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『あおぞら 』
一条・桂4837)&知念・茜(3132)

 その日。
 俺は多分、機嫌が良かったんだ。
 外は良い天気だし、久々に売店では争奪戦に勝って焼きそばパン二つも買えて運がついたのか、欲しいパンは一通り買えたし。

 それに――珍しい、奴にも逢えたし?




 学校と言うのは不思議なところだ。
 所々から色んな奴がやってきては、一緒くたに一つの教室に詰められる。
 そんな中で、見事に周囲に溶け込んでしまうのも居れば、異端なまでに一人を貫き通す奴も居て。
 浮いている、と言うのとは少し違う。

 上手くは言えないけれど……何処か違うんだ。
 多分、それはダブってるから、とかそう言う事で片付けられるものでもなくて。
 本人が生まれながらに持っている性質もあるんだろうけれど。

 そんな人物が久しぶりに学校に来た。
 あんまり学校に来ないもんだから、「辞めたんじゃないか?」と言う噂もあった位。
 とは言え。
 まだ昼休み中だというのに、帰り支度を始めだした。

(おいおい、知念。幾らなんでも午前中だけって言うのはどーよ!?)

 知らず、声が出た。

「やーい、サボリ?」
「………?」
 が、知念の方はと言えば。
 声をかけられてるのが自分に気付いていないのか何なのか、辺りをきょろきょと見渡すと、こちらを見てきて。
「は? 誰?」と言っている様な表情だ。

 クラスの中に居ても、多分、クラスメイトの名前なんて覚えないんだろう。
 と、言うより覚える義理も無いのかもしれない。
 だから。
 クラスの中にも、こんな奴が居るんだと理解してもらえればいいかと、俺は駆け寄り、珍しく二つ買えた焼きそばパンの一個を知念の手に握らせた。
 近くで見ると不思議な色合いの目が、ゆっくり、瞬きを繰り返して息を吐く。

「……これは、何だ?」
「何って……焼きそばパンだけど?」
「それは理解しているが」
「理解できているなら問題ナシ!! さっ、行こう!」
「………は?」
 戸惑った表情でもなく、怒った表情でもない知念の手を引っ張り、屋上へと向かう。
 こんな良い天気、教室で話すよりは屋上の方が、絶対楽しい。
(ま、知念にしたらいい迷惑かもしんないけど?)
 それは、この際置いておく事にしよう。
 昼休みは時間が限られている上に意外と短いんだ。




 ――奇妙な事になったものだ、と思う。

 今現在、目の前にいるクラスメート「らしい」人物は、大量のパンを取り出し、食べながら、握らせた焼きそばパンを「食べて、食べて♪」と勧めている。

 黙々と食べるわけでもなく楽しそうに食べる姿に犬の姿が重なり、「ああ」と頷かせた。
 一口かじると、ソースの匂いが口中に広がった。
 何処か懐かしいような不思議な感覚。

(奇妙だ)

 食べている自分もそうだけれど、此処まで引っ張ってきた奴も奇妙だ。
 呼ぼうとして名を知らないことに気付く。
 当然といえば当然か。
 滅多に学校に来ないから、覚えられる筈もない。

