▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『■ラ・ラ・ラ マッスル・カプリッチオ■ 』
オーマ・シュヴァルツ1953

 「先生、先生っ! 大変ですっ!!」
 シュヴァルツ総合病院の数少ない人間看護士が、紫色した異臭漂う薬草を持ち、現在診察が一区切り付いたここへと駆けてきた。あまりの臭さに、博愛まっしぐら主義な彼も、思わず仰け反ってしまいそうになる。しかし必死の形相である彼女に対し、これはいかんと即座に思い直して聞き返した。
 「おうっ、マイラブハニーの番犬ちゃんの次ぎにラブリーなお姉ちゃん看護婦その1、どうした?」
 余裕の笑みを赤い瞳に浮かべたマッスルな親父を、オーマ・シュヴァルツと言う。
 小麦色に焼けた肌と、ムキムキモリモリである見事な筋肉螺旋を描いた体躯。
 思わず『どちらの格闘家さまでしょうかー?』と言いたくなる彼は、どんなに人から首を傾げられても、敏腕で慣らす医師である。怪しげな医術と口術で、人様を騙くらかしているのでは? と疑いを持たれようと、本当に本気で腕の良い、そしてごっつい見かけに反して人も良いどころか博愛精神まっさかりな、医師である。別業は、数えるのがイヤになるくらいにあるのだが。
 ぜいぜいと息を整えようとするも、その薬草の臭さに、今更ながらに気付いた彼女は、失神寸前になりそうになった。ぐいとその薬草をオーマに押しつけつつ、今度こそ深呼吸をして呼吸を整える。今度はオーマが失神寸前になるも、親父パワーで持ちこたえた。
 「ち、地下室が大変なことになってるんですよっ!! 早く何とかして下さいっ!!」
 「地下室ぅ??」
 そりゃ何処だと首を傾げるも、看護士その1の説明を聞くと、どうやら某親父地底魔境世界の付近だと言うことが判明する。
 更に、どうやらそこから異物……と言うか、正体不明の魔物もどきな生命体が現れたそうだ。
 「とにかく、あの場所を作ったのは先生で、この病院の責任者も先生なんですから、早くあれを何とかして下さいっ! どうやらこの薬草が効くらしいんで、ついでに持ってって下さいね。まあ、先生なら、日頃の親父パワーとやらで、何とかなりそうですけどねっ! あ、当然ですけど、もし万が一何かの大間違いでまかり間違って先生が亡くなる様なことになっても、絶対っ! あの地帯からあれを出さないで下さいねっ!」
 何だか最後は酷いことを言われた気がするオーマだが、まあ、彼女の言うことも半分くらいは正であると認めた為、へいへーいと気の抜けた返事をしつつ白衣を脱いで、事件現場へと足を向けた。
 このシュヴァルツ総合病院は、聖都エルザードは天使の広場に存在する。エンジェル像がでんと居座っているそこは、人通りが激しく多く、賑わいを見せている場所でもある。
 そしてまた、この病院もまた、ご多分に漏れず連日連夜盛況だった。
 それは理事長兼、院長兼、副院長兼、薬剤部長兼、看護部長兼、事務長兼……とイヤになる程の兼任をしているオーマの人柄故だ。
 暑苦しいまでの筋肉美を誇る彼は、先にも書いた通り、迫力がある風貌でありつつも面度見も良く人当たりも良い。例えジジババの愚痴を聞くことが治療と言う自体になっても、イヤな顔一つせずに、うんうんと肯き、または一緒になって嫁や息子や孫ひ孫の愚痴を言ってやり、最後には『でもよ、やっぱ血のつながりってのは、良いもんだと俺様は思うぜ、ええ?』と人生相談までしそうな勢いで、心の潤いを提供していた。
 更にホンのかすり傷でも手を抜かず、最後まできっちりと面倒を見てやることからも、ここの住人達には有難い存在でもある。
 病院を歩くと、彼の顔を見て拝む者、または少々後ろ暗い事情を持っている場合なら、こそこそと隠れたりする者がうんとこさいた。
