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『『オーマのウキウキ桃色ショッピング』 』
オーマ・シュヴァルツ1953)&ジュダ(2086)


< 1 >
 花が太陽側へ首を回す、葉や枝が南へと伸びるなど、植物も『動く』という動作は行う。風や鳥が種子を運ぶので、遠くへも行けると言えなくもない。だが、どう頑張っても、植物はバレンタイン用のチョコレートを買いに行くことはできない。
 まだ春も遠い日。
 シュヴァルツ総合病院、別名腹黒同盟本拠地に巣くう人面草の一人に、「ジュダに、チョコを贈りたい」と相談された時、院長のオーマ・シュヴァルツ(腹黒同盟総裁)は「ようし、まかせとけ!」と胸を叩いた。ジュダは、オーマの親友であった。
 人間の顔が千差万別であるように、人面草も、美男美女もいれば地味顔もいる。ここの人面草に、ヒゲづらマッチョ親父が多いのは、院長の趣味なのか、それともここで暫く過ごすと、院長の桃色筋肉オーラのせいでそういう顔立ちに変化してしまうのか。
 だが、オーマに頼み事をしたのは、正真正銘、女人面草だった。ただし、目の下に真っ黒くアイラインを入れ、口紅も黒、鼻ピアスと頬に逆卍のイレズミのあるパンクねえちゃんだったが。白いプランターにはステンシル風にアヒルの絵などが描かれ、彼女と不似合いに愛らしい。
 一人が頼むと、「私も」「私も」と、霊魂たちも声を挙げた。聞くと、みんな、ジュダに憧れていたというのだ。モテモテである。
「だって、ジュダさん、すてきですもん」
 オーバーオールに紙袋、バサバサの髪という、あまり色気も無く、男性にも興味なさそうに見えたオタク霊魂も、ぽっと頬を染めた。
 いつも熱い想いを煮えたぎらせているオーマにとって、乙女の恋の頼みは、山を一つ崩せという困難な依頼だったとしても、必ず成し遂げてやらねばならない事柄だと思っていた。まあ今回はそんな大袈裟なことでもなく、代わりにチョコを買いに行くだけだったが。バレンタインというのは、外の世界から来た者が持ち込んだ習慣で、女性が、2月14日に、好きな男性にチョコを渡して愛を告白するのだそうだ。
 
 チョコを買って来るより、神出鬼没のジュダを、当日に捕まえてここへ連れて来る方が大変だった。オーマはその日、病院の入口に『本日休診』の札を下げ、朝からジュダを探してエルザードを駆けずり回った。彼がどこに住んでいるのかもわからない。夕方、やっと白山羊亭で見つけ、無理矢理病院へ引きずり込み、生き物たちの前に立たせた。
 人面草は、細い葉をうまく手のように使い、金のリボンがかかった小箱をジュダに差し出す。それを待っていたように、オタク霊魂や芸者霊魂、バレリーナ霊魂などもチョコの箱を差し出した。
「おうおう、モテモテ度マッスルじゃねえか。乙女の純なハートにおまえさんの笑顔がずっきゅんだったわけだな」
 オーマが、にやにやと笑いながらジュダを肘で小突いた。
 ジュダは、この生き物たちの前で、笑顔など見せた覚えは無いのだが・・・。掌に赤やピンクの小箱を重ね、ジュダは憮然として黙りこくる。
「おい、礼くらい言えないのか」
「・・・ありがとう」
 ジュダの口調は少しも嬉しそうでなかったが、それでも乙女もどき達は、『きゃ〜』『いやぁん』と、手足のあるものはバタバタと動かし喜びを表し、無いものは葉っぱを振ったりしてそれなりに表現した。

