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『愛の伝道師 』
レピア・浮桜1926




「ハロゥ〜♪ アタシ、愛の伝道師っていうかなんていうか。百葉っていうんだけど。まぁ、恋だ愛だと悶々としちゃってるアナタの助けになりたいのよ」
 目の前に現れた小さな妖精はくるくると回りながら更に続ける。
 キラキラと光に煌めいてその羽が光った。
「んー、そうねー。告白したいのにうじうじ考えちゃってたり、日頃の感謝の気持ちをなかなか伝えられずどんよりしちゃってたり。まぁ、そんな感じになかなか思い切れない人の背中を押してあげちゃおって思って。でも努力しない子には厳しいわよー」
 うふふふーと悪戯な笑みを浮かべる百葉。
「あ、バレンタインだからって別にチョコなんてあげなくたっていいじゃない。ようは思いが伝わればいいんだからさー。百葉ちゃんは、頑張るアナタの味方です」
 バレンタインは明日よ、決戦は明日、と誰よりも気合いの入っている百葉。
「バレンタインの結果がハッピーエンドで終わるか、玉砕するかはアナタの気持ちにかかってるんだから! 気合い入れてかかりましょー」

 ハイテンションな百葉を目で追いながらしっかりと頷いたレピアだったが、でも、と小さく呟く。
「本当にあたしでも作れるかしら‥‥手作りのチョコレート」
「だいじょーぶ! 百葉ちゃんにまかせなさいって!」
 パチリ、とウインクをしてみせる百葉。

 いつもレピアはチョコレートをあげる方ではなく、貰う方だった。
 毎年この時期は『お姉様』とレピアの事を慕う女性達からのチョコレートを抱えきれない位貰っていて、自分からはあげた事がなかったのだ。
 しかし今年は違う。
 レピアは日頃の感謝の気持ちと愛を込めた手作りチョコレートをプレゼントしようと考えていたのだ。
 ただレピアの場合、料理には自信があっても、チョコレート作りなどをしたことがないため、どうしていいか迷っていた。
 そんな所へ、自分のことを愛の伝道師だと言う百葉が現れたのだった。
 そして今に至る。

「ねェ、チョコの作り方は後で教えてあげるから、先に誘ってきた方が良いんじゃないの? お目当ての子。先に誰かに誘われちゃったら大変じゃない。しかも明日だよ、バレンタイン」
「そうよね‥‥」
「そうそう。こういう時は先手必勝! しっかりバッチリ約束取り付けてきてね!」
 フレーフレー、と大声を上げながら百葉はレピアの回りを両手を振り上げくるくると回る。
「分かったわ、行ってくる」
「そうそう、その意気! 待ってるからね!」
 レピアは頷くと黒山羊亭へと向かう。

 きっとこの時間なら大切に思っているあの子は来ているはずだ、とレピアは逸る気持ちを抑えつつ駆けた。
 外の寒さなど気にはならなかった。
 空気の冷たさだって、心の中に満ちる暖かいもので忘れてしまう。
 大切に慈しみたいと、手を握っていたいと、傍にいたいと言ってくれる子の優しさが寒ささえ忘れさせてくれる。
 レピアはずっとこんな外の寒さよりも寒い所にずっと居たのだ。
 太陽の届かない長い時をずっと過ごしてきた。
 それに比べたらこの寒さなどどうってことないのだ。
 地下へと続く階段を下りたレピアは、いつものように黒山羊亭の扉を開ける。
 少し緊張している事など誰にも気付かせないように。
 扉を開けて中に入ると、遠くでレピアの姿を見つけた小さな少女がぴょんぴょんと飛びはねながら手を振っているのが見えた。
「冥夜ったら‥‥」
 思わず口元に笑みが浮かぶ。
 可愛らしい仕草を見せるその少女こそレピアの心に温かさを満たす者。
 レピアは優雅な動きで冥夜を明日のデートに誘う為に歩き出した。