「そう言えば」
「ん?」
「名を聞いていなかった」
 ぴく、と目の前の人物の眉が歪んだ。
「俺? 俺は……一条って言うんだけど……」
「下の名は?」
「かつらって書いて、まんま、そう読むよ。けど、俺……"かつら"って言うの好きじゃないんだよね……続けて呼ぶとカツラ屋みたいじゃん? だから……殆どの奴には"けい"と呼んでくれ!と言うんだけど……」
 やれやれって言うかねえ……と、大仰な溜息。
 この手の希望は大抵、却下されるものだ。
「却下されるわけか」
「そ」
 他愛ない事だと思うんだけど、等と言いながら次のパンへ。
(一体こいつの胃袋は幾つあるんだ)
 苦笑が浮かぶ。
「何、苦笑い浮かべてんの?」
「それだけの量が何処に入るのかと思ってな」
「……俺、部活に入ってるから……だから腹が減るの早いんだ。お袋が弁当持たせてくれても2限目には腹が減って食べちゃうし……そうなるとパンで腹を膨らませるしかないと言うか」
「部活は?」
「サッカー部。朝練もあるし、部活は部活でまた……まあ、好きだからやるんだけど」
「ほう……」
 あれ?という表情を一条は浮かべている。
 ……首を傾げたら某レコード会社の犬にそっくりだ。
「意外だって思わない?」
「思うほどには良く知らん」
「成る程。皆、良く言うから俺もつい言われるかも!?って条件反射で思っちゃうのかな……ごめん」
「いや」
 難しいものだ。
 自分でやりたいと思ってもイメージと言うのがついて回るものと言うのは。
 一条も気分を変えたかったのか、別の話を切り出してくる。
 そろそろ春休みだけれど、部活があって休みが無い事や、その前にある小テスト次第では補習があるらしい事等……どうにも、此処の場所と言うのは毎日来ていれば来ていたで微妙に大変らしい。
(――あまり、私には関係ない話だけれど)
 それでも、人の話を聞くのは楽しいものなのかも知れないともふと思う。
「……お」
「どうした?」
「知念、笑えるんじゃん」
 いきなりの一条の言葉に、行動が止まる。
「……は?」
 一条もいきなりすぎたと気付いたのだろう、変な意味じゃなくて、と付け足すと、
「いや、今、笑ってたから……薄っすらとだけど」
 と、牛乳を飲みながら言って。
 言われたからと言う訳でもないが自分の頬へと、手を伸ばす。
 ……自分では、表情等は良く、解らない。
「そうか?」
「うん♪ 中々良いな、人の笑顔とか見るのってさ」
「そんなものかな……ああ、もう一つ、聞くのを忘れていた」
「んー?」
「何で、声をかけた?」
「ああ……いつも一人なのが気になったから」
「パン、ご馳走様」
 一条の言葉には何の言葉も返さず、礼だけ言うと席を立つ。
 が、一条もさほど気にしていないのだろう、手をひらひらと振っている。

 さて。今から、何処へ行こうか―――




 知念が居なくなった後の屋上も、風景は相変わらず変わらない。

『何で、声をかけた?』

 一人だったのが気になったから。
 いつもどうして一人で居るのかがどうしても不思議で声をかけてみたかったから。

 後は多分――、一人で居る人、と言うのが俺はきっと嫌いじゃないんだ。
 好きとか嫌いの問題じゃないかもしれないんだけれど。

(でも、まあ……動くのも声をかけるのも俺の場合大した理由も要らないっつーか……)

 ごろん、と横になると目に飛び込むのは相変わらずの雲ひとつ無い青空。

(ああ、そうだ)

 今日、俺は機嫌が良かったんだ。

 何時にもまして良い天気だし、久々に売店では争奪戦に勝って焼きそばパンが二つも買えて、更に運がついたのか、欲しいパンは一通り買えちゃったし。

 それに―――
 滅多に学校に来ない奴とも逢えたし。

 だから、つい焼きそばパンも持たせちゃったりしたわけで。
 でなけりゃ、貴重な焼きそばパンだし全部俺が食べてる所だ。

(そういや美味いかどうかは聞かなかったけど)

 まあ、いいや。
 それは、次の機会があったら、知念に聞いてみることにしよう。

 俺が、覚えてたら、の話だけれど。




・End・


+ライター通信+

初めまして、こんにちは。
今回、こちらのお話を担当させて頂きました秋月 奏です。
頂いたプレイングがあまりにツボで、とても嬉しく、かつ楽しく
書かせて頂きました(^^)
高校生活と言うと、購買は欠かせないなあと言うか……私も良く
購買部では戦っていた事があるだけに一条君の気持ちが良く解るといいますか……(笑)
やはり、たくさん買えると機嫌が良くなるものですよね♪

そして、知念さんとの関係も何処か惹かれるものがあり……知念さんの口調など、
こう言う雰囲気かなあ、と思いつつ、これまた楽しく書かせて頂きましたv
確かに此処に居るのに、何処か違う場所に居るような知念さんの雰囲気が出ていましたら幸いです。

それでは、今回はこの辺にて失礼させて頂きますね。
また、何処かで逢えます事を祈りつつ……
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
秋月 奏 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年03月08日

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