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『Bitter Sweet 』
リョウ・アスカ(w3e053)


 ふと気が付いた時には、『その人物』は目の前に居た。
 チラチラと空から柔らかな白い雪が降り注ぐ、そんな中での出来事だった。
「…願いを、叶えましょう。どんな力を使おうとも、それは貴方の自由です。
 僕は貴方のためだけに現れた…貴方の願いを叶えるために」
 目の前の人物――20代半ば程の青年は、にこりと微笑みながらそう言った。
 これが初めての出会いであるのに、何故か懐かしささえ感じる。
「何故…? と思うでしょう。それは当たり前の感情です。でも…貴方は『僕』を呼んだ。それが、全てなんです」
 言葉を続ける青年に戸惑いを感じたが、何も言うことが出来ない。青年の瞳が、とても穏やかで、優しいものだったから。
「さぁ…貴方の願いを叶えましょう」
 ゆっくりと瞳を閉じ、手を差し出した青年は再びの言葉を繰り返す。
 
 我に返った時には、この青年の手を取っていた後だった。



 それは不思議な感覚だった。
 青年の手を取った瞬間に脳裏を駆け巡るような、今まで起こってきたこと全ての映像が甦ってくる。
 それはリョウ・アスカの願いを受け入れた、青年の『力』。

 ―――死んだ弟と、もう一度会って話しがしたい。

 普通なら、叶うことの無い願いだ。
 それでも、青年は『願いを叶える』と言ってきた。どんな、ことであろうとも。
 半信半疑なまま、リョウは青年に自分の願いを掲げた。
「意思を強く…繋いでいてください。これから、貴方の願いを叶えましょう」
「………おい…」
(―…本当に、出来るのか?)
 そう、口にしようと思ったが出来なかった。
 リョウの脳裏に、懐かしい弟の姿が浮かび上がったからだ。まだ、ヒトだった頃の。
 確か、18歳になったばかりだった。グレゴールになってしまった、弟。
 目の前で起こってしまった悲劇。倒れていくリョウの恋人と…そして両親。彼らを手にかけたのは、弟だった…。
 リョウは急に胸の奥が苦しくなり、空いているほうの手で服を握り締めた。忘れてしまうにはあまりにも残酷な…それでも、引きずられてままでは前に進めはしない。
 悔しさと悲しみを乗り越え、支えてくれたのは彼の逢魔。恋人に生き写しの彼女は、今までどれだけリョウの想いと勇気を与えたことか。
「…弟さんに会えたら…何を話したいのですか…?」
「……俺は…」
 青年が、そう語りかけてくる。
 リョウはそれに、すぐには答えることが出来なかった。
 『何を』…? そんなこと、己が己に問いかけても、返答に困るというのに。
 ただ、会うことが出来れば…姿を見ることが出来れば、言葉に出来るかもしれない。何故かそう思ったから…今を青年に託しているのだ。
「強い思念は…どんな思いよりも強いものです。そこに不安や迷いがあったとしても、貴方自身が負けることが無ければ、叶います」
 青年は静かに言葉を紡いだ。
 何も言わずとも、この青年には全て見透かされているのかもしれない。
「…名を、呼んであげてください。弟さんの名を…。言葉にしなくてもいいです。心の中で、呼んであげてください」
(……名前…)
 再び青年にそう言われ、リョウは静かに瞳を閉じた。
 弟の姿を脳裏に留めたまま、その姿に語りかけるように、小さく名を呼んでみる。弟の名を。
「………………」
 それから、何度かゆっくりと名を呼び続ける。
 すると、じわじわとリョウの心の中が温まっていくのを感じた。
『………兄さん』
「…!!」
 瞳を閉じていたリョウに語りかけられた言葉。
 忘れるはずなど無い、懐かしい声音。躊躇いがちにうっすらと瞼を開くと、リョウの目の前には弟の姿があった。
 寂しそうではあるが、やさしく微笑んでくれている。
「…暫しの間、貴方に時間を任せましょう。二人だけで、お話したいでしょう?」
 青年はリョウの背後に回り、静かにそういうと、音も無く姿を消した。リョウはその青年に返事をする間もなかったが、今はそれどころでもない。
「……本当に、お前なのか…?」
『どうなってるのか、よくわからないけどね…。もう、兄さんにはこうして会えるなんて思ってなかったのに』
 一歩、近づいてみる。
 それでも弟の姿は変わることなく、その場に留まっている。…夢ではない。これが、青年の力。
 
 ―――…弟さんに会えたら…何を話したいのですか…?

