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『おせちと笑顔と大切な人々 』
橘・月兎(w3c793)



 のんびりと橘月兎は傍らで柔らかな笑みを浮かべながら、お茶を淹れる紅雪を眺める。
 幸せな一時。
 何事もなく無事に新年を迎え、ゆっくりとした時間の経過に身を任せる。
 こうしてゆっくりと正月を過ごすのも悪くないと月兎が思っていた時、玄関のチャイムが鳴った。
「誰か年始の挨拶にでもやってきたか?」
「出てみるわね」
 パタパタと紅雪が玄関まで走っていく。
 こうして誰かが家を訪ねてくれるという事はとても嬉しい事だと思う。
 さて誰が来たのやら、と月兎が紅雪の淹れたお茶を口に運んでいると、一升瓶を抱えた華龍院眞織が紅雪と共に顔を覗かせた。
「あけましておめでとうさん」
「あぁ、おめでとう。元気そうだな。‥‥仕事は?」
 その言葉に眞織は笑顔で告げる。
「そないにうちの事を働かせたいん? 正月は仕事は休みどす」
「あぁ、悪かった」
 そんな二人のやりとりを見て、紅雪はくすくすと笑い声をあげる。
 歳も性別も違う二人だったが、気が合うらしく会えばいつもこの調子だった。
「今、お茶淹れるわね」
 用意をしに背を向けた紅雪に月兎が言う。
「お茶よりも‥‥」
 駆けられた声に振り向いた紅雪は、月兎の視線を追い眞織が手にしている一升瓶を眺める。
「‥‥あ」
「あぁ、これ忘れとったけどおみやげどす。仕事のつてで手に入れたのだけれど、ええ生酒どすよ」
 ニッコリと微笑んで眞織が月兎に持参した一升瓶を手渡す。
「‥‥というわけだ」
「はい。少し待っててね」
 苦笑しながら紅雪は二人に笑いかけると、酒のつまみになるものを取りに台所へと向かった。
 その姿を見送りながら月兎は眞織の持ってきた一升瓶を見つめる。
「しかしまさか一升瓶抱えてくるとはな‥‥」
「これが一番のおみやげになると思ったんどすけど‥‥違っとったかしらね?」
「いや、らしいな、と思っただけだ」
 飲み仲間とも言える二人。
 しかし普段はなかなか忙しくてお互い一緒に飲む事もないが、こうして暇な時間を見つけては会うというのも悪くない。
 口元に月兎が小さな笑みを浮かべた時、紅雪がお盆におせち料理やらなにやらを乗せて運んできた。
 それらに眞織は声を上げる。
「色とりどりで形も綺麗で美味しそうどす」
 お酒が進みそう、と笑う眞織に紅雪は箸と取り皿を差し出し、どうぞ、と告げた。
 そこからは早かった。
 持参した一升瓶を手に月兎と眞織の二人は水のように酒を飲み始める。
 その隣で酒に弱い紅雪はジュースを飲んでいた。
 しかし酒など入らなくても気の置けない仲間と過ごす時間は楽しいものだ。紅雪も楽しそうに会話に混ざり声を上げて笑う。
 お酒が入った事もあり、あっという間にその場は宴会、もとい新年会の雰囲気を醸し出していた。

 そこへチャイムの音が鳴る。
 紅雪が首を傾げつつも玄関へと向かう。
 そこに立っていたのは高波秋姫と逢魔の李鳳だった。
「あけましておめでとう」
「おめでとうアル」
 迎えた紅雪に二人は新年の挨拶をする。
「あけましておめでとう。あ、今丁度眞織さんも来てるから上がっていって」
 紅雪はそう言って二人を中へと促す。
「もしかして‥‥」
 秋姫はあの二人の事だから飲み比べよろしく既に飲んでいるものだと思ったのだが、それは間違ってはいなかったようだ。
 紅雪が秋姫の言葉に笑顔で頷く。
「そのもしかしてよ。二人で一升瓶を抱えて‥‥」
「やっぱりか‥‥」
「新年会アルか?」
「えぇ、そんな感じよ。さぁどうぞ」
 秋姫と李鳳は促されるままに奥の部屋へと足を運ぶ。
 向かった先の部屋の状況は何かが可笑しかった。
 テーブルの上には所狭しとおせち料理が並べられ、向かい合う月兎と眞織の前には一升瓶が乗っかっている。
 普通、乗っかっているにしても徳利が何本とかそのレベルではないだろうか。
 しかし酒豪である二人にとって酒は水のようなもの。いくらあっても足りない位だ。
 そんな二人の相変わらずの様子に微笑みながら、秋姫と李鳳は新年の挨拶を述べる。
「おめでとさん。秋姫に李鳳、よく来たな。せっかくだし俺の用意したおせちでも食べていったらいい」
「あけましておめでとうさん」
 眞織が二人に自分の隣を指して座るよう勧める。
 それを受けて李鳳が眞織の隣に座り、その横に秋姫が座った。
「人が集まってきたな。今日はなんだかもっと集まりそうな気がするが」
「賑やかなのはええ事どす」
「楽しいアル」
 紅雪に用意された箸を使って既に李鳳はおせちを口に運んでいる。
 秋姫も眞織に注がれた酒を美味しそうに飲み干した。