 逐一それに反応しつつ、オーマは漸く問題の場所の前へとやってくる。
 「先生っ! 遅いじゃないですかっ!! こっちに二人ばかり被害が出てしまいましたっ」
 新人看護士は、涙目になってオーマを見ている。ちなみにその姿は、頭全体を隠す厚いマスクに覆われて、でているのが目だけと言う怪しげな風体に成り果てていた。恐らく防臭効果のあるそれなのだろう。ちなみに、そう言う格好になるのも仕方ないと言えば言える。オーマも、本当のことを言えば、それ貸してと言いたくなるくらいに、そこは異臭が漂っていたのだ。
 「おうっ、悪かったなぁ。で? そのお茶目でグレイトなブツってのは、何処にいるんだ?」
 ぽんぽんと頭を叩く様に撫で上げると、オーマは確かにぶっ倒れている二名の看護士の状況を自ら確認する。どうやら死んではいないようだ。いや、恐らくこの異臭に耐えられなくなり、自ら意識を手放したのであろう。立っているのは、オーマに声をかけた彼一人と言う有様だ。もしかするとこの新人看護士は、鼻炎持ちなのかもしれない。
 オーマの問いに答え、新人看護士は、異臭漂う紫の花畑を指した。紫は当然ながら、あの薬草だ。だから花畑ではなく、草畑かもしれない。
 取り敢えず、その花畑か草畑かの審議はさておき、そこの向こう側には扉があった。とっても頑強そうな鉄扉だ。
 確かあの扉を踏み越えて行くと、親父地底魔境世界に行き着くことが出来るかもしれなかったなと、オーマは思い出していた。
 そこから妙な物体は出てきたのだろうか。
 「ま、ここはマッスルグレイトな俺様にお任せ致して、とっとと通常業務とやらに戻ってやれや」
 ぽんと背中を叩き促すと、新人看護士が涙目で肯き、半死体状態となった同僚の襟元をひっつかみ、ずるずると引きずって行った。
 三名の姿が見えなくなったことを確認したオーマは、ずれてもいない丸眼鏡をくいと引き上げ、顔を引き締める。
 「さぁーて、どーんなブリブリ可愛い子猫ちゃんがお出まし頂けるのか、たーのしみだぜ、なあ、おい」



 ぐがぁーんとばかりに、重くさい鉄扉を一蹴りカマしてぶち開けたオーマは、中を見てぎょっとした。
 「な、何だぁ?! こりゃぁ……」
 すわ、アセシナート軍かヴォズかと引き締まった顔が、瞬時に困惑に変わった。そして徐々に顔を引きつらせて凝視する、する、する。
 その部屋には、取り敢えず何かが犇めいていた。黒い影がごにょごにょと、ナメクジのダンスさながらにいたのだ。
 「ちっ、暗すぎて激プリお顔が見えねぇっつーの」
 扉から数メートルを境に近寄っては来ないのは、やはり異臭漂う紫の草畑が効いているからなのだろうか。
 オーマはランプを具現化し、そっとその蠢いているブツを照らす。
 「うげぇっ!! 何じゃこりゃぁっ!!」
 入った時の数倍の衝撃が、オーマを襲う。
 一斉にオーマに振り向いた──様に見えた──のは、巨大なミミズ擬きだ。蛇で言うところの鎌首を擡げたその上に、突起物が出ていることも灯りのお陰で確認できた。
 こんな気持ちの悪い物体が、この世界にいただろうか、いやいまい、と、オーマは自分ボケ突っ込みでカタを付ける。
 その表面は硬質に見えつつも、輝いている様子がぬらぬらと言う表現が当てはまると感じる為、もしかすると柔々としているのかもしれなかった。
 一匹二匹なら、微笑ましいのかもしれない。けれど既に数えることを放棄したくなる程に、わっさわっさといれば、もうそれは気持ち悪いと言う他なかった。
 勿論、剛胆豪放を体現しているオーマであっても、例外ではないだろう。
 看護士が泣きそうになっていたのも、無理はない。
 げっそりとしつつ、オーマはどうやって意思疎通を図ろうかと考え込む。
 人類皆兄弟、ラブ・アンド・ピースが信条であるオーマだ。
 魔物に見える生命体であっても、出来る限り穏便に対処したかった。
