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『命がけの節分 』
ジュドー・リュヴァイン1149)&エヴァーリーン(2087)



「暇ねぇ‥‥‥」
「暇だな‥‥‥」

 ジュドー・リュヴァインとエヴァーリーンの腐れ縁コンビは、同時に同じ言葉と溜息を吐き出した。
 黒山羊亭のいつもの席で、二人はいつもと同じ飲み物を頼む。
 どうも好みの依頼が見つからなかった二人。
 昼間から大きな溜息を吐いていたが、ふと思いついたようにジュドーが言う。
「まさかエヴァがこんなに早くから起きてるから依頼がなかったとかそういうオチはないよな」
「‥‥‥ジュドー?」
 そのジュドーの言葉を聞いて隣に座るエヴァーリーンから冷たく立ち上る冷気。
 ジュドーは、なんでもない、と目をそらし一気にグラスを煽った。

「なぁに? 珍しくこんな時間に集まっちゃって」
 暇なの?、とエスメラルダが二人に声を掛けてくる。
「良さそうな依頼が無くて‥‥」
 たまにはこういうこともね‥‥、とエヴァーリーンが言うとエスメラルダが楽しそうに告げた。
「ねぇ、そんなに暇ならここに豆があるから豆まきでもしたら? 今日は節分だし、暇ならせっかくなんだし楽しめばいいじゃない」
 休日だと思ってね、とエスメラルダがエヴァーリーンに豆を渡す。
 その時、エヴァーリーンの目が、キランっ、と光った。
 にんまりと笑ったエヴァーリーンがジュドーにその笑顔を向ける。
 それを見てジュドーは背筋にぞくぞくとした震えが走るのを感じた。
 エヴァーリーンのこの笑顔は絶対に何かをたくらんでいる表情だった。
 今までにも数度この顔を見た事があったが、その度にろくな目にあわなかった事だけは確かだ。

「ねぇ、ジュドー。せっかくだからやりましょう?」
「えっ‥‥豆まきをか?」
「もちろん。こうして豆も手に入れた事だし‥‥やるわよね?」
 有無を言わせぬエヴァーリーンの迫力に引きつった顔のジュドーは、こくこく、と頷いた。
「あぁ、分かった。豆まきだな、よしやろう」
「決まった所で、やっぱり鬼を決めないと」
 その様子を楽しそうに見守るエスメラルダが、じゃんけんで決めたら?、と二人に提案する。
 そうだな、とジュドーが頷いて二人は豆まきの鬼を決める事にした。

「いくわよ」
「あぁ」
 じゃんけんにも気合いが入る。
 豆も当たると結構痛いのだ。
 普通に投げているだけでも痛いというのに、ジュドーはエヴァーリーンに投げられる豆が自分自身に当たる事を想像する。もうそれだけで身震いして逃げ出したくなるのは何故だろう。
 絶対に勝つ!、と気合いを込めてグーを出すが、エヴァーリーンはパーを出していた。
 ジュドーはそのことにがっくりと肩を落とし、グーを出した自分を呪った。
 これではエヴァーリーンの思うままに事は進んでしまう。

「私の勝ちね。これはもう運命かしら。‥‥とっても投げたかったのよね」
 先ほどと同じにんまりとした笑みのエヴァーリーン。
 ジュドーは身の危険を感じてエヴァーリーンからじりじりと後ずさった。
「ジュドー、覚悟なさい」
「お‥‥お手柔らかに‥‥」
 引きつった笑みを浮かべたジュドーにエヴァの投げた豆が炸裂した。
 ぴしっ、とジュドーの頬を掠めて壁にめり込む豆。
 それは本当に豆なのか。
 その場にいたエスメラルダも客達も一瞬言葉を失い固まる。
 壁にめり込んだ豆がボロボロになって床に落ちた。
 そちらを、ちらっ、と眺めたジュドーはそれが自分に当たった場合の事を考え青ざめる。

「ちょっ‥‥待て、エヴァ!」
「問答無用。これは豆まきよ、ジュドー。鬼に当てなければ意味がないわ‥‥」
 そう言ってエヴァーリーンは次々とジュドーに向けて凄まじい威力の豆を飛ばしてくる。
 幸い、店内には客が少なかった為、流れ弾‥‥もとい、流れ豆に当たる人々も出なかったが、このままでは追いつめられると思ったジュドーはそのまま黒山羊亭の外へと飛び出す。
 地下からの階段を駆け上り、眩しい太陽の輝く地上へ出たジュドーは更に逃げる。
 しかし後方からは射撃と言っても可笑しくない位の速度で豆を飛ばすエヴァーリーンが迫っていた。
 豆を弾代わりに、普段のただ働きやら、先ほどのジュドーの言葉やら何やらの鬱憤を晴らすべく、指で豆を弾いて逃げるジュドーを狙いまくる。
 たまに豆ではなく小石も混じっていたりもしたが、それはご愛敬という所か。
 それを必死に避けながらジュドーは全速力で街を駆ける。
 日頃鍛錬をしていて良かったとジュドーは心の底から思う。
 街を歩く人々もその騒ぎに何事かと集まってくるが、エヴァーリーンの弾く豆が地面を抉るのを見て、恐怖の余り近づくのをやめ遠巻きに二人の駆け抜けていく様を見つめていた。
 既に常人離れした豆まきになっていると感じているのはジュドーだけではないようだ。

