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『潜入調査 』
アイラス・サーリアス1649
●頼みたいことがあるんだ
 その日、アイラス・サーリアスは白山羊亭で1人ワインを嗜んでいた。いつも繁盛しているこの酒場だが、今日はことさら客の入りがよく、アイラスも何とか店の隅にある小さな2人客用のテーブルを確保出来たという状況であった。
(賑やかですねえ……)
 ワインを置き、ゆっくりと店内を見回すアイラス。わいわいがやがやと、全体的に楽しそうな雰囲気の店内。それゆえに、他のテーブルの会話はよく聞こえない。あちこちの会話が入り混じって耳に入ってしまうからだ。
 と、そんな店内に1人の中年男性が入ってきた。マントにレザーアーマーで、腰にロングソードを携えたいかにも戦士風な中年男性である。レザーアーマーがやや年季が入った様子なので、それなりに経験は積んできているように思われる。
 中年男性は2、3度首を左右に動かしてから、誰かを見付けたのかまっすぐにそちらへ歩いていった――ちょうどアイラスの居る方向へ。
 そして中年男性は、アイラスの向いの椅子にどっかと腰を降ろし口を開いた。
「アイラス……アイラス・サーリアスくんかね?」
「ええ。その通りですが、僕に何かご用でしょうか」
 中年男性の問いかけに素直に答えるアイラス。中年男性の様子から、嘘を吐いてもしょうがないと判断したのである。
 こちらの名前を知っているということは、何かしらアイラスのことを調べた上でやってきたのであろう。それでいて名前をわざわざ確認するのは、顔や姿は曖昧にしか知らないということの表れに違いない。そういう相手に嘘を吐いたなら、後が大変だ。ここは素直に肯定した方が楽である。
「……だからここに来たんだ。君の評判は聞いている。色々と、仕事を引き受けたりしているそうじゃないか」
「そうですね。でも、冒険者ならごく当たり前のことだと思いますよ?」
 あえてアイラスは話をはぐらかしてみた。日々の糧を得るために仕事を受ける、冒険者なら当然の行動だ。とりあえず、相手がどう出てくるかをアイラスは見極めることにした。
「だが、腕が立つ冒険者は少ない」
 中年男性が苦笑して言った。これではっきりした。相手は、何か仕事をアイラスに頼みに来ているのだと。
「僕に仕事の依頼ですか?」
 アイラスが尋ねると、中年男性は無言で頷いた。
「その……通りだ。君の仕事の履歴に、新たに1つ加えてもらいたいことがある」
 中年男性は真剣な表情でアイラスに言った――。

●勘違いもはなはだしくて
 次の日、深夜の聖都エルザードの街をアイラスはある場所目指して1人歩いていた。だがその姿は、普段とまるで異なっていた。
 特徴の1つでもある大きめな眼鏡は外しており、束ねている薄青色の髪も普段とは違い高めの位置で括り直している。それより何より服装が……パンクである。両腕や左足、首回りなどにやたらとベルトが巻き付けられているかと思えば、腰の辺りにはじゃらじゃらと鎖までついている。衣服の色合いも紅色系統がベースなようで、深夜であっても目を引いてしまいそうだ。
 恐らく他人が同じような格好をしていたなら『これでも変装か?』と言われてしまうかもしれないだろうが、今回のアイラスの場合は変装として成り立っている。今のアイラスの格好を見て、普段のアイラスを思い浮かべる者はまず居ないと思われる。
 もっとも、こういう格好をしているのには、きちんとした理由がある訳なのだが。
(貴族のお嬢さんが、いかがわしい賭博場に入り浸りですか)
 アイラスは昨日中年男性から頼まれた仕事の内容を思い返していた。何でも中年男性はさる貴族に仕える者で、その家の娘がエルザードの外れにある賭博場にこっそり出入りしていることを1人知ってしまったのだという。
 中年男性は貴族の娘をそれとなく諌めたのだが、聞く耳持たず。相変わらず出入りを続けている。だからといって貴族や他の家人に相談するのもはばかられる。それで冒険者に助力を頼もうと、アイラスに白羽の矢を立てたのであった。つまりこの仕事は、貴族からの物ではなく中年男性独断の頼み事なのだ。
(自分から賭博場通いを止めるよう仕向ける、と……少し難しい条件ですね)
 家名に傷を付けぬようにするには、貴族の娘がとにかく賭博場に出入りしなくなるようにすること。このままだと、いずれ噂が広がってゆくことは間違いない。その前に、何とかしてほしいというのが中年男性の望みであった。
 やがて街外れにある賭博場へと到着するアイラス。細い路地に入り、その突き当たりにある地下へ続く階段を降りた先にその賭博場の扉があった。
 アイラスがコツコツコツと扉を3度叩く。すると中から合言葉を尋ねる声が聞こえてきた。
「知恵あるオウルは」
「……夜に羽ばたく」
 前もって中年男性が調べておいてくれた合言葉を、淡々とアイラスは答えた。
「どうぞ」
 扉が開けられ、いかつい男がアイラスを迎え入れた。1歩足を踏み入れると、むあっとした熱気がアイラスを襲った。
 そこにはカードやルーレットに興じる人々の姿が多くあった。庶民やら怪し気な風体の者たちに混じり、ちらほら身なりのよい者の姿も見受けられる。どうやらここの客層は幅広い様子である。
 そんな中、場違いではないかと思える女性の姿があった。それは中年男性が話していた貴族の娘の容姿と見事に一致していた。
「きゃあっ、また勝ったわ!」
 手をパチパチと叩き、はしゃいでいる貴族の娘。見ると1対1、サシでのポーカーを楽しんでいるようだ。無論、傍らには木で作られたチップの山があるのだが。
「いやあ、お嬢さんはほんとにお強い。毎回勝って帰られるじゃないですか」
 相手をしていた男が、そう言って誉め上げる。はっきり言ってお世辞である。けれども貴族の娘もそれを間に受けて、にこにことしている。そんな光景を見て、アイラスは納得した。
(毎回勝っているんじゃ、そう簡単に出入りは止めませんか)
 人の心理として、勝っている間はなかなか引けないものである。それでまだいける、まだいけると思って引き際を誤って――たいてい破綻するのがオチなのだ。
 アイラスは飲み物を頼み、しばし賭博場の隅の壁にもたれて様子を見守ることにした。その最中のことである、賭博場の者らしき男たちの密談が耳に入ってきたのは。
「計画通りだな。娘さん、まるで自分の実力かと思ってる。こっちがそう仕向けているのにな」
「ええ。あそこのメイドを買収した甲斐がありましたね。今は十分に勝たせるようにしています。ですがそろそろ……」
「ああ。豚は太らせて喰うのが一番だからな。相手は貴族様だ、いくらでも金を引き出せるさ」
「それに、上玉ですからねえ……ひっひっひ」
(……最悪ですね、これは)
 アイラスはふう、と溜息を吐いた。今の男たちの会話からすると、貴族の娘はまんまと罠にはめられたのだ。裏の事情など、全く気付くことなく。このままでは、家名に傷が付く所の騒ぎではなくなってしまう。
「無理矢理にでも、目を覚まさせた方がいいかもしれませんね……」
 アイラスはぽつりつぶやくと、まっすぐに貴族の娘の居るポーカーテーブルへと向かった。
「今夜は幸運の女神がついているようですね、お嬢さん。よければ、僕と勝負をお願い出来ませんか?」
 礼儀正しく貴族の娘に話しかけるアイラス。すると貴族の娘は首を横に振って、こう答えた。
「『今夜は』じゃないわ、『今夜も』よ。お相手でしたら構いませんわ。そろそろ、他の方とも遊んでみたいと思っていたんですの」
 すんなりと交渉成立。アイラスは貴族の娘の向いの椅子に座ると、手持ちの金をチップに交換してもらうことにした。
「先に言っておきますが」
 アイラスが貴族の娘の顔をじっと見つめて口を開いた。
「あら、何かしら?」
「僕は手加減しませんよ」
「それは私の言うことですわ」
 貴族の娘がにっこり微笑んで言う。よほど自信があるらしい……自分が勝ち続けているのは仕組まれたことであるのにも気付かず。
 そして、アイラスと貴族の娘とのポーカーが始まった。