「やっほー、レピア! 今日は早かったんだね」
「そう? なんとなく冥夜が居るような気がしたから」
 くすり、と笑ってレピアは先ほど飛び上がっている際に乱れた冥夜の髪を直してやる。
 ツインテールの黒髪はさらさらとレピアの指の間を滑り、冥夜の肩に落ちた。
「アリガト」
 にぱっ、と全開の笑みを浮かべる冥夜。
 その笑顔が嬉しくてレピアは微笑む。
 変に計算高いと思えば、子供らしい所も見せる冥夜に目を奪われて仕方がない。
 会うたびに新しい冥夜の素顔を発見したようで嬉しくなる。
 レピアは冥夜の向かいに腰掛けながら告げた。
「あのね、冥夜。明日時間ある?」
 レピアの時間というのはもちろん夜のことだ。
 昼間はレピアは石像として過ごさねばならない呪いがあった。
 それはもちろん冥夜も知っているので何の疑いもなく告げる。
「明日の夜は暇だよー。何々? レピア一緒に遊ぶ?」
「ふふっ。あたしも暇なの。一緒に遊びましょう。いつもはここで待ち合わせだけど、明日はね‥‥」
 天使の広場の噴水前はどう?、とレピアは唇を寄せると冥夜の耳元で囁いた。
 冥夜は、ぱちん、と両手を合わせると笑顔になる。
「それってデートみたいだね! うん、うん。もっちろんいいよ。今からすっごい楽しみ」
「あたしも楽しみだわ」
 レピアは微笑みながら立ち上がる。
「えっ? レピアもう行っちゃうの?」
 残念そうな声が冥夜から上がるが、レピアにはやらなければならない事があるのだ。
 そう、明日のデートへ向けての準備が。
「ちょっとね、今からやらなくちゃいけない事があるの。もうちょっと話していたいけど‥‥」
 悲しそうに目を伏せたレピアに冥夜は笑顔で告げた。
「ううん、我が儘言ってごめんね。レピアも忙しいの知ってるし。それに明日会えるしね」
 頑張ってね、と冥夜はひらひらとレピアに手を振る。
 レピアも手を振り名残惜しそうに黒山羊亭を後にする。
 今日は淋しくてもまた明日会えるのだからいいのだ、と心の中で呟いて。


 レピアに残された時間は僅かしかない。
 夜明けまでにバレンタインのチョコレートを作らなければならないのだ。
 急いで戻ったレピアは、百葉に作り方を教えて貰う。
「百葉先生、よろしくお願いします」
「ハーイ。それでは一緒にバレンタインチョコレート作りを行いましょう。すぐに出来る見栄えの良いのってトリュフだからソレにするね」
「はい」
「あ、そうそう。その子ってお酒とか大丈夫? ブランデー入るけど。ダメなら入れないのにするよ?」
 普段の冥夜の様子を思い浮かべてレピアは、大丈夫、と告げる。確かお酒を、美味しい、と言いながら普通に飲んでいたはずだ。
「それなら良かった」
 ま・ず・は、と百葉はレピアにチョコレートを細かくするように指示する。
「そうする事によってよりきめの細かい舌触りの良いチョコレートになるんですよー。ここ覚えておいてねー」
「はい」
 レピアはチョコレートを一生懸命刻んでいく。
 細かくチョコレートを刻みながら、自分にチョコレートをくれた子達もこんなに苦労していたんだろうか、とレピアは考える。
「あ、刻んでる間に生クリーム暖めましょー。沸騰する直前まで暖めてね。そしたらそれをこの刻んだチョコレートの中に入れるから」
 同時進行で行えという事だろう。
 レピアは生クリームを火にかけながら、更にチョコレートを刻む。
 ちらちらと横目で確認しつつ、乾いたボールにチョコレートを全部刻み入れた。
 そこで上手い具合に生クリームが沸騰しそうな気配を見せる。慌ててそれを火から下ろしたレピアは刻んだチョコレートの上に生クリームをかけ、木べらでゆっくりとかき回した。
「そうそう、ゆっくりね。そのチョコレートが全部溶け切っちゃうまで。途中でブランデーも入れちゃいまーす」
 百葉の指示通りにレピアは踊りを踊る時と同じ様な真剣な表情を見せてかき回す。
 その位このチョコレート制作には本気なのだ。
 想いを込めてチョコレートを作る。
 そのことがこんなにも大変な事だという事に今までレピアは気付かなかった。
 ぐるぐるとかき回していると段々固まってきたチョコレート。
 このままどうやって丸くするのだろうと思いつつ、レピアは尋ねる。
「いつになったら丸くするのかしら?」
「もっと固まってから。もうそろそろ良いかもねー」
 レピアに氷水を用意するようにつげる百葉。そしてまだ緩く溶けたままのチョコレートの入ったボールをその上に置きかき混ぜろと指示する。
 かちかちになってしまうのではないかと思いながらも、レピアは美味しいトリュフを作る為に指示通りに動いた。
「絞りやすい堅さになったらそれをね、これに入れて‥‥」
 よいしょ、と百葉が運んできたのは絞り出し袋だった。
 それに入れて売っているトリュフの大きさに絞り出すのだという。
 それから丸めるのだと。
 レピアは感心しながらその作業をこなしていく。
 やはり慣れない作業の為、チョコレートはあちこちに飛ぶ。
 かき混ぜている間にもレピアはチョコレートにまみれになっていたが、それを気にしている余裕すらない。
 チョコレートがついても、食べられるチョコレートが作れるなら、とレピアはただ一心に作業を続けた。
 そしてチョコレートが作り終わったのは日の昇り始める時間だった。
 レピアはラッピングまでこなして漸く幸せそうな笑みを浮かべる。
「おっめでとー!!!」
「ありがとうございました」
 レピアは百葉に向かって礼を述べる。
 いいのいいの、と百葉はえっへんと胸を張って言った。
「あとはこれをあげるだけだね‥‥って、もう聞こえてないか」
 苦笑気味に百葉は全身チョコレートまみれになっているが満足そうな笑みを浮かべた石像のレピアを見つめた。