「ほらほら、真面目に逃げなさい」
「逃げてるだろ、こんなに必死に。これは豆まきだろう? だから少し威力を弱めるとか加減をしてくれ‥‥‥」
「加減ですって? そんなこと出来る訳が無いじゃない、もちろんする気もないけれど」
 にっこりと笑みを浮かべたエヴァーリーンは、ジュドーが凍り付くような一言を告げる。
「真面目に逃げないと‥‥‥殺すわよ」
 絶対零度の呟きと共に浮かべられた艶やかな笑み。

 ジュドーは冷や汗が流れ落ちるのを感じた。
 奴は本気だ、とジュドーは思う。
 このまま逃げ続けていても最終的には捕まってしまうだろう。
 それならば、とジュドーは反撃に出ることにする。
 エヴァーリーンが本気ならば、こちらも本気で受けようではないかと。
 愛刀である蒼破を抜き、エヴァーリーンに向かい合う。
 蒼き燐光を放つ蒼破を構えたジュドーを見て、エヴァーリーンも豆では役不足だと鋼糸をゆっくりと構えた。
 二人の間に立ちこめる緊迫した空気。
 動いたのは同時だった。
 豆まきをしていた事など頭の片隅にすらなかった。
 ただ今は向かい合い互いの力を試すのみ。

 ちゅどーん

 お互いに渾身の力を込めた一撃がぶつかり、凄まじい爆発が起きる。
 未だかつて無い程の気合いのこもった一撃だったのだろうか。
 たかが豆まきに全力で立ち向かった二人の熱気がそれに加わったからなのだろうか。
 それとも未知の何かが働いたのだろうか。
 響き渡る爆音と砂煙。
 二人を中心にして起こった爆発でエヴァーリーンの所持していた豆があちこちに、ポーン、という音と共に弾け飛ぶ。
 何事かと集まってきた人々の元に爆ぜた豆が降り注いだ。
 その騒ぎの中心人物達は、真っ黒に埃やらなにやらで汚れながら、げほげほと咳き込んでいるところだった。




 そうして、壮絶なる豆まきは二人の技の爆発により中止となり幕を閉じる。
 埃まみれになり、服もあちこちボロボロになった二人は,黒山羊亭へと戻ってくるとヤケ酒のようにバーテンに飲み物を頼みまくっていた。
 むすーっと面白くなさそうな表情で飲み続ける二人を呆れたように見つめたエスメラルダが声をかける。
「アンタ達‥‥。豆まきって爆発とか普通はするもんじゃないんだよ、知ってる?」
「知ってるわ‥‥」
「分かってる‥‥」
「じゃあ、なんで豆まきしてて爆発してボロボロになってくるのよ‥‥」
 はぁ、と溜息を吐くエスメラルダ。
 一応自分が豆まきを提案した為、こうなった責任は感じているのだった。
「結果こうなったんだから仕方ないだろうな‥‥」
「でもあれはジュドーが先に刀を抜いたからよね」
 その言葉にジュドーは反論する。
「待て、エヴァ。それは違うだろう。お前が私を殺す気で豆を投げてくるからじゃないか」
「あれは言葉の文よ。本気にするジュドーが悪いわ」
「嘘をつけ。あれは本気だったぞ」
「ジュドーの気のせいよ」
 さらりと流し続けるエヴァーリーンに向きになって突っかかるジュドー。
 エスメラルダのいつも眺める光景に戻ってきた。
 憎まれ口を叩き合って、それでもやっぱり一緒にいるのね、とエスメラルダは笑う。
 くすくすと笑いながらエスメラルダが呟き背を向けた。
「本当に、仲が良いんだか悪いんだか‥‥」
 その言葉を聞いた二人はエスメラルダを振り向くと同時に叫んだ。

「普通よ」
「普通だ」

 背後からの声にエスメラルダは腹を抱えて笑いながら言う。
 ほら、やっぱりハモってて仲良いじゃない、と。
 苦しそうに笑うエスメラルダを眺めてから、二人は苦笑気味に顔を見合わせた。
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聖獣界ソーン
2005年02月03日

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