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『<> 』
立木・舞亜(w3f353)



『貴方の事が、好きでした。』
その手紙は、・・・バレンタインデーのその雪の日に、届いた。
封筒には宛名が無かった。差出人の名前も。いぶかしいと思いながら、丁寧にその封を切ってみる。
白にレース柄の美しい便箋に、刻まれるのは青い文字。
ただ繊細で、ただ柔らかく、そうしてたった一言だけ。
『好きです』ではなく『好きでした』・・・だ。
・・・見覚えがあるような気もした。まるで見知らぬような気も。
それと。
「・・・・・」
掌に乗る、小さなリング。
ホワイトゴールドの華奢な台座に、粉雪の結晶のような小さなダイヤモンド。
そう、値の張るものではあるまい。だが上品で優しげで。
このサイズにあう細い指ならば、きっとこのリングが映えるだろう。
ふと、そう思った。



ころん、と。
それは突然、立木・舞亜(w3f353)の前に転がり落ちた。
大通りの信号を渡ろうとしていた時だった。交差点は、平日だというのに人いきれでごったがえしていた。ここはいつも人が多い。できれば人ごみの多いところを通るのは遠慮したかったが、この道でないとどうしてもその場所に辿り着けなかったのだ。
その場所とは、都内のある美術館だった。
数年ぶりに、ここでモネの絵が見られると知ったのは、つい先日だった。これも平和になった証拠だと、舞亜は素直に喜んだ。誕生祭という美術館のネーミングセンスはいただけなかったが(まるで、スーパーの安売りみたいだ)絵が展示されることには変わりない。
しかも、…丁度その日がバレンタインデーと重なる事もあって売り出される品があったのだ。
美術館の売店でのみ売り出されるそれは、実に繊細な作りをしていた。
「こんなきれいなの、なかなかありませんもんね〜。」
のほほんと嬉しそうに、舞亜はそう口にする。
手に抱えているのは、チョコレートだった。しかも、モネの睡蓮に似せて作った、特別なチョコレートだ。美術館の売店でのみ特別販売される代物で、デパートにもチョコレート専門店にも置いてない、それは珍しいものだった。ミュージアムだけに予約というわけにもいかず、舞亜はわざわざそこまで行って購入したのだ。
無論、神薙・碧(w3i216)のために。
これをもって、今から碧のうちを訪ねる予定だった。喜んでくれるといいなあと、そう思うと自然と顔がほころぶ。
それなのに、…変な指輪に行く手をさえぎられてしまった。
きょろきょろと、舞亜は辺りを見回した。
流石に、この人ごみの中、指輪の持ち主を探すのは不可能に近い。
交番に届けようかと思った矢先、舞亜の目に飛び込んできたのは、…一台のテレビカメラだった。
自動運転しているらしく、カメラはゆっくりと左右に首を振る。撮影されている場所は街のあちこちで、それは斜め前のビルの壁面にある、大スクリーンに映し出されているようだった。
つかつかと、舞亜はカメラに近づいた。
動くそのカメラに合わせて横移動しながら、指輪を前に差し出すと、思いっきり叫ぶ。
「落し物です〜。」
街にそびえる大スクリーンから、その声はとどろいた。
「ええと〜、さっき交差点で指輪を落とされた方〜、すぐにここまで来て下さいね〜。」
これで見つからなかったら、交番に届ければいい。
実にゆったりと、舞亜はそう考えたのだった。



