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『Let's do happily indefinitely. 』
紅月・双葉3747

●懺悔
 紅月・双葉神父は祈っていた。
 無論、朝のお祈りではない。ちなみに、今の時間は朝8時半。彼の場合、朝とは明け方の5時ぐらいのことを言う。ついでを申せば今日は一睡もしていない。
 穏やかな正月の朝の光は礼拝堂の中を明るく照らしていた。その中で双葉神父は静かに祈る。
――主よ、どうぞ私をお許しください。
 しんとした静けさの中、彼は祈り続けた。
 端正な美貌が彼の持つ氷のような印象を強めている。暖かな光の中で、氷の彫像が神に祈りを捧げているような印象を与えているにもかかわらず、なんと勿体無い事か、それを愛でる者はここには存在しなかった。ただ、神だけが、その美貌を愛でているのみである。
――神の家にて、宴を催す事をお許しください。そして、彼らに恩恵を与えてください。Amen……
 そっと瞳を開ければ、双葉神父は立ち上がって祭壇から離れた。
 今日は1月4日。
 関東聖印教会の新年会だ。
 もう直ぐ皆がやってくる。
 双葉神父は扉を開けて聖堂から出て行った。

●キッチン
「あっ! 紅月神父、ちょっと喉乾いたんですけど……」
「却下」
「がぁん!」
 双葉神父に言い切られてアリステア・ラグモンド神父は泣きそうな顔になった。
「どうせ、パウンドケーキあたりのつまみ食いに来たんでしょう?」
「そんなことないですよ〜」
 じろっと睨む双葉神父の視線をにっこりと笑って返し、アリステアはそっとキッチンの中を覗こうとした。
「ダメです」
「え〜」
「飲み物なら私が持っていきますから、アリステア神父は炬燵で暖まっていてください」
「手伝いますってばぁ」
「ダ・メ・で・す!」
「はい〜……」
 渋々と引き下がり、アリステア神父は会場の方に行った。
 双葉は振り返るとキッチンに並べた料理をトレーに乗せる。人数分のグラスとアイスクーラーに氷を入れ、皿とシルバーの用意もする。お土産のパウンドケーキをラップで包み、掛け紙とリボンで飾れば、会場の方へとそれらを何度かに分けて持っていった。

 会場の食堂内はかなり広く、片隅には四畳半分のみ畳と掘り炬燵設置してある。最近流行りの畳を張ったボックスをいくつか並べ、その上に炬燵を置くタイプのものだ。その上に御節料理を置き、アリステア神父には暗に「食べないでくださいね?」といった視線を投げる。相手が手を出さないのを確認すると、お土産のパウンドケーキを会場の端のテーブルの上へと置きにいった。
「はぁ……」
 双葉は憂鬱そうな表情で溜息を付くと、コップにミネラルウォーターを入れる。始まるまでに安定剤を服用しておかなければ、女性客が近付いただけで恐慌状態に陥ってしまう。こんな我が身を嘆きつつ、双葉神父は薬を飲んだ。
 もう直ぐで、近所にある興信所の面々がやってくるだろう。ぼんやりと考えていれば、最初の来場者がやってきた。
 草間武彦と零、そして、シュライン・エマだ。
「あけましておめでとう、紅月神父」
「おや、草間さん。あけましておめでとうございます、本年もよろしくお願いします。…ん?」
 双葉神父は眉を顰めた。
「あけましておめでとうございまーす。今年もよろしくね……あっと、これこれ。タッパー持って来たのよ……」
 シュラインはにっこりと笑って双葉神父に紙袋を渡そうとし、双葉神父が硬直しているのに気が付いて苦笑する。
「ごめんなさいね?」
「いえ、ありがとう…ございま…す…」
「じゃあ、武彦さん。彼に渡してあげて」
 そう言ってシュラインは笑った。
 双葉神父は昔に色々とあったらしく、女性が苦手なのだ。しょうがないわねと笑って、シュラインは武彦にタッパーの入った袋を渡す。それを武彦が双葉神父に手渡した。