 「え、えーと。あのよ、ピンクピーチムラムラビーム発してる子猫ちゃん? 俺様のセクシー親父ワードが解るか?」
 ミミズ擬き相手に子猫ちゃんもクソもないだろうが、取り敢えず話し合ってみようと思った彼は、出来うる限り友好的に声をかけてみた。
 が。
 一、二の三とばかりに、全員がつーんと明後日の方向を向いたのが見える。
 その様子から、どうやら言葉は解るらしい。
 解るのは良い。けれどその態度は如何なものだろうか。
 夜毎日毎、世界に愛を溢れさせる為に、艱難辛苦を乗り越えて、漸くここまで築いてきたものが、一般人の精神力であれば、一瞬にして崩れ落ちてしまいそうにショックかも知れない。いや、それ以前に、何かムカつくかもしれないが。
 けれどオーマは、くじけない。不屈の精神を持つ彼は、そんなこと屁とも思わなかった。なかなかに根性のあるヤツだとばかりに、口元を歪ませて笑みを作ると、更に言い募る。
 「ようようようようっ! そーんなツレない態度はないんじゃないの? 言葉は解る様だな。どうだい? お前さん達が、何で俺様の心血注いで激愛ラブな病院に来た訳? ちょっくら教えてくんない?」
 今度は逆方向へ、つーんだった。
 「……」
 一体何が気に入らないのだろう。オーマは一瞬、沈黙してしまった。
 その沈黙の合間を縫い、一匹の一際巨大なミミズ擬きがずいっと進み出る。
 「お? 何だ何だぁ?」
 漸く出た反応に、オーマの胸が躍った。
 やはり爆愛は勝つのだと、オーマが思った瞬間。
 「……えー、と、何だ? こりゃぁ……、バ……、カ…ぁぁぁぁ?!」
 ぬらぬらとした体液で、その文字を書き出したミミズ擬きは、ふふんとばかりに体躯を逸らし、更に擡げている一番先っぽの部分が、くわっと開いて何かを吐き出す。すんでの所でそれを避けたオーマが、今まで自分のいた場所を見ると、そこはしゅうしゅうと煙が上がっているのが見えた。
 「ぬぉぉぉぉっ!! 巫山戯やがってぇっ!! この腹黒マッチョムキムキボンバーパーンチな俺様の爆愛ラブなオコトバを、鞭でビシバシしやがったらどーなるか、ドテナス南京カボチャなドタマに、バキューンと叩っこんでやるぜぃ!! 爆裂愛の親父折檻、受けてみやがれってんだっ。いっくぜぇー、桃色マッスルがっつり折檻パァーーーーンチッ!!」
 そもそもそのドタマが本当は何処にあるのか、オーマにも解っていない。
 更に聖都早口言葉ナンバー1にも負けない程の彼の弾丸トークを、その異界からの物体が理解していたかも解らないが。
 取り敢えず折檻パンチを、不殺の精神を貫きつつもクリティカルヒット一歩手前に繰り出すオーマに、漸く相手にしてはならない相手であると言うことを悟ったのか、上部のとんがったミミズ擬きは、オーマの周りを逃げまどう。
 ちなみに逆鱗と言うより、それはオーマの愛の鞭であった。
 唸る拳が、何処にあるのか解らないミミズ擬きの頬を張り、ぬらぬらむらむらと輝く胴体…かもしれない部分にコブラツイストを仕掛ける。勿論、尻尾かもしれない箇所が、ギブとばかりに地面に跳ねれば『イロモノ親父の愛、受け取ったかぁ?』と言う言葉と共に、離してやった。
 歩み寄る姿勢を見せている相手に、無闇やたらと突っかかって行ってはいけない。これがオーマでなかったら、その姿の異様さ故、既に三枚おろしにされているかもしれないのだから。まずは話し合いをしよう。拳で語るのはそれからだと、既に拳で語っているオーマは、心の中で深く思った。
 まあとまれ、そう言うことはきっちり教えてやらなければならない。
 「お?」
 わっさわっさと不気味な絡み合いを見せつつ逃げているミミズ擬きだが、扉とは逆側でも、ある一定の位置に来るとそれ以上進むことをしなかった。
