▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『『いきます乙女のバレンタイン』 』
皆奈月・りゆ4009



◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆

『悩める乙女に朗報!
 間近に迫ったバレンタイン、意中のヒトにはやっぱり手作りチョコを渡したいですよね。
 でもどうすればいいの?そんなあなたに簡単レクチャー、バレンタインチョコ手作り教室!手渡しのアドバイスもカンペキ!
 お気軽においでください。 ふかみきょう』
 
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆

 二月も半ば近くなったある日。いつも通る道ばたの電信柱に、こんなビラが貼られていた。先住民の『ペットさがしています』ビラを覆い隠すように貼られたそれは明らかに子供の手書きで、コピーですらなかった。
 ビラに書いてある教室の場所は近くのマンションの一室。
 怪しすぎてわざわざ足を止めて見るものもいないそんなビラを、まじまじと眺める者がいた。皆奈月りゆ(みなづきりゆ)だ。
「ふかみきょう……何かの新興宗教かしら」
 金色の長い髪を、だいぶ寒気のゆるんだ風がなでていく。清楚で大人しそうな顔だちをしているが、その赤い瞳は見る人が見ればそうとう気が強そうだということが見て取れる。その手に持つビニールの買い物袋には、いま出てきたスーパーのバレンタインフェアで大売り出ししていた(ただし、定価で)割りチョコやらトッピングやらの手作りチョコ材料一式。
 りゆは道行く人の視線を少し気にしながらもその場でしばらく逡巡し、そして決断した。
「よし、いってやろうじゃないの」

 だいたい、バレンタイン自体がおかしいのだ。なにが悲しくて、女の子の方から男へ御機嫌うかがいのようなマネをしなくてはならないのか。お菓子会社の陰謀であるという説は正しい、ほら見るといい商店のワゴンに群がる少女達を。この季節だけに流行る悪質な風邪のようなものね。なおせる薬があるのならつけてやりたいものだけど。そういえばこないだひさしぶりに学校に行った時にクラスの女子からりゆちゃんにもチョコあげるねぇとか言われた。とんでもない、やっぱり女の子から男にあげてこそバレンタインじゃないの。あと店で小手先のこぎれいなチョコ買ってもダメ。あれはどんなに高くたって義理チョコ用だと思う。やっぱり手作りが真心。間違いないわこれがバレンタインの真理よ。ちょちょいのちょいよ!

 問題のマンションに到着したので、りゆは物思いからかえる。ついでにいままで考えていたことも記憶の彼方にとんでいった。
「四〇四号室……っと」ぴんぽーん。
 すぐさま応答があった。
「あの」「はーい、深見です。どうぞー」
 女の子の声がインターフォンからした、と思ったらあっさり自動ドアが開いた。オートロックの意味が無い。しかしその程度のことであっけにとられることはりゆの矜持が許さない。
 そ知らぬ顔で進みでて、エレベーターに乗り込む。そしてふと違和感を感じた。
「……四〇、四、号室?」
 外から見たマンションは、一階に三部屋ずつだったような気がする。
 
 エレベーターから出ると同時に居並ぶドアの一つが開く音がして、そこから茶色のロングヘアの少女がひょっこり顔を出す。
「お待ちしてました、どうぞ中へ!」
 ここできびすを返せる者がどのくらいいるものか。
(ていうか、がきんちょじゃないのよ)
 少女はりゆより五つは下に見えた。
(いやでも、若くてもお菓子づくりのうまい子とかはいるから、けっこう大丈夫……かも)

「はじめまして、深見杏(ふかみきょう)です。中学一年生やってます。両親は共働きなので、昼間は家に私ひとりなんです。今日は一緒にがんばりましょうね」
 杏と名乗った少女はぺこりと頭を下げる。
 りゆもぺこりと挨拶をかえした。
「皆奈月りゆです。こちらこそよろしくね」
「じゃあ、さっそくはじめましょう!」
 杏は嬉しそうに『はじめてのおかしづくり(やさしい!)』と書かれた本をとりだしてみせた。新品だ。りゆは笑顔で応えて言った。
「もしかして、教えるのは私のほうなのかしら?」
「はい!そんなかんじです」即答。
 りゆは答えを待たずに玄関へ走った。
 がし。ドアノブに手をかけようとしたりゆの腕に何かが巻き付く。
「な、何コレええぇぇ」
 それは半透明のヘドロのような色をしたゲル状の触手だったのだ。杏の腕がそれにつながっている。
「妖怪!?」
「りゆお姉さん、お願いです。私ひとりじゃ寂しいのです。チョコ、つくりましょう?つくったらおうちに帰してあげますからー」
 言ってる間に触手が残りの手足を捕捉した。
「えーい、ホラー映画かあんたはっ」
 家に帰すと言っているだけ良心的である。
 と思う事にした。