 双葉神父は渡された紙袋の大きさに目を瞬く。
「これは…」
「あぁ、それね。用意済みそうだけれど…手作りの味も楽しんでもらおうと思ってガレット・デ・ロアを持ってきたの」
 横からシュラインが言った。双葉神父から、ぴったりきっちり1m離れている。
「わざわざありがとうございます」
 双葉はそっと離れた所から言うシュラインに笑いかけた。気遣ってくれているのが分かる。嬉しい限りだった。
「じゃぁ、こちらへどうぞ…おや?」
 そう言って三人を案内しようとしたとき、向こう側から歩いてくる人影に双葉は立ち止まった。そこには天薙・撫子と榊船・亜真知が歩いてくるのが見えた。
 撫子の服装はお馴染みの和服。お正月に相応しい華やかながらも落ち着きのあるコーディネートだ。白地に金の能衣文で、大輪の牡丹の花が猩々緋・鴇・古代紫で描かれていた。山水と唐橋のコントラストも美しい振袖である。帯地は黒で錦糸の刺繍。文様は海波。
 亜真知の方はお正月向けに新調したらしく、相応に大柄の振り袖を着付けていた。ちなみに文様は永平寺花丸紋。白練地に銀朱、配された花丸紋は、牡丹、百合、紅葉、菊が一筆一筆描かれている。帯は黒地に白藤と錦雲だ。
 双葉神父は彼女らの目が醒めるほどに眩く美しい装いと、それに負けぬ気品の撫子たちを、己の忌まわしき過去から直視できない事が残念に感ぜられた。
「あけましておめでとうございます、紅月神父様」
「あけましておめでとうございます、天薙さん、亜真知さん」
「こちらこそですわ、神父様。あけましておめでとうございます。御繁忙と重々に存じ上げておりますが、本日は何卒宜しくお願い致します」
「あ…い、いえ……こちらこそご足労願ってしまって…」
 相手の丁寧さに恐縮して双葉は心持緊張したように言った。
「お時間を御割愛くださって有り難う御座います」
 二人は深々と頭を下げる。
 思わず双葉は苦笑してしまった。この御二方も、きっちりと双葉から一メートル程離れて挨拶してくれているのだ。大変申し訳ないことである。
 そんなこんなで話しこんでいれば、後から後から人がやってくる。来たのは綾和泉・汐耶と真柴・尚道だった。ドーベルマンも一緒だ。
「よう、アリステアは?」
 尚道はニッと笑って言った。
 手に持った泡盛を掲げてみせる。双葉神父はちょっと溜息をついた。実は、双葉神父は酒が苦手なのだ。後からやってくるユリウス猊下のことを考えると、かなり憂鬱な気分になった。
「炬燵に入って皆さんを待っていますよ。栗きんとんが無くなる前に、重箱の救出にいってください。きっと、黒豆と栗きんとんが…いえ、梅の甘露煮と伊達巻も姿を消してしまいます」
「そいつはヤバいな…カナル、そこで待ってろ」
 声に反応してドーベルマンが一声吼えた。
「いえ、中にどうぞ」
「カナルを連れてっていいのか?」
「構いませんよ、大人しそうですし。尚道さんの飼っている犬なら問題無いでしょう?」
 などと言いながら笑う双葉神父だった。元エクソシストから見てみれば、尚道の飼い犬が普通の犬でないことぐらい分かる。
 途中で出会い、一緒にやってきた汐耶は持ってきた袋を双葉に見せて笑った。
「あけましておめでとうございます」
「あぁ、あけましておめでとうございます」
「御節とお茶菓子が用意されてるって聞いたので、それに合いそうな日本茶とか、紅茶とかを手土産に持ってきたんだけど。足りてる?」
「いえ、多分……足りないと思います。このメンバーだと」
「でしょうねぇ〜」
 そう言いながら、汐耶は尚道にその袋を渡した。意味が分からなかった尚道は目を瞬かせたが、双葉神父の苦手なものをようやく思い出して、それを汐耶から受け取った。そして、それを双葉に渡す。
 その後からヨハネ・ミケーレ神父と杉森みさきが楽しげに歩いてくる。付かず離れずの距離感がなんとも可愛らしい二人組みだ。
