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『新年を迎え入れる為に 』
架月・静耶4365

「静耶さん、あのね」
「? どうかなさいましたか?」
「ええ、新年なのだけれど久しぶりに別の場所で迎えたいと思って」
「別の……場所?」

 月に一度の帰省をしている時だった。
 最愛の母の言葉に静耶は目を丸くさせながらも続きを促すべく「どうぞ」と呟いた。

「ええ。いつものようにこの屋敷ではなくて――、新年は心霊スポットとして有名になってしまった、あの屋敷で過ごしたいの」
「は? あの……あの屋敷は朽ちていると言うか人がもう長い間住んでいなくて何もかも荒れ果てていますが?」

 母親が言う「屋敷」は屋敷の所有者に泊り込んでも良いかと尋ねるような物件ではなく、架月家所有の屋敷の一つだ。
 が、とある事件が起きてからと言うもの、手入れと言う手入れもせず、その屋敷の庭の草は伸び放題、武家屋敷の様な造りである所為か、侘び寂びがどうのと言うよりも、寧ろ「陰鬱」……、そんな言葉がしっくり来るようになってしまっている。
 だからこそ「幽霊屋敷」とも呼ばれてしまっているのだろうが。

 その屋敷で、新年を迎えたいと言う母親。
 一体何故に!?
 と言うか、何故に年末慌しい、今になってから言うのか……慌ててカレンダーを見ると十二月二十七日。
 明日から取り掛かるにしても、あと三日しか猶予が無いと言う事になる。

 だが、母親は静耶が言う言葉には構わず、ただ、ただ、美しい微笑を浮かべ、
「勿論解っています。でもね、私はあの場所で過ごしたいのです」
「――掃除も完璧に済ませた状態で、ですね?」
「はい♪」
 押し出しとばかりに強く頷かれてしまい、静耶は二の句を継ぐ事も出来ずに、項垂れた。

 その後「頼みましたよ?」とダメだしされると、静耶は掃除のスペシャリストを集う事にした。
 掃除専用の会社があるが、そんな所に頼んだが最後、出張代金を上乗せさせられ、更には訳の解らない無駄な費用を払わせるのがオチだからだ。
 そんなものよりも掃除のスペシャリストと名乗る人たちの方が、しっかり掃除をしてくれるものだし……。

「まあ……この募集をする事によって少しばかり嫌な予感もしないではないけれど……」
 背に腹は、かえられない。
 ある人物が来そうな気がして――静耶は二度三度と続く寒気と戦いながら、数人の人物たちへと連絡を、取った。




 そうして、翌日。廃墟に近い屋敷に集まったのは三人の人物。
 その中に居る、とある人物を見て、「やはり」と言う気持ちを隠しながらも静耶は心の中でがっくり肩を落とした。
 何故、君が来る。
 いいや、そんな事を言うのはお門違いだと充分に解っているし、無論来た事を責めるつもりも毛頭ない。
 が!!

「……お願いだから、そんなに嬉しそうに笑わないでくれるかな菅原君」
 菅原君、と呼ばれた人物は静耶の言葉に更に微笑を深めると、
「嫌ですね、架月先輩……俺と貴方の仲ではありませんか。恋愛相談部、名誉会長である貴方の為でしたら、この菅原・逢海、何処へなりとも馳せ参じますよ?」
 等と言い静耶の手に恭しく触れ、隣に居た藍原・和馬から「そう言う事言うと紅一点のお嬢ちゃんが引き攣るから……というか寧ろ今回の依頼は掃除だし?」と冷静な突っ込みも貰ってしまっているのだが。

 けれど逢海は和馬の言葉も何処吹く風、ただ、ただ笑い、
「其処に居るお嬢さんはきっと、俺の言葉に驚きなどしないと思うよ? ねえ?」
「――え? あ、ああ、そうですわねっ!!」
 逢海に突然話し掛けられ、藤菜・水女は驚きながらも同意する。
 実際、驚くと言うよりは似合いすぎていて二の句が告げない……と言うのだろうか。
 男性同士だろうと美形ならば、何処か納得させるものがあるらしく、水女は再び、逢海と静耶を見つめた。
 それを見て和馬が、深く、長い、ため息をつく。
「……何かが違うだろ、絶対」
「おや、それは随分と心外な言葉だね――藤菜嬢は気にしないと言っているのだし……ああ、そうだ架月先輩」
「何かな?」
「俺と先輩の仲ですしバイト代は時給5000円にまけておきますんで」
「……心配しなくても"ちゃんと"、掃除出来たら、それ以上の代金を支払うよ?」
 その言葉に水女も和馬も、一気にテンションが上がったらしく、
「あら。それでは、高額報酬を期待して頑張ると致しましょうか」と、水女が言えば、和馬も「そうだな……俺も、ちょっと新調しておきたい電化製品があることだし」バイト代で買えるかも知れない製品に思いを馳せたりもし、ただ、逢海だけは何も言わずに微笑うばかりで。
 静耶もそれ以上、バイト代については言わず、未だ、逢海が触れている手を怒るでもなく振り払うでもなく「そろそろ離してもらってもいいかな、この手を」と抓りあげると仕事の説明を始めた。