「だいじょうぶ、実は家でもちょっと練習してきてたのよ。まず包丁でチョコを切り刻むのよね」
「りゆお姉さん、まないたからチョコが飛び散ってます」
「次は湯せんで溶かすのよね」
「りゆお姉さん、チョコのボウルに直接お湯を注ぐのは違うと思います」
「あー……。しょうがないわね、火にかけて水分とばすか」
「りゆお姉さん、なんだか焦げてます」
「型に入れて」
「りゆお姉さん、型から漏れてますチョコ」
「冷蔵庫で冷やして……あ、冷凍庫のほうがすぐ固まるわね」
「りゆお姉さん、煮立ってるチョコをうちの冷凍庫にいれないでください」

「ふう、あとは待つだけね」
 居間のざぶとんにぺたりと座り込むりゆ。なんだかんだでくつろいでいる。
 チョコづくり用具一式が片づけもされない台所のテーブルの空いたところでお茶をいれていた杏が、湯気をたてる湯飲みを持ってりゆの向いに腰をおろす。
「それで、肝心なことお聞きしたいんですけど、りゆお姉さんのチョコのお相手ってどんな方です?」
 りゆはそんな杏を片目でちらりと見て、余裕で言い放つ。
「ふっ、秘密よ」
「ダメです」
「何がダメなのよ」
 いきなりダメ出しをされたりゆは思わず聞き返す。
「みなさんの秘めたる想い人を聞きだせるからこういうことやってるのに!りゆお姉さんの好きな人、自白するまで帰してあげません!」
「自分の欲望に忠実なのね、あなた……」
 りゆはため息ひとつ。
「いいわ、教えてあげる。そうねえ……名前は勘弁してほしいわ。そうねえ、奴はいつも雪まみれね。お天気の日も雪まみれよ。あと顔はいいわ。性格は朴念仁で……ああ、ニブいとか気が利かないとかそういう意味。そうね、顔だけはいいわ」
 しみじみと語るりゆ。自分でも驚くくらい冷静に語れた。
「ていうか、チョコなんて食べるのかしらアレ」
「……りゆお姉さん、それなんなんですか?」

 冷凍庫をばこんと開け放つと、大量の冷気とともに黒々としたカタマリが鎮座しているのが確認できた。
「よっし、あとはデコレーションのみ!」
 りゆは上機嫌でそのハート型のカタマリを取り出し、型からはみだしていた部分をぱきりと折り取って杏に放り投げる。
「杏ちゃん、味見プリーズ」
「はいです……うげっ」
 チョコのかけらを口にしたとたん、うめき声を出して口元をおさえる杏。りゆはそれをよそに最初からホワイトチョコでもよかったわね、などとつぶやきながら白色のチョコペンでなにやら黒い表面を塗りつぶしにかかっている。
「りゆお姉さん、家で試作してきたって言ってましたよね。そのときに味見しました?」
 やっと口がきけるようになった杏が尋ねる。りゆは振り向きもせずに言った。
「もっっちろん!すっごい凶悪な味……っていうか、マズいでしょそれ。なんでこうなっちゃうのかしらね〜」
「……」
 もう杏には言葉もない。


「できた!完成だわ!」

 
 バレンタインの日は例年に見ない大雪だった。私立神聖都学園高等部の校舎裏で、スコップを手にひたすら雪を掘る二人の姿があった。
「りゆお姉さん、私達は何をしているんですか?」
「落とし穴を掘っているのよ」
「落とし穴とバレンタインの因果関係は……」
「チョコは落とし穴に埋めておくのよ。そうやって渡すの。あいつにはもうこの場所を伝えてあるわ」
 りゆ断言。
 振り返れば二人の足跡やら、ほっくり返した雪やらが散乱して、ここで何か罠が待ってのは一目瞭然である。しかしりゆには相手が必ずひっかかるという確信があるらしい。
 気がつけば雪穴の深さは一メートルにも達していた。さすが神聖都学園は雪の積もる規模も違う。
「よしっ。杏ちゃん、塞いでいいわよ」
 りゆはチョコをラッピングしたリボンにメッセージカードを差し込んで、穴の底に丁寧に投げ入れた。すかさず杏が穴の上に白い紙を置いて雪をかぶせる。ついでに日の丸旗も立てる。
「そろそろ刻限ね……。よし、あっちの建物の陰で待つわよ」
 りゆはざくざくと雪を踏み、隠れ場所へと向かう。
「あ、あしあとバレバレです……」
「気にしないっ」
「はい……」
 建物の陰から顔だけちょこんと出して、しばし待つ。
「ところでりゆお姉さん、あのカードにはなにが書いてあるんですか?」
 杏から素朴な質問が発せられるや、りゆはすうっと顔の表情を変える。ワクワクドキドキの笑顔から、悪魔のような真っ黒い笑みへ。
「それは来月のお楽しみ、よ」



 まもなく目標がひっかかる落とし穴。
 その底でぽつんと出番を待つチョコの包み。
 添えられたカードにはこう書いてあった。
 『ホワイトデーは十倍返し』


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
PC【4009/皆奈月 りゆ(みなづき・りゆ)/女性/17歳/高校生】

NPC【2416/深見 杏(ふかみ きょう)/女/12歳/謎の中学生】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
こんにちは、ありかなこです。
りゆさん、遅くなって申し訳ありません。楽しんでいただけたら幸いです。
それでは。
バレンタイン・恋人達の物語2005 -
ありかなこ クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年03月07日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.