 すると再びチャイムの音が鳴る。
「これもきっと知人だろうな」
 ニヤリ、と月兎は笑う。
「正月に来るのはそうなんじゃないか?」
「賑やかになるアルね」
 良いことアル、と李鳳は微笑む。
 楽しければ楽しいほどそこに笑顔は増える。
 それはとても嬉しい事。
 眞織も穏やかな笑みを浮かべ李鳳の言葉に頷いた。
 紅雪が再び玄関へと向かう。
 扉の向こうに居たのは北条高耶だった。
 姉と自分の逢魔がそれぞれ恋人と旅行に出かけてしまい、高耶は一人のんびりとした正月を迎えていた。
 一日くらいならそれも良いものだと思うが、翌日からは高耶は暇を持てあまし退屈という名の地獄と戦っていた。
 テレビのチャンネルを変えても全て特番が流れ、特に見たいものもない。
 出かけるにしてもどこもかしこも初売りに引き寄せられた人々に埋め尽くされ、そこにわざわざ人混みに揉まれるために出かけるのも面倒くさいような気がした。
 とにかく退屈という言葉が脳裏から離れない。
 そこで家にいるよりは親友である月兎の弟妹に新年の挨拶がてら会うのも良いだろうと立ち寄ってみたのだった。
 しかし高耶の目当てであった人物達は、出かけて留守にしていた。
 申し訳なさそうに紅雪がそのことを高耶に告げる。
「ごめんなさい。ちょうど二人とも出かけてるの」
「それなら仕方ないな」
 そのまま立ち去ろうとする高耶を紅雪は引き留める。
「今ちょうど皆来てるの。皆で新年会も兼ねて騒ぐのも良いかなと思ってるんだけど」
 せっかくだから寄っていって、と紅雪に微笑まれると高耶も断る事は出来ない。
 更に声で分かったのか、秋姫も奥から顔を覗かせた。
「寄っていったらどうだ?」
「他人の家でそれかよ」
 まるで自分の家に上がって行けと言うような口調の秋姫に苦笑しながら、高耶も紅雪に促されるままに奥へと足を運んだ。
 そこで紅雪はふと思いつく。
 こんなにたくさん人が集まったのなら本当に新年会をしてしまえばよいと。
 そこで紅雪はフィールにメールを送ってみる事にする。
 暇だったら新年会をやっているから来て、と。
 来ると良いな、と思いながら紅雪はくるん、とスカートを揺らし振り返ると賑やかな場所へと戻っていった。

 その頃、喪中で初詣にも出かけられず、魔皇が亡き妻の墓参りに出かけて行ったりと暇で暇で仕方なかったフィールの元に一通のメールが届く。
 紅雪から新年会の誘いだった。
 家でごろごろとしていたフィールはがばっと身を起こした。
 これを逃す訳にはいかないと。
 やっとこの退屈な時間から解放されると思ったフィールの行動は早かった。
 あっという間に支度を済ませてしまうと、月兎の家へと向かう。
 途中、月兎と紅雪の顔が思い浮かびお土産としてワインとケーキを持参する事にする。
 お酒好きの皆のためにはこれが一番だろうと。
 きっとあっという間に飲み干されてしまうワイン。
 楽しそうに飲む姿は好感が持てるからそれはそれで嬉しい。
 お土産を抱えたフィールはこれから始まる楽しい時間を思い浮かべながら月兎の家のチャイムを鳴らす。
 するとパタパタと足音が聞こえ、笑顔で紅雪が扉を開けた。
「いらっしゃい。あけましておめでとう」
「おめでとう。お言葉に甘えて来ちゃったよ」
 はい、とお土産を紅雪に手渡すフィール。
「あ、気を遣わせちゃったみたい」
 申し訳なさそうな表情を浮かべる紅雪にフィールは首を振る。
「僕もこれからたくさんご馳走になるつもりだから。そうだ、皆出来上がっちゃってる?」
「月兎さんと眞織さんはまだまだ全然。高耶さんは戦線離脱気味ってところかしら」
「よーし、僕も頑張ろう」
 紅雪に招き入れられたフィールは皆の元へと向かう。
 賑やかな声は更に家の中へ響く。