「取り敢えず期限は昨日連絡が行きました通り、今日から三日間。庭や母屋だけは最悪でも綺麗にしておきたいので、その点は忘れずにいて貰えると助かります。蔵については物品の多さもあるので個人の判断でお願いしたい。……以上、質問はありますか?」
 はい、と水女が手をあげる。
「母屋だけは、と仰いましたが……最悪を想定しまして全て掃除しきれない場合……掃除をしなくても良いと言う部屋はありますか?」
「ありません。母屋だけは新年を此処で過ごしたいと言う母の願いを叶える為、完璧にお願いします」
「「完璧……」」
 同時に言葉を発していた水女と和馬が屋敷を再び見やる。先ほどのテンションの高さも何処へやら、今は寒波がやってきそうなほどに、心が、寒い。
「この広い屋敷内を三日で全部……か」
「思ったより気合いを込めないと難しいようですわね……」
 何処を最初にやれば一番効率が良いのかを考えてはみるものの、中々良い案が浮かばず、屋敷の広さと降り積もっているだろう埃に、まずは空気の入れ替え……と、互いに呟くと、少しばかり気になっていた離れへと視線を移した。
 水女が問い掛けるより先に和馬が「なあ」と声を掛け、離れを指差す。
「最悪、母屋と庭とは聞いたけど、あそこの離れは掃除しなくてもいいのか?」
「ああ、あそこは――……開けない方が良いでしょうねぇ」
「それはまた、何故に?」
「―――出るんですよ」
「「「何が??」」」
「女性にとって最大の敵が二つほど」
「そ、それって……あ、あぶ……」
「藤菜さん」
 水女の名を呼ぶと静耶は落ち着くように肩を二度三度と叩く。
「皆まで言うと心に良くないから、ね?」
「は、はい……」
「では、そろそろ始めましょうか? 掃除の手順については皆さんにお任せします。僕もやれ、と言われた事は手伝いますので何なりと仰っていただければ」

 こうして、三日間に渡る大掃除が、始まった。
 さて、まずは何処から手をつければ良いのだろうか?





 取り敢えずはどうしようか――逢海以外の面々は、再び、それを考えた。
 結局の所、初日は単純作業しか出来ないようには思うのだが、逢海が直ぐに「全員で開けれる窓全部開けて、手間取りそうな部屋からハタキを掛けれる限り掛けて埃取り。それから体力自慢な人は庭の草刈り」と言ってくれたお陰で本日動けるポジションと言うのが解り。
 ……何となく目の前に大量のものがあるとやる前から終るまでのことを考えてしまうのは人の常なのだが。
 ひたすら広い屋敷を入った所から順繰りに開けていく。
 埃っぽく、カビの匂いに似た匂いが鼻をつくが、これも仕事の内である。
 皆が歩くたびに、ぎしぎしと軋む音が響いて、寂れるに任せていただろう年月を感じさせた。

「随分、長い事放っておかれていたのですね」
「ええ。ある事件が起きてから此処は無人です」
「それは聞いて良い様な事件なのか?」
「どうでしょうね……人によっては問題とする方もいるでしょうし、まあ、多分気にせずとも良いことですよ」
 静耶の言葉に、水女も和馬もそれ以上は聞くことも出来ず、部屋と言う部屋全ての襖を開け、障子を開け、雨戸を開けた。
 逢海も、此処まで掃除し甲斐のある室内を見て、嬉々として周っており思ったより早くに空気の入れ替えへの準備は終った。
 次に草刈りとハタキがけだが――これは1対3に分かれた。
 つまり、草刈りに和馬、室内のハタキがけに逢海、水女、静耶の三人である。
 これについては一瞬和馬も「不公平だ」と言おうと思ったのだが部屋数の多さやら何やらを思うと庭の方が断然、楽に思え、強くは言えなかった。
 まあ、何処にしても仕事は楽なものではないが……和馬は話相手もないまま、庭掃除の作業を始めた。
 これについては、過去にした事のあるバイトが役に立った。
 掃除夫のバイトをした事があるからこそ出来る事だとも思う
 伸び放題の草を刈り取り、ゴミ袋にまとめ、纏め切れないものは後で箒で掃いていくのである。