●荒療治を終えて
 約2時間後――貴族の娘はテーブルに突っ伏して泣きじゃくっていた。アイラスにチップを全て巻き上げられてしまったからである。アイラスの前には、大量のチップの山が出来ていた。
 別にアイラスがいかさまをしたのではない。単に上手く駆け引きをやったというだけのことである。ドロップすべき時はドロップし、レイズする時にはレイズする。時にはブラフを混ぜながら、効率よくチップを奪っていったのだ。
「どうやら幸運の女神は僕に鞍替えしたようですね」
「うう……」
 アイラスの言葉に貴族の娘は顔を上げるが、泣くだけで何も言えなかった。そこでアイラスはもう一押し、きつめな台詞を口にした。
「お嬢さんは賭け事に向いていませんよ。仲間内では弱いと言われる僕にすら勝てないんじゃ、もう賭け事は止めた方がいいんじゃないですか? だいたい勝負に対するセンスもないんですし」
「う……うわーんっ! 私っ、もう帰りますーっ!!」
 大きく頭を振ったかと思うと、貴族の娘はすくっと立ち上がって泣きながら賭博場を飛び出していった。いやはや、かなり傷付いたようで。
「すみません。チップを交換してもらえますか」
 冷静に賭博場の者に言うアイラス。貴族の娘が居なくなった以上、ここに居続ける理由もない。帰る前に、チップを金に戻しておこうと考えた。
「……分かりました。時間がかかりますんで、別室でお待ち願いますか」
 賭博場の者はそうアイラスに説明した。だが、アイラスは見逃さなかった。説明する前に、他の者に何やら意味ありげな目配せをしたことに。
 目配せを受けた男に案内され、別室へ向かうアイラス。別室に入った瞬間、男が声を荒げてアイラスの方に振り返ったからである。
「おいっ! 貴様何の真似……ををうっ!?」
 男の声が驚きに変わった。何故ならば、男の額にぴたりとヘビーピストルが突き付けられていたからであった。
「下手な真似はしない方がいいですよ」
 淡々とアイラスが言う。それが余計に男の恐怖心を煽った。男は目を見開いたまま、こくこくと頷いた。こうなれば、もうアイラスの言いなりである。
 結局アイラスは、袋いっぱいに詰まった金貨を持って賭博場を後にすることとなった。何の騒動も起きることなく……。

●そして、履歴が1つ増え
 さて、後日談。
 貴族の娘は、それからぱったりと賭博場へ出入りすることがなくなったらしい。アイラスから首尾を聞き、依頼してきた中年男性が改めて貴族の娘を諌めたのも功を奏したようである。
 また貴族の館から、数人メイドが解雇されたとのことである。名目は素行不良のためということになっているが、真の理由は言わずもがなだ。
 アイラスは賭博場で稼いだ金の半分を、依頼してきた中年男性に返していた。恐らく貴族の家からの持ち出し分以上は、それで賄えるはずだ。
 で、残った半分の金だが――後日、アイラスは知り合い・友人たちとともに、白山羊亭でパーティを開いていたという噂である。
「『悪銭身に付かず』と言いますし」
 そんなことを、アイラスが言っていたとかいないとか。

【おしまい】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
高原恵 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2005年03月07日

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