「何、考えてるのよ。」
呆れ顔で、女性が言った。
舞亜の作戦は上手くいったらしい。慌て顔の女性が一人、カメラの下にすっ飛んできたのだ。
「だって、他に探す方法が〜、思いつかなかったんです〜。」
ほんのりと笑ってそう答える。毒気を抜かれたように、女性が息をついた。
「気の抜ける子ね、あなた。」
女性のしゃきしゃきとした物言いが、舞亜には気持ちよく聞こえた。仕事をしている人なんだというのは、身のこなしで分かる。
「でもまあ、見つけてくれて助かったわ。」
ぽんと、女性が放り投げるように言った。ありがとう。その言葉の堅さに、舞亜は小首を傾げる。
顔を見る。妙に悲壮な顔つきだった。女の子の誰もが華やぐ、そんな日に。
どうしたというのだろう。
「これは、返さなきゃいけない指輪だったの。別れるべき人に。」
別れるべき人、というのが引っかかった。
別れたい人とか、嫌いな人なら分かる。別れるべきというのが変なのだ。まるで、そうしなければならない義務みたいだ。
「…何か、あったんですか〜?」
深入りするつもりは無かった。彼女には彼女の事情があるし、何より、自分だってチョコレートを届けるという大事な使命がある。こんなところで足止めを食っているわけにはいかないのだ。でも。
何故か、放って置けなかった。
「ご家族に、反対されたとか〜?」
「いいえ、大賛成だった。」
「お金が無いとか、仕事をなくしたとか〜?」
「違うわ。そんな事くらいで別れない。」
そんな事、と女性は言った。では、それ以上の何かがあったのだ。
「じゃあ、…何なんです〜?」
ふわん、と響く舞亜の問いに。
答えた言葉は、こんなものだった。
「…私が、彼を殺そうとしたからよ。」



穏やかではない話だ。
さすがに押し黙った舞亜は、それでも少しだけ食い下がる。一つだけ分かるのは、この人はその男性とお別れしたくないと思っている事だ。なのに、何かの事情で、…彼女は殺そうとしたからだと言った…どうしても離れる必要があると、思っているのだ。
「良かったら、聞かせてもらえませんか〜?」
何が、あったのか。
どうして、こんな事を言うのか。
少しの逡巡の後、彼女は話し出した。
「…私の好きな人は、魔に属する人だった。」
その頃。
魔皇達は、揃って犯罪人として扱われていた。
自分もそう思っていた。そう思わされていた。心は鈍ってしまっていたから、彼がどんなに心を砕いて自分の側にいたくれたかなんて、思いつきもしなかった。彼は魔である事をひた隠しにして、普通の人間としてずっと自分の側にいてくれた。
そうして。
「ある日、自分はそれを知ってしまったの。」
その時。
彼女は、誤ったのだ。
それは彼女の所為じゃない。彼女は、彼を罪人だと思っていたのだから。
「犯罪者なら罪を償って欲しいと思った。そうしてきれいになって、二人でやり直したら良いって。」
彼女は、彼を警察に密告した。
その正義感から。
「…その後、どうなったか、…想像つくわよね?」
彼は逃げた。追いまわされて、傷つけられて。
それでも彼女を好きだと言って。
「その所為で、あの人がどんな目にあったか。」
女性の笑い顔を、痛ましい目で舞亜は見た。
彼女は許せないのだ。自分を。彼を傷つけることになった、その自分を。
だから、…別れるべき人。
ふう、と息をついて。
舞亜は、ひとさし指をたてた。
「分かりました〜。でも、…指輪を拾ったんだから、それ相応のお礼をいただいても、いいんじゃないですか〜?」
「お礼?」
「そうです〜。一つ、一つだけ、私と賭けをしてくれませんか〜?」
舞亜のその提案に、女性は怪訝そうな顔を向けた。