「ちょっと待ってよ、今の僕の勝ちだったのに!」
「残念だったな」
 ふふんっ、と鼻で笑った高耶がフィールに言う。
 二人の手にはトランプが。
 ロイヤルストレートフラッシュが高耶の前には並んでいて、カスばかりのフィールはそれを眺め悔しがる。
 先ほど変えなければ良かったと心の底から後悔してみても遅い。
 がっくりと項垂れるフィールの背後から秋姫が声を掛けた。
「たかがトランプ如きで随分熱くなってるな」
 先ほどから二人の様子を酒の肴に見ていたが、フィールは連敗続きだった。
 そんな秋姫の声にフィールが反論する。
「そんなこというなら自分でやってみてよ。ほんっと腹立つから」
「お前とやんのも楽しそうだな」
 高耶が、負けねーよ、と挑発的な笑みを浮かべるとそれに秋姫も乗ってしまう。
 それに秋姫はゲームには自信があった。勝てるゲームだと思いながら高耶と向かい合った。
「お手並み拝見と行くか」
 秋姫が参戦することになると、李鳳が秋姫を応援し始める。
「勝つアルよ。ワタシ、応援するアル」
 きゅっ、と胸の辺りで手を組んだ李鳳。
 そうして高耶VS秋姫の戦いが始まった。
 しかしあっという間に秋姫に軍配が上がる。
 納得のいかない高耶は秋姫に食ってかかった。
「ちょっと待て、お前何やった?」
「何……って、普通にやってただけだ」
「嘘付け! こんな速攻で終わるはずが‥‥」
「ゲームは得意アル。負けないアルよ」
 横から李鳳が口を出す。
 確かに秋姫がゲームに強いとは思っていたがここまでとは高耶は思っていなかったようだ。
 それにポーカーには運も必要だった。
 その運さえも味方に付けてしまうというのだろうか。
「信じらんねー」
 がっくりと肩を落とす高耶に対し、秋姫はこんなものかといった様子でいつの間にか増えている酒に手を伸ばす。
「なんか僕、やっちゃいけないゲームしてたのかな‥‥」
 秋姫とはゲームをこれからやらないようにしようと心に誓いつつ、フィールは持参したケーキをつつく。
「はい、こちらもどうぞ」
 紅雪があっという間に空になる皿を片づけながら、次のを運んでくる。
 皆が楽しげに語らう時間は何物にも代え難いものだとフィールは思う。
 ちらっ、とそんな場所を提供する月兎と紅雪を見てフィールは小さな笑みを浮かべた。
「おーし、それも食べるっ!」
「はい」
 くすくすと笑いながら紅雪はフィールに皿を差し出した。

 ザル二人組はフィールの持参したワインも飲み干し、眞織の持参した生酒ももう少しで飲み干してしまう所だった。
 一升瓶をほぼ二人で空にしてしまうその胃袋。
「二人ともまだ飲むの?」
 紅雪に問われ、月兎と眞織は当たり前のように頷く。
「まだまだ平気だ。な、眞織?」
「まだ大丈夫どす」
 こくこく、とお猪口に注いだ酒を飲み干しながら眞織は、背後で先ほどから何度も秋姫に挑み撃沈している高耶に声を掛ける。
「あんたもまだいけるやろ?」
 秋姫に負けてやけ酒のように眞織に勧められるままに酒を飲んでいた高耶は首を振る。
「いいや、俺はもういい。付き合ってたら身がもたねぇ」
 ザルを通り越してワクと呼ばれる奴らにはついて行けない、と高耶は飲み比べ組からリタイアする。
「そうどすか」
 残念そうに眞織が溜息を吐き、月兎へと酒を注いでやる。
「あら、空になってしもたわ」
 そしてついに一升瓶を空にしてしまう。
 その言葉に一瞬その場が凍り付いたような気がしたが、皆それを無かった事にしいつもの事だと笑みを浮かべる。
 そう、一升瓶が空になる事など普通の事だった。
「もう、二人とも‥‥」
 呆れたような紅雪に月兎は笑う。
 それもいつもの光景。
 月兎の笑顔に紅雪もすぐに笑顔になると、お酒持ってくるわね、と席を立つ。
 笑顔の伝染はその場にいた者達へも広がる。