(本当に何でもやっておくもんだよなあ……)

 和馬はうんうん頷き、草を刈り取っていく。

 そうして、室内の方と言うと。
 一番手間取りそうな、宴会場ほどもある広さの部屋を三人でハタキがけをしており、作業の合間合間に何やら話していたりする。

「先ほど恋愛相談部とか名誉会長とか仰っていましたが、それは何なのですか?」
「僕も詳しくは知らないんですよ、菅原君が僕を勝手に名誉会長にしたので」
「また、そんなつれないことを……恋愛相談部はね、恋愛に対しての諸々の相談を引き受ける部で……取り敢えず、常時会員募集中…とも言えるかもしれない」
「随分曖昧なのですね?」
「いや、毎日話しているだけの部活だからね、入れ替わり立ち代わりで人の出入りも激しいから、もう誰が部員で部外者やら」
「では私でも行けるのでしょうか?」
「問題無いと思うよ、僕でも名誉会長だ。藤菜さんならゴールド会員にだってなれる」
「「……ゴールド会員」」
 静耶のその言葉に何故か同時に声が出てしまい、お互いの手が止まる。
 見合ってしまったのを逸らしたのはどちらが先だったのかは解らないが、再びハタキが至る所に掛けられ、更なる埃が畳の上へ落ちていく。
「……そうだね、今度良ければおいで藤菜嬢」
「はい♪」
 ぱたぱた、ぱたぱた、大きくハタキを掛ける音を響かせ、水女は嬉しそうに頷いた。




「ところで、ハタキがけをしたら次は何かな?」
「取り敢えず次は箒でその埃をとって、雑巾がけです。草刈りを終らせたら藍原さんも戻ってこられるでしょうから廊下の雑巾がけでも構いませんが」
「…じゃあ、俺は廊下の雑巾がけでもやってこよう。急がないと荷物の運び込みもあるし……障子や襖の張替えもあるだろうし……」
「大変な、ご母堂をお持ちになられましたね、架月先輩」
「そうかも知れない。けど、まあ……」
 親、だからね。
 微笑でもなく苦笑でもなく、複雑な表情を浮かべると静耶は逢海から水の入ったバケツと雑巾を渡され、廊下へと向かった。
 そう言えば埃を取る時に窓を開けておくと上手い具合に埃が取れないんじゃないのだろうか?
 ふと、そんな事を思いながらも換気出来ない中で掃除するのとどちらがマシかを考えると何も言えず廊下を水拭するべく雑巾を絞る。
 冷えた水が手を一層冷たくさせるようだが、やらねば終らない。
(此処まで来るとヤケに近いのもあるかもしれない)
 無事に掃除を終らせ、母が喜んでくれて、新年を笑顔で迎えられたら良いのだけれど。

 その頃、和馬はゴミ袋にして何袋目になるだろう草を全て入れ終わったところだった。

「……ここまで刈り取れば、充分見通しいいだろ」

 足の踏み場も無かったほどの草も綺麗になり、地面がちゃんと見えている。
 これで芝でも入れて、花々を植えれば今でも充分に綺麗な庭として通用するだろうとさえ思えた。
 後は屋敷の中の掃除を手伝って完璧なまでに屋敷の中を磨き上げれば良い。

 ゴミは後ほど屋敷でも大量のゴミが出るだろうから、その時纏めて捨てる事にして……何せ期間が期間なだけに手伝える事からやっていかないといけない。

「……さーて、と」

 屋敷を掃除してる面子へ合流するかね……、呟き、立ち上がると和馬は屋敷へと歩いていった。
 中では逢海や水女たちが、綺麗にしようと慌しく動いてる事だろう。
 限られた時間の中で、最善を尽くそうと懸命に。





 ハタキを掛け、埃を落とし、拭き取り、掃いて、捨てる。

 掃除は常に、この繰り返し。
 基本の形は上から下へ、埃を下へ落とすようにするのがポイント。

 綺麗にするのに難しい動作は不要なのだ。
 片付ける際にも解りやすいように置いていけば問題は無いのと全く同じ。

 静耶は、この三日間と言うもの、この言葉を何度と無く呟きながら掃除をしまくった。
 水女が届きそうに無い場所があれば、率先して拭きに行ったり、逢海に時に、「掃除について何も知らなさ過ぎます!!」と怒られようとも、更には和馬に笑われようとも頑張って頑張って、掃除をした。

