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『Some things change, but some do not 』
皇來・カグラ(w3a422)

 十二月三十一日、深夜。

「なんだよ、これは……」
 半ば驚き、半ばげんなりとした様子で、皇來カグラはそう呟いた。

 人、人、人。
 見渡す限り、人、人、人である。

「話には聞いていたが……参ったな」
 唖然とした様子で、堂島志倫もそう続ける。

 この人の海の中にこれから入らなければならないと思うと、気が重くなってくるのも無理はない。
 が、ここまできて、今さら引き返すというわけにもいくまい。
「どうせ行くならやっぱり一番メジャーなとこがいいって言い出したのは、カグラだよね?」
 かなめがそう念を押すと、カグラはむすっとした顔でこう答えた。
「誰も行かないとは言ってないだろ。さっさと並ぶぞ」
 列に向かうかなめたちの後に、志倫とアルティオーネが続く。
 その後ろにも、あっという間に列がのびていった。

 そして、この巨大な人ごみのちょうどど真ん中当たりで、四人は新年を迎えたのだった。





 それから、どれくらい経っただろうか。
「ったく……ちっとも進まねぇじゃねぇかよ」
 さんざん人混みにもまれ、押され、足を踏まれたりしているうちに、カグラのイライラはピークに達していた。
「ちゃんと進んでるじゃない」
 実際、なんだかんだ言いつつも、列は少しずつではあるが確実に進んでいる。
 けれども、今のカグラにとって、そんな理屈は全く無意味だった。
「もう年が明けてから、どれだけ経ったと思ってるんだよ」
 なおもぶつぶつと文句を言うカグラに、かなめはついむっとしてこう言い返す。
「そんなこと私に言わないでよ」

 と。
 拝殿の方を睨んでいたカグラが、不意にこんな事を言い出した。
「なぁ、ここからお賽銭投げても届くんじゃねぇ?」
 ちなみに、かなめの見る限り――と言っても、人並みの身長しかないかなめには、前の人々の頭の向こう側にかろうじて拝殿の屋根が見えるレベルなのだが――賽銭箱までの距離は、まあ百メートルまではないだろう、というところである。
 ここからお賽銭を投げたところで、うまく賽銭箱に入ってくれるとは思えないし、外れれば人に当たる可能性は極めて高い。
「それはさすがに無理だと思うけど……まさかやらないよね?」
 まさか、いくらイライラしているとはいえ、そこまで無茶はするまい。
 そう思いながら――あるいは、自分にそう言い聞かせながら――かなめはカグラの方を見た。

 目に飛び込んできたのは、大きく腕だけを斜め後方に振り上げたカグラの姿。
 考えてみれば、この人混みの中で、全身を使って投げられるだけのスペースなどあるはずがない。

 普通に投げても怪しいというのに、こんな投げ方では絶対に届かない。
 かなめは慌てて制止しようとしたが、それより早く、カグラの腕が振られ、数枚のコインが参道の灯りにきらめきながら前方へと飛んでいった。

「ちょ、ちょっとぉ!!」
 抗議するかなめを無視して、カグラはおもむろに手を叩き、拝殿の方に向かって手を合わせる。
 そして、それが終わるやいなや、きっぱりこう言いきったのだった。
「これで初詣完了だな。さ、戻るぞ」
 こうなってしまうと、もう誰にも止められない。
「ちょっと待ってよ。私、まだお祈りしてないんだから」
 それだけ言うと、かなめは慌てて拝殿の方に向き直る。
(今年こそ、カグラが暴走しなくなりますように)
 心の底から、そう祈らずにはいられないかなめであった。





 一方、そのころ。
 志倫とアルティオーネは、カグラたちのやや斜め前方にいた。

 目指す拝殿まであともう少しということもあってか、人々の熱気はかなり高まっている。
 その高まった熱気が、列が少しでも崩れるたびにあふれ出し、結果的に拝殿周辺はほぼ無秩序な状態になってしまっていた。

 その芋を洗うような大混雑の中を、どうにかこうにか、少しずつ進んでいく。
 と、誰かに押されたのか、突然アルティオーネが志倫の方に倒れかかってきた。
「アルティオーネ、大丈夫か?」
「は、はい。わたくしなら、平気です」
 ほんのりと頬を赤らめるアルティオーネを、志倫は心底愛おしく思った。