 みさきはふわふわのワンピースに真っ白なコート、モーヴピンクのマフラーを着けて甘い感じのコーディネートだ。幾分、ヨハネ神父の頬が赤いが、双葉神父はそれを見て見ぬふりをした。どうせあとで師匠がやって来て、好きなだけからかうのだ、無意識に。
 そのことを考えると、双葉神父は何も言わず二人に挨拶するのだった。
「ヨハネ神父、いらっしゃい」
「あけましておめでとうございます」
 双葉神父の事を聞いていたみさきは、ヨハネの後ろにちょっと隠れて挨拶した。自分より大きなヨハネに隠れれば、双葉神父の視界から見えなくなると思ったのだろうか。ちょこんと頭を出している。
「ここの教会は来たの初めてだから、ちょっとドキドキする」
 みさきは見上げてヨハネに言った。
 その仕草が堪らなく可愛くて、ヨハネはぽや〜んと見つめてしまった。
「どうしたの?」
「えっと……なんでもないですよ」
「へんなの〜」
「紅月神父……。い、いつも……師匠がお世話になってます、っていうか。…今年も、あのぅ…お邪魔しにくるかと思うんですけど。さ、先に謝っとこうかな…なんて…」
 しどろもどろに新年の挨拶をするヨハネ神父に双葉神父は苦笑した。
「いえいえ、いつものことですし…もう慣れたと言いましょうか」
「慣れって…怖いですよね」
 ヨハネはポソッと言う。その瞬間、武彦の笑い声が聞こえたが、二人はしんと黙って顔を見合わせる。マジギレするだけ虚しいものだ。
「本当に……怖いものです」
 今年いっぱいどんな事が怒るのか考えると怖いところでもあるし、身辺が賑やかなのも楽しいことでもある。二人は複雑な気持になった。

 一同は会場へと向かい、扉を開ける。中を見た武彦は口笛を吹いた。
「へぇ…すごいな」
「御節の内容は基本的なものばかりですよ?」
 双葉は言った。「ただし、栗きんとんと黒豆と数の子は多めにしてありますけど」と言って苦笑する。
「でも、教会でおせち頂くって何か不思議な感じだね〜」
 みさきは楽しそうにヨハネに言った。
「そうですね、みさきさん」
「皆さんいらっしゃい☆」
 アリステアは炬燵に足を突っ込んだまま、遠くから手を振った。
「「「「「「「「「「お邪魔してまーす!」」」」」」」」」
 皆は元気にアリステアへ挨拶する。
「じゃぁ、早速乾杯といきましょうか」
「そうですね」
 双葉はそういうと、アイスクーラーとグラスなどを出し、次々にワインやらジュースなどを注いでいった。人数分揃った所で皆に渡す。
「では、かん…」
「ごめんなさぁ〜〜〜〜〜い!!」
「へ?」
 バッターン!と大きな音をさせながら、誰かが飛び込んできた。勢いあまって転び、床にへたり込む。
「痛ぁーいっ!!!」
 地面に転がったのは李・如神だった。
 可愛らしい黒のコートを羽織った如神は、べったりと地面にへばりつくように倒れている。
 どうやら遅刻したらしい。扉の向こうでは、塔乃院影盛とユリウス・アレッサンドロ枢機卿が立っていた。
「あう〜…」
「大丈夫ですか?」
「痛いよぉ」
「仕方ないですねぇ……」
 双葉神父は如神を抱き起こすと、膝についた小さなごみを払ってやる。
「神父様、ありがと」
 如神はにっこりと笑って言った。
「いえ、どうもいたしまして」
 少年の様子を見て笑った双葉神父は後に控えている大人二人を見て苦笑した。
「遅刻ですか、猊下?」
「私が遅刻なんてするわけないじゃないですかぁ」
 おっとりと笑うユリウスを怪訝そうな表情で見つめ返す。そんな視線をものともせずにユリウスは双葉神父を見返した。ユリウスと塔乃院は会場に入ってくるとドアを閉めた。
 ユリウスを見ると双葉神父は溜息をつき、今日は接客に務めねばならないことを思い出して溜息を付く。
「猊下…ケーキはありませんからね?」
「がぁーん! ケーキは無いんですかぁ?」