 先ほどの青年の言葉が、急に蘇った。
 解らないと…思っていた答えだったのに。
(…今なら、答えられたのにな)
 リョウは心の中でそう呟くと自嘲気味に笑った。
 簡単なことだった。
 それでもそれを伝える前に目の前の弟は死んだ。…リョウ自身の、手で。グレゴールになってしまった以上、そうするしか手は無かったから。辛くても悲しくても、…自分が望まなくても、それが『運命』だったから。
「…――」
 リョウは弟の名を口にした。だがそれは音にはならなかった。
『何? 兄さん』
 それでも、弟には届いていたらしい。優しい微笑みを崩すことなく、弟は答えてくれた。
「俺を、恨んでないか?」
 リョウの表情は苦渋に満ちていた。それでも笑みを作り上げて、弟へと問う。
『…どうして?』
 目の前の弟は首をかしげた。
「……なんで、って――」
 言葉をつなげようとして、リョウは続けることが出来なかった。
(違う、今伝えたいことは、違う…)
 そう小さく心で呟いた後、その場で静かに頭(かぶり)を振る。
 話したって仕方の無いこと、取り戻すことも出来ないことで、あの青年を呼んだのではない。
 もっと、大切なことを伝えなくては。
「俺たち…」
『…うん』
 リョウが一呼吸置き、再び言葉を発すると、弟は遅れることなく頷きを返す。一時でも、無駄な時間を過ごさぬ様に。
「…たとえ、血が繋がっていなくても…俺たちは、『兄弟』だよ」
『―――……』
 リョウがそう告げた瞬間、弟は顔を両手で覆った。
 泣いて、いるのだろうか。
「……おい…?」
 一歩、リョウが歩みを進めたその時。
 周りの景色が歪み始めた。
 それは、『時間切れ』の合図。
「……っ、…待っ…」
『…兄さん……有難う』
 リョウが慌てて手を伸ばすと、弟は急に後退を始めた。覆っていた両手をはずし、目に涙を浮かべながら。零れ落ちた涙は、宙に浮き、そのまま流れるようにリョウの元へと届けられた。
『有難う、兄さん。僕は…兄さんがそう言ってくれることを、願っていた。その言葉を聴きたかった。この身が完全に消えてしまう前に』
「………っ…」
 気がつけば、リョウの瞳にも涙が浮かび…声にならない声音を、遠ざかっていく弟へと投げかける。
『兄さん、もう充分だよ。有難う…幸せになって…僕の分まで…』
 リョウの弟は、それだけをきちんと言葉にした後、微笑を残しその場から消えた。光が溶け込むように。
「………………」
 静まり返ったその場には、未だに雪が降り注いでいた。
 さく、とその雪を踏みしめる音が聴こえ、リョウは振り向く。
 そこには青年の姿が。
「…伝えることは、出来たようですね」
 リョウは腕で自分の涙を拭い、青年へと向き直った。
「弟は、どこに行ったんだ?」
「彼の在るべきところへ。…次の時代を生きるための道へ」
 リョウの問いかけに、青年は静かにそう答える。
 青年の答えを聞き、リョウは天を仰いだ。
 有難う、と言っていた。それを聴けただけでも、充分ではないか。
 そう、心の中に問いかける。
 確かに、リョウと彼の弟との間には血の繋がりはない。だが、人間の絆を深めるものは、『血』だけではないのだ。
 たった今、それを確信した気がしたリョウは、天を仰いだままで笑顔を作り上げる。
「…なぁ、あんたは何者なん……」
 そう言いながら、再び青年へと顔を向けたときには。
 目の前にいたはずの青年の姿は、どこにも無かった。残されているのは、彼の足跡のみ。それも、佇んでいただけのものが。
「………ありがとな…」
 リョウは青年を探すことはせずに、小さくそう呟いた。
 そして、すっかり冷えてしまった自分の体を温めるために…。
 自分を待っていてくれている存在の元へと、リョウはその場を離れ、帰っていくのだった。


「…望みは、どんな些細なことでも、大切な希望であり…譲れないもの。だが…時として自分では叶えることが出来ない望みもあるのです。僕はそれに、ほんの少しの力を…与えるだけなのです」

 どこからともなくそう聴こえた声。
 それは振り続ける雪とともに…人々へと捧げる、彼のメッセージだった。




-了-



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リョウ・アスカさま

ライターの桐岬です。
ご参加ありがとうございました。アクスディアのお話を書かせていただくのは初めてでしたので
緊張しながらの作業だったのですが、如何でしたでしょうか。
弟さんの口調等、脚色させて頂いた部分がイメージと違っていたら申し訳ありません。
少しでも楽しんでいただけましたら、幸いに思います。

よろしかったらご感想など、お聞かせください。今後の参考にさせていただきます。

今回はありがとうございました。


※誤字脱字がありました場合、申し訳ありません。


桐岬 美沖
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2005年03月07日

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