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『【これでも変装中】 』
アイラス・サーリアス1649
 何より人目を惹き付けるのが赤を基調とした極彩色、そして鉄という鉄をあしらった武骨な装飾だった。未来素材か機械人間か、見る者がそんな感想を抱いても不思議ではない。彼の身を包む衣服はとにかく仰々しすぎ、奇妙な様相を呈していた。
 後ろで結わえた青髪が夜風に揺れる。遠目ならば女と見間違える者もいよう。
 彼は自分自身を一番特徴付けている眼鏡を外す。
 何の手も加えない、凛々しくも美しい顔立ちが露になる。顔から上と下で、まったく異質の華やかさがあった。彼はひとり確認の言葉を呟く。
「さて、行きますか」
 アイラス・サーリアスは現在変装をしている。
 変装とは言うまでもなく通常と異なる容姿あるいは服装をすること。その意味では確かに彼は完璧なまでに普段とかけ離れている。しかし普通、変装は誰かから逃れる、隠れることを目的とする。このような派手さでは目立つことこの上ない。逃げることも隠れることもまず無理。
 そのどちらでもない。アイラスの目的は、これから会う相手の意表をつくことである。正確には騙すことだ。

 彼にこのような格好をさせた発端は一週間前にさかのぼる。
 うららかな午後、アイラスはアルマ通りを何気なく歩いていた。変化はそこで訪れた。花屋の前を通りがかった時、店員が呼び止めて一通の手紙を手渡してきたのである。
「一週間後の夜、郊外の岩場にて決闘を申し込む」
 決闘状だった。一体誰がこんな馬鹿げたことを。アイラスは署名を見た。すると彼は電撃的に、とある出来事を思い出した。
 アイラスはかつて冒険者として、盗賊退治の依頼を受けたことがある。運悪く、たったひとりでの仕事だった。だが盗賊たちは個々の力はたいしたことがなく、アイラスの速さと技に翻弄され、やすやすと壊滅した。無論、並の冒険者がひとりでやったところでこうはいかない。アイラスの力量が際立っていたというべきだろう。
 彼の記憶では、髭面の頭領はこんなことを吐き捨てていた。
「忘れねえぞ、青いメガネ野郎……!」
 署名は、その盗賊集団の頭領の名だった。あれからずいぶんと時が経っているが、ふたたび組織したのだろうか。相手が人間だけに、命をとることはしなかった。しかし二度と悪さができないように、完膚なきまでに叩いたのは間違いなかった。
「再起はできないものと思っていたのに。アイラス・サーリアス憎しの一念か」
 要するにこの決闘とは、何のことはない、ただの復讐である。まともにやりあう価値などない。だが自分が現れなければ、手紙を渡さなかったとして花屋にあらぬ暴力が向けられるかもしれない。行かなければならなかった。

 風の消えた夜気、ひっそりと静まる空間をかき分けて、指定場所の岩場に到着する。
 視線の先に人の気配と灯りがあった。ランタンを持った男たち――盗賊集団だ。そのうちのひとりに、手紙の差出人である頭領の顔が見える。
 いずれにせよ、一対一でなければ決闘とは呼べまい。ただ大勢でもって嬲り殺しにする心積もりだ。
「うん……?」
 盗賊たちは近づいてくるアイラスに気付いた。
「おい、変な格好した兄ちゃんよ、もうすぐここは貸切になるんだよ。怪我しねえうちに消えな」
「そら、さっさと行った行った」
 アイラスだとわかっていない。盗賊たちはアイラスを無視し、雑談に興じ始めた。
 これが狙い。
 ――彼は行動を起こした。風をも凌ぐスピードで余所見する頭領たちに迫る。
 え? と声を上げさせる暇もなく、勢いに乗って飛び蹴りを繰り出す。ランタンが放り出され、敵のひとりが吹っ飛んで昏倒する。
 呆気に取られる盗賊。何が起こったか理解できていない。その隙にアイラスは次々と蹴りを見舞う。延髄を刈りみぞおちに入れ、彼らを一撃で地面に沈めていく。
 ものの10秒で、残りは頭領ひとりになった。アイラスは彼の腰に目をやった。
「銃を持っているな。どうせ僕が見えた瞬間に撃つつもりだったんだろう」
「な、おめえはまさか」
「お望みのアイラス・サーリアスだ。以前と格好は違うけれど」
 頭領の顔が一瞬で紅潮する。腰の銃に手をかける。
「ふざけるな、騙まし討ちなぞ――ガッ?」
 空へ飛び、落ちる頭領。魔力の乗った拳によるアッパーを食らったのだ。
「お前たちに卑怯だの言われたくはないよ。――さて、前回以上に容赦しないぞ」
 アイラスは倒れる盗賊たちの拳を、両方とも砕いた。今度こそ盗賊して再起ができないように。



「……まったく、いやな戦い」
 漏れる文句。正義のために戦って逆恨みされてはたまったものではない。
 アイラスが倒してきた悪者は数知れない。
 またこんな変装をする機会があるかもしれない――そう思うと、少し憂鬱になった。しかしそれも冒険者の宿命と思い直した。

【了】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
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聖獣界ソーン
2005年02月15日

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