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『贈り物とケーキのお話 』
綿毛・ゆたんぽ4175)&池田屋・兎月(3334)&モーリス・ラジアル(2318)


 むかしむかし
 貧しくとも心優しいおじいさんとおばあさんがおりました。
 二人は貧しいながらも幸せに暮らして降りましたが、お正月だというのにお餅もお飾りも買えません。
 そこでおじいさんはカサを作り売りに行く事にしましたが一つも売れませんでした。
 日も暮れかけ、とうとう雪が降り始めてしまいおじいさんはカサを売るのを諦めて家に帰る事しました。
 その帰り道におじいさんは雪をかぶったお地蔵様達を見つけます。
 可哀相にと思った優しいおじいさんは雪を払い、お地蔵様達にカサをかぶせてあげる事にしました。
 ところがお地蔵様よりもカサのほうが一つだけたりません。
 どうしたものかと思ったおじいさんは、自分が着ていた手ぬぐいをかぶせる事にしました。
 家に帰り、その事を話すとおばあさんはよい事をしたと言い暖かくおじいさんを迎えてくれます。
 その晩。
 誰もが寝静まった頃になって、お地蔵様達がおじいさんとおばあさんの家に沢山の食べ物とお飾りを持ってやってくるのでした。


 めでたし・めでたし





 絵本を読み終えたゆたんぽはご主人様にお願いして、出かける支度をして貰う。
 バスケットを用意して、中にはご主人様特製の焼き菓子やケーキ。それにお店で売っているのと同じように美味しいサンドイッチとおにぎりを詰めて貰った。
 ちゃんとゆたんぽが歩きにくくならないような重さを考えて、ご主人様が用意してくれたものである。
「いってきますにゅ」
「気を付けて」
 真っ白な毛並みをした猫の姿から、人間の男の子の姿へと変化したゆたんぽは大好きな薔薇の花を摘んでバスケットに入れ、軽い足取りでお散歩に出かけた。
 絵本を読んで、ゆたんぽもみんなやご主人様が喜ぶような贈り物をしたくなったのである。
 最初に何処へ向かうかはちゃんと考えて居た。
 ゆたんぽが向かったのは既に何度か遊びに行った事のあるお屋敷。
 きれいなお庭と落ち着いた時間を過ごせるその場所と、そこにいる人達が今のゆたんぽのお気に入りだったのだ。
 門を開けて貰おうと呼び鈴を鳴らそうとしたゆたんぽは、ある事に気付いて伸ばしかけていた手を止める。
 視線の先には真っ白な毛並みのウサギさんがぴょこんとはずんでいた。
「おにいしゃ〜、うささんおにいしゃ♪ こんにちはでしゅにゅ〜♪」
 元気よく声をかけたゆたんぽにびっくりするうさぎさん……もといこのお屋敷の料理人の一人の兎月。
 何時も美味しいものを食べさせてくれる優しい人だ。
「!」
 慌てて壁に隠れ、ちょこんと壁から顔を覗かせつつゆたんぽの方を見ている。
「おにいしゃ?」
「………?」
「どうしたのにゅ?」
 首を傾げ、どうしてかを考えてようやく理由に思い立った。
 とっても簡単。
 兎月は猫の姿のゆたんぽしか知らなかったのだ。
「ちょっと待っててなのにゅ」
 猫の姿に戻り、フワフワの毛並みを舐めて整えてからカゴを引っ張りバスケットを兎月に見せる。
「プレゼントなのにゅ」
 猫の姿をしたゆたんぽを見て、今度は解ってくれたようだ。
 ぴょんぴょんと跳ねながら近づいて、ゆたんぽに白い毛並みをした頬をすり寄せてきてくれる。
「良かったにゅ、一緒に食べるにゃ♪」
 ゴロゴロと喉を鳴らすゆたんぽを誘い、兎月が中へと案内してくれた。