 そして、それから一カ月。
 ホワイト・デーという、チョコを貰った男は、女性に三倍にしてお返しするというイベントがある。これは、外から来た者が持ち込んだ風習と言うより、女性たちの陰謀であった。
 それでも、おまつり騒ぎやイベントが好きなオーマは、こういうコトには乗ることにしていた。妻や娘へのホワイト・デーのプレゼントは、既に手作りトリュフを準備し、可愛い箱に入れてある。当日に驚かせたいので、自宅には置かずに、診療室のデスクの引出しに忍ばせた。
「オーマの旦那、そいつは、奥さんと娘さんへの、あれかい?」
 芸者霊魂が、着物の裾を引きずりながら、机を覗き込んだ。
「あんたに身受けされた奥さんが羨ましいよ。ジュダ様は、ホワイト・デーどころか、あたいらのチョコも食べてくれたのかどうか」
 細く紅の塗られた唇から、キセルの煙が吐き出された。ため息と共に。
「いや、ジュダはクールだし、大袈裟に礼を言ったりするタイプじゃないが、チョコのことは喜んでいたぞ」
 後半部分はオーマの捏造であった。以前は、人の好意をぞんざいにする奴ではなかったと思うのだが、再会してからの彼は性格も変わったように見え、オーマにもよくわからないのだ。
「ほんとですか!」「喜んでくれたって?」と、背後から甲高い歓声が上がった。
 振り向くと、ジュダ様ファンクラブ達が、うるうるした瞳でオーマを見上げている。チュチュをまとうバレリーナ霊魂は、自分の肩を両手で抱いてポーズを作った。オタク霊魂は紙袋を抱きしめ、パンク人面草はにっこりと笑顔になった。愛らしく笑みの形に開かれた黒い唇だが、歯が2本抜けていた。強い酒のせいか薬物のせいか、喧嘩の名残なのか・・・。
 うちの可愛い生き物達。しかも、女の子だ。人からは不気味に見られがちな彼女らだが、オーマには、守ってやりたい奴ら、幸せにしてやりたい奴らなのだ。
「ジュダは俺の古くからの親友だ、俺が保証する。レディに恥をかかせるような男じゃねえ。きっとホワイト・デーも、何か考えてると思うぞ」
 言葉に出してしまったからには、ジュダには、ホワイト・デーに“何か”用意してもらわねばなるまい。

 先月ジュダを見つけるのに、6時間も街を走り回った。顔見知りとすれ違うたびに、「ジュダを見かけたら俺に教えてくれ」と頼み込みながら。
 彼はそれを知っていたとしか思えない。へばりかけて、一杯引っかけて景気づけしようと白山羊亭に入ったら、奴がいた。オーマを見上げてにやっと笑ったあの顔は、絶対、オーマが捜し回っていることを知っていた表情だ。しかも、からかうつもりで、わざと見つからないようにしていたのだろう。夕方になり、「そろそろ勘弁してやるか」という具合に、オーマの前に『登場してやった』という感じだった。
 だから、ジュダに女子向けファンシーグッズを購入させることより、彼を捕獲する方が難しそうだ。だが、手は無いこともない。オーマは一人でにっと笑うと顎をこすった。

< 2 >
 聖都のメインストリートの一つ、ブティックやファンシーショップが立ち並ぶショッピング街に、オーマは立っていた。ある雑貨店の前で、腕組みをし、ブツブツと呟きながら。
「こんなラブリーちっくな店に、俺みたいな親父が入って行くのは冷や汗もんだよなあ。知り合いには、あまり見られたくねぇなあ。女房や娘、それにジュダなんぞには、特に・・・」
「呼んだか?」
 どこから現れたのか、背後からジュダの声がした。
 オーマは素早く振り向き、がしっ!とその手首を掴む。最近のジュダは、オーマの嫌がることをするのを楽しんでいるフシがある。会いたくないと言えばジュダは登場するだろうというオーマの勘は当たった。
「親父一人だと恥ずかしい店なんで、おまえさんにも付き合ってもらうぜ?」
 ジュダは、『やられた』というより、『わかってたよ』とでも言うように、唇だけで微笑した。オーマの計画など承知の上で、引っかかったフリをしたという印象だった。