 ユリウスはおつまみやお菓子類の載ったテーブルを見渡した。お雑煮やお汁粉、各種お茶類、甘酒などが用意されたそこにはケーキは一個たりともなかった。
「とほほ〜、ケーキぃ〜〜〜」
「げ、猊下? 手作りのティラミスとクッキー持ってきましたけどぉ」
「本当ですか、ヨハネ君! いやぁ、やっぱりヨハネ君ですよ…気がききますね」
「……ぇ? そんな……」
 思わずその言葉に信じたヨハネは、ユリウスの方を振り返り、頬を染めて言う。
「ちょっとぉ! 師匠に褒められて照れるやつが何処にいるかね! ヨハネくんはぁ〜もっと他に褒めてもらうべき人がいるんじゃないのー?」
 千里は眉を顰めてヨハネに言う。
 その言葉を聞いた瞬間、ヨハネは瞬間湯沸し器のように真っ赤になった。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと千里さん! そ、そんなっ…あの」
「へーほ〜、じゃぁ……恰好良いところとか見せたいとか思わんかね、少年」
「そ、そんなっ…僕はまだまだですよ」
「あぁン? 何もせずして、今言うかね!」
「ち、千里…さん?」
 ふと見れば、乾杯前に大ジョッキを平らげた千里は酔い始めている。思わずヨハネは青ざめた。こんな所にも酒の弱い人間がいるとは。思わず紅月神父の方をヨハネは見た。幸いにしてこっちはまだ酔ってはいない。しかし、いつ何時師匠の手によって酔い始めるか分からなかった。
「呑み過ぎない様気をつけてね、武彦さ……」
 武彦にそんなふうに言っていたシュラインも、千里の様子に吃驚し、じっと見つめてしまう。
「そんなことだからね〜、あーもぉ……いらいらするなぁ。ブッ千切りで告白なんてできないのかね、少年!」
「ち、千里さ……僕は十九歳ですって…。千里さんより年上……」
「そんなことで誤魔化すなー」
 ビール瓶をグイッと差し出して、千里は言う。
「これでも飲めば、一気に言えるし」
「な、な、なッ! そんな無茶な〜」
「千里ちゃん、そんなこと言ったら可哀想よ〜」
 クスクス笑いながら汐耶が言う。
 アリステアとともに聖書の訳などの解釈違いについて談笑し始めていた所だった。
「え〜、何がなの、ヨハネ君?」
 みさきはヨハネの会われる様子が気になるようで、小首を傾げて覗き込む。みさきの様子が子兎さんが覗き込むように見えて、ヨハネは頬を緩ませた。
 それを見ていたシュラインと汐耶の二人が顔を見合わせて笑う。
「「ほっぺたが落ちそうな笑顔ね〜」」
「え?」
 思わずシュラインが噴出したが、ヨハネが可哀想なので、一生懸命に堪えるようにした。
「い、いいえ〜? ねー、汐耶さん」
「そうそう、なんでもないわよね」
「甘党の方々に最近オススメのスイーツのお店とか、レシピの情報交換出来たらな〜とかそういう話よ〜?」
 かなり無理な言い訳だが、シュラインは誤魔化しきってしまった。実際、このメンバーだと甘い物の情報はいくらでも手に入りそうだったが。
 甘味の話にノリノリなみさきは、かぶりつき状態でシュラインたちの話に参入する。
「みさも美味しいお菓子屋さん知ってるー♪」
「では、お茶でも飲みながらそのお話を聞かせていただきたいですわね」
 亜真知は自分でブレンドした紅茶を振舞いながら言った。初めての教会でもある所為か、こっそりと教会内を見て回ったりしていたのだが、乾杯のために戻ってきたのだった。教会関係者に知人はいるものの、教会にやってくることは亜真知の日常には少ない。
「丁度良いタイミングですから乾杯しましょう」
 紅月神父は笑って皆に提案した。
「「「「「「「「「「「「「さんせーい♪」」」」」」」」」」」」」
「では、乾杯」
 同意の声に応じて紅月神父が祝杯を上げる。
「「「「「「「「「「「「「かんぱーい♪」」」」」」」」」」」」」
 おもいおもいのグラスやカップを手に、みんなも祝杯を上げる。俄かに騒がしくなった会場のあちこちで歓声が上がる。