 このお屋敷の庭は何処も手入れが行き届いていてきれいなのだが、案内してくれたのは暖かくてちょうど良い木陰が出来ている過ごしやすそうな場所。
 ちょこんと小さな体を芝生の上に体を伏せた兎月に習い、ゆたんぽもバスケットを置いてすぐ側に座り込んだ。
 芝生の上は風通しがよく、兎月が進めるだけあって居心地がよい場所である。
「きもちいいにゃ〜」
 ここでピクニックをしたら、きっと御飯はもっと美味しく食べられるに違いない。
 いまは暖かい日差しを受け、のんびりと時間が過ぎていくのを楽しむ。
 疎々しそうになり始めた、そんな時。
「あっ、そうにゃ」
「………?」
「ご主人様にあげるプレゼントは何がいいか一緒に考えて欲しいのにゅ」
 刻々と頷く兎月に、ゆたんぽはどうしてそう考えたから話を始めた。
「今日読んだごほんに、カサじぞうってお話があったのにゃ」
 読んだ内容をそのまま話し、それから最初に兎月に言った所に戻ってくる。
「だからゆたんぽもご主人様に贈り物して喜んでもらうのにゅ」
 嬉しそうに話すゆたんぽの話を兎月はしっかりと聞いていて、どうするかを一緒に考えてくれた。
 ほのぼのとした雰囲気が辺りに漂う中、近くを通りかかったモーリスが二人……現在は二匹を見つけて楽しそうな物を見たとにやりと笑う。
 ゆっくりと近づいてくるのを話しに夢中な二人は何かを企まれているとは全く気付かない。
 距離をある程度近づけた所で二匹をのぞき込み、モーリスは笑いかけた。
「可愛いですね、何かしたくなります」
「……!」
「あっ、モーリスおにいしゃ〜♪」
 もうすぐそこまで来ていたモーリスの足下にすり寄り、ゴロゴロと喉を鳴らす。
「こんにちは」
 身を屈め、喉元を撫でる掌が心地よくて頬をすり寄せた。
「どんな話をしていたんですか、楽しそうですね」
「カサじぞうで、プレゼントをあげる話をうささんおにいしゃとしてたのにゃ」
 色々と省略された内容の話だが、それでもモーリスは大まかな部分は理解したようだ。
「プレゼント……誰かにあげるのかな」
「そうなのにゃ、うささんおにいしゃにもモーリスおにいしゃにもご主人様にもプレゼントをあげるのにゃ」
 こくこくと同意する兎月。
「モーリスおにいしゃも一緒に考えて欲しいのにゃ」
「構いませんよ、時間はありますから。デザートでも食べながらゆっくりと」
「わーい、モーリスおにいしゃにプレゼントなのにゃ」
 バスケットをさしだし、ゆたんぽは嬉しそうにごろごろと喉を鳴らした。