「ここが、ラブリーちっくな店、なのか?」
 腕を掴まれたまま、ジュダは店の構えを眺める。少女の好きそうなパステルカラーはどこにも無い。黒く塗られた壁に、朱色と山吹で、錦鯉や昇り竜の絵が描いてある。入口には藍染めの暖簾がかかり、白抜きの文字で『任侠ラブ一筋』とあった。『任侠』も含め文字は丸文字だ。
「俺にとっちゃ、桃色うっふんラブラブグッズ満載な店なのさ。うちの女の子達も、俺と一心同体、好みはエキサイトなほど酷似してるんでね」
 オーマは、腰をかがめて暖簾をくぐった。腕を引っ張られる格好で、ジュダも後に続く。

 店に一歩足を踏み入れると、機械音声で『オヒカエナスッテ。サッソクノオヒカエ、アリガトゴザンス』と挨拶が流れた。
「な、なんだ今のは?」
「店に入ると、自動で流れるんだよ」と、オーマは来店し慣れているらしく、動じない。
「何語なんだ?俺には意味がよくわからなかったんだが」
「たぶん、『いらっしゃいませ』ってことだろうよ」
 オーマは、ピンクの小花模様の地に黒い筆文字で『仁義』と描かれたティーカップを手に取りながら、「これなんかどうか?」とジュダに向けてみせた。
「なんで俺に聞く?貴様の買物だろう」
「いんや。買うのはおまえさんだ。うちのコたちへの、ホワイト・デーのプレゼントさ」
「あの魑魅魍魎たちに、お返しをしろと言うのか」
「ひどいな。遠目で見ると、少しは可愛いんだぜ?性格もいいコたちだ。何より、おまえさんへの健気な想いが泣けるぜ」
「ずっと一人で泣いてろ。ハンカチくらいは貸してやる」
 ジュダはつれない。オーマは大袈裟に肩をすくめてみせる。
「今度あいつらに会った時、恨みがましい目で、じっと見つめられても知らんぞ。涙ぐんだ、うるうるした瞳で、な。
 あいつらのことだ、『バレンタインのプレゼントに愛が足りなかったかしら』とか、『普段の接し方に、愛が足りなかったかしら』と思うに違いない。そうすると、これから先、おまえさんが登場した時、さらに・・・」
「・・・。金は俺が出す。品物は、貴様が選べよ」
「よっしゃ、決まった。
 芸者霊魂に、このキセルなんかどうか?」
 オーマは、テディベアの絵が散りばめられたキセルを握る。
「だから、俺にいちいち見せるな」
 横には、星マークがたくさん彫られたドスや、フリルレースのサラシが置かれている。『チンチロリン用』と表示された陶器の竜の絵は、ウィンクをしていて、ハートが飛んでいた。睫毛もカールしている。『カフェオレ・ボウルにも使えます』とただし書きがあった。
「あ、このサラシ、俺も欲しいかも。自分用に買って行くか」
 オーマは、自分の為にも何品か買ったようで。店を出た時は、ジュダが金を出したホワイト・デー用とは別の包みも抱えていた。

 店の前の石畳は雨で濡れて艶を含む。買物をしているうちに、雨が降って来たようだ。
「おっと。傘も買っておこう」
 ちょうど、着流し姿の店員が、店頭に傘を出したところだった。
「二本貰えるかい?」
「ありがとうございやす」
 店員は深々と角刈りの頭を下げると、番傘を差し出した。

 ストリートを数歩進み、オーマは少し空いた場所で番傘を開く。その傘の模様は、足にピンクのリボンを結んだ鶴であった。上げた片方の足首で、リボンが揺れている。
「おおお、ラブリーじゃねえか」
「俺は、傘、いらないから」
 ジュダは、オーマの先をすたすたと歩き出す。
「そう言うなよ、せっかく二本買ったんだ。
 ほら、この包みも。おまえさんからのプレゼントなんだ、ちゃんとみんなに自分で渡せよ」
 ジュダは包みと番傘を押しつけられた。
「おらおら、包みが濡れる。おまえさんが傘を差さないなら、俺とうっふん相合傘で行くか?何なら、親父ラブ全開で肩でも抱いてやろうかい?」
「・・・。」
 ジュダは、無言で、握った自分の傘を開いた。

 灰色の石畳の道に、鮮やかな朱色の牡丹が咲いた。

< END >
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2005年03月18日

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