 今までの人生において、掃除などしたことも無かった、そのツケがどっと押し寄せて来たようだとも思いつつ、室内を見渡す。
 完璧だ。
 誇りも翳りも見当たらない出来にひたすら頷く。

 襖や障子は張り替えまで出来たし、台所等も、昔の方が造りがしっかりしていたのだろう、特に修理もなく、室内と同じように掃除をするだけで済んだ。

「……此処まで綺麗に出来るとは思わなかったな。これなら母も喜ぶよ」
「それは何より。……ああ、藤菜嬢が先ほどから架月先輩や藍原さんを探していましたよ。何でも、甘味を作ってくれたとか……」
「あの台所を使って?」
「はい、中々良い感じに動いていたようで……」
 良かったですね、何よりです。
 と、逢海は言うものの何処か遠くを見てしまっている。
「…菅原君、元気ないね?」
「ああ……お屋敷の掃除があっという間に終ってしまったので……初日から大変でしたが面白かったんです」
「成る程。……僕は暫く掃除は勘弁とさえ思っているけれど」
「まだまだ掃除のエキスパートには遠いですね架月先輩」
「……僕がなろうとしてるのは掃除夫ではないもので」
 静耶の言葉に両者の間に笑いが生まれる。
 その声が聞こえたのか和馬と水女がひょっこり、顔を覗かせた。
「お二人さん、さっさと来ないと俺が一人で食っちまうぞ?」
「お疲れでしょう? 甘いものが苦手な方もいるかと思って甘さも控えめにしましたので……」
「有難う、直ぐに行きます……なので藍原さん、先に全部食べちゃ駄目ですよ?」
「了解。じゃあ先に茶でも飲んでるかな」
「ええ、是非ゆっくりして頂ければ」
 再び歩いていく和馬達の姿を見送ると静耶は再び、室内を見た。
 三日間。
 ひたすら、ひたすら掃除ばかりの日々だった。

 けれど、確かに手に残るものがあり、充実感がある。
 明日にはやって来るだろう母の訪れが今からとても楽しみで――静耶は大きく、背伸びをした。
 自らの身に残る感覚を確かめるように、大きく。






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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★あけましておめでとうPCパーティノベル★┗━┛゜

【4365 / 架月・静耶(かづき・しずや) / 男性 / 19 / 陰陽師(駆け出しレベル)】
【1533 / 藍原・和馬(あいはら・かずま) / 男性 / 920 / フリーター(何でも屋)】
【3069 / 藤菜・水女(ふじな・みずめ) / 女性 / 17 / 高校生(アルバイター)】
【4497 / 菅原・逢海(すがわら・おうみ) / 男性 / 17 / 高校二年生】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、WRの秋月 奏です。
今回はこちらのパーティノベルをご発注誠に有難うございました。
ある事件があったお屋敷のようですが、幽霊さんも退治されるのを
恐れてか、今回は出ずに平穏無事に掃除の方が終ったようです(^^)
皆さん、本当にお疲れ様でした♪

>架月さん

今回はご発注本当に有難うございます。
お久しぶりに架月さんに逢え、とても嬉しかったです(^^)
色々と架月さんには動いて頂きましたが、楽しいお正月が
過ごせた様でよかったなあと……お母さんがとても大事だと
言うのが凄く伝わってきました♪

>藍原さん

いつもお世話になっております♪
藍原さんは今回体力仕事と言うか大量の草刈り…あれは、もう草むしりより
草刈りですよね…をして頂きましたが、沢山のバイトをしている藍原さんだけに
手早く出来たのではないかなと思いつつ。

>藤菜さん

いつもお世話になっております♪
紅一点のご参加でしたので、色々楽しく書かせて頂きました(^^)
いつもより、少し柔らかめの雰囲気…と言うのにしてみたのですが
如何でしたでしょうか……大丈夫なら良いのですが(><)

>菅原さん

初めまして(^^)
プロフ等見まして、こんな感じかなあと思いつつ書かせて頂いたのですが
何気に架月さんとの仲が気になっております……(笑)
どれだけ仲が良くても、やはり仕事は仕事できっちり分けたいところですよね!
プレイングがとてもツボに嵌り、楽しく書く事が出来ました。有難うございます♪


それでは今回はこの辺にて失礼致します。
また何処かにて逢える事を祈りつつ……
あけましておめでとうパーティノベル・2005 -
秋月 奏 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年02月04日

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