 人の姿に変わったゆたんぽと兎月は、モーリスと一緒にお茶の時間をする事になった。
 テーブルの上に広げられているのは、ゆたんぽが持ってきたバスケットの中身と兎月が作ったデザートの数々、それに花瓶に活けられた薔薇の花。
「盛りつけはわたくしめがさせていただきました」
「ありがとうにゃっ」
 磨かれたお皿の縁にはきれいな花の模様が描かれていて、ご主人様が作ってくれた焼き菓子と兎月がフルーツやジャムを添えて飾り付けてくれる。
 見た目にも華やかな、すごく素敵なティータイムだ。
「いただきますですにゃ」
「どうぞ」
 優しい表情で、兎月が暖かいカップにそっと紅茶をそそいでくれる。
「良い香り〜」
 ゆっくりと登る白い湯気が鼻先をくすぐる。
「おいしそうですね、いただきます」
 モーリスもサンドイッチを手に取り食べ始めた。
「それご主人様が作ったの、おいしいのにゃ」
「この焼き菓子もきれいに出来てますね」
「ありがとなのにゃ、おにいしゃの作ったデザートも取っても美味しいのにゅ」
 クリームたっぷりのシフォンケーキを食べやすい大きさに切り分け、パクリと口に運び口一杯に広がる甘さに幸せそうに両頬を抑えるゆたんぽ。
「喜んで貰えて何よりです、良かったらおみやげに持って帰りますか?」
「うん、ありがとうなのにゃ!」
 パァッと表情を輝かせるゆたんぽを撫でながらモーリスが。
「では私は薔薇のお礼に帰る時にでも花を包んであげましょう」
「本当!? やったにゅ〜」
 美味しそうなケーキとお花のプレゼントは、ご主人様もきっと喜んでくれるだろう。
 みんなにプレゼントを送って、嬉しそうな顔を見るのが楽しいのだ。
「カサじぞうさまもそうだったのかにゃ?」
「カサ地蔵?」
 まだ切っ掛けを話していなかったモーリスにも、お茶を楽しみながら兎月にしたのと同じ説明をし始める。
「それでプレゼントですか?」
「うんっ、ご主人様に喜んでもらうのにゅ」
 お地蔵さまがカサをかぶせてくれたのが嬉しかったからおじいさんとおばあさんに恩返したように、ゆたんぽもプレゼントをしてありがとうの気持ちを伝えたいのだ。
「とっても良い事なのにゅ」
「おみやげを持って帰ったらきっと喜んでくれますよ」
 優しく声をかけてくれる兎月に、湯たんぽは大きく頷いてからでもとほんの少しだけ考え込んでしまう。
「どうか致しましたか?」
「あのね、ケーキもお花もゆたんぽは届けるだけになっちゃうけど大丈夫かにゃ?」
「気持ちがこもっていればきっと喜んでくれますよ」
「配達人のようで可愛らしいと思いますが」
 兎月とモーリスに照れつつも、フルフルと首を振った。
「よかったにゅ。でもゆたんぽも何か考えたいなって思ったのにゃ」
「そうですね……」
 一緒になって考えて暮れ始めた兎月の横で、モーリスがさっそく思いついた事を提案する。
「お手伝いをするというのはどうでしょうか?」
「お手伝い!」
 この時のゆたんぽに耳と尻尾があったら、ピンッと耳と尻尾がきれいに立っていた事だろう。
「それはいいですね。お店のお手伝いや掃除をしたらきっとその方も喜んでくださいますよ」
「うんっ、そうするにゅ!」
 さっそくどんなお手伝いをしようかを、ゆたんぽはケーキを食べながら色々と考え始めた。



 沢山食べて、お腹一杯になったゆたんぽ達は庭に出て、のんびりとすごし始める。
「さてと……」
 読みかけだった本のページを捲りながら、モーリスはポツリと呟く。
 傍らには猫の姿をしたゆたんぽと兔の姿をした兎月がすやすやと眠っている。
 一人起きていたモーリスがここにいたのにはちゃんと理由があっての事だ。
「もう、そろそろ良いですね」
 ニコにと微笑み、モーリスは本に栞を挟んでそばに置く。
 この時を待っていたのだ。
 起きていても構わないのだが、無防備な所を撫でるのもまた楽しいものなのである。
「気持ちいいですね……」
「にゃ……おにゃかいっぱ、い」
 ふわふわのゆたんぽの尻尾を撫で上げ、手の中で時折ピクリと動くのを楽しむ。
「寝ぼけてるんでしょうか?」
 クスクスと笑みをこぼしながら、反対の手では兎月の長いうさぎの耳を撫でていた。
 丸まった体のラインを確かめるように、ぺたりと体に密着した耳を毛並みにそって丁寧に撫でるのである。
 ジッとほとんど動かない体は暖かく、柔らかい毛並みがとても心地よい。
「こんな日も良いですね」
 二匹の毛並みをたっぷりと堪能しながら、のんびりとした時間は過ぎていくのだった。



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2005年03月02日

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