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『【 step to hope 】 』
不城・鋼2239)&飛鳥・雷華(2450)

 決心したら行動は早かった。
 自分から歩み寄ると決めたから、それを行動に移しただけのこと。
 どうしても、お前の側に行きたい。

 お前と同じ道を歩きたい。

 だから。

 ◇  ◇  ◇

「なぁライカ……」
「なに? 師匠?」
「オレがどんな修行をしたら、ライカやあいつと同じ仕事ができるようになるかなぁ」
「え?」
 それは唐突にはじまった。あまりに寝耳に水の言葉に、雷華は自分の耳を疑ったほどだ。
 師匠と慕い、呼んでいる彼は不城鋼という。
 最近姉と仲がよく、雷華は二人の様子を嬉しく思いながら見つめていた。
 姉に特別な存在ができて、本当に嬉しかったのだ。自分にも特別な存在がいるから。
 その、特別な存在、がどれだけ自分に力を与えてくれるか知っている。
 そこにいてくれるだけで、大きな力となるんだ。
「俺、お前たちに歩みよりたいんだよ。そのための方法が、他にみつからない。だから教えてほしいんだ」
 強くなる方法を。
 二人が行っているという仕事ができるようになって、同じ立場に立てば歩み寄れるんじゃないか。
 安易な考えかもしれないけれど、それ以外には何も浮かばなかった。
 この考えでさえ、浮かんだことが奇跡のようなもの。

 彼女へと、自分から歩み寄ることを決めたのは、つい最近。

 どんどん募っていく想いの大きさと共に、知っていく彼女の悲しみ。
 決してある一定の距離から自分を近づけようとしてくれない彼女に、どうすれば近づけるのか。
 このまま彼女を待っていたのでは、何年待っても状況が変わらない。
 だったら、自分から歩み寄ればいい。
 だけど、どうやって?
 その答えは簡単には出なかった。
 悩んで、悩んで、悩みぬいて――やっと出た答えが、これだ。

「頼む、ライカ。お前しかいないんだよ。こんなこと頼めるの。頼むから、教えてくれっ!」
 彼は真剣そのものだった。冗談で言っているわけではないということが心から伝わってくる。
 悔しいのだろうか。悲しいのだろうか。寂しいのだろうか。
 とにかく、鋼はたくさんの感情を胸に、雷華をまっすぐに捉えている。
「でも……師匠」
 だからと言って、教えられるはずがない。
 どうして姉が大切に想っている鋼に、自分の根底を言えずにいるのか。もちろん雷華は知っている。
 その根底のものを、自分も抱えているから。それはいくつもの辛さ悲しさ苦しさを知っているから。
「教えられないよ」
「それはアレだろう? 俺を巻き込みたくないからとか、そういう理由でなんだろう?」
 雷華が静かに首をうなずかせる。
「もちろんだよ。絶対に、大切な人なら余計に、巻き込めない」
 雷華も鋼と同じように必死だった。彼がこちらの世界に足を踏み入れてしまったら、決して「普通」の生活なんてできない。
 それは姉も望んでいないだろう。
 姉も雷華も、鋼には普通の高校生でいてほしいと願っている。
 だから、自分が教えるわけには行かない。
「でもな、雷華。よく聞いてくれ。オレだって、きっと、もうすでにその淵にはいるんだと思う」
 彼女を――雷華の姉を大切な人だと認識した日から。
 彼女の元へ、自ら歩み寄るんだと心に決めた日から。

 自分は二人の関わっている世界に、少なからず関わっている。
 二人に――彼女に、より深く関わっているのだから。

 けれど、今の位置では足りない。
 もっと踏み込んで、根底までたどり着いて、全てを知らなければ。
「あいつと肩を並べられない」
 彼女の前に立って、彼女を抱きしめることもできない。
「俺はあいつを守りたい。それには、あいつがどれだけ辛い思いをしているか、どれだけ苦しい思いを抱えているか。どれだけの孤独に襲われているのか知らないとできない」
 だから知りたい。どうしても、教えてほしい。
「師匠……」
「お前だって、自分の好きな奴が目の前で苦しんでたら、助けたいと思うだろう? それと同じなんだよ」
 けれど、本人に聞いても絶対に教えてくれない。だからこうして、全てではないかも知れないけれど、少なくとも自分よりは彼女のことを知っている雷華に、頼みこんでいるのだ。
「頼む。頼むからっ!」
 頭を下げる。
 土下座だってなんだってしてやる。それで、雷華が自分の願いを叶えてくれるというのなら。なんでもする。
「今のこの位置じゃだめなんだ。あいつを本当の意味で守ってやれない。包み込んでやれない。もう一歩先に進むために何をしたらいいか、その先に進むきっかけが欲しいんだ」
 何度もなんども、聞き飽きたかもしれないけれど、鋼は雷華に頭を下げて「頼む」と繰り返した。
 それだけが唯一、自分にできることだから。
 そんなことしかできない自分を腹立たしく思いながらも、ずっと頭を下げ続けた。
 時間がどのくらい過ぎたかなんてわからない。
 しばらくたってから、雷華が大きなため息をつきながら動いたとき、鋼は顔を上げた。
「ライカ」
「……師匠だもんね。一度決めたことは曲げないもんなぁ……」
 浮かべていたのは苦笑い。半ば、諦めたような言い方に、思わずこちらも苦笑が漏れる。
「じゃあ、師匠に道を教えてくれそうな人を紹介するよ。ボクたち二人の親友で、『龍族』の長の娘、『神の記憶を継ぐ人』をさ」
「ほんとうか!」
「ボクはウソは言わないよ」
 雷華はその手にしっかり携帯電話を握り、誰かに電話をかけている。
 話を聞くのも失礼だと思い、鋼は雷華に背中を向けて数歩離れた。

 心の奥底に、小さな光を輝かせ。
 その瞳の先に見えるものは、希望に満ち溢れていた。

 大丈夫。
 これできっと、少しは道が開けるはずだ。


 お前へと続いている、この道が。



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 ライターより。

 この度は発注ありがとうございました! ライターの山崎あすなと申します。
 お届けが大変遅れてしまって、本当に申し訳ありませんでした。心よりお詫び申しあげます。
 今回もまた、鋼さんのお話を書かせていただけて嬉しいです。
 とくに今回はお話の展開部とも言える部分で、雷華さんとのお話ということでしたので、気合を入れて、鋼さんの気持ちをふんだんに込めつつ、もちろん雷華さんお気持ちの描写もさせていただきました。
 気に入っていただければ光栄です!
 それでは失礼します。
 また、お会いできることを、心より願っております。
 最後にもう一度、納品が遅れてしまって、本当に申し訳ありませんでした。

                       山崎あすな 拝
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2005年03月14日

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