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『ピラミッド・バランス 』
ゾロ・アー2598

「うーん……うーむ……」
 本棚に囲まれた暗い部屋で、ゾロ・アーは眉を顰めて唸っていた。目の前には分厚い本が幾つも重ねられ、ゾロの周りを更に暗くしている。
「どうしてでしょうかねぇ……どうやったら上手く行くのでしょうか……」
 呟きながら、ゾロはひょいっと手を動かす。すると、本棚の中から一冊の本がごそっと飛び出て、ゾロの手に飛んで来た。ゾロはそれをぱらぱらと捲り、あるページを見つけて溜息を吐く。そこには丸い耳とつぶらな目をした可愛らしい動物と、鎌首をもたげる蛇が争っている絵が描かれていた。
 それは、ゾロが昔創るのに失敗した生き物だった。
 ゾロは生き物つくりの神、つまり生き物を創ることを仕事としている神であった。けれど、ゾロの創った生き物は出来が悪く、どうしても生態系のバランスを崩してしまうことに、ゾロは悩んでいた。自分が創った生物を生態系に組み込んでも、在来種との争いに勝ち残り、自分たちの生存領域を手に入れた後で、必ず元々の生態系のバランスを崩して自滅してしまうのだ。
 この可愛らしい動物もそうだった。その頃、ある毒蛇が世を騒がせていた。人々にはこの毒蛇に対する対処法が全くなく、咬まれて死ぬものが次々と現れた。だから、ゾロはその毒蛇に対抗できる動物を作り出したのだ。鋭い歯と、毒に対する耐性を持った生き物を。
 けれど、いざ生態系に組み込んだこの動物は、その毒蛇を襲うことはしなかった。それどころか、人々の生活の糧である家畜を襲うようになったのだ。自らも危険となる毒蛇へ攻撃するよりも、手短で簡単に仕留められる家畜を狙ったのだろう。その動物は、家畜やか弱い野鳥を襲い、どんどん数を増やして、逆に人々の脅威となってしまったのだ。
 この頃になると、人々は毒蛇の毒を消すことが出来る薬を開発し、毒蛇は決して人々を脅かして止まない存在ではなくなっていた。代わりに、ゾロの創った動物の被害が大きくなり、人々はその動物を排除する方向に思考を向けるようになったのだ。
 良かれと思って組み込んだ動物が、別の生き物の食うか食われるかという生態系のバランスを崩し、自らの地位を危うくする。
「どうやれば……どんな生き物を作れば……バランスよく生態系を維持することが出来るのでしょうか……」
 ゾロは、自分の創った生き物を何とか上手く自然界に組み込めないかと、毎日毎日そればかりを考えていた。その昔、肉食動物と草食動物の絶妙なバランスを創った神や、自然と共存することのできる知恵を持ったヒトという生き物を創った神のように、自分も自分の創った生き物を生き残らせたかったのだ。
「うむむむ……うむむむ……」
 唸りながら、ゾロはひょいひょいと両手を動かす。その度に、本棚から何冊もの本が飛び出し、ゾロの周りに積まれていく。それはいつしか石積みの家のようにゾロを囲み、それでもゾロは考えることを止めなかった。
「あ! そうです! これなら……いや、でも、そうするとこれが崩れて、これが崩れてしまうとこっちも崩れてしまう……うう、この絶妙なバランスを崩さずに新しい生態系を作るとなると……ぬぅー」
 ぎりぎりと歯を食いしばって、ゾロが両手で頭を抱える。と、その拍子に肘が詰まれた本の一角に当たり、危ういバランスで保たれていた本の家がゾロに向かって倒れこんできた。
「おや?」
 ゾロが気付いたときにはもう遅く、分厚い本がゾロに降りかかる。どさどさどごっ、という音とともに埃が舞い上がり、暗い部屋が白く霞んだ。
「げほっごほっ。あたたた、げほっ」
 ごとごとと本を払い飛ばしながら、ゾロが崩れた本の山から這い出してくる。そして、見事にバランスを崩した本の山を呆然と見ながら、ゾロは深い溜息を吐いた。
「俺自身も他のバランスを崩してしまうとは……何とも情けない……」
 それはちょっと違うでしょ、とツッコミを入れてくれる者もいなく、ゾロは冗談で呟いた自分の言葉にも少なからずショックを受けて肩を落とす。が、この有様だと考えることも出来ないと思考を切り替え、ゾロは使い終わった本を本棚に戻し、使う本を慎重に机に積み上げていった。
「そのうち絶対に、生態系のバランスを崩さず、かつ全く新しい生き物を作ってやりますからね……」
 誰にともなくそう呟いて、固い決意を胸の奥で燃やしながら、ゾロは再び本を開いた。










★★★

ハジメマシテ、緑奈緑と申します。
今回はシチュエーションノベルの発注、まことに有難う御座いました!
生き物つくりの神ということで、うわー私に書けるのかそんな難しいものが!、と凄く緊張しながら書かせて頂きましたが、如何でしたでしょうか? PLさまに楽しんで頂けていたら幸いです。

プレイングを読ませて頂いて、改めて生態系のバランスというものについて考えさせて頂きました。思えば凄く絶妙なバランスですよね。どれかが多くなっても駄目だし、少なくなっても駄目だし。改めて生き物って凄いなーと思いました。

では、いつの日かゾロさまが世のため自然のためになる生き物を創れるようになることを祈って(笑)。

★★★
PCシチュエーションノベル(シングル) -
佐伯七十郎 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2005年02月07日

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