 夜が来て、またレピアの時間が始まりを告げる。
 待ち合わせ場所に向かうレピアの足取りは軽い。
 噴水前には既に冥夜がやってきていて、レピアの姿を見つけると冥夜は腰掛けていた噴水の縁から飛び降りた。
「やっほー」
「こんばんは、冥夜」
 レピアが微笑むと冥夜も笑顔を浮かべる。
 笑顔の連鎖反応。
 二人は揃ってアルマ通りを歩き、ウィンドウショッピングを楽しむ。
 通りにはバレンタインという日を楽しむ恋人達で溢れていたが、レピアと冥夜もそれと変わりはない。
 楽しげに指を指して、これがいいね、あれがいいよ、と言いながら店先のものを堪能する。
 ウィンドウショッピングを楽しんだ後は、いつものように黒山羊亭で遅めの夕食を取り、レピアは冥夜の手を取ってステージに登り踊り始める。
 突然引きずり上げられ、冥夜も初めは戸惑っていたが観客からの応援もあり、笑顔になるとレピアと共に楽しげに踊り始めた。
 回りから歓声が沸く。
 それすらよいスパイスとなり、冥夜とレピアは心ゆくまで踊りを楽しんだ。
 その後は火照った体を冷やさないように上着を着て、レピアが冥夜を外へと誘い出す。
 夜明け前の海の見える公園は静かで、波の音だけが聞こえていた。

「冥夜、あのねこれを渡したかったの」
 好きよ、と告げて朝方まで作っていたチョコレートを冥夜に差し出すレピア。
 そう言って差し出されたチョコレートとレピアの顔を交互に見つめる冥夜。
「本当に?」
 レピアが頷くと、途端に笑顔になる冥夜。
「本当に? 本当に? やったぁあ!」
 ありがとうっ!、と冥夜はレピアに抱きつく。
「あのね、昨日誘われた時にね。バレンタインだからかなって一瞬思ったんだけど、まさかなと思って。でもね、アタシも用意してきてたんだよ」
 ほらっ、とレピアから離れた冥夜は鞄から丁寧に包装された箱を取り出し、レピアに手渡した。
「いいの?」
「いいのって、だってレピアのだもん。アタシもレピアの事好きだよ」
「ありがとう」
 えへへっ、と笑う冥夜の笑顔と手の中にあるチョコレート。
 どちらも嬉しくてレピアは微笑んだ。
「開けても良いかしら?」
「もちろん。アタシも良い?」
 どうぞ、とレピアが告げると冥夜は、わーい、と両手をあげて喜ぶと包みを開けた。
 二人がほぼ同時に箱を開ける。
 どちらの箱にもトリュフが入っていた。
 レピアと冥夜は互いの顔を見合わせる。

「‥‥一緒みたいね」
「うん、以心伝心だね」
 うれしいな、と冥夜は言いながらトリュフを一粒頬張る。
「美味しいー」
 その一言と笑顔にレピアは癒されるような気がした。
 昨日の頑張りも無駄ではなかったと。
 レピアも冥夜のくれたトリュフを口に運ぶ。
 口の中に広がる甘さは、ゆっくりと身体の中に浸透していった。
 冥夜のレピアに向ける笑顔と同じように。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1926/レピア・浮桜/女性/23歳/傾国の踊り子】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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コンニチハ、夕凪沙久夜です。
この度は大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
バレンタインのチョコレート並みに甘いお話しに仕立ててみましたが、如何でしたでしょうか。
少しでも楽しんで頂ければ良いのですが。
冥夜からもレピアさんにチョコレートのプレゼントを。
また機会がありましたら、よろしくお願いします。
アリガトウございました。
バレンタイン・恋人達の物語2005 -
紫月サクヤ クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2005年03月11日

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