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『人違い戦闘 』
久良木・アゲハ3806)&守崎・北斗(0568)


『ニュースの時間です。今日未明、再び傷害事件が起こりました。夜、道を歩いていたAさんは、突如殴る蹴るなどの暴行に遭ったという事です』
 久良木・アゲハ(くらき あげは)は何気なくついていたテレビのニュースを見、はっと息を呑んだ。
「これ……私のうちの近くじゃないですか」
 アゲハは事件があったという場所が映し出された画面を、赤の目で食い入るように見つめた。
『警察の調べによりますと、特徴として長身で何かしらの武術をやっている可能性が高い、という事でした。皆様も、お出かけの際には気をつけるようにして下さい』
「長身で、武術……ですか」
 アゲハは考える。突如、暴行を加えるという犯罪者は、武術をやっているかもしれないのだ。ならば、同じように武術の心得がある自分が役に立つのではないだろうかと。
「ご近所の安全の為に、こういう危ない事はない方がいいですよね?」
 アゲハはぽつりと呟くと、何かを決心したかのように小さく「よし」と気合を入れた。そしてにっこりと満面の笑みを浮かべるのだった。


 夜、事件のあった場所。そこは人通りの少ない、街灯がぽつりぽつりとしかない道であった。
(まさにここならば、悪い人が襲い掛かっても不思議じゃないですね)
 アゲハはそう思い、こっくりと頷いた。誰に言う訳でもなく、こっくりと。
 長い銀の髪を一つにくくり、パーカーにジーンズという動きやすい格好を取っている。帽子は目深に、目立たぬように顔がばれないように、しっかりと被って。
 全ては、ご町内の安全を確保する為に。
(悪い人、今日も現れますよね。だって、ずっと現れてますもんね)
 アゲハはそう考え、ぎゅっと拳を握った。
 とある暗殺業の流れを汲む家系の裏や分家に位置するものの、アルビの体質という目立つ容姿の為に、また怪我や死を恐れるという性格の為に、暗殺業は既に諦めている。だがしかし、その家系から受け継いだ体術は、そんじょそこらの人間には負けることは無い。家系内だからこそ、アゲハは勝てないのであって。一般から見れば、アゲハは充分強いという評価を受けるだけの能力を持っているのだ。
 そんなアゲハが暴力をふるうという犯罪者に挑む。負けるはずがないと、アゲハ自身も思っている。
 いくら武術の心得があるとはいえ、普通の人間がまっすぐに死へと誘う為の体術を持っているアゲハに、敵う筈がない。
(武術をやっているというのなら、動きを見ればいいですからね)
 アゲハは事件のあった辺りを散策し、時には気配を消し、また時には自らが囮となるように姿を見せたりもしていた。
 と、そんな折。一人の青年が夜道を歩いているのを見つけた。
(高い身長)
 ニュースで言われていた一つ目の特徴、長身。歩いてくる青年は、まさに当てはまる。
(それに、あの動き)
 ニュースで言われていたもう一つの特徴、武術の心得。歩いてくる青年の動きに無駄は無く、隙はほぼ無いと言って等しかった。
(つまりは、武術をやっていると見て間違いないですね)
 アゲハはごくりと喉を鳴らした。道が薄暗い為に顔はよく見えない。ただ、青年という事は確かであり、長身という事も確かであり、そしてまた武術の心得があると言うのも確かであった。
(いってみましょうか?)
 アゲハはぎゅっと拳を握り締め、自問する。今この通りにいるのは、あの青年と自分だけだ。
(犯人は現場に戻るって言います。大体、こんな暗い道を誰が通ります?)
 普通に公共道路なのだから、別に人が通っても可笑しくは無い。だが、今はニュースの報道があった後だ。近所の人間ならば、あれがこの道の風景なのだと気付かない筈も無い。そしてまた、あのような暴行事件が相次ぐ中、このような暗い道を好んで通ろうとする筈も無いのだ。
(つまりは、あの人が……)
 アゲハは決心する。確信ではないが、はっきりとした証拠も無いが、きっと向こうからやってくる青年が犯罪者なのだと。
「善は急げ、ですよね」
 アゲハはぽつりと呟くと、地面を蹴って青年に向かって走り出した。身を屈め、風の如く駆け抜け、青年に近付いてから勢い良く地面を蹴って飛び上がる。ちょうど、青年から逆光となるように。
「ん?」
 アゲハからの攻撃を気配から察知し、青年はくるりと振り返った。そこで見たのは、自分を背後から攻撃しようとする、アゲハの姿。
「……へ?」
 青年は半ば呆然となりつつも、アゲハからの蹴りを両腕でガードし、素早く身構えた。
「ななな、なんだよ?」
「……やっぱり、心得があるようですね」
「な、何だ?……ははーん、まさかお前……」
 青年はそう言いながらにやりと笑ったようだった。しかし最後までいう事は出来ず、アゲハからの拳によって阻まれてしまった。その拳は青年の頬をほんの数ミリ横切っただけに留まり、その空をきった拳は青年によって捕われそうになった。
 が、アゲハもその捕らえようとした手をすっと避け、再び身体を屈めて攻撃態勢に入った。すると青年も応戦体制に入り、ふふん、と笑った。
「なかなかやるじゃねーか」
 アゲハはそんな青年の声には答えず、肘を使って勢い良く青年に向かっていく。急所を捉えようとする、暗殺業ならではの攻めである。しかし、そんな攻撃も青年が地を強く蹴って飛び上がった事によって空を切っただけに留まってしまった。
「今度はこっちの番だぜ」
 青年はそう言うと、足を大きく振りかざしてアゲハに向かって蹴りを入れようとした。アゲハは小さく「はっ」と言うと、先ほど青年がしたように両腕でガードした。しかし、性別による蹴りの重みは全く違う。青年の蹴りにより、ガードした両腕がじんじんという痛みを帯びる。
「まだまだぁ!」
 青年はそう言うと、アゲハの着ているパーカーの衿を掴んだ。一気に投げ飛ばしてしまう気だ。
「させません!」
 アゲハはそう小さく呟くと、するりとパーカーを脱ぎ、投げから逃避した。
(なかなか、隙がありませんね……!しかも相当、強いです)
 しかし、そこで不思議な現象が起こった。パーカーを掴み、放り投げようとした青年は一瞬小首を傾げたのだ。
 何かに気付き、何かを疑問に思い、何かを思い出そうとするかのように。
 が、そんな青年の動きをアゲハはチャンスだと思ってしまった。アゲハは相手の青年を、巷で騒がれている犯罪者だと思い込んでしまっているのだから。
「はぁっ!」
 アゲハはそう言うと、地を蹴って素早く青年の後ろに回り込んだ。そしてバックドロップを試みたのだ。
「……ま、待て!」
 そう青年は言ったが、必死になっているアゲハの耳には入らない。アゲハはバックドロップをついに決めてしまった。青年の胸にヒットし、青年はその場に倒れこんでしまった。
(やりました!)
 アゲハはにっこりと笑い、青年の顔を拝もうと回り込み……時を止めた。
「……え?」
 当ててしまってから、アゲハは気付く。そう、ようやく気付いてしまったのだ。
 自分が犯罪者だと決め付け、攻撃を仕掛け、戦い、ついにはバックドロップまで決めてしまった相手が守崎・北斗(もりさき ほくと)である事に。
「ど、どうしましょう」
 アゲハは呟き、おろおろと辺りを忙しく動き……決めた。こっくりと大きく頷いて。


