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『講師室Dへようこそ 』
狩野・宴4648

■ うららかな昼下がりに
波打つ赤い滴と差し込む暖かな光・・・。
校舎はいつもと違い生徒の声もまばらで静けさに満ちている。

「・・・ウン、暇だね」

そう呟いた部屋の主、狩野宴(かのうえん)はワイングラスを片手に溜息をついた。
ここは神聖都学園講師室。
いつも来ている助手の生徒も今日はこの部屋には居ない。

なぜならば、今日から春休みだから。

外を見れば部活動に勤しむ少女たち。
いや。少年たちもいるのだが、宴の目には少年たちの姿は認識されていない。
少女たちは宴に気がつくと「狩野センセ〜!」と黄色い歓声と大きな身振りでキャッキャとはしゃぐ。
宴がそれに答えると、さらに喜んで手を振ってくれた。

だが、それも一瞬のこと。

少女たちは顧問に叱られ、部活へと戻っていく。
宴のことなどさっぱり忘れてしまったかのように。

いっそ、この講師室を抜け出し草間興信所辺りにでも行こうか?

ひと時の退屈に身を任せるくらいなら・・・と宴は考える。
あそこならかなりの確率で美女がいるはずだ。
それに退屈しのぎにはもってこいの事件も山ほどあるに違いない。

「それがいいな。そうしよっと」

もたれかかっていた窓枠を軽く押し、宴は出かける準備を始めた。
と・・・

トントン

「・・・どうぞ。開いてるよ」
軽いノックの音で、宴は準備を取りやめたのだった。


■ 現れた女子生徒
「しっつれいしま〜す!!」

元気な声と共にドアが開き、現れたのは中等部の制服に身を包んだ見慣れぬ少女。
「おやおや、珍しいお客さんだね。中等部のお嬢さんが何のご用かな?」
「あたし、瀬名雫(せなしずく)です。狩野先生でしょ? 友達がね、ここなら女の子ならいつでも歓迎してくれるって聞いて来たの!」
ニコニコと屈託なく笑う雫は、そう言って宴の近くまで近づいてきた。

中学生・・・微妙な線だけど、この子は将来が楽しみだな・・・。

クリクリとした瞳に、長いまつげ、快活さがよくわかる笑顔がなんとも愛らしい。
「いいお友達だね。フフ、いつだって歓迎するよ」
にっこりと笑い、宴は言葉を続ける。
「飲み物は何がいいかな? アルコールは好きかい?」
そう言った宴に、雫が困った顔をした。
「一応中学生なんで・・・」
「・・・あぁ、ごめんごめん。ついクセでね。アルコールの他には・・・牛乳かお茶くらいかな」
何のクセなのかはよくわからないが・・・宴は特に気にするでもなく、雫にそう言った。
雫はソファに座り、少し考えると答えた。
「じゃあ牛乳で」
その言葉に、思わず宴は振り向いて雫の上から下までじっくりと眺めた。

「女の子は小さくても可愛いんだけどね」

「それは、暗にあたしが小さいってこと?」
「いやいや、全然そんなことないよ」
雫のふくれっ面も可愛い・・・などと片隅で思いつつ、宴はコップに牛乳を注ぐと雫に差し出した。
「ありがとうございます」

雫はそれを受け取ると、一口ゴクンと飲み込んだ。


■狩野先生について
「狩野先生は部活とかの顧問じゃないんでしょ? 何で春休みなのに学校にいるの?」
一口のみ終えると、唐突に雫は宴に訊ねた。
それは、ごくありふれた質問だった。
「ここは一応、私の研究室も兼ねさせてもらってるからね。何かと便利なんだ。それに・・・」
「それに?」

「ここにいるとキミみたいな可愛いお客さんも来るしね」

満面の笑みを浮かべた宴に、雫は目をパチパチと瞬かせた。
「えー・・と」
少し頭が混乱しているのか、中々次の言葉が出てこない雫。
どうやらこういった口説き台詞には、あまり縁がない様だ。
・・・いや。

それよりもなによりも、まさか女性に口説かれるとは到底思っていないのだろう。

数分の時間の後、雫はようやく口を開いた。
「それはつまり、一人ぼっちが寂しいってコト??」
「ウン、まぁ、そんな感じかな」
必死に考える雫に、宴は微笑んだ。
出かける間際に来てくれた雫に、抱きしめて御礼をしたい気分だった。

「じゃあ、狩野先生は恋人とかいる?」
「私の恋人? ん〜・・・お酒とか、可愛い女の子とか・・・あ。あとのは願望かな」
「・・・」
「あ、やだな。そんな目で見るのはナシだよ。折角の可愛い顔が台無しじゃないか」
「・・・どこまでが冗談かわからない・・・」
「私は冗談なんか言わないよ」

次々に雫から質問が来た。
宴もなんだか楽しくなってきて、それに答える。
だが、本当に答えているのか? と聞かれると微妙である。
きっと雫にはのらりくらりとかわされている様にしか感じないだろう。
でも、それが宴の真摯に答えた結果だった。

そうしてにこやかに交わされる会話に、宴は時が経つのも忘れていた・・・。


■雫は何をしにきたか?
「あ、いっけない! もうこんな時間!!」

ふと壁際においてあった時計を見た雫が慌て始めた。
宴も何気なく時計に目をやると、既に午後4時になろうとしている。
日の光がなんとなく赤く染まり始めている気がした。
「あたしもう行かないと! お邪魔しました!」
ぴょこんと頭を下げた雫に、宴は「気をつけてね」といった。
出て行こうとする雫が、ふと足を止め振り返った。

「あの〜・・・また来てもいい?」

思いがけない言葉。
「またおいで」
だが、宴は動揺を微塵も見せずに笑顔で頷いた。
そうして、雫は講師室から去っていった。

にしても、あの子は一体何をしにきたんだろう?

ふとそんな疑問が頭をよぎった。
だが、次の瞬間には「まぁ、いいか」と頭の中から消えていた。

雫の綺麗に飲み干された牛乳のコップを片付けていると、外から『狩野センセ〜!!』と呼ぶ声が聞こえる。
宴は窓際に寄ると、外を見た。

「部活終わったから、お茶しに行ってもいい!?」

校庭から手を振る少女たちに、宴は微笑んで手を振りかえした。
去るものは追わず、来るものは拒まず。
宴は、少女たちが来るのを待つことにした・・・。


  ―――― 教えてもらった通り、狩野先生って不思議な人だな〜・・・。
  講師室を出た雫は、しばし足を止め考え込んだ。
  友達から話を聞いた時はまさかと思ったが、雫の勘が告げている。
  狩野先生は、どうやらとても不思議な人だと。
  どこが・・・とか、なにが・・・と具体的には説明が付かないが、オカルトHPの管理人の経験でわかる。

  もう少し、仲良くなったら教えてもらえるかな?

  軽くステップを踏みつつ、今度はいつ行こうかな? と雫は考えていた・・・。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年03月23日

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