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『招かざる客〜親父のプライドにかけて〜 』
オーマ・シュヴァルツ1953

「インポッシブル! 一体誰が、このソウルハーティングで腹黒親父桃色ビーム炸裂ルームを、これほどまでにファンキーでデストロイな邪念ゾーンに仕立て上げられるんダァ!」
 眼前に広がる破壊都市にがく然とし、オーマ・シュヴァルツ(1953)は大声を張り上げた。
 彼が叫びたくなるのも無理はない。
 苦労と困難の熱い血潮をたぎらす旅を果たし、心の安らぎと一時の休息を求めるために創設された、地下に広がる癒しと麗しの空間が、見事なまでに荒らされていたのだから。
 棚という棚は全て引き出され、中身があちこちにまき散らされている。机とイスは全て足をもぎ取られた上にひっくり返っており、もはや本来の役目を果たせそうにない。
 何よりショックを隠せないでいたのは、出発前にうっかりそのまま飾っておいた、腹黒同盟勧誘パンフ(青眼鏡ナイスガイ改☆バージョン)の第一稿が、入れてあった額ごと姿を消していたのだ。
「まさか‥‥アレがこの聖地に乗り込み、俺のソウルに共鳴するラブマッスル筋肉親父ソウルフルグッズを破壊していったというのか!?」
 
 えー……展開についていけない読者諸君に、簡単に説明しよう。
 要は「空き巣」の被害にあったらしい。
 妻や子にこっそり秘密にしていた部屋に、空き巣が入ったようだ。
 ちなみに部屋はまだあといくつかあるようだが、本人いわく
「地底親父世界の名はダテじゃねぇよ。屋敷の下には、腹黒同盟一門が不自由なくハッピーハートフル☆人生を送れるだけの部屋を備えてやっているぜ!」
 と……最早、部屋というより豪邸を、まるまる地下に作成したようなものらしい。
 一時期、その仲間達に秘蔵アイテムを奪われそうになったとかなっていないとか、ほほ笑ましい事件もあったようだが、この地下の全貌は彼以外誰も知らない。
 
 己の手足となる筋肉マッチョ霊魂達に掃除を命じ、オーマは早速、犯人捜索を開始した。
 盗られたものは全て腹黒同盟にまつわる品々ばかり。
 いつもならば大切に肌身離さず携帯するか、保管させておくのだが、たまたま急な出発に忘れてしまったのだ。
 彼とて人の子。ある種カリスマ的存在なオーマであったが、そうしたうっかりミスもあるのだ。
 しかし、この部屋の存在をしっており、かつ……貴金属の類いには手も触れずにいる辺り、相当の好き者か、はたまた確信犯か。
 手がかりになりそうな証拠を探していたオーマは、ふと、ベッドの下に動物の毛のような物が落ちていることに気付いた。
「……コレは」
 野生の獣にしては手入れが行き届いている。どことなく香水の香りがするのも、恐らく気のせいではないだろう。
「そうか……さては、この一連の事件は、アイツらのペット達の仕業というヤツだな」
 毛に付いていた香水の香りには覚えがあった。
 だが、己の記憶が確かならば……この香りの持ち主は、一家最強存在である「地獄の番人」。
 事情を聞くには、この部屋の存在を話さなくてはならない。どういう反応が返ってくるか……想像しただけでも恐ろしい。
「いや、別に本人に聞くコトはないか。ペットの居所だけ確認して、俺のビューティフル腹黒親父マッスルボディ☆を使って締め上げさせれば、勝手に自白して万事オールクリアってとこだな」

 その時、作業していた霊魂の1匹がオーマの肩をつついた。
 何の用だろうと振り向くオーマに、彼はそっと「腹黒同盟勧誘パンフ入りクリスタル仕様額縁」を差し出す。
「オイおまえ、こいつを一体どこで見つけたんだ?」
 霊魂はスッ……と、タンスの側に積み上げられていた服の山を指さした。
 程なくして、部屋のあちこちから、無くなったと思っていたアイテム達が次々と発見された。
 いずれもほんの下敷きになっていたり、じゅうたんの下に隠されていたりと、まるで冬支度をする獣が餌を木の葉に下に入れて保管するように、隠されていたのだ。
「するとアレか? この部屋へ忍びこみ、辺りをデンジャラスなまでに荒らし回った末、腹黒同盟グッズをしまい込んだというワケか」
 無くなったと思っていたものは全て発見された。どうやら部屋の外へまでは持ち出していないようだ。
 ほっと胸をなで下ろしながらも、オーマは今度こそは、と秘密アイテム達を大切にしまい込んだ。
 
 それにしても問題なのは、この部屋にどうやって入り込んだか、である。
 部屋に入る入り口には鍵はかかっていたし、地下であるこの部屋には勿論窓はない。
 導き出される内容はひとつ。
 ペットの飼い主である「地獄の番人」がこの部屋に乱入した。そう考えるべきだろう。
「ドッチにしても、聞かなきゃならねーってコトかよ」
 空白の5日間を埋めるべく。
 オーマは意を決して問い詰めることにした。
 
―――――――――――――

 鍵をしっかり締め、地上への直結エレベーター(腹黒同盟仲間手製の金属製エレベーター。原動力は秘密)に向かおうとした時だ。
 眼前から毛の長い猫が姿を現した。
 猫といっても、只の猫ではない。額に黄金色に輝く宝石が埋め込まれた魔獣である。
 猫は首輪の鈴をチリチリと鳴らし、オーマの脇を通りすぎていく。
「おいっ、そこの貧弱キャット!」
 オーマの声を軽く無視して、猫は彼の部屋の前でぴたりと足を止める。
 
 にゃーん。
 
 一声鳴くと同時にカチリと音がし、鈍い地響きを鳴らして、扉がゆっくりと開け放たれていった。
「……俺はそんな設計を言った覚えはないぞ……」
 開かれていく秘密の花園への入り口へ、猫はゆうゆうと歩みを進めていく。
 驚きと怒りとで煮えたぎる腹をぎゅっと抑え、オーマは強く歯を噛みしめながら呟いた。
「俺のいない間に、勝手にいじり倒しやがるとはイイ度胸だ……この礼は親父ムンムン腹黒パワーの名にかけて、きっちり落とし前つけてやるからな!」
 オーマはゆっくりと開いた扉へと向かう。
 
 猫の姿はそれ以来、見たものはいない。
 
 おわり 
 
 文章執筆:谷口舞
PCシチュエーションノベル(シングル) -
谷口舞 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2005年02月21日

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