 それからさらに十数分ほどかけて、二人はどうにか参拝を済ませることができた。
「志倫さんは、何をお祈りしたんですか?」
 アルティオーネが、そんなことを聞いてくる。
 もちろん、志倫の願い事は初めから決まっていた。
(このままアルティオーネと仲良く過ごせますように)
 しかし、それを正直に言うのは、やはり照れくさい。
「秘密だ。人に言うと叶わなくなるらしいからな」
 志倫がそうはぐらかすと、アルティオーネはなぜか嬉しそうにこう答えた。
「では、わたくしも秘密にしておきますね」
 ひょっとしたら、アルティオーネには全てわかっているのかもしれない。
 そう考えると少し気恥ずかしくなって、志倫はとっさに話題を変えた。
「そういえば、ここのおみくじは少し変わっているらしいな」
「面白そうですね。行ってみましょうか」
 アルティオーネがすぐに乗ってきてくれたことに内心ほっとしつつ、志倫は社務所の方へ足を向けた。





「『茂りたる うばらからたち 払ひても ふむべき道は ゆくべかりけり』、か」
 志倫の受け取ったおみくじ――正確には、「大御心」というのだが――には、その歌と解説文が書かれていた。 
「……どういう意味ですか?」
 そう尋ねるアルティオーネに、志倫は解説文をさらに要約してこう答えた。
「まぁ、一言で言えば、『自分を信じて突き進め』ということかな」
「志倫さんにぴったりですね」
 なるほど、言われてみれば、確かにその通りである。
 では、アルティオーネにぴったりな歌、もしくは教訓とは何だろう?
「アルティオーネはどうだったんだ?」
 そう聞き返すと、アルティオーネはにっこり笑ってこう答えた。
「『いかさまに 身はくだくとも むらぎもの 心はゆたに あるべかりけり』、です。
 いつも落ち着いた、ゆとりのある心でいるように、ということのようですね」
 ゆとりならば、アルティオーネにはすでに十分に備わっているように思える。
 むしろ、ゆとりが必要なのは……そう考えた時、志倫はある人物のことを思い浮かべずにはいられなかった。
「カグラに見せてやりたいな」
 その言葉に、アルティオーネが思い出したように口を開く。
「そういえば、カグラさんたちはもう参拝を済ませたのでしょうか?」
「あいつのことだから、もう外で待っているかもな。少し急ぐか」
 そんな会話を交わしながら、二人は少し早足で歩き出した。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 志倫とアルティオーネが戻ってきたのは、カグラたちが戻ってきてからずいぶん後のことだった。
「おせーぞ、志倫」
 カグラのその言葉に、志倫は苦笑しながらこう答える。
「カグラこそ、ずいぶん早かったんだな」
 もちろん、拝殿まで行っていないのだから早くて当然なのだが、さすがにそれを正直に言うのはどうも面白くない。
「俺たちだって、ついさっき」
 出てきたとこだよ、と続けようとしたが、かなめがそれを遮った。
「二人とも聞いてよ。カグラったら、賽銭箱から百メートル近くも離れたところからお賽銭投げ込んだんだよ」
 あっさりと、真実が暴露される。
「おい、かなめっ!」
 慌てて大声を出しても、もう遅かった。
「なるほど。カグラらしい」
「どうりで、早いわけですね」
 苦笑する志倫とアルティオーネ、そして改めて冷たい視線を向けてくるかなめ。
 ことここに至って、カグラがとることのできる手段は一つしかなかった。
 すなわち……強引に話を打ち切ることである。

「ンなことより、早く出発しようぜ。もたもたしてっと日が昇っちまう」
 そう言うなり、カグラは真っ赤なバイクに飛び乗った。
 国内の某有名メーカーのもので、スーパースポーツに分類されるものの中でもかなりの性能を誇る名車である。

「それもそうだな」
 それに対して、志倫のバイクは目の覚めるような青色をしている。
 カグラのバイクと同じメーカーのもので、実際似ているところもあるが、こちらはツアラーと呼ばれるタイプのもので、より長距離を走ることに適した仕様のものであった。

「あんまり飛ばしすぎないでよ」
 そんなことを言いながら、かなめがカグラのバイクの後ろに乗ってくる。
「わぁってるって」
 適当にそう答えて、カグラはバイクのエンジンをかけた。

 正月だというのに、あるいは、正月だからこそ、道は多くの車でごった返している。
 その脇をすり抜けるようにしながら、二台のバイクはお台場を目指した。





 四人が目的地に着いたのは、午前三時になるかならないか、というところだった。
 さすがに一番よさそうな場所はすでにとられてしまっていたが、初詣を済ませてから来たことを考えれば、これはこれで上出来だろう。
「とりあえず、この辺りでいいか」
「そうだな」
 辺りを確認しながら、空いている中では最適と思われるところに場所をとる。
 
