▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『見つめる目 』
ソノ・ハ2175

 大きな事件や小さな事件。人が集まると、何かが起こるものである。
 幸せを含む事があれば、不幸を招く事もあった。
 エルザードのように大きな街になると、人が多い分だけ、事件も多かった。
 そうした、事件…とまでは行かなくても、小さな出来事でも…を楽しむ者達も、中には居た。
 ウォッチャーと、人から皮肉混じりに呼ばれる、ソノ・ハもそんな一人だった。
 じーっと、まっすぐに何かを見続ける。そうした事を楽しみとする者だった。
 そんなソノ・ハは、何か面白い事は無いかと、いつもエルザードの酒場をぶらぶらとしていた。
 「オレンジジュースを、一杯下さいな」
 ソノ・ハは、のんびりと飲み物を頼む。
 そうして、酒場に居ながら、何かが起きるのをじっと待っていた。
 もちろん、毎日、何かが起きるとは限らない。何も起きない日もある。何かが起きれば、喜んで見物に行くし、何も無ければ、酒場で談笑しながらのんびりと過ごす。ウォッチャーの日々とは、そんなものだった。
 丁度、その日は、事件が起こった日だった。エルザードの東部で家々が燃え始めたのだ。火事である。
 家々が燃え始めて、火事が騒ぎになり始めた頃には、すでにソノ・ハの姿は酒場には無かった…
 まあ、それ程特殊な事件では無かった。普通の放火である。
 火事の火を着けたのは、泥棒を生業としている男で、火事のどさくさに紛れての仕事が得意な男だった。
 そんな男が、いっその事、自分で火事も起こしてしまえば仕事がやり易いのではないかと考えた事が、その日の火事の原因だった。
 男が火を着けると、何軒かの家が燃え始めた。
 逃げ惑う人や消火活動に当たる人が行き交い、次第に周囲が騒がしくなる。それに紛れるようにして、男は仕事をしていた。
 だが、今日は何となく仕事がし辛かった。どうも、落ち着かない。男は、頻繁に周囲を見回しながら仕事をしている。
 火事場泥棒の男が居る家は燃えていた。住人はもちろん逃げ出していて、誰も居ない。だから、誰も男の様子を観察しているはずは無いのだ。
 …でも、誰かが見ている。
 今日は、ずっとそんな気がして仕方が無かった。
 じーっと、見られている。
 責められるわけではなく、褒められているわけでもなく、ただ、何となく見られている。そんな感じだった。
 そんなはずは無い。
 男は自分を納得させようと努める。この、燃え盛る家の中、自分を見ている者など居るはずがない。それも、ただ何となく見ている者なんて。
 それでも、誰かが、じーっと見つめている。
 そんな気配を、火事場泥棒の男は感じ続ける。結局、誰かに見られているという違和感を振り払えないまま、男はその日の仕事を終えた。
 そして、数日後、男は街の警備隊に放火と火事場泥棒の件で逮捕された。男の火事場泥棒の一部始終を見ていた者が居たそうだ。
 …やはり、気のせいじゃ無かったのか。警備隊に捕まった男は、少しほっとしていたそうだ。
 「いえー、私、見てただけですから」
 後に、ソノ・ハは言う。
 特に理由は無い。
 酒場に居たら、何かを見せてくれそうな人が居たから、後についていって、しばらく様子を見ていたというだけの事である。たまたま、見ていた男が火事場泥棒で、家に火をつけて泥棒をしていたのだ。
 それを、翌日、酒場で友達と話していたら、噂が広まったのだった。
 火事場泥棒の男にとっては、運が悪い出来事だった。エルザードでも最高の野次馬の一人として知られる、ウォッチャー、ソノ・ハに興味をもたれてしまうとは。
 一方、火事場泥棒に悩まされる一般市民にとっては、火事場泥棒が捕らえられた事は幸運な出来事だったと言えるだろう。
 火事の翌日、ソノ・ハは酒場に居た。そこで、昨日と同じく、何かを見続けていた。きっと、明日も酒場に居るのだろう。何か面白い物を見に、エルザードを離れる事でも無い限り…
 
 (完)
 
 
PCシチュエーションノベル(シングル) -
MTS クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2005年03月25日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.