 それに気が付いたオーマが、訝しげに目を眇めて観察する。当然ながら、折檻親父愛パンチは今もなお繰り出され、殴られたミミズ擬きは、何となく改心の素振りを見せている様ないない様な風である。
 巨大ミミズ擬きの向こう側には、渦を巻いている様に見える洞窟の様な物が見える。しかしその洞窟の手前に、何かがいる。巨大ミミズ擬きでないことは、確かであろう。勿論普通のものを見たいと思っている、オーマの心が見せた幻覚ではない。
 何だか小刻みに震えている気もしてきたオーマは、既に戦意喪失したミミズ擬きが大半であると言うことを見て取り、漸く愛の折檻タイムを終えた。
 「んんーーと」
 二メートルはあろうと思われる長身のオーマが、顎を微かに上向きにしつつ、ミミズ擬きのあちら側を覗き込もうとすると、まるでビッグウェーブを真似る様に、ミミズ擬きも背伸びする。相手は巨大ミミズ擬きだ。全長はオーマとどっこいか、もしくは更に長い。気合いを入れて邪魔をされると、とんでもなく鬱陶しい。
 左から覗けば左に波打ち、右から覗けば右に波打つ。
 一計を案じたオーマは、ひょいと地面を見ると一言。
 「あ、強烈ゴッドなエロねーちゃん」
 馬鹿馬鹿しいその言葉を理解し、更に信じたらしいミミズ擬きは、揃って地べたへ這い蹲った。
 当然見える、その向こう。
 そこにはこの暗闇の中に於いても一際目立つ、絶世と呼べる美女が見えた。月の光の様な白い肌と、無彩色なのに鮮やかだと思わせる黒い髪、ほんのり桜色の唇を持った彼女は、踊り子でももう少し布面積が多くないかと思う様な、肌も露わな衣装を纏っている。
 「おおおっ! 何つーか、ベリベリキュートでパッションピンクなおねーちゃんじゃねーのよ。どうした?」
 オーマのその声に、漸く騙されたと理解したミミズ擬きは、激怒の様相を浮かべ……ている様だ。先端にある口擬きを、威嚇する様にカァーッとばかりに開けている。
 だがしかし。
 「もう、良いわよ。ごめんねぇ、貴方達」
 その美女が、溜息を吐きつつそう言った。その言葉にミミズ擬きもまた、溜息を吐いて項垂れている様に見える。
 わっさわっさといるミミズをかき分け、その彼女はオーマの前へと歩み寄った。
 「貴方がここの主?」
 そう言う彼女に、オーマは返事代わりにウィンクをした。



 どうやら親父地底魔境世界の更に地底奥深くに住む、この巨大ミミズ擬きの王女さま──つまりミミズ擬きの向こう側にいた美女──が、一目だけでも、日の当たる聖都を見たいと言う思いから出てきたことに端を発するらしい。
 当然ながらお忍び歩きには、お供が付いてきた。そのお供を追い返そうと頑張っては見たものの、やはりお供はお供だ。簡単に帰ってはくれない。そうしてすったもんだしている内に、この扉まで来てしまった。恐らくは、扉の向こうにまで、何やら話し声の様なものが聞こえたからだろう、いきなりその扉が開かれた。そこからは『魔物が出たっ』とばかりに騒ぎが起こり、阿鼻叫喚のゲートが開通したのだと、まあそんな訳らしい。
 確かにスタッフにしても、扉を開けたら、いきなり巨大ミミズ擬きとこんにちはでは、びびりもするだろう。
 どうやら巨大ミミズ擬きがひるんだのは、その強烈な臭い──鼻が何処にあるのか、オーマにはさっぱり解らなかったが──の所為らしいと言うことだ。
 「酷いと思わない? いくらびっくりしたからって、いきなりこの子達に攻撃して来るなんて。この子達が怒っちゃうのは、当たり前よ。私、エルザードの人ってもっと親切だと思ってたわ」
 「んんー、まあ親切なのは、激バリ親切だと思うぜ? お前さんの親切ってぇのは、一体どんなもんだ?」
 ブリブリ文句を言う巨大ミミズ擬き族の王女様に、ぼりぼり頭を掻きつつオーマは聞いてみる。王女様は神様お願いポーズで、瞳をきらきら輝かせつつのたまった。ちなみに巨大ミミズ擬きは、うっとり王女様の姿を見ている様だ。
