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『Disproportionate brother and sister? 』
春日・真紀2845)&春日・イツル(2554)

「お疲れ様でしたぁ!」
「お疲れさま…」
 スタッフの元気な声に、春日・イツルは軽く挨拶した。寒さのきつい野外の撮影場所から、早く立ち去りたいと思っていたが、先輩達を置いていくわけにもいかない。早くこの撮影場所から帰ってくれなければ、聞きつけたファンにもまれて大変な事になるだろう。
 イツルは少し憂鬱な気分で、なかなか帰ろうとしない先輩の背中を見つめた。
 今日はいつもとは違うシーンの撮影だから、いつものメンバーとの打ち上げ……と言う名の飲み会はない。ここに居ても意味は無いし寒いだけだ。早く帰りたいと切に思いつつ、深い溜息をつく。
 その刹那、けたたましいベルの音と元気な女の声が自分のポケットの中から聞こえた。
『電話ですよー♪』
「む……」
 ポケットの中の声と振動は携帯からだった。女の声は携帯に登録された自動音声だ。つまり、呼び出し音。
『早く出てー、早くぅ〜♪』
「く、くそお……」
『もしも〜し♪』
 なかなかに可愛らしいお姉さんの声で『早く〜♪』と言われるのにも恥ずかしいものがある。慌ててポケットに手を突っ込んでいる間にも、ベルと女の声は聞こえていた。流石にこの大音量だと、スタッフの皆は振り返ってこっちを見ている。
「わざおぎさんにしては、意外な着信音ですねぇ〜」
 タイムキーパーの女性スタッフが、クスクスと笑いながらイツルに言った。
「あ、これは…ん?」
 見ればナンバーディスプレイに真紀と表示されている。妹からだ。
「真紀からか…くそぉ、真紀のやつ」
 着信相手の表示を見て、携帯を悪戯されたと気がついたイツルは眉を顰めて言った。
「あら、随分と悪戯好きな彼女なのね」
「違いますよ…妹の真紀がやったみたいです…まったく」
 苦虫を噛み潰したような表情を僅かにその面に刷き、イツルは携帯のボタンを押した。
「もしもし……」
 イツルは感情の波を揺らさないように、少し小声で言った。
『ひーっかかった! ひっかかったぁ〜♪』
 まだ幼そうな声が聞こえれば、イツルの顔が無表情な仮面を被ろうとする。
「切るぞ……」
 電話を悪戯されたイツルは、周りのスタッフに聞こえないように、声を押し殺して言った。
『わぁ! まってぇ! 切っちゃダメ』
「何だ…用が無いなら――切る」
 切るぞではなく、切ると言った辺りに、彼の激昂ぶりが伺えようというもの。しかしながら、妹というのは、やはり妹で。何処の家でも、兄を怒らせたり動揺させる天賦の才がある。故にこうのたまった。
『あのね〜、やほひ漫画のモデルになって欲しいの♪』
「冗談は休み休み言え……というか、バカいうな」
 兄は周囲に視線を配りつつ言う。
 妹の真紀は小学生で漫画家デビューし、最近は週刊と月刊で連載している。自分は月刊の方の原作をしているとはいえ、な〜ぜ〜に、そんなモノのモデルをやらねばならないのか。
 イツルは人に聞かれないようにするため、荷物置き場にしている車の方へと歩きながら喋った。
「やらないからな…」
『え〜、もう相手のモデルからOKは取れてるんだよぉ』
「知るか」
『ぶーぶー!』
「しかたないな……放送禁止な事はやらない、キスもダメだ」
『やった♪ じゃぁ、三日後に仕事場に来て。10時ごろぐらいがいいかな。その日は暇でしょ?』
「あぁ…」
 イツルは通り過ぎながらスタッフに挨拶をし、車のドアを開けた。帰り仕度を整え、車のドアを閉める。ファンの目を気にしながら、地下鉄へと向かって足早に去って行った。

 数日後、イツルは真紀の自宅に向かった。
 もう一人のモデルは既に到着していて、アシスタントが紅茶などを用意して接待していた。真紀のほうはおしゃべりをしている。呼びつけてモデルさせるなら、自分から接待しないのかと兄は思ったのだが、あえて言うことはしなかった。
「おはよ〜」
 作業中だというのに、可愛らしい服を来た真紀は兄の方を向いて手を振った。その恰好で原稿を描くのは服が汚れないかと思う兄であった。
「おはようじゃない。さっさと終わらせて、俺は帰る」
「はーいはいはいは〜い。わかったってば」
「はい…は、一回でいい」
「はぁ〜い。じゃ、脱いでね」
 真紀はいともあっさりと言った。
「…………」
 暫し、沈黙するイツル。
「お前は…俺に向かって、そう簡単に『脱いで』というのか」
「だぁって…言わなきゃ、そのまんまじゃん」
「何でヤローの前で脱がなきゃならないんだ」
「やおいって、男同士でぇ〜」
「最後まで言うな」
 憤然としながらイツルは言うと、きているコートを脱ぎ始める。
「兄貴は上半身裸」
「……」
 イツルはシャツの前を開け、引っ張ってズボンからシャツの裾を出す。
 アシスタントは「きゃぁ♪」と声を上げ、イツルを見つめた。その横で、声は上げないまでも、もう一人のモデルは顔を真っ赤にしている。
 やおいのモデルとして連れてこられただけあって、顔は良かった。男として、望んでモデルをしに来るのはどうかと思うのだが、この際、それを言うのは止めようかと思う。望んでないとは言え、この場にいる自分自身が虚しくなるからだ。
 ブツブツ言いながらも付き合い、イツルは早く解放されることだけを望んでいた。押し倒せと言われて頭を抱えそうになるが、そこは我慢。相手のときめくような表情に重い溜息を吐く。
 一方、相手の方はその日中、イツルに対して顔を真っ赤にしていた。

――勘弁してくれ……

 しかし、その思いは届くことは無かった。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
皆瀬七々海 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年03月01日

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