 すっかり静まり返った暗い道で、北斗はゆっくりと青の目を開けた。身体を起こそうとすれば、ずきりと胸が痛んだ。
「……痛つ」
 小さく呟き、そして辺りを見回した。逃げていく少女の姿。
「やっぱりあいつかー……」
 北斗はその後姿をじっと見つめ、大きく溜息をついた。
「何だよー。あいつ、絶対俺のこと最近起こってる事件の犯人だと思い込んでやがったって!ったく」
 北斗は小さく「うー」と唸り、がしがしと茶色の髪をかいた。そして気付く。道端にぽつりと置かれている、パーカーの存在を。
 それは北斗が掴んだ、アゲハのパーカー。するりとアゲハが逃げる為に使った、女物のパーカー。
「俺、これで相手が女だって分かったっていうのに。つーか、本当ならあんなのも避けれたのに」
 北斗は悔しそうに呟く。いつもの万全な状態の北斗ならば、あのようなバックドロップを食らう事はありえない。回避して当然、さらに余裕があれば回避した後に攻撃すら仕掛けることが出来るのだ。
 それをしなかったのは、相手が女である事に加え、相手がアゲハだと思い当たったからだ。
「さーて、どーしてやろーかなー?」
 ふっふっふー、と北斗は笑った。笑う度に胸がずきずきと痛んだが、全くもって気にはならなかった。そんな事よりも、北斗の頭には手にしているパーカーを使ってのこれからが、楽しみでならないという事しか浮かんでいるのであった。


 次の日、アゲハの元に何かが届いた。親戚から「はい」と手渡されたのだ。
「……こ、これは……!」
 親戚経由で渡されたのは、アゲハのパーカーであった。そう、昨日アゲハが北斗の投げを回避する為に脱いだ、パーカーである。
「これ、私の……ですよね」
 何度も確かめ、何度も問い、アゲハは諦めたように溜息をついた。
 ばれていたのだ。自分が昨日、北斗に襲い掛かったという事実を。北斗はきっちり気付いていたのだ。
「どどど、どうしましょう。とりあえず謝って……で、でも昨日私、逃げてしまったし」
 パーカーを握り締め、あたふたとアゲハは動き回る。
「というか、怒ってますよね。当然ですよね。うわあ、どうしましょう!」
 アゲハはパーカーを持ったまま何度も「どうしよう」を繰り返した。目にはうっすらと涙まで浮かび始めていた。
『アーゲーハー』
「うわああ、ごめんなさいごめんなさい!」
 何故だか聞こえたような気がした北斗の怒りのこもった声に、アゲハは思わず青くなりながら何度も謝った。幻聴に向かって、何度も。
 こうして、アゲハは怒りがたっぷりこもった北斗の低い低い声の幻聴に、当分悩まされる事になってしまうのであった。

<パーカーは結局終始握り締めたまま・了>
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
霜月玲守 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年03月25日

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