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『 バレンタインなんて関係ないもん! 』
チリュウ・ミカ(w3c964)



 ☆オープニング★


 今日は年に一度のバレンタイン・デー。でも、恋人がいる、いないに限らず、ふてくされたりしないで、買い物をしたり、散歩をしたり、美味しい料理を食べたりして、皆で一緒に楽しもうよ!それが、世界で一番楽しい、バレンタイン・デーになるはずだよ!

 ◆

“2月14日は身近な人にチョコをあげる日だよ。ボク達家族にもよろしく☆”
 数十分前、住居であるペンションから出てくる直前に、自分の逢魔に言われたメッセージを頭の中に思い浮かべながら、チリュウ・ミカは洋菓子店を目指して歩いていた。
「やれやれ、確かにあいつらは法的にはわたしの家族になった。だけど、元々はわたしの逢魔の雪娘と、大切な彼の義娘じゃないか。いや、大切なわたしの家族である事には間違いないが」
 もうすぐ3月になるとは言え、外はまだ肌寒い。冷たい北の風がミカの肩まである黒髪を冷たく揺らし、ミカの体の中から振るえがきた。
「わたしも甘いな」
 ミカは逢魔達の顔を思い出しながら、小さく息をついた。
“街の一番人気のお菓子屋さん・『洋菓子・ベル』の限定品…お願い、おかーさん”
 幼い逢魔の頼みに、残酷の黒の刻印を体に受けたミカもとうとう折れて、近くにある町の一番人気の店へ、バレンタイン限定チョコを買いに行く事にしたのだった。昔のわたしなら、決してこんな事は受けたりはしなかっただろうと、ミカは昔の自分を思い浮かべた。
「まあ、年に一度のバレンタインだ、たまには美味しいチョコを買ってやるのもいいかもしれない。何しろ、ペンションには去年も今年も、変なチョコばかり集まってきたからな」
 ミカはペンションに集められた、食べ物と言えるかどうかもわからない、微妙なチョコの数々を思い出し、苦笑を浮かべた。
「それはともかくとして、問題はあの人気の店の限定チョコをどうやって奪取するかだ」
 ようやく見えてきた店を見つめて、ミカは足を止めて腕を組んだ。ミカの視線の先には、すでに黒山の人だかりが出来ている。そのほとんどが、若い女性であった。
「バーゲンのおば様も凄まじいパワーを放つが、この時期ののぼせ上がった娘っ子どもも殺気立ってるしな」
 レンガ作りの壁に、赤い可愛らしい屋根、店の前に飾られた花が何とも可愛らしいこの町一番の洋菓子店「ベル」が、この時期どんなに混雑するか、という事ぐらいは、ミカにも想像がついていた。あまりの混雑ぶりに、チョコを買うのをあきらめた人までいる、という話だ。
 しかし、今その店は店の外見がわからないほど、入り口は娘達で溢れ返っており、猫すら入る隙間もないのでは、とミカは思ったぐらいであった。
「普段はどこにあのエネルギーを溜めているのやら。わたし、あの中に入って行って、嫉妬で睨み殺されやしないだろうか」
 左手に小さく、そして優しく輝く指輪を見た瞬間、ミカは顔に笑顔が浮かぶのを感じた。「あいつらの為にも、美味しいチョコを買って帰らないとな」
 ミカは左の薬指から店へと視線を戻し、愛の強奪戦が行われている店の入り口まで歩き出した。



「間近で見ると恐ろしい物があるな。ああ、あの棚なんて、今限定チョコが並べられたばかりなのに、もう空っぽになっている」  店内の様子を見つめながら、ミカはもう一度腕組みをして一人作戦会議を練り始めた。
「魔皇核を召還して一気に突撃、は洒落にならないな。なら殲騎召還。いや、それ以前に店が壊れる」
 ミカは店内でもみくちゃになりながらチョコをレジまで持っていこうとしている、制服を着た少女をぼんやりと見つめた。
「女子高生に擬態!ミカちゃんってば、まだまだイケるぅ…わけないよな」
 制服を着て、コギャル言葉で話す自分を想像し、ミカはため息をついた。どうしようかと悩んでいるうちに、人はますます増えていく。どうすれば、あの混雑の中から家族の為のチョコを入手する事が出来るだろうか。
「やはり、ここは普通に敏捷度勝負で先手必勝でいくしかないか!何しろ、魔皇の力は普通の人間の10倍。この力と速さで、あの恋する乙女達を封じる事が出来るはず!」
 ミカはそう決心すると、店内の人だかりを鋭い眼光で睨み、一気に店の中へと突撃していった。