 居心地の良い場所。

 それは何処にでもあるものではなくて人と人が作り出していくもの。
 仲間が集まり、騒ぎ、そして語り合う。
 そんな場所がここにはあった。

「でもお正月からこんな美味しいものばっかり食べとったら太ってしまうかしら」
 酒を飲みつつ眞織がそんな事を呟く。
 確かに先ほどから随分と箸が進んでいるようだったが、一日位でそう変わるものでもないだろう。
「大丈夫。それに美味しいものを食べる時はそういうこと考えちゃ駄目だよ」
 ね、とフィールが言うと眞織が笑った。
「そうどすね」
「これも美味しいアルよ」
 眞織に自分が食べて美味しかったものを教える李鳳。
「あぁ、それはオススメだ」
 用意した月兎は李鳳に頷いて、もっと食べて良いぞ、と声を掛ける。まだまだあるからな、と。
「もっと食べて良いアルか?」
 嬉しそうな声を上げて李鳳はそれらを皿に取り、幸せそうな笑みを浮かべる。
 そこへ紅雪が月兎達のために酒を持ってきた。
「はい、どうぞ」
 そのまま月兎の隣に座った紅雪は、手元のグラスを手に取る。
 そして止める間もなく、紅雪はそれを一気に飲み干してしまった。
 紅雪の頬が真っ赤に染まる。
「それ‥‥さっき僕がそこに置きっぱなしにしてたワイン‥‥」
「‥‥フィール‥‥」
 月兎が軽い溜息を吐いて紅雪を見つめる。
 これはもう駄目だな、と。
 自分の愛する妻である紅雪は酒にめっぽう弱かった。
 このまま寝てしまうに違いない。
 そう思っていると、紅雪は、んー、と視点の合わない表情を浮かべると、ぽて、と月兎に寄りかかるようにして紅雪は予想通り眠りに落ちてしまった。
「ごめんなさい」
「まぁ、少し働きすぎてたからちょっと休憩ってことでいいんじゃないか?」
 秋姫の言葉に高耶も賛同する。
「そうだな」
 幸せそうだし、と胸の内で続ける。
 月兎に寄りかかるようにして眠る紅雪は穏やかな笑みを浮かべていた。
 それはこの場にいる全ての人々に安らぎをもたらすような笑顔で。
 月兎は苦笑しながらも、愛しそうに紅雪を見つめる。
 二人で過ごす時間ももちろん大事だと思うが、気の置けない仲間と共にこうして正月を祝うのも悪くないと思う。
 そして皆をもてなす為に忙しく働いていた紅雪に、ありがとう、と感謝の言葉を囁いた。



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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★あけましておめでとうPCパーティノベル★┗━┛

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢】

●w3c793maoh/橘・月兎/男/32歳
●w3c793ouma/紅雪/女/21歳
●w3g526maoh/華龍院・眞織/女/25歳
●w3h216maoh/北条・高耶/男/24歳
●w3i076maoh/高波・秋姫/男/25歳
●w3i076ouma/李鳳/女/20歳
●w3j811ouma/フィール/男/21歳


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■         ライター通信          ■
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初めまして。夕凪沙久夜です。
遅くなってしまいましたが、お正月のノベルをお届け致します。
今回は楽しく皆さんで集まって新年会ということでしたので、和やかな雰囲気を醸し出してみましたが如何でしょうか。
初めての方々ばかりでしたので、イメージを崩していなければ良いのですが。
今年も皆様にとって素敵な一年になりますよう、お祈り申し上げます。
アリガトウございました!
あけましておめでとうパーティノベル・2005 -
紫月サクヤ クリエイターズルームへ
神魔創世記 アクスディアEXceed
2005年01月31日

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