「あけましておめでとう、双葉」
「あぁ、モーリス……あけましておまでとう。あなたの頭上に栄光が訪れますように」
「きみにも…ね」
「ありがとう。さしずめ、私の栄光というのは、今日のパーティーが成功した後に訪れるものと思いますけどね」
「おや、不安かい?」
「そうですね……猊下が悪戯しなければ…という限定付ですがね」
「それは……難しいですね」
「何で『大丈夫だ』とは言ってくださらないのか……不安になりますね」
「不安になられても。いつものことでしょう?」
 軽いおつまみなどを抓みつつ、持参したワインを他の人間に勧め、自分は紅茶を飲みながらモーリスは言った。
「そう……なんですけどね」
 ぽつりと言った紅月神父はふと溜息を漏らす。しかし、ふいに聞こえてきた声に顔を上げた。
「神父様ぁ〜♪」
 長い銀髪を三つ編みにした小さな頭が、ひょいとモーリスの後から見えた。
「おや、如神君」
「えへへ。何のお話してるの?」
 黒いマントジャケットの裾を弄りながら、首を傾けて言った。
「色々と大変だっていう話だよ」
 モーリスは如神に言う。
 大変と聞いて、如神は心配そうな顔をした。
「ねぇ、神父様。新年から悩みごと?」
「いえ、そういうことでは」
「ふ〜ん……」
「そうだ、飲み物を持って来てくれるかい?」
 モーリスはにこりと笑って如神に耳打ちした。ちょっとワルイコトを思いついたのだ。そんなことを知らない如神は耳打ちした言葉に頷く。
「うん! 待っててね」
 そう言うと如神は飲み物を取りにいく。そしてトレーにチーズおかきとワインを乗せて帰って来た。しかし、そのワインは林檎の果実酒で、見た目にはお酒と分からない。おまけに三人分同じ物があるので、紅月神父はそれをジュースと思い込んだようだった。
「では、乾杯しましょう」
 モーリスが杯を上げた。
「かんぱーい♪」
 如神も嬉しそうに杯を上げる。紅月神父もそれに倣った。
「みなさんの幸せを願って、乾杯」
「ん〜〜〜〜、おいし♪」
 如神はにっこりと笑って飲み干す。
 見事に騙されたまま、一気に飲んでしまった紅月神父は、思わす目を真ん丸にした。
「!!!!」
「?」
 小首を傾げて如神は紅月神父を見上げる。紅月神父は口元を押さえて眉を顰めた。
「お、おさ…け…」
「どうしたの?」
「フフッ……」
「モーリス…騙しました…ね…」
 少量で酔ってしまう紅月神父は徐々に火照ってくる頬を押さえて睨んだ。ブラックアウト寸前まではいかないものの、かなりきつい。
「そんなあなたも可愛いですね」
「うぅ〜」
「神父様ぁ、もっと〜ジュース飲むぅ? ひっく…俺、もうちょっと…のむ〜」
 自分も顔を真っ赤にしながら、如神は林檎のお酒を勧めた。自分も何を飲んでるかわかっていないようだ。継ぎ足したワインをごくごくと飲んでいく。
「ぷはぁ」
「うわ! 誰だよ、小さい子に酒飲ましたの」
 その様子を見た尚道が大慌てで飛んできた。
「あう〜? のどかわいたのぉ…じゅーす」
「こ、こら!」
「おにいしゃ〜……もってちゃ、やぁ〜だ」
 取り上げられたワインを取り返そうと、如神は尚道の腕に縋り付いた。ブランコ状態になる如神を猫のようにひょいと退けて、尚道はワインの瓶を横に置いた。
「じゅーす…もっと」
「こら! 酔っ払うのは紅月神父だけでいい」
 どうやらお酒に弱いというのは有名らしい。どこからか話を聞いていたのかもしれない尚道は困ったように眉を顰めた。
「私…まだ酔って…ない…ですぅ…」
 とか言いながら、かなりヤバイ感じの紅月神父だった。
「うぁ〜…熱い……ん?」
 ふと顔を上げると、青く丸い物体がポンッ!と現れ、ヨハネの上に落っこちてくる。思わず紅月神父は目を擦った。
「うわぁあああッ!」
「ぱぁぱっ!」
 それはヨハネに向かって言った。
 大きな目の可愛らしい赤ん坊だ。ダイビングキャッチに成功したヨハネはホッと胸を撫で下ろす。