「わあ、何をする痛いじゃないか!」
 娘達に混じって買い物をしている婦人の豊満な体に弾き飛ばされ、さらにそばにいた娘に足を踏まれる。このやっと手を動かせるほどの混雑の中で、魔皇の10倍のスピードもほとんど意味がなかった。かと言って、その強力な力で無理やり女性達を押し分けるわけにはいかない。確実に怪我人を出してしまう。
 それでもミカは運良く、やっとひとつだけ、限定品のハートの形のチョコを手に取る事が出来た。
「こんなの、あの雪娘が起こす騒動に比べれば何て事は」
 そう言ったそばから、後ろの娘の肘鉄を食らう。
「おい、肘が当たったぞ、肘!」
 店内の騒々しい空気に、ミカの言葉もむなしくかき消されてしまう。
「身動きも自由に取れないし。これは、買う物を買って、早いところ店を出た方がいいな」
 そう呟いたミカの目の前の棚に新しいチョコが置かれる。兎の形をした、食べるのが可愛そうなぐらいのチョコだった。即座に奪取せよ!!ミカの頭の中に、声が響いた。声が聞こえたと思ったら、ミカはすでに兎のチョコを2つ、懐に優しく抱えていた。
「あれはわたしの本能の声か?ともかく良かった」
 その兎のチョコは、中にイチゴが入っており、この店でもかなりの人気商品だと聞いた事がある。聞いた話では、去年は1週間もしないうちに、品切れになってしまったと言う。だからチョコを入手出来て、ミカはほっとした気持ちになったのだった。
「さてと、もうひとつだな。どれにしようか」
 混雑ぶりは相変わらずであったが、ミカはまわりの棚も見回した。バレンタイン限定のチョコは店内の中央の棚に置かれ、取りやすい位置に設置されている為、すぐになくなってしまう。おかげで、どの棚もほとんど空っぽだった。
 しかし、まわりにある棚には、限定品でなく通常も売られている商品が置かれている。普段よりは売れてはいるが、それでもバレンタインの限定品に比べると、かなりの数のチョコが残っていた。
 ミカは、そのうちのひとつの棚で目を止めた。その棚のチョコは、卵の形をしたチョコの中に、ふわふわのヒヨコの人形が入っている。ミカはどうにか人を押し分けて、その卵のチョコを手に取ると、満足に満ちた笑顔を浮かべて、会計へと向かった。
 

 
 綺麗にラッピングされた4つのチョコの入った紙袋を下げて、ミカは帰り道を急いでいた。ハートのチョコは最愛の彼に、兎のチョコは逢魔と彼の義娘に渡すつもりだ。
「あいつら、喜んでくれるかな」
 ミカは、大切な家族達が笑顔を浮かべて、自分が買ったチョコを手にしているところを思い浮かべて、口元から小さな笑みが零れ落ちるのを感じた。
 最後のひとつ、卵のチョコは、未来に授かるであろう、小さな命の為に買ったものだ。その命がいつ、ミカの元に訪れるかはわからない。それでもミカは、その命に一番相応しい贈り物をしたいと思ったのだ。
「さて、あいつらどんな顔をするかな。今から楽しみだ!」
 見えてきたペンションの屋根を見つめ、家族の事を思い浮かべて、寒い冬の中、心が暖かくなるのを、ミカは感じていた。

 年に一度の大切な日、何よりも大切な人々へ、愛の贈り物を。
 恋人や家族、友人達が楽しく、幸せに過ごす日、それがセント・バレンタイン。(終)


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◆登場人物一覧◇


【ウェブID/PC名/性別/年齢/クラス】

【w3c964maoh/チリュウ・ミカ/女性/28/残酷の黒】


◆ライター通信◇

 チリュウ・ミカ様

 初めまして。新人ライターの朝霧・青海です。今回は朝霧のバレンタイン限定ノベルに参加下さり、本当に有難うございました!アクスディアでの執筆は、今回が初めてになりますので、少々緊張しております(笑)
 タイトルの名前こそはバレンタインなんて関係ない、となっていますが、ミカさんのプレイングを元に執筆をした結果、ほのぼのとした恋物語になりました(笑)ミカさんがどんな思いを抱いて、限定のチョコを買ったのかと、自分でイメージしながら書いておりました。ちょっとコミカル路線を交えながら、チョコを買う様子を描かせて頂きました。少しでも、楽しんで頂ければ幸いです。
 それでは、また何かの機会がございましたら、どうぞよろしくお願いいたします。今回は有難うございました。
バレンタイン・恋人達の物語2005 -
朝霧 青海 クリエイターズルームへ
神魔創世記 アクスディアEXceed
2005年02月25日

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