 そして、それから四時間ほど後。
 午前六時五十分頃に、ようやく太陽が顔を出した。

 大勢の人々が見つめる中で、空と海を真っ赤に染めながら、もったいぶるかのようにゆっくりと太陽が姿を現す。
 その様子には、何とも言えない崇高さが感じられた。

 その大自然のショーが、一段落を迎えたころ。
「ええっと……改めまして、あけましておめでとう。
 というわけで、はい、これ」
 そう言いながら、かなめが重箱を取り出した。
 中を開けてみると、美味しそうなお節料理がたっぷりと詰められている。
「作ってきたのか?」
 カグラの問いに、かなめは元気よく首を縦に振る。
「うん。志倫さんとアルティオーネさんもどうぞ」
「それでは、お言葉に甘えて」
 かなめの差しだした箸を受け取り、皆思い思いの料理を口に運ぶ。
 全員が少なくとも一口ずつ食べるのを見届けて、かなめはやや自信ありげな表情でこう尋ねた。
「どう? おいしい?」

 だが。
「…………」
 複雑な表情をする志倫と、苦笑するアルティオーネのどちらからも、はっきりした返事は聞かれない。
 その様子を横目で見ながら、カグラは一言こう言った。
「不味い」
「ああっ! きっぱりはっきりそういうこと言うっ!?」
 かなめは不満そうな表情を見せたが、実際、味の方はかなり微妙なのだから仕方がない。
「志倫たちは遠慮して言いそうもないから、俺が正直な意見を言ってやったまでだ」

 と。
「あ、わたくしも少しですけど作ってきたんです。よろしければどうぞ」
 その言葉とともに、今度はアルティオーネがやや小さめの重箱を取り出した。
 中身も、見た感じでは若干地味な印象を受ける。
 しかし、実際に食べてみると、味の方はかなめのものより数段上だった。
「うん、美味い」
「本当だ。かなめも食べてみ」
 志倫とカグラの言葉に、かなめも少し不機嫌そうな表情のまま手を伸ばす。
「どれどれ?」
 とりあえず手近にあったものを一つ口に運び……それから、さらに二つほど食べて、なんとも複雑な表情を浮かべた。
「うぅ〜、悔しいけど美味しい〜」
 その様子があまりにも可笑しくて、カグラたちは顔を見合わせて笑った。





 ともあれ。
 そんなこんなで、いつしか太陽は完全に「離陸」を果たし、初日の出を見に集まっていた人々も、徐々にこの場を後にし始めていた。
 アルティオーネの用意してきたお節料理も、いつの間にかすっかり空になっている。
 そして、かなめの持ってきたお節はといえば。
 これもまた、きれいに全てなくなっていた。
 他の三人が主にアルティオーネのお節を食べている間に、カグラが平らげたのである。
 もちろん、かなめに気づかれないように……したつもりではあったのだが、どうやらかなめはとうに気づいていたらしい。
「カグラ、さっきからずっと私の作ってきた方のお節食べてたよね?
 なんだかんだ言って、本当は美味しかったりしたんじゃない?」
 得意げな表情でそう言うかなめに、カグラは小さく息をついてこう答えた。
「ん? あぁ、見た目だけはこっちの方が美味そうだったからな。ついつい食べちまった」
 からかい半分、照れ隠し半分で、わざと「だけ」のところに力を入れてそう言う。

「くぅ〜! 今年こそ、料理がうまくなってやるんだからっ!!」
 かなめの「新年の抱負」が、朝日を受けて輝く海へと吸い込まれていった。

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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★あけましておめでとうPCパーティノベル★┗━┛゜

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】

 w3a422maoh / 皇來・カグラ  / 男性 / 21 / 激情の紅
 w3a422ouma /   かなめ   / 女性 / 18 / ナイトノワール
 w3c846maoh /  堂島・志倫  / 男性 / 21 / 修羅の黄金
 w3c846ouma / アルティオーネ / 女性 / 18 / ナイトノワール

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■         ライター通信          ■
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 撓場秀武です。
 ノベルの方大変遅くなってしまい、誠に申し訳ございませんでした。

 まず、PCの皆様の描写の方ですが、こんな感じでよろしかったでしょうか?
 当方、これまでアクスディアには一切タッチしていなかったもので、プレイングと設定、OMC作品一覧にあるコメント等を参考に口調などを決めさせていただきました。
 ひょっとしたら違和感のあるところもあるかもしれませんが、その点はご了承下さいますようお願いいたします。

 また、WTの方のページをざっと見てみたところ、アクスディア世界では明治神宮は破壊されたものとなっているようですが、「世界観は細かく気にしないでOK」とのことでしたので、現存する明治神宮をベースとして書かせていただきました。
 ただ、私自身明治神宮にもお台場にもほとんど行ったことがなく、ましてバイクに関しては全くの素人ですので、移動にかかる時間等、だいぶおかしいかも知れませんが、その場合は「それくらいの時間がかかる場所に明治神宮の後継にあたるものが建てられたのだ」と考えていただければ……というのは、さすがにダメでしょうか?

 ともあれ、もし何かありましたらご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。
あけましておめでとうパーティノベル・2005 -
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2005年02月08日

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