 「そりゃもう、エルザードをよく知らない私が、この世界にいる間中、街を案内してくれたりとか、ご飯を食べさせてくれたりとか……」
 これだけでも『頭大丈夫ですか?』と言いたくなる程に甘い台詞であるのに、更に彼女は蕩々と語り続ける。
 忍耐力は十分すぎる程にあるオーマも、流石にこのあんまりにもあんまりな言葉にあんぐり来てしまった。
 「おうおうおうおうよっ! なーに俺様ハートにズッキュン狙い打ちアハハーンなこと抜かしてんだぁ? 甘いんだよ、甘くて甘くて、いやもー、腹黒親父も参っちゃうぜぃ。あのよー、一つご高説ってーのを、有難くも賢く垂れ込んでやることに感謝でもしやがれってんだが、人様の情けに縋るってーこたぁ、別段なーんにも悪ぃことじゃねわな。だがよ、おめぇさん、耳ん穴ぁかっぽじって聞きやがれよ?」
 オーマは王女様の耳目がけて、その大声を張り上げて言う。
 「あのよ、いーくら目ん玉ちょちょ切れぶっちんな扱いを受けたからってな、それを親父パワー三倍返しで人様にやっちゃー不味いだろうが。まあ、うちんとこのラブリー看護士連中も、人を見た目で判断しちまったのは、がっつりヤバくせぇ訳だがよ。そっちはマッスル満開情熱真っ盛りな俺様が詫び入れっからよ、勘弁してくれな。でもよ、それをピンポン丸返しすんなっつーの。解るか?」
 まずはミミズ擬きに向かって一言二言三言。
 ミミズ擬きはがっくりと項垂れている様だ。
 「でもってナイスバディなむっちりムーニーセクシーおねーちゃん、お前さんのそれだって、ゲロが爛れ流れるくらいにバカ絶好調なお話だぜ? 赤の神様他人様に、何でまたそこまでべっちゃりタカっちゃえる訳? 俺様には、全く以て理解出来ねぇっつーの」
 しかしオーマのその言葉にも、王女様はきょとんとした顔だ。恐らく『何で?』と思っているのだろう。
 「あーのなぁ、んじゃさ、お前が『オモテナシ』っつーのをする立場になってみろってんだよ。いきなり悶絶どっきゅん娘がやって来て、聖都うふふんエスコートに腹ヘリベリグーシャングリラなオモテナシってーのをくれくれしたらよ」
 「……、何で私が? ……っ!」
 暫しの沈黙の後、王女様は漸く気が付いた様だ。真っ白な肌を桜色に染め、身の置き場がないとばかりに縮こまっている。
 「ごめんなさい…」
 俯いてしまった王女様の頭を、オーマはバコンと叩く様に撫でると、にんまり腹黒擬きに笑った。
 「ま、今回は互いがバリバリ毒電波受信っつーこって、痛み分けな?」
 こくんと頷く王女様は、そのまま顔を上げてオーマに聞いた。
 「あの。……今日は帰ります。でも、また遊びに来ても良いかしら。勿論今度は、こんな事にならない様にするわ」
 にやりとオーマが笑う。
 「んー、まあ、善良ボンバーな素人さんを驚かさなきゃ、良いんじゃねーの? 俺様もお前達のこたぁ、きっちりがっつりばっちぐーに伝えておいてやっからよ」
 その言葉を聞き、満面笑顔となった王女様の頭を、筋肉隆々な胸へとがっしり掴み込み、良い子良い子とばかりに撫で撫でする。
 一件落着。
 彼は心の中で、そう呟く。
 だがしかし。
 背後で、ゆっくりと扉が開き始めたことに、オーマは全く気付いてはいなかった。



 その少し前。
 地上では『オーマ先生が喰われたっ!!』との知らせを受けた、情熱の赤い髪を持つ地獄の番犬さまがお出でになっていた。
 もしやと思いつつも、該当扉へと向かった彼女は、異臭漂う扉を開ける。
 そしてそこで見たものは──。


Ende
PCシチュエーションノベル(シングル) -
斎木涼 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2005年02月08日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.