そこは。
公共の、広くて小奇麗な公園だった。
「すてきですね〜。」
「ここで、結婚する筈だったの。」
息をついて、女性はそう告げる。
舞亜の賭けとは、こういうものだった。
一箇所だけ、彼と彼女の思い出の場所に連れて行ってくれる事。そこで、…今日が終わるまで、彼を待ってあげる事。
「もし彼が来たら、考え直してくださいね〜。」
「無理よ。」
考え直すかどうかは、別にして。
彼女は提案を飲んだ。逆の理由で。
「もし来なかったら、これではっきり別れられるもの。」
だから。
結婚するはずだったその場所を、選んだ。
夕方が過ぎ夜になり、それもふけて。寒さが増したその時間に、女性は小さく呟いた。
「ほらね、やっぱり来なかったでしょう。」
覚えているわけないもの。
ぎい、とブランコがゆれる。いい加減あきらめなければならないかと、舞亜が思った時だった。
「…、…え?」
聞きなれた声が、不意に耳に響いた。
「碧さん〜?」
丸い綺麗な瞳が、碧を見つめて一瞬固まった。
「…どうして、ここに〜?」
「それはこっちの台詞ですよ、舞亜さん!」
いる筈のないものを互いに見つけて、二人は顔を見合わせた。
「詳しい事は、後でお互い後で話しましょう。」
「分かりました〜。」
それよりも。
問題は、ここにいるこの二人だ。
向かい合ったまま、女性を見つめる男と。
目をそらしたまま、相手を見ようとしない女性。
「もう、一緒にいられないもの。」
彼女は言った。
「あなたを見てるのが辛いもの。あなたが側にいるだけで、好きになればなるほど胸が痛いもの。」
もう、側にいたくない。
血を吐きこぼすように、女性が言う。
男は、何も答えなかった。何度も繰り返されただろうそのやりとりに、もう話す言葉ももってないように見えた。
その時。
「いいえ〜」
口を開いたのは、舞亜だった。
「そんなの、間違ってます〜。」
きっぱりと。
舞亜が、そう言い切る。
「そんなの、逃げ回っているのと同じです〜。過ぎてしまった事が良いか悪いかなんて、人それぞれ違いますけど…でも、それを例え悪くても、それを取り戻す事は出来る筈です〜。」
なぜなら、まだ、生きているから。
まだ、取り戻す時間を、持っているから。
天使と、真魔とて手を取り合う日を迎えられたのだ。
お互いがお互いの痛みを許せなければ、そんな日は二度と来なかった。そうして、死んでいった者には、永遠にそんな日は来ないのだ。
「だから、…生き残った者が、その努力を怠ってはいけないんです〜。」
それは、舞亜の決意でもあった。
ましてや、…互いを思っているなら。
その言葉に、女は項垂れた。伸ばしたままの長い髪が、ばさりと音をたてた。
「…でも、」
「…彼は、それを飲み込むって、そう言ってます。」
静かに、碧は言葉を重ねる。
「それでも貴方が良いって、言ってます。」
俯いた顔から、ほろりと零れ落ちたもの。
それに似た小さな石の指輪を、舞亜は男に手渡した。
「渡すのは、あなたの役目です〜。」
にこりと微笑めば、男が笑い返す。
「ありがとう。」
「いいえ〜、どうか、お幸せに〜。」
どうか。
幸せになってください。
それは祈りでもある。天使であれ魔であれ人であれ、この地上にあるもの全てに対しての。
舞亜が、碧を見た。
目だけで意識を交わすと、二人は笑いあう。そっと手を握って、涙目のカップルを残したままその場を立ち去って。
「…過ぎちゃいました〜。」
残念そうに、舞亜が言った。
「何がです?2月14日?………画家モネの誕生日でしたっけ?」
碧のとぼけた物言いに、きょとんと舞亜が見返すと、それから数秒遅れて吹き出した。
「違いますよ〜。昨日は、バレンタインデーじゃないですか、〜。」
ああ。そういえばそうだった。あんまりばたばたしていて、途中から忘れてしまっていた。
そう告げると、更に面白そうに舞亜が笑う。酷く心地良い笑い声だった。来年も、再来年も、いつまでも聞いていたいと思った。
生きているから。
生き残ったから。
あ、と思いついたように舞亜が呟く。
「ちょっと遅くなってしまいましたが〜、碧さん、チョコ貰って頂けますか〜?」
思いながら、少しすまして、碧が嘯く。
「私にとってのバレンタインは2月15日と決まっているんですよ、去年舞亜さんに返事を頂いた時からね。」
そう言って、碧が微笑むと。
嬉しそうに、舞亜が碧の手を握った。


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立木・舞亜(w3f353)/23歳/女性/孤高の紫
神薙・碧(w3i216)/18歳/男性/孤高の紫


始めまして、KCOと申します。
このたびは、納品が大変遅くなりました。深くお詫びいたします。
本当にすみませんでした・・・。
バレンタインの話がホワイトデーに納品という、重ね重ね情けない状態です。
内容は、見てのとおり魔と人との恋物語になってしまいました。
また、手紙は男性、指輪は女性へと別々に渡す形になっています。
喜んでいただけましたら、幸いです
バレンタイン・恋人達の物語2005 -
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神魔創世記 アクスディアEXceed
2005年03月14日

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