 その子は嬉しそうにヨハネに抱きついて、しきりに「ぱぁぱ」と繰り返している。
「えぇええええッ!」
「ヨハネくん……」
 小首を傾げてみさきが言う。
「赤ちゃんいるなら言ってくれればいいのに〜」
「ち、違ッ! みさきさーん!」
「ぱぁ〜ぱっ♪ ……まぁまーっ」
 赤ん坊は千里を見つけて手をぶんぶんと振る。
「ぎゃああああ! 何で煌がここに居るの! 家に置いてきたのに」
「あぅ〜まぁま〜っ♪」
「うそ…千里ちゃんの子?」
「そうなんですよ、みさきちゃん」
 ユリウスはにっこりと笑って言った。
「っていうことは……」
「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! 断じて違いますっ! 師匠のばかばかばかばかぁ!」
「嫌だなぁ、隠し子だなんて」
「うわぁああ! わーわーわー!! 断じてそんなっ!」
「若いなあ、ヨハネ君」
「ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、違いま…」
「ヨハネ君、神父様辞めちゃうの?」
 みさきの言葉に追い討ちをかけられて、ヨハネは泣きそうな顔になる。
「そんなッ!」
「ヨハネ君、責任感強いですから」
「ぎゃうわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! 師匠のばかばかばかばかばかばかばかぁ!」
「うそですってば♪」
「イジワルう!」
「おやおや、可愛い子ですね」
 モーリスは煌の顔を覗き込んだ。途端、煌の瞳がきらりん☆と輝く。ぱぁぱ、発見。赤ん坊は無我夢中でモーリスに抱きついた。
「ぱーぁ〜ぱ〜」
「いやー! 違うー!」
 千里は悲鳴を上げた。
「モーリスさん、いつの間に……」
 シュラインは慄きつつ、モーリスを見る。
「そんな…不意打ちで作ってしまうような失敗はしませんよ?」
 フフンッ♪と言ったような表情でモーリスは言う。幾つもの美しい華を手折った男が、そのようなことをするはずが無いと言って微笑んだ。無論、視線の先には紅月神父と如神が居る。塔乃院とて無関係ではない。何食わぬ顔をして塔乃院はモーリスの方を見ていた。
 モーリスは視線で塔乃院に合図した。極上の獲物が二匹、酒に飲まれている。これは後で介抱しつつ、その代金を体で支払ってもらうべきだろう。互いに顔を見合わせ、モーリスと塔乃院は紳士的な笑みを浮かべた。
 もふもふと煌の頭を撫でていると、ふいに視線が彷徨うのをモーリスは見た。煌は尚道の方に手を伸ばし始める。
「ん、抱っこか?」
 そう言って尚道は微笑むと、危なそうな瓶を横に避けて煌を与る。
「可愛いな…」
「んむ〜、ぱぁぱ」
「へ?」
「ぱぁぱ〜、あう〜…まんまー」
「あー? あいよ」
 そう言うと否定もせずに、尚道は手元にあったバナナの皮をむいて皿の上で潰し、スプーンで煌に食べさせ始めた。
「手馴れてますね〜」
 汐耶は感心しつつ言った。
「これは本命でしょうか?」
 亜真知も大真面目に答える。撫子は楽しそうに笑っていた。
「違うってばー!」
 千里は真っ赤になりながらあたふたしている。
「わぁ〜…ひっく…赤ちゃん…だっこ〜」
 如神は煌に近付いて頭を撫で始めていた。
「かわいー」
「あう〜、んまー」
「はい、カステラだよ〜」
 小さく千切って口元に持っていくと、煌ははむはむと食べ始める。それを見ていた武彦が近付いてきた。煌はその人影を見るなり、にこぉっと笑って腕をぱたぱたと動かした。
「ぱぁぱっ♪」
「へ?」
「武彦さんッ!」
「え、あ…」
「高校生に…ですか?」
 撫子はポッと頬を赤らめて口篭もる。思わず武彦は真っ青になり、シュラインの方を見た。
「どーして二三矢がいるのに、おじさんとそういう関係になるのー!」
