が、のた打ち回りながら老人の指先で老婆の体から引き抜かれる。
 オーマは【ウォズ】を弾丸で打ち抜くと、丁度良くあつらえられた腕の傷から【ウォズ】の封印を行った。
 すっとオーマの体に入り込み、さらさらと消えて無くなった。
「いやぁ、一緒に入って一緒に出てくれば簡単だったんじゃのう〜勉強になったわい」
 オーマは納得の行かない様子で老人を見据える。
「何でじいさんががこんなに苦労したもんが、一瞬なんだよ」
「お主の与えてくれた「痛み」のおかげでこやつが婆さんの体から一瞬だけ、身を引いたんじゃよ。その隙に「すぽっ」とな!まぁ、今回の事は「老人でも容赦なく銃をぶっ放す」ようなお主の協力がなければ出来んかった事。取り敢えずは感謝しておくとするかのう」
 老人はふぉふぉふぉ、と笑いながらオーマの頭をぐしゃぐしゃに掻き回した。
「ようやったわ、小童」
「くおらじじぃ! 俺は小童じゃねぇ! 素敵にズキュン☆腹黒親父だっつってんだろうが!!」
「ふぉふぉふぉ、さぁてじじぃは封印されんうちに逃げておこうかの」
「おいっっちょっと待て!! じいさんには聞きたい事が…!!」
 言い終わらぬうちに、老人は老婆の体からするりと抜けて、先程開けた床の穴の中へと吸い込まれるように消えていってしまった。
 呆然と膝を付いたオーマの背後でかちゃりと扉が開かれる。
「…先生?」
 呟いた少年の目の前に広がる惨状…部屋の家具、壁、ベッドは銃弾の穴だらけ。おまけに所々にかまいたちで引き裂かれた跡が残る。
 布団は無残に引き千切られ、床には何か拳でも減り込んだかのような穴が残されていた。
 彼にとって一番ショックだったのは、恐らく老婆が床の上に倒れ込んでいた事であろう。
「ば…ばあちゃん!! 先生一体どんな治療したんだよ!!」
「……腹黒ナイズドな診療を……」
 そう言いながら乾いた笑いを浮かべるオーマ。
 その視線の先、少年の背後には――丁度帰宅したご両親の姿があった。


 後日、少年は老婆と両親を伴い、オーマの病院を訪ねてきてこう言ったという。
「ばあちゃんが腹黒同盟に入れってきかなくて…」
 何でも病がちだった老婆の体が、オーマの診療を受けた途端に良くなってしまったので、「これは先生の言う腹黒同盟の力に違いない!」と思い込んでしまったのが理由らしい。


―――― FIN.

* 同盟会員に「町外れに住む少年」をゲットしました。笑 *
PCシチュエーションノベル(シングル) -
芽李 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2005年03月25日

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