 かなりひどい事を千里は武彦の心に突き刺しつつ、千里が叫ぶ。
「お、おじさ……。しゅ、シュライン…信じてくれ」
「三文芝居みたいだわ」
「俺を信じてくれないのか?」
「信じて欲しいなら…」
「信じて欲しいなら…って、何だ?」
「うそよ、信じてるわ」
「シュライン……」
「だから……お給料上げてね♪」
「がぁん!」
「「あーはははっ!」」
 一番無理難題を言われて武彦は頭を抱えた。その様子をシュラインと汐耶が声を上げて笑う。煌はご機嫌な様子で武彦に笑いかけた。
「まぁ、予行練習にでも抱いてあげれば、武彦さん?」
「予行練習ってなんだよ」
「やねー、何のことかしら? 赤ちゃんは皆に幸せをくれるわ。おこぼれに与っても良いんじゃない?」
「そうでしゅ…よお…」
 真っ赤な顔で紅月神父は言った。
「まーなー」
「てんからの…おくりもの…でしゅからぁ…だいじに…」
 目を擦って紅月神父は切れ切れに言う。かなり辛いらしい。
「ぱぁぱ」
「ほら、呼んでるわよ。抱っこしてあげなきゃ」
「あ、うん。そうだな…」
「誰の子かなんて、この際、良いじゃない。今、抱いてあげるのが大事なんだから」
 そう言ってシュラインは笑った。
 誰の子か。千里としても一番気になることだ。未来の自分の子なのはわかっていても、誰との間の子なのかは分からない。一縷の望みを託しても、未来を覗く事は出来ないのだ。
 今、何が必要なのか。見失いがちな何かを千里は発見したような気がした。

 ステンドグラスの光の中、仲間の笑顔が輝いて見える。
 あけましておめでとう。
 今年もよろしく。
 そして、今。そして、その次に未来。
 それが今一番のことなのかもしれなかった。

 ■END■

 ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
┃┗┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┳┛┃
┗━┛★あけましておめでとうPCパーティノベル★┗━┛゜

0086/ シュライン・エマ / 26 / 女 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
0165/月見里・千里/女/16歳/女子高校生
0328/天薙・撫子/女/18歳/大学生(巫女)
0534/杉森・みさき/女/21歳/ピアニストの卵
1286/ヨハネ・ミケーレ/ 男 / 19歳 /教皇庁公認エクソシスト(神父
1449/綾和泉・汐耶 / 女 / 23歳 /司書
1593/榊船・亜真知 / 女 / 999歳/超高位次元生命体:アマチ…神さま!?
2158/真柴・尚道/男/21歳/フリーター(壊し屋…もとい…元破壊神)
2318/モーリス・ラジアル/男/527歳/ガードナー・医師・調和者
3002/アリステア・ラグモンド/男/21歳/神父(癒しの御手)
3747/紅月・双葉/男/28歳/神父(元エクソシスト)
4528/月見里・煌/男/1歳/赤ん坊
                 (以上12名)
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは朧月幻尉です。
 皆様いかがお過ごしですか?
 あけましてから一ヶ月が過ぎようとしております。
 楽しいお正月は過ごせましたでしょうか?
 私たちにとって、明るい未来が訪れますようにと祈る毎日です。 
 
 それでは皆様、今年もよろしくお願い致します。
あけましておめでとうパーティノベル・2005 -
皆瀬七々海 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年02月07日

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